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41話 宝石商
ドレスの選定がひと段落すると、その場にそっと控えていたもう一人が静かに前へ出てきた。
しなやかな身のこなし、銀灰色の毛並み、長い尾を揺らしながら、ジェントルらしく挨拶した。
「お初にお目にかかります。宝石商シャルルと申します。以降よしなに」
低く、艶のある声。それだけで、場の空気がすっと変わった。
「夜会にふさわしい最高級品だけをご用意いたしましたので、お嬢様にぜひご覧いただきたく――」
シャルは猫獣人らしい鋭い瞳で、静かにハリエルを捉える。
それでも、その所作には柔らかい気遣いが感じられた。
シャルルが、白い指で木箱の留め金を外す。蓋が静かに開くとき、思わず息を呑むほどの光があふれた。
「まあ……」
真珠のネックレス、淡い雫型のサファイアピアス、花のように繊細な金細工のブローチ。
どれも目が眩むくらい美しかった。
「ハリエル様、どれか気になるものはございますか?」
ルミナがそっと片手を寄せて囁く。
「正直、どれもため息が出るほど素晴らしいわ……」
自然に口をついて出る。
けれど、手は勝手にサファイアのイヤリングに伸びていた。
「うん。これにするわ」
「かしこまりました。他にも品もいくつかございます。よろしければ、こちらなど」
シャルが新たに出したのは、薄青と白が混じるカメオのペンダント。
マーサが「すっきりした印象で、色も合わせやすいですしよいのでは」と助言を添える。
試着と選定の時間はあっという間に過ぎていく。
猫獣人の宝石商は、最後まで柔らかな気遣いと穏やかな笑みで、必要以上の押し付けや演出もせず、好印象だった。
「それでは、夜会でのご活躍を――心よりお祈りしております」
シャルとトリーは礼儀正しく一礼し、静かに部屋を後にした。
「これで十分か?また欲しいものがあったら俺に言え。また商人を家にいくらでも呼んでやる」
ガイウスはニコニコしながら私に話しかけてきた。
「そうですね。買い物は楽しかったです。あなたがいなければもっと楽しかったんですけどね」
嫌味を言うのを忘れない。どうにもこの男が嬉しそうにしていると悪態をつきたくなる。
「そんな事言うなよ。まあでも俺からのプレセントを受け取ってくれて嬉しいぜ」
「大げさな。あなたの妻として当然の権利ですわ」
そう返してみせると、彼は豆鉄砲を喰らったような顔になって、それからじわじわと表情が綻んでいく。
「そうだな……そうだ。君は俺の番で、妻なんだ」
段々、声に重みが乗ってきて、そう……俺の妻なんだ。と噛みしめるようにボソボソと呟き始め、幸福感が伝わってくる。
ため息を吐きそうになるのを飲み込んで、私は少し身を引く。
「気持ち悪い。別に心までは渡したつもりはないわよ。形式上の話だから……」
そう言ったのにガイウスは、うれしそうに尻尾をぶん、と振って思いきり抱きついてくる。腕の力が強すぎて、ほどけるわけでもない。
「それでも君が俺の妻なのは代わりないさ。夜会が楽しみだ。皆に君が僕の番だと自慢できるんだから……」
彼は本当に、こういうときだけは子どものような顔になる。
「もうっ……鬱陶しい。自分のガタイの良さを自覚してください」
精一杯、すまして言いながら、じりじりと距離を取ろうとする。
だけど、ふいに見上げた彼の横顔には、どこか安心しきった幼子のような安堵が浮かんでいた。
その顔をみると反抗する気もおきなくなり、仕方がなく、私は肩の力を抜く。
それでもやっぱりこの男に心まであげる気はない。
しなやかな身のこなし、銀灰色の毛並み、長い尾を揺らしながら、ジェントルらしく挨拶した。
「お初にお目にかかります。宝石商シャルルと申します。以降よしなに」
低く、艶のある声。それだけで、場の空気がすっと変わった。
「夜会にふさわしい最高級品だけをご用意いたしましたので、お嬢様にぜひご覧いただきたく――」
シャルは猫獣人らしい鋭い瞳で、静かにハリエルを捉える。
それでも、その所作には柔らかい気遣いが感じられた。
シャルルが、白い指で木箱の留め金を外す。蓋が静かに開くとき、思わず息を呑むほどの光があふれた。
「まあ……」
真珠のネックレス、淡い雫型のサファイアピアス、花のように繊細な金細工のブローチ。
どれも目が眩むくらい美しかった。
「ハリエル様、どれか気になるものはございますか?」
ルミナがそっと片手を寄せて囁く。
「正直、どれもため息が出るほど素晴らしいわ……」
自然に口をついて出る。
けれど、手は勝手にサファイアのイヤリングに伸びていた。
「うん。これにするわ」
「かしこまりました。他にも品もいくつかございます。よろしければ、こちらなど」
シャルが新たに出したのは、薄青と白が混じるカメオのペンダント。
マーサが「すっきりした印象で、色も合わせやすいですしよいのでは」と助言を添える。
試着と選定の時間はあっという間に過ぎていく。
猫獣人の宝石商は、最後まで柔らかな気遣いと穏やかな笑みで、必要以上の押し付けや演出もせず、好印象だった。
「それでは、夜会でのご活躍を――心よりお祈りしております」
シャルとトリーは礼儀正しく一礼し、静かに部屋を後にした。
「これで十分か?また欲しいものがあったら俺に言え。また商人を家にいくらでも呼んでやる」
ガイウスはニコニコしながら私に話しかけてきた。
「そうですね。買い物は楽しかったです。あなたがいなければもっと楽しかったんですけどね」
嫌味を言うのを忘れない。どうにもこの男が嬉しそうにしていると悪態をつきたくなる。
「そんな事言うなよ。まあでも俺からのプレセントを受け取ってくれて嬉しいぜ」
「大げさな。あなたの妻として当然の権利ですわ」
そう返してみせると、彼は豆鉄砲を喰らったような顔になって、それからじわじわと表情が綻んでいく。
「そうだな……そうだ。君は俺の番で、妻なんだ」
段々、声に重みが乗ってきて、そう……俺の妻なんだ。と噛みしめるようにボソボソと呟き始め、幸福感が伝わってくる。
ため息を吐きそうになるのを飲み込んで、私は少し身を引く。
「気持ち悪い。別に心までは渡したつもりはないわよ。形式上の話だから……」
そう言ったのにガイウスは、うれしそうに尻尾をぶん、と振って思いきり抱きついてくる。腕の力が強すぎて、ほどけるわけでもない。
「それでも君が俺の妻なのは代わりないさ。夜会が楽しみだ。皆に君が僕の番だと自慢できるんだから……」
彼は本当に、こういうときだけは子どものような顔になる。
「もうっ……鬱陶しい。自分のガタイの良さを自覚してください」
精一杯、すまして言いながら、じりじりと距離を取ろうとする。
だけど、ふいに見上げた彼の横顔には、どこか安心しきった幼子のような安堵が浮かんでいた。
その顔をみると反抗する気もおきなくなり、仕方がなく、私は肩の力を抜く。
それでもやっぱりこの男に心まであげる気はない。
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