【完結】婚約破棄されたら執着獣人閣下に無理やり番にされたので利用し尽くしつくします~運命の番といわれ溺愛されても信じられません~

たるとタタン

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29話 誓い

重厚な扉が、ゆっくりと左右に開かれた。

その瞬間、式場の空気が一斉に私たちへと注がれる。 
 
獣人たちの鋭い視線、人間の招待客のわずかな緊張、煌びやかな装飾に彩られた空間――すべてが、私を圧倒しそうになる。

ガイウスが私の手をしっかりと握る。  

その手の温もりだけが、今の私を現実につなぎ止めている。

「大丈夫だ。俺が傍にいる」

彼の声は低く、確かだった。  

けれど私の胸の奥では、まだ小さな声が囁いている。

(この人に無理やり番にされて、ここまで来てしまった。けど、もう逃げ場なんてない)

バージンロードを一歩ずつ進む。  

ドレスの裾が床を優雅に滑り、周囲のざわめきが徐々に静まっていく。

獣人たちの中には、好奇の目を向ける者もいれば、明らかに冷ややかな視線を送る者もいる。  

ファウスト家の面々は、遠くの席から私たちを値踏みするように見つめていた。

でも、マーサやルミナたちの温かい眼差しも感じる。  

胸元のラベンダーの香りが、静かに勇気をくれる。

祭壇の前に立つと、司祭が厳かに口を開く。

「本日、この場に集いし者たちの前で、ガイウス・グリュンヴァルトとハリエル・エヴァンスが、永遠の番としての誓いを交わします」

番――その言葉が、胸に重く響く。

司祭が続ける。

「ガイウス・グリュンヴァルト、汝はこの女性を生涯の番として、いかなる時も守り、愛し、支えることを誓いますか?」

「誓います」

ガイウスの声は力強く、迷いがなかった。  

その瞳が私を見つめる。  

優しさと、どこか執着めいた熱が混ざり合っている。

「ハリエル・エヴァンス、汝はこの男性を生涯の番として、共に歩み、支え合うことを誓いますか?」

一瞬、言葉が喉に詰まる。

(私は……本当にこれで結婚してしまうのね……)

でも、もう後戻りはできない。  

ここまで来た以上、前を向くしかない。

「……誓います」

私の声は、思ったより静かだった。  

けれどその言葉は、確かに式場に響いた。

司祭が微笑む。

「では、指輪の交換を」

ガイウスが私の左手を取り、指輪をゆっくりと滑らせる。  
冷たい金属の感触が、私の指に永遠の証を刻む。

私も震える手で、彼の指に指輪をはめる。  
その瞬間、彼の目が少しだけ優しく細められた。

「番の誓いが成立しました。新郎は、新婦に口づけを」

ガイウスが一歩近づく。  
私の頬に手を添え、そっと唇を重ねる。

短いキス。  

でもその一瞬に、会場からは歓声と拍手が湧き上がる。

私は目を閉じたまま、ただ静かに耐えていた。

(これで、私は本当にこの人の番になったんだ)

祝福の声、笑顔、花びらの雨――  
その全てが、どこか遠くに感じられた。

ガイウスが私の手を引き、退場の合図が出される。  
私たちは再びバージンロードを歩き、式場を後にする。

控室に戻ると、ガイウスが私の肩を抱き寄せた。

「お疲れ様。よく頑張ったな」

「……もう、終わったのね」

「ああ。これからが、本当の始まりだ」

彼の言葉に、私は何も返せなかった。 
 
ただ、胸の奥に残る複雑な感情だけが、静かに渦巻いていた。

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