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46話 新たな風
ガイウスとの緊張が続くなか、新たな風が吹く。
ある日、廊下を歩いていると、早足で歩く侍女の後ろに、一人の青年が小さな旅行鞄を抱えて現れた。
「……姉さん!」
私の前で動きを止め、嬉しそうな声を上げながら抱きしめてきた。
戸惑いと嬉しさがないまぜになって、ハリエルは記憶より背が伸びた弟を受け止めた。
「オットー……?」
弟のオットーがそこにいた。
懐かしい面影、少し大人びた輪郭、それでも昔と変わらぬ瞳。
「ご無沙汰しています、お姉さま。急に来て、びっくりしましたか?」
「……ええ。どうしてここに?」
「どうしてもこうしてもないじゃないですか。ドノバンと婚約破棄したと思ったら、知らない男と姉さんが結婚することになったて聞いて……しかもそれを僕は手紙でしったんですよ!!」
オットーは怒っていた。しかしその言葉には深々とした不安が見て取れた。
「ごめんなさい。本当に色々と急だったから…」
ハリエルは静かに、弟の手を取り、握りしめる。
「……でも、こうして来てくれて本当に嬉しいわ」
揺れる視線の奥に、安堵がちらつく。だけどすぐ険しい色に戻る。
「俺も会えてうれしいよ。で?ガイウスって、どんな奴なんです?またドノバンみたいな野郎じゃないでしょうね」
その時、後ろの廊下から静かな足音が近づいてきた。
「君がオットーか。遠路はるばるようこそ」
ガイウスが緩やかな笑みでこちらへ歩み寄る。
「私は君の姉上の夫となったガイウス=ヴァルドリックだ。よろしく頼むな。義弟殿」
オットーはよろしくする気はないとばかりに思いきりガイウスを睨みつける。
「丁寧なご挨拶どうも。でもよろしくする気はないので。姉に何かしたら、ただじゃ済ませませんから」
「オットー!」
ハリエルがとっさに制する。
弟まで変に目をつけられたらたまらない。
「オットーは家族思いな子で悪い子じゃないの。だから気にしないで……」
「頼もしい弟君だ。姉弟の絆は大切にしなくてはな」
ガイウスは笑みを崩さなかったが口元はわずかに硬かった。
オットーは腕を組み、不審げにガイウスをじっと値踏みする。
「どうしてこんなに早く結婚しなきゃいけなかったんです?」
「大人の事情というやつだ」
「誤魔化さないでください」
「僕が姉さんのことどれだけ心配してるか、少しは想像できますか?」
言葉の端に、しがみつくような怒りと、切羽詰まった悲壮感がにじんでいた。
「……ねえ、オットー」
ハリエルはゆっくり弟に向き合う。
「いろいろ騒がせてごめん。でも、お姉ちゃんは大丈夫だから心配しないで、むしろアスータにいた頃よりいい生活ができてるのよ」
オットーは黙り込む。
ガイウスはその二人の間にそっと視線を落とし、「今夜は歓迎の食事を用意させよう。遠慮せずくつろいでほしい」と、表面だけ穏やかに礼を尽くす。
オットーは釈然としないまま小さく頷く。
「じゃあステーキね。グリュンヴァルトのステーキは本当に美味しんだから。あなたもいっぱいたべなさい」
「姉さん……そんなんじゃ誤魔化されないよ……」
ガイウスは笑いながらオットーの肩を叩く。
「まだ君は育ちざかりだからな。この細い身体を大きくするためにも、多めに用意しておこう」
まだ言いたいことはあるようだったが、その頬が、すこしだけ子供っぽくゆるんでいるんでいた。
ハリエルはその顔に懐かしさを覚え、心が温かくなるのを感じた。
ある日、廊下を歩いていると、早足で歩く侍女の後ろに、一人の青年が小さな旅行鞄を抱えて現れた。
「……姉さん!」
私の前で動きを止め、嬉しそうな声を上げながら抱きしめてきた。
戸惑いと嬉しさがないまぜになって、ハリエルは記憶より背が伸びた弟を受け止めた。
「オットー……?」
弟のオットーがそこにいた。
懐かしい面影、少し大人びた輪郭、それでも昔と変わらぬ瞳。
「ご無沙汰しています、お姉さま。急に来て、びっくりしましたか?」
「……ええ。どうしてここに?」
「どうしてもこうしてもないじゃないですか。ドノバンと婚約破棄したと思ったら、知らない男と姉さんが結婚することになったて聞いて……しかもそれを僕は手紙でしったんですよ!!」
オットーは怒っていた。しかしその言葉には深々とした不安が見て取れた。
「ごめんなさい。本当に色々と急だったから…」
ハリエルは静かに、弟の手を取り、握りしめる。
「……でも、こうして来てくれて本当に嬉しいわ」
揺れる視線の奥に、安堵がちらつく。だけどすぐ険しい色に戻る。
「俺も会えてうれしいよ。で?ガイウスって、どんな奴なんです?またドノバンみたいな野郎じゃないでしょうね」
その時、後ろの廊下から静かな足音が近づいてきた。
「君がオットーか。遠路はるばるようこそ」
ガイウスが緩やかな笑みでこちらへ歩み寄る。
「私は君の姉上の夫となったガイウス=ヴァルドリックだ。よろしく頼むな。義弟殿」
オットーはよろしくする気はないとばかりに思いきりガイウスを睨みつける。
「丁寧なご挨拶どうも。でもよろしくする気はないので。姉に何かしたら、ただじゃ済ませませんから」
「オットー!」
ハリエルがとっさに制する。
弟まで変に目をつけられたらたまらない。
「オットーは家族思いな子で悪い子じゃないの。だから気にしないで……」
「頼もしい弟君だ。姉弟の絆は大切にしなくてはな」
ガイウスは笑みを崩さなかったが口元はわずかに硬かった。
オットーは腕を組み、不審げにガイウスをじっと値踏みする。
「どうしてこんなに早く結婚しなきゃいけなかったんです?」
「大人の事情というやつだ」
「誤魔化さないでください」
「僕が姉さんのことどれだけ心配してるか、少しは想像できますか?」
言葉の端に、しがみつくような怒りと、切羽詰まった悲壮感がにじんでいた。
「……ねえ、オットー」
ハリエルはゆっくり弟に向き合う。
「いろいろ騒がせてごめん。でも、お姉ちゃんは大丈夫だから心配しないで、むしろアスータにいた頃よりいい生活ができてるのよ」
オットーは黙り込む。
ガイウスはその二人の間にそっと視線を落とし、「今夜は歓迎の食事を用意させよう。遠慮せずくつろいでほしい」と、表面だけ穏やかに礼を尽くす。
オットーは釈然としないまま小さく頷く。
「じゃあステーキね。グリュンヴァルトのステーキは本当に美味しんだから。あなたもいっぱいたべなさい」
「姉さん……そんなんじゃ誤魔化されないよ……」
ガイウスは笑いながらオットーの肩を叩く。
「まだ君は育ちざかりだからな。この細い身体を大きくするためにも、多めに用意しておこう」
まだ言いたいことはあるようだったが、その頬が、すこしだけ子供っぽくゆるんでいるんでいた。
ハリエルはその顔に懐かしさを覚え、心が温かくなるのを感じた。
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