18 / 69
18話 発覚
しおりを挟む
拍手と祝福のざわめきが広間を満たす中、私は一歩会場の端へ下がる。
ガイウスは私の手をしっかりと握ったまま、満足そうに群衆を見渡していた。
けれど、この祝福の輪から少し離れた場所で、陰気な視線を感じる。
振り返ると、見覚えのある顔が二つ。元婚約者ドノバンと、その隣にフィーナがいる。
フィーナの派手な衣装は場違いで、他の貴族たちの距離を感じさせる。
ドノバンが私に近づき、薄く嘲るような笑みを浮かべて口を開いた。
「へえ……賭場でもう片っ端から金を無くした子爵が、獣人にお前を売るとは。哀れだな、ハリエル」
フィーナも嫌味な声を重ねる。
「うふふ、いやあの獣人閣下に色仕掛けでもして助けをもとめたんじゃない?ご実家は借金で回らないだろうし」
「お金がないってかなしいわね。貧乏令嬢から、次はアバズレ令嬢なんて呼ばれるんじゃないの?」
私は唇をひっそりと噛み、冷たい視線を二人に向ける。
ガイウスの体温だけが隣でじわじわ熱を帯びていた。
ガイウスが一歩前に出て、低く怒気を孕んだ声で切り出す。
「それ以上のハリエルへの侮辱はやめていただこう。ドノバン殿、フィーナ嬢」
ドノバンは小馬鹿にしたように肩をすくめる。
「脅しているのか、ヴァルドリック閣下?人間相手にそんな粗暴なことしても獣人らしいと思われるだけだぞ。」
フィーナが笑いながら頬を膨らませる。
「番って言うけど、どうせあなたも浮気してたんじゃない?子爵家の金を狙ってたなんてのは誰もが知ってることよ。ねえ、ハリエル、あなたも獣人の次男坊なんかと政略結婚なんて虚しいでしょ?」
私は視線をそらし、冷たく吐き捨てる。
「あなた達こそ、周りに隠れて何をしてきたのか分かっているのか?」
ガイウスは、さりげなく懐から分厚い封筒を取り出した。
その中にはドノバンが家の金を私的に使い込み、王都の賭場で財産を溶かし、さらに帳簿を偽造していたことを記した証拠書類が収められている。
フィーナと共謀し、複数の貴族から賄賂や金品を巻き上げた金の流れも詳細に記されていた。
「先程、貴族評議会の監査官がこの証拠を確認した。お前たちは、家門の裏切り者だ。それから、もう一つ忘れてはいけないことがある」
会場の空気がピンと張り詰める。
ガイウスは声を抑えながらも、その怒りをまっすぐに向けて続ける。
「ハリエルへの誘拐未遂については王都の正規捜査官から記録が出ている。フィーナ、お前も共犯だ。該当事件の証言と現場の証拠品もすべてそろえてある」
監査官と衛兵が静かに二人の背後に迫る。
周囲の貴族たちがざわめき始め、ドノバンの顔色がみるみる青くなっていく。
フィーナは一瞬「馬鹿な!」と叫び、肩を震わせる。
ガイウスが静かに宣告した。
「君たちの罪状はすでに王家にも伝達済みだ。この場で連行されることになる。自分たちが蒔いた種だ、潔く受け止めろ」
衛兵が「証拠は確認済みです」と合図を送り、ドノバンとフィーナの両腕を強く掴んだ。
ドノバンは最後まで小声で「あれは違うんだ…」「無実だ」と何度も唸り、フィーナは周囲に助けを求める視線を投げかけるが、誰も助けようとしない。
私はその様を無言で見つめ、かすかな哀れみと、胸の奥の冷たい満足感を味わっていた。
ガイウスが静かに私の手を取る。
「これで、君を脅かす過去は終わった。俺がしたかった復讐の舞台は、これで幕引きだ」
私は軽く肩をすくめて答える。
「派手にやりすぎよ。でも……今は少しだけ、スッキリした気分かも」
ガイウスは満足げに微笑み、低い声で囁いた。
「君がこの場に立ち、君自身のままでいられるように。俺はすべてを整えてきた。これからは――誰も君を否定できない」
会場は、一度は祝福のざわめきに包まれたが、今や囁きと羨望がドノバンとフィーナを飲み込んでいった。
王は遠くから静かに一部始終を見届け、 「悪事は必ず暴かれる。 この新しい夫婦の絆が真の名誉となることを願う」と苦虫を潰したようにいった。
私は琥珀色のペンダントにそっと触れ、少しだけ強く、前を向いて歩き出す。
ガイウスは私の手をしっかりと握ったまま、満足そうに群衆を見渡していた。
けれど、この祝福の輪から少し離れた場所で、陰気な視線を感じる。
振り返ると、見覚えのある顔が二つ。元婚約者ドノバンと、その隣にフィーナがいる。
フィーナの派手な衣装は場違いで、他の貴族たちの距離を感じさせる。
ドノバンが私に近づき、薄く嘲るような笑みを浮かべて口を開いた。
「へえ……賭場でもう片っ端から金を無くした子爵が、獣人にお前を売るとは。哀れだな、ハリエル」
フィーナも嫌味な声を重ねる。
「うふふ、いやあの獣人閣下に色仕掛けでもして助けをもとめたんじゃない?ご実家は借金で回らないだろうし」
「お金がないってかなしいわね。貧乏令嬢から、次はアバズレ令嬢なんて呼ばれるんじゃないの?」
私は唇をひっそりと噛み、冷たい視線を二人に向ける。
ガイウスの体温だけが隣でじわじわ熱を帯びていた。
ガイウスが一歩前に出て、低く怒気を孕んだ声で切り出す。
「それ以上のハリエルへの侮辱はやめていただこう。ドノバン殿、フィーナ嬢」
ドノバンは小馬鹿にしたように肩をすくめる。
「脅しているのか、ヴァルドリック閣下?人間相手にそんな粗暴なことしても獣人らしいと思われるだけだぞ。」
フィーナが笑いながら頬を膨らませる。
「番って言うけど、どうせあなたも浮気してたんじゃない?子爵家の金を狙ってたなんてのは誰もが知ってることよ。ねえ、ハリエル、あなたも獣人の次男坊なんかと政略結婚なんて虚しいでしょ?」
私は視線をそらし、冷たく吐き捨てる。
「あなた達こそ、周りに隠れて何をしてきたのか分かっているのか?」
ガイウスは、さりげなく懐から分厚い封筒を取り出した。
その中にはドノバンが家の金を私的に使い込み、王都の賭場で財産を溶かし、さらに帳簿を偽造していたことを記した証拠書類が収められている。
フィーナと共謀し、複数の貴族から賄賂や金品を巻き上げた金の流れも詳細に記されていた。
「先程、貴族評議会の監査官がこの証拠を確認した。お前たちは、家門の裏切り者だ。それから、もう一つ忘れてはいけないことがある」
会場の空気がピンと張り詰める。
ガイウスは声を抑えながらも、その怒りをまっすぐに向けて続ける。
「ハリエルへの誘拐未遂については王都の正規捜査官から記録が出ている。フィーナ、お前も共犯だ。該当事件の証言と現場の証拠品もすべてそろえてある」
監査官と衛兵が静かに二人の背後に迫る。
周囲の貴族たちがざわめき始め、ドノバンの顔色がみるみる青くなっていく。
フィーナは一瞬「馬鹿な!」と叫び、肩を震わせる。
ガイウスが静かに宣告した。
「君たちの罪状はすでに王家にも伝達済みだ。この場で連行されることになる。自分たちが蒔いた種だ、潔く受け止めろ」
衛兵が「証拠は確認済みです」と合図を送り、ドノバンとフィーナの両腕を強く掴んだ。
ドノバンは最後まで小声で「あれは違うんだ…」「無実だ」と何度も唸り、フィーナは周囲に助けを求める視線を投げかけるが、誰も助けようとしない。
私はその様を無言で見つめ、かすかな哀れみと、胸の奥の冷たい満足感を味わっていた。
ガイウスが静かに私の手を取る。
「これで、君を脅かす過去は終わった。俺がしたかった復讐の舞台は、これで幕引きだ」
私は軽く肩をすくめて答える。
「派手にやりすぎよ。でも……今は少しだけ、スッキリした気分かも」
ガイウスは満足げに微笑み、低い声で囁いた。
「君がこの場に立ち、君自身のままでいられるように。俺はすべてを整えてきた。これからは――誰も君を否定できない」
会場は、一度は祝福のざわめきに包まれたが、今や囁きと羨望がドノバンとフィーナを飲み込んでいった。
王は遠くから静かに一部始終を見届け、 「悪事は必ず暴かれる。 この新しい夫婦の絆が真の名誉となることを願う」と苦虫を潰したようにいった。
私は琥珀色のペンダントにそっと触れ、少しだけ強く、前を向いて歩き出す。
7
あなたにおすすめの小説
【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜
雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。
彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。
自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。
「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」
異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。
異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
「偽聖女」と追放された令嬢は、冷酷な獣人王に溺愛されました~私を捨てた祖国が魔物で滅亡寸前?今更言われても、もう遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢フィーア・エメラインは、地味で効果が現れるのに時間がかかる「大地の浄化」の力を持っていたため、派手な治癒魔法を使う異母妹リシアンの嫉妬により、「偽聖女」として断罪され、魔物汚染が深刻な獣人族の国へ追放される。
絶望的な状況の中、フィーアは「冷酷な牙」と恐れられる最強の獣人王ガゼルと出会い、「国の安寧のために力を提供する」という愛のない契約結婚を結ぶ。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。 ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる