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37話 食事の招待
ある日の昼下がり、マーサが部屋を訪れた。
「ご当主様と奥方様が、お食事にお招きになりたいそうです」
侯爵家本邸から食事の招待が届いた。
ガイウスの両親が、正式な夫婦としてのハリエルとゆっくり向き合いたいらしい。
結婚式で一度挨拶もしてはいるし、ハリエルの両親と話している場にはいたがちゃんと喋ったことはない。
緊張が指先に伝い、ドレスアップして侍女たちの支度を受けながら、ハリエルは自分がこの家の“妻”としてどう振る舞えばいいのだろう。
突然の申し出に、ハリエルは小さく息を呑む。
緊張が指先に伝わる中で、ドレスと髪を整えてもらい、心がざわめく。
食堂へ向かうと、侯爵夫妻がゆったりとした笑みを浮かべて待っていた。
表情には好奇と余裕、その姿は長くこの地を治める貴族としての矜持がにじんでいた。
ガイウスは静かにハリエルの傍らに立ち、いつになく落ち着いた雰囲気だった。
父親の侯爵がゆっくりとハリエルに声をかける。
「おや、随分元気そうになったな。無理はしていないか?」
その健康を気遣う素ぶりや、無理のない生活を勧める態度に心が少しほぐれる。
「はい。侍女たちのおかげで、ずいぶん楽になりました」
「うちの息子がすまないな。年が上なくせにがっつきおって。慣れぬこともあろうが、このパパガーに遠慮せず言ってくれ」
思いのほか穏やかな頼りがいのある言葉に、ハリエルは小さく頷いた。
「はい。ありがとうございますわ」
出てきた料理は季節の野菜と魚、焼き菓子、暖かなスープが色とりどりに並んでいたおり、繊細な盛り付けで、見た目にも優しさを感じさせるものだった。
「お食事も口に合うかしら」
「はい。とても美味しいですわ。獣人の方もこういう料理をたべられるんですね」
獣人の料理にしてはめずらしく、アスータの料理つまりは人間の料理に近いものだった。
詳しく聞いてみると侯爵夫人は料理が趣味で献立のひとつひとつに手をかけているらしく、わたしのために用意してくれたらしい。
「わたしのために……嬉しいですわ」
そんなこと継母では絶対にありえないだろう。彼女の気遣いに心が温まるのを感じた。
「そんなに気に入ったのか?それなら家でも作れるように母上にレシピを聞いておこう」
ガイウスはニコニコしながら任せろと言わんばかりに胸を張った。
「はは。母親を困らせてばかりだったあのガイウスがこんな男になるとはな」
それに侯爵夫人が少しだけ肩をすくめて返す。
「本当に大変だったのよ。庭の池に落ちて服を泥だらけにしたり、兎を追いかけて勝手に屋敷を出ていったり」
ガイウスはすねたように眉をひそめた。
「母さん、その話はもういいだろ」
侯爵夫人が少し笑って、ハリエルの方を向く。
「家族の話ができるのは幸せなことなのよ。あなたも困りごとや不安なことがあれば、家族と思って頼ってほしいわ」
ハリエルはその瞬間、この家の“家族”というものがたしかに生きて息づいているのだと、体の奥で理解する。
ハリエルは迷いながらも、素直な気持ちがこぼれる。
「まだ慣れなくて…。でもいつか本当に家族になれたらと思います」
侯爵は力強くうなずいた。
「そうだろう。時間はかかってもいい。この家は、お前の居場所でもあるのだからな」
ふいに侯爵夫人が席を立ち、ハリエルの肩に優しく手を置いた。
「無理せず、ゆっくり馴染んでいったらいいのよ」
肌に伝う温かな掌、その圧の向こうには、義母なりの歓迎と心遣いが刻まれている気がした。
笑顔で困りごとがあれば遠慮なく頼るように促され、思わずハリエルも、小さく首を縦に振る。
この家なら、本当に安心して暮らせるのかもしれないと感じた。
「ご当主様と奥方様が、お食事にお招きになりたいそうです」
侯爵家本邸から食事の招待が届いた。
ガイウスの両親が、正式な夫婦としてのハリエルとゆっくり向き合いたいらしい。
結婚式で一度挨拶もしてはいるし、ハリエルの両親と話している場にはいたがちゃんと喋ったことはない。
緊張が指先に伝い、ドレスアップして侍女たちの支度を受けながら、ハリエルは自分がこの家の“妻”としてどう振る舞えばいいのだろう。
突然の申し出に、ハリエルは小さく息を呑む。
緊張が指先に伝わる中で、ドレスと髪を整えてもらい、心がざわめく。
食堂へ向かうと、侯爵夫妻がゆったりとした笑みを浮かべて待っていた。
表情には好奇と余裕、その姿は長くこの地を治める貴族としての矜持がにじんでいた。
ガイウスは静かにハリエルの傍らに立ち、いつになく落ち着いた雰囲気だった。
父親の侯爵がゆっくりとハリエルに声をかける。
「おや、随分元気そうになったな。無理はしていないか?」
その健康を気遣う素ぶりや、無理のない生活を勧める態度に心が少しほぐれる。
「はい。侍女たちのおかげで、ずいぶん楽になりました」
「うちの息子がすまないな。年が上なくせにがっつきおって。慣れぬこともあろうが、このパパガーに遠慮せず言ってくれ」
思いのほか穏やかな頼りがいのある言葉に、ハリエルは小さく頷いた。
「はい。ありがとうございますわ」
出てきた料理は季節の野菜と魚、焼き菓子、暖かなスープが色とりどりに並んでいたおり、繊細な盛り付けで、見た目にも優しさを感じさせるものだった。
「お食事も口に合うかしら」
「はい。とても美味しいですわ。獣人の方もこういう料理をたべられるんですね」
獣人の料理にしてはめずらしく、アスータの料理つまりは人間の料理に近いものだった。
詳しく聞いてみると侯爵夫人は料理が趣味で献立のひとつひとつに手をかけているらしく、わたしのために用意してくれたらしい。
「わたしのために……嬉しいですわ」
そんなこと継母では絶対にありえないだろう。彼女の気遣いに心が温まるのを感じた。
「そんなに気に入ったのか?それなら家でも作れるように母上にレシピを聞いておこう」
ガイウスはニコニコしながら任せろと言わんばかりに胸を張った。
「はは。母親を困らせてばかりだったあのガイウスがこんな男になるとはな」
それに侯爵夫人が少しだけ肩をすくめて返す。
「本当に大変だったのよ。庭の池に落ちて服を泥だらけにしたり、兎を追いかけて勝手に屋敷を出ていったり」
ガイウスはすねたように眉をひそめた。
「母さん、その話はもういいだろ」
侯爵夫人が少し笑って、ハリエルの方を向く。
「家族の話ができるのは幸せなことなのよ。あなたも困りごとや不安なことがあれば、家族と思って頼ってほしいわ」
ハリエルはその瞬間、この家の“家族”というものがたしかに生きて息づいているのだと、体の奥で理解する。
ハリエルは迷いながらも、素直な気持ちがこぼれる。
「まだ慣れなくて…。でもいつか本当に家族になれたらと思います」
侯爵は力強くうなずいた。
「そうだろう。時間はかかってもいい。この家は、お前の居場所でもあるのだからな」
ふいに侯爵夫人が席を立ち、ハリエルの肩に優しく手を置いた。
「無理せず、ゆっくり馴染んでいったらいいのよ」
肌に伝う温かな掌、その圧の向こうには、義母なりの歓迎と心遣いが刻まれている気がした。
笑顔で困りごとがあれば遠慮なく頼るように促され、思わずハリエルも、小さく首を縦に振る。
この家なら、本当に安心して暮らせるのかもしれないと感じた。
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