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第1話
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教室の空気は、目に見えない階層にはっきりと分断されている。
窓際の後ろから二番目という、ラノベの主人公に与えられるべき特等席に座りながら、俺――榊原蒼太の存在感は、背景のモブAにすら劣る。
クラスメイトたちの会話の波は、俺という岩礁を避けるように流れていく。それが心地よかった。関心を持たれないこと。認識されないこと。それが、俺の生存戦略であり、最もリラックスできる状態だからだ。
だが、俺の安息を脅かす特異点が、すぐ隣に存在している。
「あ、ごめんね……!」
鈴を転がすような、という表現がこれほど似合う声も珍しい。
机の下に転がり落ちたプラスチックのかけら――消しゴムを拾おうとして、俺の手と、白く華奢な指先が触れ合いそうになった。
俺は反射的に手を引っ込め、拾い上げたMONO消しゴムを無言で差し出す。
「ありがとう、榊原くん。いっつも落としてばかりで、ご迷惑おかけしてます」
ふにゃり、と効果音がつきそうな笑顔。
白鳥ことり。
このクラスにおける食物連鎖の頂点、『天使』だ。
栗色のボブカット、小動物のような瞳、陶器のような肌。
そして何より――誰からも愛される、完璧なポンコツ。
「白鳥さん、またドジ踏んだの?」
「もう、気をつけてよー。私たちの癒やしなんだからさ」
「あはは、ごめんねー」
彼女の周りには、常に人が集まる。
勉強も運動も苦手。方向音痴で、校舎内ですら迷子になる。
でも、そんな『ポンコツ』さえも、彼女の場合は武器に変わる。
(……住む世界が、違いすぎる)
俺は心の中で毒づきながら、視線をディスプレイに戻すフリをした。
彼女は光の住人。俺は影の住人。
関わっても、ろくなことにならない。
俺は地味な陰キャとして、教室の隅で息を潜めていればいいのだ。
どうせ彼女にとっての俺など、消しゴムを拾ってくれる便利な装置の一つに過ぎないのだから。
「……榊原くん?」
不意に、覗き込むような視線を感じた。
顔を上げると、白鳥さんが不思議そうな顔で俺を見ている。
「どうかした?」
「……ううん。なんか、榊原くんって、いつも冷静だなって思って」
「そうかな」
「うん。なんかね、頼りになる感じがする」
頼りになる。
その言葉に、俺の心臓がわずかに跳ねた。
だが、すぐに自嘲的な笑みで蓋をする。
それは買いかぶりだ。俺はただ、他人に関心がないだけ。感情を動かすのが面倒なだけだ。
「……どうも」
そっけない返事をして、俺は再び視線を逸らす。
これ以上、関わらないでくれ。
君のその純粋無垢な光は、俺のような人間には眩しすぎて、網膜が焼け焦げてしまいそうだ。
チャイムが鳴り、ホームルームの終了を告げる。
白鳥さんの周りには、すぐにいつもの取り巻きたちが集まってきた。
その喧騒を背に、俺は逃げるようにカバンを掴んで教室を出た。
✎ܚ
帰宅し、自室の鍵を閉める。
そこは、薄暗く、静寂に満ちた俺の聖域だ。
遮光カーテンを閉め切った部屋には、三枚のモニターが青白い光を放っている。
制服のネクタイを緩め、座り慣れたゲーミングチェアに体を沈める。
この瞬間、俺は『高校生の榊原蒼太』という仮面を脱ぎ捨てる。
キーボードを叩き、慣れた手つきでターミナルを立ち上げる。
流れるような緑色の文字列。
俺は『SoRa』になる。
先週受注していた、某中堅商社のセキュリティ診断案件。
脆弱性のレポートと、修正パッチの納品確認メールが届いていた。
報酬は五十万。高校生の小遣いにしては破格だが、俺にとっては、これが自分という存在を証明するための対価だった。
クラスでは誰にも気づかれないモブキャラだが、ネットの海では、俺は誰よりも自由で有能になれる。
『お疲れ様です。SoRa様の迅速な対応に感謝します……』
クライアントからの定型文のような感謝メールを読み流し、俺は口元を緩める。
誰かを守った。
その事実は、俺の中にある古傷のような痛みを、ほんの少しだけ癒やしてくれる気がした。
時計を見ると、時刻は十九時五十八分。
俺は作業用のウィンドウを最小化し、ブラウザを立ち上げる。
動画配信サイトのブックマークから、あるチャンネルを開く。
『ことりんちゃんねる』
登録者数三十万人を誇る、今話題の個人勢Vtuberだ。
画面には、『【激ムズ】クリアするまで寝ませんとか言わないけど絶対クリアする【耐久?】』というタイトルと、待機画面のアニメーションが表示されている。
コメント欄は既に加速しており、待機勢の熱気がモニター越しに伝わってくるようだ。
二十時ちょうど。
待機画面が切り替わり、軽快なBGMと共に、Live2Dの少女が現れる。
紫を基調としたゴシックな衣装。銀色のロングヘア。
そして、その瞳は冷たく、どこか挑発的に細められている。
『おーっす。底辺ども、待たせたな』
スピーカーから響いてきたのは、昼間に聞いた「鈴を転がすような」声とは似ても似つかない、低く、ドスの効いたイケボだった。
『今日も今日とて、お前らの貴重な人生の時間をドブに捨てさせる配信を始めていくわけだが。……おい、いきなりスパチャ投げるな。金が余ってんのか? なら募金でもしてろよ』
開幕一番、視聴者への罵倒。
だが、コメント欄は『ありがとうございます!』『踏んでください』『今日の声も最高』と、歓喜の嵐だ。
Vtuber『ことりん』。
その芸風は、徹底した毒舌と、圧倒的なゲームスキル。そして時折見せるデレ――ではなく、更なる冷徹な罵倒にある。
いわゆる『Sっ気』キャラとして売り出している彼女だが、俺が惹かれているのはそこではない。
『あー、クソ。エイムがガバった。……今の見たやつ、記憶から消去な。消去しねぇと特定して回線切るぞ』
ゲーム画面の中で、彼女のキャラクターが超人的な反応速度で敵をなぎ倒していく。
そのプレイは精密機械のように正確で、無駄がない。
学校での『ポンコツ』な白鳥さんとは、何もかもが真逆だ。
そう。
俺は知っている。
この毒舌Vtuber『ことりん』の正体が、あの隣の席の『天使』白鳥ことりであることを。
きっかけは、些細なことだった。
以前、彼女の配信を見ていた時、背景に見切れていたぬいぐるみが、教室で白鳥さんがカバンにつけていた珍しいマスコットと同じだったこと。
そして何より、彼女がふとした瞬間に漏らす、
『……あ、やば』
という独り言のイントネーションが、完全に白鳥さんのそれだったこと。
確証を得るためにハッキングしたわけではない。
ただ、状況証拠が揃いすぎていただけだ。
(……このギャップが、たまらないんだよな)
学校では、誰からも愛される完璧な『天使』を演じ(あるいは、天然でそうであり)。
ネットでは、誰にも媚びない孤高の『女王』として君臨する。
その二面性。
どちらが本当の彼女なのか。それとも、どちらも彼女なのか。
その複雑さが、俺という人間を惹きつけてやまない。
画面の中の『ことりん』は、ボスキャラクター相手に華麗な立ち回りを見せている。
『雑魚が。パターン入ったんだよ。……ほら、そこ右』
冷静な分析。的確な操作。
昼間の、何もない廊下でつまずいていた彼女と同一人物だとは、誰も思わないだろう。
俺だけが知っている秘密。
共有されることのない、一方的な共犯関係。
それが、俺の歪んだ優越感を満たしていた。
だが、今日の配信は少し様子が違った。
『……ん? なんか、カクつく?』
画面がフリーズする。
コメント欄が『ラグい?』『くるか?』とざわめき始める。
ことりんのアバターの動きが止まり、音声だけが流れる。
『ちょ、待って。回線? いや、PCか? ……おい、ふざけんなよ』
焦りの色が混じる声。
それは、キャラとしての『ことりん』ではなく、素の『白鳥ことり』の動揺に近いものだった。
『……チッ。機材がイカれた。お前ら、一回待機な。……悪いけど』
ブツン、という音と共に、配信が途切れた。
真っ暗になった画面を見つめながら、俺は眉をひそめる。
ただの機材トラブルか?
いや、今の切断のされ方は、少し妙だった。
俺の中の『SoRa』としてのアラートが、微かに鳴り響く。
俺は無意識のうちに、キーボードに手を伸ばしていた。
配信サイトのサーバーログを見るまでもなく、Twitter(現X)のリアルタイム検索をかける。
――『ことりん 住所特定』
――『ことりん 顔バレ』
――『今日の配信で晒すわw』
不穏なワードが、いくつか散見された。
愉快犯によるDDoS攻撃か、それとももっと悪質なクラッキングか。
ただのアンチの嫌がらせならいい。
だが、もし彼女の『秘密』に踏み込もうとする輩がいるのなら。
(……俺には関係ない、か)
一度は手を止める。
クラスメイトの裏の顔を知っているだけの、ただの他人。
俺が出ていく義理はない。
それに、下手に介入して俺の正体がバレるリスクを犯すべきではない。
……はずなのに。
「……助けてくれた人、ありがと」
脳裏に、いつかの彼女の声が蘇る。
それは、配信でのことではない。
いつか、どこかで、誰かが言った言葉。
守れなかった誰かの言葉。
俺は舌打ちを一つ落とし、再びターミナルをアクティブにした。
「……今回だけだ。隣の席のよしみで、な」
言い訳をしながら、俺の中で何かが静かに燃え上がっていた。
守りたい、という本能が。
誰もいない部屋で呟き、俺は『SoRa』として、見えない戦場へとダイブした。
モニターの光に照らされた俺の顔は、きっと昼間のような死んだ魚の目ではなかったはずだ。
推しの配信を守るため。
いや、あの『天使』の居場所を守るために。
俺の夜が、始まろうとしていた。
画面の隅、配信部屋の背景として映り込んでいた棚の上。
ピンク色のウサギのぬいぐるみが、無造作に転がっているのが見えた。
まるで、持ち主の心の乱れを映すかのように。
(そういうとこだぞ、白鳥さん……)
俺は小さく苦笑し、エンターキーを叩いた。
――俺が守ってること、彼女は知らない。 ……このまま、ずっと。
窓際の後ろから二番目という、ラノベの主人公に与えられるべき特等席に座りながら、俺――榊原蒼太の存在感は、背景のモブAにすら劣る。
クラスメイトたちの会話の波は、俺という岩礁を避けるように流れていく。それが心地よかった。関心を持たれないこと。認識されないこと。それが、俺の生存戦略であり、最もリラックスできる状態だからだ。
だが、俺の安息を脅かす特異点が、すぐ隣に存在している。
「あ、ごめんね……!」
鈴を転がすような、という表現がこれほど似合う声も珍しい。
机の下に転がり落ちたプラスチックのかけら――消しゴムを拾おうとして、俺の手と、白く華奢な指先が触れ合いそうになった。
俺は反射的に手を引っ込め、拾い上げたMONO消しゴムを無言で差し出す。
「ありがとう、榊原くん。いっつも落としてばかりで、ご迷惑おかけしてます」
ふにゃり、と効果音がつきそうな笑顔。
白鳥ことり。
このクラスにおける食物連鎖の頂点、『天使』だ。
栗色のボブカット、小動物のような瞳、陶器のような肌。
そして何より――誰からも愛される、完璧なポンコツ。
「白鳥さん、またドジ踏んだの?」
「もう、気をつけてよー。私たちの癒やしなんだからさ」
「あはは、ごめんねー」
彼女の周りには、常に人が集まる。
勉強も運動も苦手。方向音痴で、校舎内ですら迷子になる。
でも、そんな『ポンコツ』さえも、彼女の場合は武器に変わる。
(……住む世界が、違いすぎる)
俺は心の中で毒づきながら、視線をディスプレイに戻すフリをした。
彼女は光の住人。俺は影の住人。
関わっても、ろくなことにならない。
俺は地味な陰キャとして、教室の隅で息を潜めていればいいのだ。
どうせ彼女にとっての俺など、消しゴムを拾ってくれる便利な装置の一つに過ぎないのだから。
「……榊原くん?」
不意に、覗き込むような視線を感じた。
顔を上げると、白鳥さんが不思議そうな顔で俺を見ている。
「どうかした?」
「……ううん。なんか、榊原くんって、いつも冷静だなって思って」
「そうかな」
「うん。なんかね、頼りになる感じがする」
頼りになる。
その言葉に、俺の心臓がわずかに跳ねた。
だが、すぐに自嘲的な笑みで蓋をする。
それは買いかぶりだ。俺はただ、他人に関心がないだけ。感情を動かすのが面倒なだけだ。
「……どうも」
そっけない返事をして、俺は再び視線を逸らす。
これ以上、関わらないでくれ。
君のその純粋無垢な光は、俺のような人間には眩しすぎて、網膜が焼け焦げてしまいそうだ。
チャイムが鳴り、ホームルームの終了を告げる。
白鳥さんの周りには、すぐにいつもの取り巻きたちが集まってきた。
その喧騒を背に、俺は逃げるようにカバンを掴んで教室を出た。
✎ܚ
帰宅し、自室の鍵を閉める。
そこは、薄暗く、静寂に満ちた俺の聖域だ。
遮光カーテンを閉め切った部屋には、三枚のモニターが青白い光を放っている。
制服のネクタイを緩め、座り慣れたゲーミングチェアに体を沈める。
この瞬間、俺は『高校生の榊原蒼太』という仮面を脱ぎ捨てる。
キーボードを叩き、慣れた手つきでターミナルを立ち上げる。
流れるような緑色の文字列。
俺は『SoRa』になる。
先週受注していた、某中堅商社のセキュリティ診断案件。
脆弱性のレポートと、修正パッチの納品確認メールが届いていた。
報酬は五十万。高校生の小遣いにしては破格だが、俺にとっては、これが自分という存在を証明するための対価だった。
クラスでは誰にも気づかれないモブキャラだが、ネットの海では、俺は誰よりも自由で有能になれる。
『お疲れ様です。SoRa様の迅速な対応に感謝します……』
クライアントからの定型文のような感謝メールを読み流し、俺は口元を緩める。
誰かを守った。
その事実は、俺の中にある古傷のような痛みを、ほんの少しだけ癒やしてくれる気がした。
時計を見ると、時刻は十九時五十八分。
俺は作業用のウィンドウを最小化し、ブラウザを立ち上げる。
動画配信サイトのブックマークから、あるチャンネルを開く。
『ことりんちゃんねる』
登録者数三十万人を誇る、今話題の個人勢Vtuberだ。
画面には、『【激ムズ】クリアするまで寝ませんとか言わないけど絶対クリアする【耐久?】』というタイトルと、待機画面のアニメーションが表示されている。
コメント欄は既に加速しており、待機勢の熱気がモニター越しに伝わってくるようだ。
二十時ちょうど。
待機画面が切り替わり、軽快なBGMと共に、Live2Dの少女が現れる。
紫を基調としたゴシックな衣装。銀色のロングヘア。
そして、その瞳は冷たく、どこか挑発的に細められている。
『おーっす。底辺ども、待たせたな』
スピーカーから響いてきたのは、昼間に聞いた「鈴を転がすような」声とは似ても似つかない、低く、ドスの効いたイケボだった。
『今日も今日とて、お前らの貴重な人生の時間をドブに捨てさせる配信を始めていくわけだが。……おい、いきなりスパチャ投げるな。金が余ってんのか? なら募金でもしてろよ』
開幕一番、視聴者への罵倒。
だが、コメント欄は『ありがとうございます!』『踏んでください』『今日の声も最高』と、歓喜の嵐だ。
Vtuber『ことりん』。
その芸風は、徹底した毒舌と、圧倒的なゲームスキル。そして時折見せるデレ――ではなく、更なる冷徹な罵倒にある。
いわゆる『Sっ気』キャラとして売り出している彼女だが、俺が惹かれているのはそこではない。
『あー、クソ。エイムがガバった。……今の見たやつ、記憶から消去な。消去しねぇと特定して回線切るぞ』
ゲーム画面の中で、彼女のキャラクターが超人的な反応速度で敵をなぎ倒していく。
そのプレイは精密機械のように正確で、無駄がない。
学校での『ポンコツ』な白鳥さんとは、何もかもが真逆だ。
そう。
俺は知っている。
この毒舌Vtuber『ことりん』の正体が、あの隣の席の『天使』白鳥ことりであることを。
きっかけは、些細なことだった。
以前、彼女の配信を見ていた時、背景に見切れていたぬいぐるみが、教室で白鳥さんがカバンにつけていた珍しいマスコットと同じだったこと。
そして何より、彼女がふとした瞬間に漏らす、
『……あ、やば』
という独り言のイントネーションが、完全に白鳥さんのそれだったこと。
確証を得るためにハッキングしたわけではない。
ただ、状況証拠が揃いすぎていただけだ。
(……このギャップが、たまらないんだよな)
学校では、誰からも愛される完璧な『天使』を演じ(あるいは、天然でそうであり)。
ネットでは、誰にも媚びない孤高の『女王』として君臨する。
その二面性。
どちらが本当の彼女なのか。それとも、どちらも彼女なのか。
その複雑さが、俺という人間を惹きつけてやまない。
画面の中の『ことりん』は、ボスキャラクター相手に華麗な立ち回りを見せている。
『雑魚が。パターン入ったんだよ。……ほら、そこ右』
冷静な分析。的確な操作。
昼間の、何もない廊下でつまずいていた彼女と同一人物だとは、誰も思わないだろう。
俺だけが知っている秘密。
共有されることのない、一方的な共犯関係。
それが、俺の歪んだ優越感を満たしていた。
だが、今日の配信は少し様子が違った。
『……ん? なんか、カクつく?』
画面がフリーズする。
コメント欄が『ラグい?』『くるか?』とざわめき始める。
ことりんのアバターの動きが止まり、音声だけが流れる。
『ちょ、待って。回線? いや、PCか? ……おい、ふざけんなよ』
焦りの色が混じる声。
それは、キャラとしての『ことりん』ではなく、素の『白鳥ことり』の動揺に近いものだった。
『……チッ。機材がイカれた。お前ら、一回待機な。……悪いけど』
ブツン、という音と共に、配信が途切れた。
真っ暗になった画面を見つめながら、俺は眉をひそめる。
ただの機材トラブルか?
いや、今の切断のされ方は、少し妙だった。
俺の中の『SoRa』としてのアラートが、微かに鳴り響く。
俺は無意識のうちに、キーボードに手を伸ばしていた。
配信サイトのサーバーログを見るまでもなく、Twitter(現X)のリアルタイム検索をかける。
――『ことりん 住所特定』
――『ことりん 顔バレ』
――『今日の配信で晒すわw』
不穏なワードが、いくつか散見された。
愉快犯によるDDoS攻撃か、それとももっと悪質なクラッキングか。
ただのアンチの嫌がらせならいい。
だが、もし彼女の『秘密』に踏み込もうとする輩がいるのなら。
(……俺には関係ない、か)
一度は手を止める。
クラスメイトの裏の顔を知っているだけの、ただの他人。
俺が出ていく義理はない。
それに、下手に介入して俺の正体がバレるリスクを犯すべきではない。
……はずなのに。
「……助けてくれた人、ありがと」
脳裏に、いつかの彼女の声が蘇る。
それは、配信でのことではない。
いつか、どこかで、誰かが言った言葉。
守れなかった誰かの言葉。
俺は舌打ちを一つ落とし、再びターミナルをアクティブにした。
「……今回だけだ。隣の席のよしみで、な」
言い訳をしながら、俺の中で何かが静かに燃え上がっていた。
守りたい、という本能が。
誰もいない部屋で呟き、俺は『SoRa』として、見えない戦場へとダイブした。
モニターの光に照らされた俺の顔は、きっと昼間のような死んだ魚の目ではなかったはずだ。
推しの配信を守るため。
いや、あの『天使』の居場所を守るために。
俺の夜が、始まろうとしていた。
画面の隅、配信部屋の背景として映り込んでいた棚の上。
ピンク色のウサギのぬいぐるみが、無造作に転がっているのが見えた。
まるで、持ち主の心の乱れを映すかのように。
(そういうとこだぞ、白鳥さん……)
俺は小さく苦笑し、エンターキーを叩いた。
――俺が守ってること、彼女は知らない。 ……このまま、ずっと。
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