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11話 怒り
ガイウスの腕から解放された瞬間、ハリエルは冷たい恐怖と怒りで全身が痺れるようだった。
首筋に焼き付いた番の紋章が、絶え間ない痛みと屈辱の熱を放っている。
彼の瞳に映る執着と歓喜が余計に憎かった。
――自分の本能ひとつで、誰かの人生を奪って何も顧みない。
あの自分勝手な元婚約者と何も違わない。
ハリエルは冷ややかな視線をガイウスに投げつける。
「……満足した? 私の気持ちなんて無視して、無理やり“番”を手に入れた感想はどう? あなたは私の心じゃなく、ただ『番である私』が欲しかっただけなんでしょう?」
言葉に詰まり、堪えきれない涙が頬を伝った。
「結婚も、番も、何もかも。一度も望んだことなんてない。私は自分の意志で人生を選びたかった」
ガイウスは打たれたように沈黙した。
苦悶に眉をひそめ、唇を噛む。
「……すまない。本当にすまない。でも……君が危険な目に遭うのを見たら、全部が壊れた。俺は理性よりも、君のことしか考えられなくて――」
ハリエルは吐き捨てるように続ける。
「守る?自分勝手な衝動で人の意思も人生も壊すことが“守る”ことだって思うの?」
「――ああ、やっぱりあなたも同じ。あの自分勝手な元婚約者と。自分の都合で人の人生をめちゃくちゃにして、それを愛だとか守るだとか言い訳して!」
ハリエルは噛みつくように続けた。
「思い出すよ、あの人も最初は優しかった。気づいたら、自分のためなら平気で私の自由も将来も奪っていった。そのくせ“誰よりも君を大事に思ってる”だなんて――本当は全部、嘘だった」
涙に滲んだ目で、彼女はガイウスを睨みつける。
「あなたも、元婚約者も最初は私に優しくするくせに、自分の都合で私の人生を捻じ曲げて、望まない未来を無理やり押し付けて。何が“番”よ!!私には関係ないわ」
青白い紋章を指で覆い隠した。
まだ灼けつくような痛みが続いていた。
「これからどうなったって、私はあなたを赦さない。番にも、妻にも、絶対にならない。心の底から、あなたのやり方が嫌い。あなたが憎い」
涙と怒りで声が震えた。
けれど、ハリエルは決して泣き崩れなかった。
ただ憎しみを込めて、まっすぐに彼を睨み返す。
「あなたなんて嫌いだわ……ガイウス」
ガイウスは必死で言葉を探そうとしたが、なすすべもなく膝をつく。
「ハリエル……お願いだ。どれだけ憎まれてもいい、罵られてもいい。君を番にした償いに、どんな罰でも受ける。でも――どうか、それでも傍にいてほしい。俺が君を守る、絶対に。君を……本当に失いたくないんだ」
ハリエルは顔を背けた。
その声に、動かされるものは何もない。
(この人もあの元婚約者も一緒だ。結局、自分の満足しか求めない。私の苦しみや、人生の選択なんて何も理解していない。私の気持ちなんてどうでもいいんだ)
倉庫の冷たい空気が、二人の間をじわじわと押し広げていく。
ガイウスは涙を流すハリエルの姿にたじろぎながらも、一歩も退かない。
「諦めない。どれだけ拒絶されても、絶対に君を手放さない。番になった以上、俺はこの命すべてを、君のために使い続ける。俺自身を失っても、君だけは失いたくない。君が俺を憎んでも……俺は、絶対に君を諦めない」
その声は切実な懇願であり、凄絶な執着だった。
涙も怒りも何度ぶつけても、相手が退くことはない。
自分自身を失いたくなくて、強く唇を噛んだ。
「諦めてよ。私の人生は、もう、誰のものにもならない。あなたにも、絶対に」
ハリエルは胸に焼き付いた紋章の痛みを、拭いきれない涙で濡らしたまま、心の扉を固く閉ざした。
首筋に焼き付いた番の紋章が、絶え間ない痛みと屈辱の熱を放っている。
彼の瞳に映る執着と歓喜が余計に憎かった。
――自分の本能ひとつで、誰かの人生を奪って何も顧みない。
あの自分勝手な元婚約者と何も違わない。
ハリエルは冷ややかな視線をガイウスに投げつける。
「……満足した? 私の気持ちなんて無視して、無理やり“番”を手に入れた感想はどう? あなたは私の心じゃなく、ただ『番である私』が欲しかっただけなんでしょう?」
言葉に詰まり、堪えきれない涙が頬を伝った。
「結婚も、番も、何もかも。一度も望んだことなんてない。私は自分の意志で人生を選びたかった」
ガイウスは打たれたように沈黙した。
苦悶に眉をひそめ、唇を噛む。
「……すまない。本当にすまない。でも……君が危険な目に遭うのを見たら、全部が壊れた。俺は理性よりも、君のことしか考えられなくて――」
ハリエルは吐き捨てるように続ける。
「守る?自分勝手な衝動で人の意思も人生も壊すことが“守る”ことだって思うの?」
「――ああ、やっぱりあなたも同じ。あの自分勝手な元婚約者と。自分の都合で人の人生をめちゃくちゃにして、それを愛だとか守るだとか言い訳して!」
ハリエルは噛みつくように続けた。
「思い出すよ、あの人も最初は優しかった。気づいたら、自分のためなら平気で私の自由も将来も奪っていった。そのくせ“誰よりも君を大事に思ってる”だなんて――本当は全部、嘘だった」
涙に滲んだ目で、彼女はガイウスを睨みつける。
「あなたも、元婚約者も最初は私に優しくするくせに、自分の都合で私の人生を捻じ曲げて、望まない未来を無理やり押し付けて。何が“番”よ!!私には関係ないわ」
青白い紋章を指で覆い隠した。
まだ灼けつくような痛みが続いていた。
「これからどうなったって、私はあなたを赦さない。番にも、妻にも、絶対にならない。心の底から、あなたのやり方が嫌い。あなたが憎い」
涙と怒りで声が震えた。
けれど、ハリエルは決して泣き崩れなかった。
ただ憎しみを込めて、まっすぐに彼を睨み返す。
「あなたなんて嫌いだわ……ガイウス」
ガイウスは必死で言葉を探そうとしたが、なすすべもなく膝をつく。
「ハリエル……お願いだ。どれだけ憎まれてもいい、罵られてもいい。君を番にした償いに、どんな罰でも受ける。でも――どうか、それでも傍にいてほしい。俺が君を守る、絶対に。君を……本当に失いたくないんだ」
ハリエルは顔を背けた。
その声に、動かされるものは何もない。
(この人もあの元婚約者も一緒だ。結局、自分の満足しか求めない。私の苦しみや、人生の選択なんて何も理解していない。私の気持ちなんてどうでもいいんだ)
倉庫の冷たい空気が、二人の間をじわじわと押し広げていく。
ガイウスは涙を流すハリエルの姿にたじろぎながらも、一歩も退かない。
「諦めない。どれだけ拒絶されても、絶対に君を手放さない。番になった以上、俺はこの命すべてを、君のために使い続ける。俺自身を失っても、君だけは失いたくない。君が俺を憎んでも……俺は、絶対に君を諦めない」
その声は切実な懇願であり、凄絶な執着だった。
涙も怒りも何度ぶつけても、相手が退くことはない。
自分自身を失いたくなくて、強く唇を噛んだ。
「諦めてよ。私の人生は、もう、誰のものにもならない。あなたにも、絶対に」
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