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47話 再会の夕食
夜の食卓は久しぶりに賑やかだった。
大きな皿に分厚いステーキ、彩り豊かな野菜の付け合わせ、新鮮なパンや果実酒。
グリュンワルド流のごちそうが並ぶなか、ガイウスはどこか緊張を隠し切れないまま、オットーの向かいに座っていた。
「……すごいな。僕、こんな大きな肉、食べ切れるかな」
オットーがナイフとフォークを持つ。
「若いんだからこれくらい食べろ。俺がきみくらいの年のときは倍ぐらい食べてたぞ」
ガイウスはどこか誇らしげに笑う。
「獣人のあなたと一緒にしないで頂戴。遠慮しなくていいからね、オットー。今日はあなたのための晩餐なのよ」
ハリエルがやさしく微笑むと、オットーもようやく肩の力を抜く。
そのとき、厨房からやってきたマーサが、テーブルの端にワインを注ぎに現れる。
「あら、お坊ちゃまじゃありませんか。まあまあ、見違えましたわね」
「マーサ!」
オットーの顔が一気にほころび、昔の家で見た安心した笑顔を浮かべる。
「どうぞ、お坊ちゃま――今日はたくさん召し上がってくださいね」
マーサは皿を差し出しながら微笑む。
「ありがとう、マーサ。でも“お坊ちゃま”なんてもう呼ばないでよ」
オットーは照れたように小さく笑い、すぐに食事に向かうふりをした。
マーサは皿を差し出しながら微笑む。
「……まあ、立派になったものです。元気でしたか?……小さい頃はしょっちゅう台所に忍び込んで、お菓子の試食品をねだっていたお子様が、こんなに……」
マーサは目尻を細め、懐かしそうに笑った。
「もう。その話やめてよね。」
オットーは面白くなさそうにする。マーサは弟の面倒も私と一緒に見ていたからだいたいのことは知ってる。
「仲がいいな。実家でもそんな感じだったのかい?」
ガイウスが穏やかに尋ねる。
「エヴァンス家ではずっと」
マーサはさりげなく頷いて、礼を保って立ち去るその姿は、変わらず誠実であたたかかった。
食事中、オットーは真剣に分厚い肉に挑み、その姿にハリエルは懐かしさと安堵を感じ、笑いながら眺めていた。
ガイウスは笑うハリエルを見ながら場を壊さぬよう、ほとんど余計なことは口にしない。
穏やかなごくありふれた食卓。しかし、それはアスータにいた頃の幼き日の温かい記憶を思い起こさせる空気だった。
やがて、食後の紅茶を運ぶマーサの気づかいで、二人きりになったハリエルとオットー。
部屋でソファに並んで座ると、窓の向こうで夜風が静かにカーテンを揺らす。
「……こうやって姉さんと二人で話すの、どれくらいぶりだろう」
「ずいぶん久しぶりね。あなた、背が伸びたし、ちゃんと大人になったわ」
ハリエルは柔らかい声で、弟を見つめる。
ふいにオットーは、視線を伏せて本音を漏らす。
「姉さんが突然知らない獣人と結婚したって聞いて……両親に聞いても獣人に見初められて大事にされてるから大丈夫だ。心配するなとしか言わないし……けど……俺……」
ハリエルは黙って聞き、ふと手を伸ばして弟の頭をそっと撫でる。
「心配してくれたのね」
「……うん。心配したし、寂しかったし、悲しかった。姉さんからどうでもいいと思われてる気がして……」
オットーは恥ずかしそうに俯く。
「そんなこと思ってないわよ。正直、思い通りにいかないこともあるけど……あなたのことを思い出す日は、少しだけ心が強くなれるの。だからそんなこと言わないで……」
本当のことだ。ハリエルは弟が心配してくれたのが嬉しくて頭を撫でる。
「もうっ……俺子供じゃないんでけど。姉さん本当に無理してない?」
大人ぶったように私の撫でる手を払いのける。
「無理なら、ちゃんと弱音を吐くわよ」
「そうやってまた壁作る。いつも姉さんは“大丈夫”しか言わない」
確かにあんな男なんて結婚したくはなかったけどそれを正直に言って弟を心配させてくはない。
ハリエルはそっと彼の手を取る。
「……オットー。私は大丈夫よ」
しばらく二人は無言で窓の外を見る。その沈黙は、不安や寂しさを和らげてくれるような、穏やかなものであった。
昔と変わらない、だけどどこか新しいやさしさと強さで、ハリエルは弟の手をぎゅっと握りしめた。
大きな皿に分厚いステーキ、彩り豊かな野菜の付け合わせ、新鮮なパンや果実酒。
グリュンワルド流のごちそうが並ぶなか、ガイウスはどこか緊張を隠し切れないまま、オットーの向かいに座っていた。
「……すごいな。僕、こんな大きな肉、食べ切れるかな」
オットーがナイフとフォークを持つ。
「若いんだからこれくらい食べろ。俺がきみくらいの年のときは倍ぐらい食べてたぞ」
ガイウスはどこか誇らしげに笑う。
「獣人のあなたと一緒にしないで頂戴。遠慮しなくていいからね、オットー。今日はあなたのための晩餐なのよ」
ハリエルがやさしく微笑むと、オットーもようやく肩の力を抜く。
そのとき、厨房からやってきたマーサが、テーブルの端にワインを注ぎに現れる。
「あら、お坊ちゃまじゃありませんか。まあまあ、見違えましたわね」
「マーサ!」
オットーの顔が一気にほころび、昔の家で見た安心した笑顔を浮かべる。
「どうぞ、お坊ちゃま――今日はたくさん召し上がってくださいね」
マーサは皿を差し出しながら微笑む。
「ありがとう、マーサ。でも“お坊ちゃま”なんてもう呼ばないでよ」
オットーは照れたように小さく笑い、すぐに食事に向かうふりをした。
マーサは皿を差し出しながら微笑む。
「……まあ、立派になったものです。元気でしたか?……小さい頃はしょっちゅう台所に忍び込んで、お菓子の試食品をねだっていたお子様が、こんなに……」
マーサは目尻を細め、懐かしそうに笑った。
「もう。その話やめてよね。」
オットーは面白くなさそうにする。マーサは弟の面倒も私と一緒に見ていたからだいたいのことは知ってる。
「仲がいいな。実家でもそんな感じだったのかい?」
ガイウスが穏やかに尋ねる。
「エヴァンス家ではずっと」
マーサはさりげなく頷いて、礼を保って立ち去るその姿は、変わらず誠実であたたかかった。
食事中、オットーは真剣に分厚い肉に挑み、その姿にハリエルは懐かしさと安堵を感じ、笑いながら眺めていた。
ガイウスは笑うハリエルを見ながら場を壊さぬよう、ほとんど余計なことは口にしない。
穏やかなごくありふれた食卓。しかし、それはアスータにいた頃の幼き日の温かい記憶を思い起こさせる空気だった。
やがて、食後の紅茶を運ぶマーサの気づかいで、二人きりになったハリエルとオットー。
部屋でソファに並んで座ると、窓の向こうで夜風が静かにカーテンを揺らす。
「……こうやって姉さんと二人で話すの、どれくらいぶりだろう」
「ずいぶん久しぶりね。あなた、背が伸びたし、ちゃんと大人になったわ」
ハリエルは柔らかい声で、弟を見つめる。
ふいにオットーは、視線を伏せて本音を漏らす。
「姉さんが突然知らない獣人と結婚したって聞いて……両親に聞いても獣人に見初められて大事にされてるから大丈夫だ。心配するなとしか言わないし……けど……俺……」
ハリエルは黙って聞き、ふと手を伸ばして弟の頭をそっと撫でる。
「心配してくれたのね」
「……うん。心配したし、寂しかったし、悲しかった。姉さんからどうでもいいと思われてる気がして……」
オットーは恥ずかしそうに俯く。
「そんなこと思ってないわよ。正直、思い通りにいかないこともあるけど……あなたのことを思い出す日は、少しだけ心が強くなれるの。だからそんなこと言わないで……」
本当のことだ。ハリエルは弟が心配してくれたのが嬉しくて頭を撫でる。
「もうっ……俺子供じゃないんでけど。姉さん本当に無理してない?」
大人ぶったように私の撫でる手を払いのける。
「無理なら、ちゃんと弱音を吐くわよ」
「そうやってまた壁作る。いつも姉さんは“大丈夫”しか言わない」
確かにあんな男なんて結婚したくはなかったけどそれを正直に言って弟を心配させてくはない。
ハリエルはそっと彼の手を取る。
「……オットー。私は大丈夫よ」
しばらく二人は無言で窓の外を見る。その沈黙は、不安や寂しさを和らげてくれるような、穏やかなものであった。
昔と変わらない、だけどどこか新しいやさしさと強さで、ハリエルは弟の手をぎゅっと握りしめた。
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