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30話 お風呂
披露宴の華やかさが遠ざかるにつれ、私の心の奥底にはじわりと不安が広がっていった。
散りばめられた祝福の言葉、笑顔、きらびやかな光―すべてが嘘のように静まっていく。
退場の時、ガイウスと腕を組みながら歩いたバージンロードは、さっきまでの騒然とした空気がうそのように落ち着いていた。
控室に戻ると、マーサとルミナがすぐに寄り添ってくれる。
「お嬢様、本当にお疲れさまでした」
「お水をどうぞ。ドレスの重みで肩も凝っていませんか?」
私は小さく笑って受け取りながら、胸の奥がぼんやりと重たいままだった。
「ありがとう。いただくわ」
マーサが気遣いを込めて声を落とす。
「お嬢様、お部屋に戻られたら、しばらくゆっくりなさってくださいね。本当に大変な一日でしたから」
ドレスを侍女に脱がされながら、私の心の中は、式の余韻以上に今夜のことを考えていた。
華やかな式は終わったけれど、今夜からはあの男との初夜だ。
そんなことを考えると憂鬱になる。
もう逃げ道はないのだ。
どんなに過去を振り返っても、今さら後戻りなんてできるはずがない。
私はマーサと侍女たちに連れられて屋敷の広い浴室へと案内された。
蒸気の立ち上る大理石の湯船からは、異国のハーブの香りがふんわりと広がっている。
ランプの光が水面に反射して、壁にはゆるやかな光の模様が踊っていた。
「お嬢様、少し熱めですが、今日の疲れを癒してくださいね」
ルミナが優しく声を掛けてくれる。
私は軽く頷いてドレスを脱ぎ、素肌を柔らかな湯へ沈めた。
温かな湯が全身を包み込み、心の緊張がゆっくりほぐれていくのを感じる。
マーサと侍女たちは、穏やかな手つきで髪を洗い、優しく頭を撫でながら手早く泡を流してくれる。
「お肌も、髪も、今夜は一番きれいにしておきましょうね」
ルミナが微笑みながら頭をマッサージしてくれる。
「初夜の前にこんなに人の手を借りるなんて、やっぱりちょっと恥ずかしいわ」
私は小さく笑いながら呟いた。
マーサが湯船の端でそっと私の背中を流してくれる。
「お嬢様は、本当にきれいです。今日一日、たくさん頑張ったのですから、少しくらい甘えてくださいね」
侍女たちは器用に爪を磨いたり、足先まで湯をかけてくれる。
「お好きな香油を選んでください。ラベンダーの他に、金木犀や柑橘も揃えています」
「じゃあ…ラベンダーで」
落ち着いた紫の香りが湯気に混じり、心まで静かに整えられていく。
すべての支度が終わると、マーサが柔らかなバスタオルでそっと背中と髪を包む。
「お嬢様、本当にお綺麗になりました」
鏡を覗き込むと、湯上がりの頬はわずかに紅をさして、髪は艶やかに輝いている。
マーサたちは綺麗なナイトドレスを用意してくれて、私はふわりと香りと清潔に包まれた身をそっと包み込んだ。
自分が花嫁らしく磨かれたと、初めて自覚する瞬間だった。
ああ。わたしはついにあの男に捧げられるのだ。
胸の奥がざわめく。でも、誰にも涙を見せない。
「ありがとう、みんな。……じゃあ、行くわ」
侍女たちは静かに見送ってくれる。
私は緊張と不安を胸にガイウスの待つ部屋へと向かった。
散りばめられた祝福の言葉、笑顔、きらびやかな光―すべてが嘘のように静まっていく。
退場の時、ガイウスと腕を組みながら歩いたバージンロードは、さっきまでの騒然とした空気がうそのように落ち着いていた。
控室に戻ると、マーサとルミナがすぐに寄り添ってくれる。
「お嬢様、本当にお疲れさまでした」
「お水をどうぞ。ドレスの重みで肩も凝っていませんか?」
私は小さく笑って受け取りながら、胸の奥がぼんやりと重たいままだった。
「ありがとう。いただくわ」
マーサが気遣いを込めて声を落とす。
「お嬢様、お部屋に戻られたら、しばらくゆっくりなさってくださいね。本当に大変な一日でしたから」
ドレスを侍女に脱がされながら、私の心の中は、式の余韻以上に今夜のことを考えていた。
華やかな式は終わったけれど、今夜からはあの男との初夜だ。
そんなことを考えると憂鬱になる。
もう逃げ道はないのだ。
どんなに過去を振り返っても、今さら後戻りなんてできるはずがない。
私はマーサと侍女たちに連れられて屋敷の広い浴室へと案内された。
蒸気の立ち上る大理石の湯船からは、異国のハーブの香りがふんわりと広がっている。
ランプの光が水面に反射して、壁にはゆるやかな光の模様が踊っていた。
「お嬢様、少し熱めですが、今日の疲れを癒してくださいね」
ルミナが優しく声を掛けてくれる。
私は軽く頷いてドレスを脱ぎ、素肌を柔らかな湯へ沈めた。
温かな湯が全身を包み込み、心の緊張がゆっくりほぐれていくのを感じる。
マーサと侍女たちは、穏やかな手つきで髪を洗い、優しく頭を撫でながら手早く泡を流してくれる。
「お肌も、髪も、今夜は一番きれいにしておきましょうね」
ルミナが微笑みながら頭をマッサージしてくれる。
「初夜の前にこんなに人の手を借りるなんて、やっぱりちょっと恥ずかしいわ」
私は小さく笑いながら呟いた。
マーサが湯船の端でそっと私の背中を流してくれる。
「お嬢様は、本当にきれいです。今日一日、たくさん頑張ったのですから、少しくらい甘えてくださいね」
侍女たちは器用に爪を磨いたり、足先まで湯をかけてくれる。
「お好きな香油を選んでください。ラベンダーの他に、金木犀や柑橘も揃えています」
「じゃあ…ラベンダーで」
落ち着いた紫の香りが湯気に混じり、心まで静かに整えられていく。
すべての支度が終わると、マーサが柔らかなバスタオルでそっと背中と髪を包む。
「お嬢様、本当にお綺麗になりました」
鏡を覗き込むと、湯上がりの頬はわずかに紅をさして、髪は艶やかに輝いている。
マーサたちは綺麗なナイトドレスを用意してくれて、私はふわりと香りと清潔に包まれた身をそっと包み込んだ。
自分が花嫁らしく磨かれたと、初めて自覚する瞬間だった。
ああ。わたしはついにあの男に捧げられるのだ。
胸の奥がざわめく。でも、誰にも涙を見せない。
「ありがとう、みんな。……じゃあ、行くわ」
侍女たちは静かに見送ってくれる。
私は緊張と不安を胸にガイウスの待つ部屋へと向かった。
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