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3話 他愛のない交わり
ハリエルは足早に歩きながらも、すぐ後ろにいるガイウスの存在を完全には拒まずに受け入れていた。
強引な同行に屈したとはいえ、胸の奥で警戒の火は絶えることはなかった。
無意識のうちに、背筋はいつもより伸びている気がする。
「あなた、いつもそんな風に威圧感を撒き散らして歩いているんですか? そんなだから人間の街では、獣人は貴族よりも絡むと厄介な存在だって言われてるのよ。ご存知ないのかしら」
ハリエルはわざと後ろを振り返らず、皮肉っぽく言葉を投げた。まぁこの男は獣人という事を抜きにしても目立ちそうな気はするが。
「仕事柄、目立つのはよくあることだから仕方がない。それに、俺はコソコソするのは苦手な性分でね――影に紛れるのは好きじゃない」
ガイウスはそう言いながらも、ハリエルとの距離を微妙に保ちつつ一歩後ろを歩いている。
その気安い口調とは裏腹に、繊細な間合いの取り方が彼の人柄を物語っていた。
ハリエルはちらりと横目で彼を見やる。
気づけば二人は、人気のない小さな広場へと足を踏み入れていた。夜風がコートの裾をはためかせ、街灯の明かりが二人の影を長く伸ばす。
ハリエルは立ち止まり、ゆっくりと問いかけた。
「ここまでお供してくださる理由、何かあるのかしら。わたくし、あなたに守られる理由はないと思うのですけど」
ガイウスも歩みを止めて、真っ直ぐ彼女を見る。
「気のせいだと思えば、それで済むんだが……」
一瞬、言葉に詰まる。
「ただな、君と話していると――ほんの少しだけ、自分の居場所が、この街にもある気がするんだ」
その言葉が意外で、ハリエルは思わず視線をそらした。
獣人の彼は、人間社会のなかで上手くやっていくのも大変なのかもしれない、と妙な親近感を覚えそうになる。
「……そんな雄々しい見た目のくせに、寂しがり屋なんて」
「初対面なのに随分口が悪いな」
おかしそうに微笑むガイウスに、ハリエルもどこか力が抜けた。
「仕方ありませんわ。人間社会って、弱い者ほど言葉を武器にして生き延びるものですのよ。それに、初対面でいきなり護衛と称してつけてくるあなたに言われたくありませんわ」
そんな応酬のなかで、ガイウスの瞳にふと焦燥がよぎる。
「ハリエル。……君は、誰かに頼ろうとか、守ってもらおうとかそういうことは考えないのかい?今日だって質屋に行くのを別の人間にしてもらうとかさ。」
「さあ、どうでしょう。そういえばあまり人に守られた記憶はございませんわね。まぁあったけれど覚えていないだけかもしれませんけど」
思い返せば、貴族の体面のために動き回る両親はいたが、“自分自身”を思って守ってくれた者はいなかった。
「なら――今夜だけでいい。俺に見張り役ぐらい、任せてくれ」
冗談めかしたその言葉に、ハリエルはため息混じりに肩の力を緩めた。
夜の空気が、さっきよりもほんの少しやわらかく感じられる。
警戒心とは別に、ごくわずかな――けれど確かな――安堵が心に灯る。
「どうぞご自由に。お給金はお出しできませんけど」
「仕事じゃないさ。俺の勝手だ」
たわいないやりとりに、二人は自然と小さく微笑む。いつの間にか、広場を抜けて並んで歩くようになった二人。
人気のない石畳の上で、二つの影が不器用に寄り添っていた。
ぎこちない距離のまま、それでも運命の糸は静かに絡まり始めていた。
強引な同行に屈したとはいえ、胸の奥で警戒の火は絶えることはなかった。
無意識のうちに、背筋はいつもより伸びている気がする。
「あなた、いつもそんな風に威圧感を撒き散らして歩いているんですか? そんなだから人間の街では、獣人は貴族よりも絡むと厄介な存在だって言われてるのよ。ご存知ないのかしら」
ハリエルはわざと後ろを振り返らず、皮肉っぽく言葉を投げた。まぁこの男は獣人という事を抜きにしても目立ちそうな気はするが。
「仕事柄、目立つのはよくあることだから仕方がない。それに、俺はコソコソするのは苦手な性分でね――影に紛れるのは好きじゃない」
ガイウスはそう言いながらも、ハリエルとの距離を微妙に保ちつつ一歩後ろを歩いている。
その気安い口調とは裏腹に、繊細な間合いの取り方が彼の人柄を物語っていた。
ハリエルはちらりと横目で彼を見やる。
気づけば二人は、人気のない小さな広場へと足を踏み入れていた。夜風がコートの裾をはためかせ、街灯の明かりが二人の影を長く伸ばす。
ハリエルは立ち止まり、ゆっくりと問いかけた。
「ここまでお供してくださる理由、何かあるのかしら。わたくし、あなたに守られる理由はないと思うのですけど」
ガイウスも歩みを止めて、真っ直ぐ彼女を見る。
「気のせいだと思えば、それで済むんだが……」
一瞬、言葉に詰まる。
「ただな、君と話していると――ほんの少しだけ、自分の居場所が、この街にもある気がするんだ」
その言葉が意外で、ハリエルは思わず視線をそらした。
獣人の彼は、人間社会のなかで上手くやっていくのも大変なのかもしれない、と妙な親近感を覚えそうになる。
「……そんな雄々しい見た目のくせに、寂しがり屋なんて」
「初対面なのに随分口が悪いな」
おかしそうに微笑むガイウスに、ハリエルもどこか力が抜けた。
「仕方ありませんわ。人間社会って、弱い者ほど言葉を武器にして生き延びるものですのよ。それに、初対面でいきなり護衛と称してつけてくるあなたに言われたくありませんわ」
そんな応酬のなかで、ガイウスの瞳にふと焦燥がよぎる。
「ハリエル。……君は、誰かに頼ろうとか、守ってもらおうとかそういうことは考えないのかい?今日だって質屋に行くのを別の人間にしてもらうとかさ。」
「さあ、どうでしょう。そういえばあまり人に守られた記憶はございませんわね。まぁあったけれど覚えていないだけかもしれませんけど」
思い返せば、貴族の体面のために動き回る両親はいたが、“自分自身”を思って守ってくれた者はいなかった。
「なら――今夜だけでいい。俺に見張り役ぐらい、任せてくれ」
冗談めかしたその言葉に、ハリエルはため息混じりに肩の力を緩めた。
夜の空気が、さっきよりもほんの少しやわらかく感じられる。
警戒心とは別に、ごくわずかな――けれど確かな――安堵が心に灯る。
「どうぞご自由に。お給金はお出しできませんけど」
「仕事じゃないさ。俺の勝手だ」
たわいないやりとりに、二人は自然と小さく微笑む。いつの間にか、広場を抜けて並んで歩くようになった二人。
人気のない石畳の上で、二つの影が不器用に寄り添っていた。
ぎこちない距離のまま、それでも運命の糸は静かに絡まり始めていた。
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