【完結】婚約破棄されたら執着獣人閣下に無理やり番にされたので利用し尽くしつくします~運命の番といわれ溺愛されても信じられません~

たるとタタン

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28話 結婚式

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結婚式当日の朝。控室の扉は重く閉ざされていた。

マーサと侍女たちに囲まれて、私は純白のウェディングドレスに身を包んでいた。

豪奢なレースに、獣人の国ならではの刺繍。

腰に巻かれた銀糸のベルトが、場違いなくらい異国の趣を醸している。

「お嬢様、とても綺麗です」

ルミナが髪飾りを丁寧につけてくれる。

マーサはドレスの裾を直しながら、そっと私の肩をたたく。

鏡の中には、見慣れない“私”がいた。

けれど胸元には、昨日侍女たちがくれたラベンダーの小花がひそやかに飾られている。

(私は、ついにここまで来てしまったんだ)

無理やり番にされて、望んだわけでもないのに結婚式を迎えることになったあの夜。

何度も、どこかでやり直せないか、逃げられないかと考えたこともある。

でも今――招待客のざわめきや、祝福の鐘の音が遠くに響くこの場所で、もうどうにもならないんだと思う。

やがて、軍服姿のガイウスが控え室に現れる。

「……似合ってるぞ」

彼の声は優しくて、少しだけぎこちなかった。

「ありがとう。あなたも立派な軍服ね。…本当に結婚するのね」

「不安か?」

「不安というか不満ね。まあどうしようもないのよ。ここまで来たら、もう、後戻りなんてできないもの」

思わず本音がこぼれる。

「それでも、君とここに立てて……俺は嬉しい」

私はふっと力を抜いて、小さく笑った。

「あなたはそうでしょうね。わたしは今でもあの時誘拐されていなかったらと考えるもの」

ガイウスは不満そうに肩をすくめながら笑う。

「もしあのとき番っていなかったとしても同じだったさ。俺が君を諦められるはずがない」

「そう。それでもわたしは抵抗したでしょうね。ほんとムカつく男だわ」

私はドレスの裾をぎゅっと握る。

「私も、ずっと全部受け入れてきた訳じゃない。でも今日は忘れて貴方の隣を歩いてあげる。感謝してよね?」

ガイウスは少し犬歯をのぞかせ、笑いながら手を差し出してきた。

「今宵はお付き合い頂けますかな?お姫様」

仰々しい挨拶と芝居がかった動きが癇に障ったがこちらの手を重ねると手袋越しに唇の感触が伝わるほどのキスを落とした。

「ちょっ……普通、振りだけでしょ。そんな思い切り手に押しつける人なんかいないわよ」


その時、控室のドアの向こうから、スタッフの声や、式の準備が進んでいる気配が聞こえる。

私の胸には、どこか少しだけ、希望と不安が交錯している。

「ガイウス様、ハリエル様お時間です」

メイドが結婚式の開始を告げた。

「さあ、行きましょうか」

彼の右腕を取って、式場へと歩き出す。
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