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12話 来訪
あの衝撃的な事件から数日、薄暗い応接間に、重苦しい空気が漂っていた。
こちらの都合も意志も無視して、何とあのイカれ野郎であるガイウスが我が家を訪問してきたのだ。
ガイウスは堂々とした足取りで部屋に入り、両親の前に、一礼することもなく立ち尽くした。
「私は、獣人の国〈グリュンヴァルト王国〉の将軍パパガーの次男にして、現在は将校を務めるガイウス・ヴァルドリックです」
彼の声は低く、冷たく響いた。
父の手が微かに膝の上で震え、継母は扇子を胸元にゆるく押し当て、表情を崩さずガイウスを見つめている。
それでも、すぐに警戒と計算が顔を支配した。
「加えて」ガイウスは淡々と続けた。
「私はハリエル殿の番でもございます」
――聞いてもいない、望んでもいない言葉だ。
私の首筋に焼き付いた、あの“紋章”がじくじくと疼く。
そんなこちらの了承していない話をのたまった。
「我がヴァルドリック侯爵家は、この婚姻を了承していただければ、貴家への援助は惜しまず、鉱山の開発も支援いたします。これはそちらにとって大きな利益となるのではありませんか?」
おそらく婚約の条件が書かれているであろう書類を取り出した。
「っ!!すべての借金の肩代わりまで……確かに条件は良い。しかしなぜそこまでやっていただけるのですか?」
父は書類に目を輝かせた。
ガイウスは冷静に続けた。
「私はハリエル殿の〈番〉であるからと言っておきましょう。獣人にとっての『番』とは、ただの婚約者ではなく、互いの生命を結びつける絆であり、深い運命の縛りだ」
継母はポーカーフェイスを崩さずに、「それは……」と問いただす。
「つまり私がハリエル殿に心底惚れているので、貴家のお嬢様を私に頂きたい」
ガイウスはこちらへの了承もなしに求婚した。
「ただ借金の全額をチャラにするのはこちらとしても難しい。肩代わりはするがそちらに納める結納金以外は後で支払っていただく」
「しかし私と結ばれた時点で、ハリエル殿はヴァルドリック侯爵家の一員となる。私の知っている限りグリュンヴァルト王国の貴族に嫁いだ者はアスータの貴族にはいない。その政略的価値は図り知れず、あなた方の家の再興にもつながるのではないですか?」
ガイウスはつらつらと自分にハリエルを嫁がせるメリットを語った。
父はこの縁談話を聞いてすぐに顔をほころばせた。
「確かに、ハリエルも婚約破棄されたばかりだし、この窮地でこれほどの縁談はこちらとしても願ってもない話だ」
貴族家としての誇り、財政の逼迫、家の存続――政治と利害に彩られた言葉が交わされ、父は興奮を隠せない。
しかしハリエルは受け入れられるはずも無く、吠える。
「何故同意もなくいきなり番にするような男と結婚しなければならないのですか?それにまだ私は一応婚約破棄されたばかりですのに結婚だなんてそれこそ評判悪くなりますよ……」
すると継母は嫌らしく笑った。
「あなたは子爵家の娘でしょう。貴族の令嬢は家の為に家長が決めた男性に嫁ぐのが仕事です。それすらもできないのですか?」
「全くだ……お前の婚約は私が決める」
ハリエルの意思は完全に無視されていた。
話が進むにつれ、婚約は法的に、そして社会的にも決定的なものとなり、ハリエルの反論は封じられた。
ガイウスの冷たい宣言が最後に重く響く。
「これで婚約ということでよろしいですね?ハリエル殿が私の『番』である限り、誰にもこれを覆すことはできません」
部屋の空気は張り詰め、ハリエルの運命はその場でほぼ決まったのだった。
父は満足そうに頷き、継母もうっすらとほくそ笑む。
たった一人、私は絶望の中で両拳を膝に握りしめたまま、胸の紋章の痛みを涙で濡らすしかなかった。
(どうして私の人生が、誰かの都合で――こんなにも簡単に奪われていくの?)
ガイウスの瞳は何も映さない氷のように冷たく、でもどこか執着だけをにじませていた。
こちらの都合も意志も無視して、何とあのイカれ野郎であるガイウスが我が家を訪問してきたのだ。
ガイウスは堂々とした足取りで部屋に入り、両親の前に、一礼することもなく立ち尽くした。
「私は、獣人の国〈グリュンヴァルト王国〉の将軍パパガーの次男にして、現在は将校を務めるガイウス・ヴァルドリックです」
彼の声は低く、冷たく響いた。
父の手が微かに膝の上で震え、継母は扇子を胸元にゆるく押し当て、表情を崩さずガイウスを見つめている。
それでも、すぐに警戒と計算が顔を支配した。
「加えて」ガイウスは淡々と続けた。
「私はハリエル殿の番でもございます」
――聞いてもいない、望んでもいない言葉だ。
私の首筋に焼き付いた、あの“紋章”がじくじくと疼く。
そんなこちらの了承していない話をのたまった。
「我がヴァルドリック侯爵家は、この婚姻を了承していただければ、貴家への援助は惜しまず、鉱山の開発も支援いたします。これはそちらにとって大きな利益となるのではありませんか?」
おそらく婚約の条件が書かれているであろう書類を取り出した。
「っ!!すべての借金の肩代わりまで……確かに条件は良い。しかしなぜそこまでやっていただけるのですか?」
父は書類に目を輝かせた。
ガイウスは冷静に続けた。
「私はハリエル殿の〈番〉であるからと言っておきましょう。獣人にとっての『番』とは、ただの婚約者ではなく、互いの生命を結びつける絆であり、深い運命の縛りだ」
継母はポーカーフェイスを崩さずに、「それは……」と問いただす。
「つまり私がハリエル殿に心底惚れているので、貴家のお嬢様を私に頂きたい」
ガイウスはこちらへの了承もなしに求婚した。
「ただ借金の全額をチャラにするのはこちらとしても難しい。肩代わりはするがそちらに納める結納金以外は後で支払っていただく」
「しかし私と結ばれた時点で、ハリエル殿はヴァルドリック侯爵家の一員となる。私の知っている限りグリュンヴァルト王国の貴族に嫁いだ者はアスータの貴族にはいない。その政略的価値は図り知れず、あなた方の家の再興にもつながるのではないですか?」
ガイウスはつらつらと自分にハリエルを嫁がせるメリットを語った。
父はこの縁談話を聞いてすぐに顔をほころばせた。
「確かに、ハリエルも婚約破棄されたばかりだし、この窮地でこれほどの縁談はこちらとしても願ってもない話だ」
貴族家としての誇り、財政の逼迫、家の存続――政治と利害に彩られた言葉が交わされ、父は興奮を隠せない。
しかしハリエルは受け入れられるはずも無く、吠える。
「何故同意もなくいきなり番にするような男と結婚しなければならないのですか?それにまだ私は一応婚約破棄されたばかりですのに結婚だなんてそれこそ評判悪くなりますよ……」
すると継母は嫌らしく笑った。
「あなたは子爵家の娘でしょう。貴族の令嬢は家の為に家長が決めた男性に嫁ぐのが仕事です。それすらもできないのですか?」
「全くだ……お前の婚約は私が決める」
ハリエルの意思は完全に無視されていた。
話が進むにつれ、婚約は法的に、そして社会的にも決定的なものとなり、ハリエルの反論は封じられた。
ガイウスの冷たい宣言が最後に重く響く。
「これで婚約ということでよろしいですね?ハリエル殿が私の『番』である限り、誰にもこれを覆すことはできません」
部屋の空気は張り詰め、ハリエルの運命はその場でほぼ決まったのだった。
父は満足そうに頷き、継母もうっすらとほくそ笑む。
たった一人、私は絶望の中で両拳を膝に握りしめたまま、胸の紋章の痛みを涙で濡らすしかなかった。
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