【完結】婚約破棄されたら執着獣人閣下に無理やり番にされたので利用し尽くしつくします~運命の番といわれ溺愛されても信じられません~

たるとタタン

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10話 つがい

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薄暗い倉庫の片隅、ハリエルは粗末な椅子に縛られていた。

手首には荒く擦れる縄の痛み。

頭は混乱し、涙が目元で乾ききらずに残っている。

「もう少し静かにしていろよ」

男のひとりがナイフをちらつかせながら脅す。その背後には元婚約者とその浮気相手がおり、耳打ちし合い、卑しい笑みを浮かべる。

元婚約者が、苛立ち交じりの低い声で口を開いた。

「全部、お前のせいだよ、ハリエル。あのとき、少しでも俺に優しくしてくれればこんなことにはならなかった」

ハリエルは睨み返し、震えた声で絞り出す。

「あのときっていつよ。そもそも優しくしていればとかいうけど、私の家の鉱山事業が上手くいかなくなって、家が没落したとき、距離をおいて冷たくしたのはあなたでしょうに……被害者面しないでいただける?先に私を見捨てたのはあなたじゃない!!」

男は声を荒らげて否定する。

「違う、違うんだ。お前の冷淡な態度が、俺を追い詰めたんだ!」

横で腕を組んだ女が冷笑する。

「そうよ。彼はずっと苦しんでたの。あんたのプライドのせいで、毎日どんな気持ちでいたかわかる?」

ハリエルは唇を噛み、心の内で叫ぶ。

(事実を曲げてまで自分を正当化するなんて……その上人生まで奪うつもり?)

「お前が婚約者でなければ、俺たちはもっと早く幸せになれた!全部、あんたが悪い!」

女は肩をすくめて二人の間に立つ。

「そういうことだから。すぐ、この子をどこかに連れていって。依頼人への報告も忘れないでね」

男たちが打ち合わせを始めるその裏で、ハリエルは静かに、怒りと恐怖、絶望に打ち震えていた。

その時、分厚い鉄扉の外側から荒々しい足音が響いた。

「ハリエル!!」

ガイウスだ――その叫びでハリエルの心が跳ねる。

閉ざされた場所に差し込んだ一筋の光のように、彼女は涙で霞む視界の中、その声にすがった。

 閉めろ!誰でもいいから止めろ!」

男が慌てて扉を押さえる。しかし次の瞬間、扉は力任せに吹き飛ばされ、冒険者姿のガイウスが獣そのものの気迫でなだれ込んだ。

「離れろ、お前ら!」

ガイウスの声は威圧的で低い。男たちがナイフを向けてくるが、その目には怯えが滲む。

「ふざけるな……!」

ガイウスは一人の男の手からナイフをもぎ取ると、凄まじい速さで拳を振るう。

男の一人が壁際に吹き飛び、くぐもった悲鳴を上げる。

残りの誘拐犯たちもあっという間に倒され、元婚約者と女は端で震えていた。

ガイウスはハリエルのもとへ疾走し、縄で縛られていた手を優しく解いた。

その両手は熱く、強く、微かに震えている。

「大丈夫か、ハリエル――?」

ハリエルは彼の瞳を見上げて強張った声を絞った。

「だ、大丈夫じゃない……でも、あなたのお陰で死なずに済んだわ」

彼女の言葉をじっと聞き、ガイウスは激しく動揺していた。瞳には自責と怒り、そして圧倒的な執着が宿っていた。

「……俺が……俺がもっと君を守れていれば、こんなことには……!」

「……そんな、わたし……」

ガイウスは膝をつき、ハリエルの肩を抱く。その腕の力は、安心よりも激しい独占欲に満ちていた。

「誰にも、君をもう……奪わせない。君は俺の番だ、僕の前から消えたり、他人のものになるなんて許せない」

言葉は震え、息は荒い。ハリエルは戸惑いながらも、その熱に包まれ抵抗できずにいた。

ガイウスはハリエルの髪をゆっくりと撫で、首筋に顔を寄せる。少しだけためらうように、耳元で低く囁く。

「本当に、すまない。でも……どうしても、もう……君の傷も、恐怖も、何もかも全部、俺が抱きしめる……だから」

ハリエルは不安と憤りに震えながら、小さく息をのみ込んだ。

「ガイウス、やめて……なにをするの?痛いのはもう嫌、これ以上――」

ハリエルは捕食者のようなガイウスの鋭く、喰らい尽くすような瞳が恐ろしくて仕方がなかった。

「……ごめん。本能なんだ。どうしても止まらない、もう止まれない。君を愛してるんだ」

そしてカイウスはその鋭い牙をハリエルの首筋に食い込ませた。より深く。

一瞬、めまいがするほどの強い痛みと熱、そして身体が宙に浮かぶような感覚。

ハリエルの身体が震え、涙が真っすぐ頬を伝って落ちる。

ガイウスはその傷口をそっと口づけ、淡い魔力がゆったりと肌へ染み込んでいった。

彼女の首には、青白い番の紋章が光り始める。

「……もう絶対、誰にも渡さない。これで俺たちは、世界でただ一人の僕の番だ」

ガイウスはもうたまらない気分になった。

本能に突き動かされていようが、ハリエルが愛おしくて仕方がなかった。

ハリエルは混乱と痛み、消えない恐怖の中、死ななかった安堵と絶望が心の底で交錯していた。

ガイウスは彼女の髪に顔をうずめ、優しく、しかし決して逃さないとばかりにその背を抱きしめ続けていた。
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