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15話 調査結果
あれからガイウスは、まるで獲物を執拗に狩る猟犬のように、元婚約者と浮気相手の情報収集や根回しを始める。
元々諜報員としてこの国に来ていたガイウスはその仕事の傍ら王都の社交界や裏社会に圧力をかけて、二人の悪行や裏金などの証拠を収集していた。
仕事については分からないがとにかく忙しそうだった。
それなのにあの男は婚約が決まってからというもの毎日この屋敷へ訪れていた。
「忙しそうなのによく、毎日いらっしゃいますね」
「なに……君に会う時間がなくなるほどは忙しくないさ」
そうは言いつつ、ガイウスの顔には疲労の色が見え隠れしていた。
「なんでもいいですけど。進捗はどんな感じですの」
私のそっけない問いかけに、ガイウスは疲れた顔の中に、ほんのりと満足げな笑みを浮かべた。
彼はテーブルの上に、分厚い革表紙のファイルをそっと置いた。
「順調だよ。君が望む以上に、ね」
ガイウスは椅子を引き、私の向かいに腰を下ろした。
「まずは元婚約者殿。彼は家の金に手を付けて、王都の賭博場に入り浸っていたようだね。帳簿を偽造していた証拠もいくつか。それから、浮気相手の女も、複数の貴族から金品を巻き上げていたようだね。その金の流れも掴んだ」
私を誘拐しようとしてくるくらいなのだから余罪もあるとは思っていたが……
「……そう。思った以上に、どうしようもない人たちだったのね」
私の唇の端が、意地悪く釣り上がるのを自分でも感じた。
胸の奥に、黒くて甘い何かがじわりと広がる。
それを見たガイウスの瞳が、嬉しそうに細められた。
「ああ。だから、もうすぐ面白い噂が流れるはずだ。元婚約者の家は不正会計で調査が入るだろうし、女のほうも、パトロンにしていた貴族たちが一斉に手を引くだろう。そうすれば落ちぶれるのも時間の問題だ」
「そう……」
私は紅茶のカップに映る自分の顔を見た。
そこにいるのは、冷たい笑みを浮かべた、知らない女だった。
ぞくり、と背筋に悪寒が走る。
私は慌てて表情を消した。
だが、その一瞬の変化を、ガイウスは見逃さなかった。
「どうした?気分でも悪くなったか?」
彼は心配そうに、けれどどこか探るような目で私を見つめる。
「心配しなくていい。君は何も考えなくていいんだ。汚い仕事は全部、俺がやる。君はただ、あいつらが落ちぶれていくのを見て、少しでも心が晴れれば、それで」
ガイウスはそう言って、テーブル越しにそっと私の手に触れようとした。
私は反射的に手を引く。
「……あなたのせいで、私もおかしくなりそうだわ」
ぽつりと漏れた言葉は、自分でも驚くほど弱々しかった。
復讐を望んだのは私。なのに、この胸に広がるどろりとした満足感と、同時に覚える自己嫌悪はなんだろう。
ガイウスは、私の言葉をまるで褒め言葉のように受け取った。彼の笑みが、さらに深くなる。
「おかしいだなんて。俺たちは『番』なんだから、当然のことだよ」
「それにあいつ等は君を誘拐しようとしたんだ。罰はしかるべきだろう。君が気にする必要もない」
彼の指が、今度は躊躇いなく私の指に絡みつく。
「君の痛みは俺の痛みで、君の怒りは俺の怒りだ。ようやく……少しだけ、君の心に触れられた気がする」
その声は熱っぽく、ねっとりとした執着に満ちていた。
それが気持ち悪くて仕方なく振り払おうとするが、絡みつく力が強く私は振り払うことができなかった。
そのせいで絡めとられた指先の熱から逃れられないでいた。
「離して」
言葉にして拒否するとガイウスは手を離す。
「つれないな……」
ガイウスは不満そうに眉をひそめ、その姿は飼い主にかまってもらえない犬のようだった。
この復讐が終わる頃、私は一体、どんな人間になっているのだろう。
そして、この男の隣で、本当に「私」でいられるのだろうか。
暗い喜びと得体の知れない恐怖が、私の中で渦を巻き始めていた。
元々諜報員としてこの国に来ていたガイウスはその仕事の傍ら王都の社交界や裏社会に圧力をかけて、二人の悪行や裏金などの証拠を収集していた。
仕事については分からないがとにかく忙しそうだった。
それなのにあの男は婚約が決まってからというもの毎日この屋敷へ訪れていた。
「忙しそうなのによく、毎日いらっしゃいますね」
「なに……君に会う時間がなくなるほどは忙しくないさ」
そうは言いつつ、ガイウスの顔には疲労の色が見え隠れしていた。
「なんでもいいですけど。進捗はどんな感じですの」
私のそっけない問いかけに、ガイウスは疲れた顔の中に、ほんのりと満足げな笑みを浮かべた。
彼はテーブルの上に、分厚い革表紙のファイルをそっと置いた。
「順調だよ。君が望む以上に、ね」
ガイウスは椅子を引き、私の向かいに腰を下ろした。
「まずは元婚約者殿。彼は家の金に手を付けて、王都の賭博場に入り浸っていたようだね。帳簿を偽造していた証拠もいくつか。それから、浮気相手の女も、複数の貴族から金品を巻き上げていたようだね。その金の流れも掴んだ」
私を誘拐しようとしてくるくらいなのだから余罪もあるとは思っていたが……
「……そう。思った以上に、どうしようもない人たちだったのね」
私の唇の端が、意地悪く釣り上がるのを自分でも感じた。
胸の奥に、黒くて甘い何かがじわりと広がる。
それを見たガイウスの瞳が、嬉しそうに細められた。
「ああ。だから、もうすぐ面白い噂が流れるはずだ。元婚約者の家は不正会計で調査が入るだろうし、女のほうも、パトロンにしていた貴族たちが一斉に手を引くだろう。そうすれば落ちぶれるのも時間の問題だ」
「そう……」
私は紅茶のカップに映る自分の顔を見た。
そこにいるのは、冷たい笑みを浮かべた、知らない女だった。
ぞくり、と背筋に悪寒が走る。
私は慌てて表情を消した。
だが、その一瞬の変化を、ガイウスは見逃さなかった。
「どうした?気分でも悪くなったか?」
彼は心配そうに、けれどどこか探るような目で私を見つめる。
「心配しなくていい。君は何も考えなくていいんだ。汚い仕事は全部、俺がやる。君はただ、あいつらが落ちぶれていくのを見て、少しでも心が晴れれば、それで」
ガイウスはそう言って、テーブル越しにそっと私の手に触れようとした。
私は反射的に手を引く。
「……あなたのせいで、私もおかしくなりそうだわ」
ぽつりと漏れた言葉は、自分でも驚くほど弱々しかった。
復讐を望んだのは私。なのに、この胸に広がるどろりとした満足感と、同時に覚える自己嫌悪はなんだろう。
ガイウスは、私の言葉をまるで褒め言葉のように受け取った。彼の笑みが、さらに深くなる。
「おかしいだなんて。俺たちは『番』なんだから、当然のことだよ」
「それにあいつ等は君を誘拐しようとしたんだ。罰はしかるべきだろう。君が気にする必要もない」
彼の指が、今度は躊躇いなく私の指に絡みつく。
「君の痛みは俺の痛みで、君の怒りは俺の怒りだ。ようやく……少しだけ、君の心に触れられた気がする」
その声は熱っぽく、ねっとりとした執着に満ちていた。
それが気持ち悪くて仕方なく振り払おうとするが、絡みつく力が強く私は振り払うことができなかった。
そのせいで絡めとられた指先の熱から逃れられないでいた。
「離して」
言葉にして拒否するとガイウスは手を離す。
「つれないな……」
ガイウスは不満そうに眉をひそめ、その姿は飼い主にかまってもらえない犬のようだった。
この復讐が終わる頃、私は一体、どんな人間になっているのだろう。
そして、この男の隣で、本当に「私」でいられるのだろうか。
暗い喜びと得体の知れない恐怖が、私の中で渦を巻き始めていた。
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