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13話 婚約
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言葉を失い、私はうつむいたまま沈黙を続けるしかなかった。
膝の上で握りしめた拳は爪が肉に食い込むほど強張り、その痛みすら心の叫びを覆い隠すのには役立たなかった。
ガイウスは両親と政略の話を詰めていく。
父は何度もうなずき、継母は静かに満足げな微笑みを浮かべる。
「これで家も安泰だ。ハリエル、お前にも感謝しているよ」
父は少し芝居がかった口調で私に言う。
「あなたがこの家に生まれたことが、これほど嬉しい日はないわね」
継母が、微かな安堵を滲ませて一言添えた。
私は、席で膝の上の両手を強く握りしめていた。
――ああ、やっぱり私はただの“駒”だったんだな。
無理やり唇を結び、心の奥でそう呟く。自分の価値は家の利害で決まるのだと、この瞬間ほど痛感したことはない。
「……私の意思なんて、どうでもいいんですか?貴族で政略結婚は分かります。でも――」
「婚約破棄された娘を労りもせず、すぐに新しい相手を決めて。しかも私の意志を一切聞かない。相手は……無理やり番にした獣人ですよ!!」
ハリエルは声を荒げたが、父の返答は無慈悲だった。
「家のためだ」
父の声には有無を言わせない重みがあった。
「それにお前のために言っているんだ、ハリエル。家の名も、お前自身の未来も、全てを守るための婚約だ。婚約破棄されたお前にまともな縁談が来ると思っているのか?反発してばかりでは何も残らんぞ」
確かにいくら浮気されたとはいえ、もうこの年になれば婚約しているものがほとんどだし、こんな借金まみれの家と好き好んで結婚する男など滅多にいないだろう。
けど………………
「婚約は決まりということでよろしいですね。国際結婚なこともあり、陛下からの結婚の承認が必要なので正式な婚約には時間がかかるかもしれません」
「アスータへの手続きはそちらでお願いします」
ガイウスは冷静に告げ、手早く書類をまとめた。
「心得た。すぐに取り掛かろう」
父は満足そうな顔をして足早に書斎に向かって行った。
「それじゃあ私も婚約が決まった二人の邪魔にならないようお暇しますわね。ガイウス様、うちの娘をよろしくお願いいたしますわね」
「わかりました。エヴァンス夫人。ハリエルのことはお任せてください」
継母も部屋をあとにし、静寂に包まれた応接間には、私とガイウスだけが残された。
私は、しばらく黙って天井を見上げていたが、意を決して口を開く。
「――どうして、私に一言もなく、婚約なんて決めたの?」
「だって君は拒絶するだろう?流石にそれが分からないほどおれも鈍くない」
それはそうだ。受け入れられるわけがない。
「だったらせめて、事前に直接言うべきだった。心の準備できないまま、いきなり家に来て、親を丸め込んで……私の気持ちなんてどうでもいいと思ってるの?」
ガイウスは私をじっと見つめていた。
「君が嫌がることは分かっている。でも、俺にとっては大切なことだった。君との絆も愛も、誰にも否定されたくないから――」
「絆?私にとってはただの鎖よ。あなたにとっては愛なのかもしれない。でも私にとってあなたは、本能に従うしかない理性のない獣よ」
ガイウスは苦しげに眉を寄せる。
「……申し訳ない。それでも、君と生きる道以外は考えられなかった」
私はゆっくりと首を横に振る。
「あなたがいくらそう言っても、私は決して諦めない。自分の意思を曲げてまで、あなたと番になるつもりなんてない」
「私はただ、わたしが私でいられる場所がほしいの」
ただ少女は願った。空気は重く、静寂が部屋を支配していた。
膝の上で握りしめた拳は爪が肉に食い込むほど強張り、その痛みすら心の叫びを覆い隠すのには役立たなかった。
ガイウスは両親と政略の話を詰めていく。
父は何度もうなずき、継母は静かに満足げな微笑みを浮かべる。
「これで家も安泰だ。ハリエル、お前にも感謝しているよ」
父は少し芝居がかった口調で私に言う。
「あなたがこの家に生まれたことが、これほど嬉しい日はないわね」
継母が、微かな安堵を滲ませて一言添えた。
私は、席で膝の上の両手を強く握りしめていた。
――ああ、やっぱり私はただの“駒”だったんだな。
無理やり唇を結び、心の奥でそう呟く。自分の価値は家の利害で決まるのだと、この瞬間ほど痛感したことはない。
「……私の意思なんて、どうでもいいんですか?貴族で政略結婚は分かります。でも――」
「婚約破棄された娘を労りもせず、すぐに新しい相手を決めて。しかも私の意志を一切聞かない。相手は……無理やり番にした獣人ですよ!!」
ハリエルは声を荒げたが、父の返答は無慈悲だった。
「家のためだ」
父の声には有無を言わせない重みがあった。
「それにお前のために言っているんだ、ハリエル。家の名も、お前自身の未来も、全てを守るための婚約だ。婚約破棄されたお前にまともな縁談が来ると思っているのか?反発してばかりでは何も残らんぞ」
確かにいくら浮気されたとはいえ、もうこの年になれば婚約しているものがほとんどだし、こんな借金まみれの家と好き好んで結婚する男など滅多にいないだろう。
けど………………
「婚約は決まりということでよろしいですね。国際結婚なこともあり、陛下からの結婚の承認が必要なので正式な婚約には時間がかかるかもしれません」
「アスータへの手続きはそちらでお願いします」
ガイウスは冷静に告げ、手早く書類をまとめた。
「心得た。すぐに取り掛かろう」
父は満足そうな顔をして足早に書斎に向かって行った。
「それじゃあ私も婚約が決まった二人の邪魔にならないようお暇しますわね。ガイウス様、うちの娘をよろしくお願いいたしますわね」
「わかりました。エヴァンス夫人。ハリエルのことはお任せてください」
継母も部屋をあとにし、静寂に包まれた応接間には、私とガイウスだけが残された。
私は、しばらく黙って天井を見上げていたが、意を決して口を開く。
「――どうして、私に一言もなく、婚約なんて決めたの?」
「だって君は拒絶するだろう?流石にそれが分からないほどおれも鈍くない」
それはそうだ。受け入れられるわけがない。
「だったらせめて、事前に直接言うべきだった。心の準備できないまま、いきなり家に来て、親を丸め込んで……私の気持ちなんてどうでもいいと思ってるの?」
ガイウスは私をじっと見つめていた。
「君が嫌がることは分かっている。でも、俺にとっては大切なことだった。君との絆も愛も、誰にも否定されたくないから――」
「絆?私にとってはただの鎖よ。あなたにとっては愛なのかもしれない。でも私にとってあなたは、本能に従うしかない理性のない獣よ」
ガイウスは苦しげに眉を寄せる。
「……申し訳ない。それでも、君と生きる道以外は考えられなかった」
私はゆっくりと首を横に振る。
「あなたがいくらそう言っても、私は決して諦めない。自分の意思を曲げてまで、あなたと番になるつもりなんてない」
「私はただ、わたしが私でいられる場所がほしいの」
ただ少女は願った。空気は重く、静寂が部屋を支配していた。
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