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第1話
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「あなた方に、主の祝福のあらんことを」
ずっと、長い間受け継がれたこの言葉を受けたその冒険者は、はにかんで、このベルオーブ第三教会を後にした。私は腰に剣を携えたその後ろ姿に向かって、「どうか無事で」という、ほんの願いを捧げた。
大陸の西端に位置する私たちの国、ベルオーブ。今から何千年も前、神様たちがお戯れで作った地下迷宮、通称「ダンジョン」が国の至る所に位置している。その数は大陸随一で、街を歩けば、そこかしこにダンジョンへの案内看板が立っている。伝承ではこうだ。昔々、ある神様がいた。その神様は自分の宝物を奪われることを恐れて、大陸の各地にダンジョンを作り、宝物を隠した。それからその宝物を守るために、そこに魑魅魍魎を放って守らせたとか。最後は、宝物を取りに来た神様が、強くなってしまったバケモノたちに殺されて、宝物とバケモノだけがそこに残った。今日では、人々はその宝物を求めてダンジョンを旅する。モンスターに殺されることは百も承知で、一攫千金を夢見た冒険者たちが、ひっきりなしに地下へと降りていく。そんな中で、旅する前に、死なないようにとするせめてもの験担ぎで始まったのが、私たちの仕事だ。ダンジョンへ向かう直前の冒険者に、神様の祝福を与える。そうすることで、彼や彼女が死なぬように怪我せぬように、せめてものお見送りをするのが私たちシスターの仕事のひとつなわけだ。
「フラヴィア、もうお昼の時間よ!切り上げてご飯食べちゃいなさーい!」
教会長のアビゲイルさんが裏口から呼びかける。午前の業務は、これでまもなく終了だ。
「はーい!今行きまーす!」
威勢よく返事してから、待ちに待った昼ごはんに寸分遅れぬよう、教会の窓に「close」の札を立てて食堂の方へと小走りで移動した。今日、私の祝福を受けた彼らは、何人が帰ってくるだろうか。ほんのすこし暗い思案をしたが、こんなのは性に合わないので、今日の献立に思いを馳せる。確か、今日はミネストローネにロールパンが二切れか。少なさそうに見えるが、アビゲイルさんのミネストローネは絶品で腹への溜まり具合もいいのだ。舌なめずりをしたくなるところを我慢して、教会裏手の食堂のドアを開けた。見るともうご飯の準備ができていて、仲良しの修道女が何人か食卓を囲んでいる。
「ヴィア!こっちこっち!」
私の顔を見るなり、同期のリベールが声を上げた。周りには同じく同期の修道女が2人座っていた。もれなく全員顔見知りだ。
「ちょっと待ってねー!」
リベールの元気に負けじと返事をして、入り口から程なくある厨房の受け取り口へと移動して、料理を受け取った。今日も実に美味そうな、鮮やかな赤色のスープだ。円卓を囲む3人は4人席に座っていて、私は空いている席へと座った。
「今日は珍しく遅かったね」
こんどはアバンセが声をかけてくる。
「うん、ちょっと考え事してたら、遅くなっちゃった」
「ぼーっとしてただけでしょー!」
茶化すように、でも悪意ない笑い声を横からあげたのはクラディア。
「別にー、ちゃんと考え事してたし。さ、いただきまーす」
いつもの4人組で今日も昼ご飯を煽る。午後の業務へ向けたささやかな癒しだ。それから雑談をしながらご飯を食べ終わって、各々午後の仕事へと移っていく。私とリベールは今度は懺悔室の担当だ。懺悔室に訪れる人の話は、たまにぶっ飛んだのがあって面白い。口を拭いて、午後の仕事へと思案をして、私はリベールと、ゆっくりと腰を上げた。
ずっと、長い間受け継がれたこの言葉を受けたその冒険者は、はにかんで、このベルオーブ第三教会を後にした。私は腰に剣を携えたその後ろ姿に向かって、「どうか無事で」という、ほんの願いを捧げた。
大陸の西端に位置する私たちの国、ベルオーブ。今から何千年も前、神様たちがお戯れで作った地下迷宮、通称「ダンジョン」が国の至る所に位置している。その数は大陸随一で、街を歩けば、そこかしこにダンジョンへの案内看板が立っている。伝承ではこうだ。昔々、ある神様がいた。その神様は自分の宝物を奪われることを恐れて、大陸の各地にダンジョンを作り、宝物を隠した。それからその宝物を守るために、そこに魑魅魍魎を放って守らせたとか。最後は、宝物を取りに来た神様が、強くなってしまったバケモノたちに殺されて、宝物とバケモノだけがそこに残った。今日では、人々はその宝物を求めてダンジョンを旅する。モンスターに殺されることは百も承知で、一攫千金を夢見た冒険者たちが、ひっきりなしに地下へと降りていく。そんな中で、旅する前に、死なないようにとするせめてもの験担ぎで始まったのが、私たちの仕事だ。ダンジョンへ向かう直前の冒険者に、神様の祝福を与える。そうすることで、彼や彼女が死なぬように怪我せぬように、せめてものお見送りをするのが私たちシスターの仕事のひとつなわけだ。
「フラヴィア、もうお昼の時間よ!切り上げてご飯食べちゃいなさーい!」
教会長のアビゲイルさんが裏口から呼びかける。午前の業務は、これでまもなく終了だ。
「はーい!今行きまーす!」
威勢よく返事してから、待ちに待った昼ごはんに寸分遅れぬよう、教会の窓に「close」の札を立てて食堂の方へと小走りで移動した。今日、私の祝福を受けた彼らは、何人が帰ってくるだろうか。ほんのすこし暗い思案をしたが、こんなのは性に合わないので、今日の献立に思いを馳せる。確か、今日はミネストローネにロールパンが二切れか。少なさそうに見えるが、アビゲイルさんのミネストローネは絶品で腹への溜まり具合もいいのだ。舌なめずりをしたくなるところを我慢して、教会裏手の食堂のドアを開けた。見るともうご飯の準備ができていて、仲良しの修道女が何人か食卓を囲んでいる。
「ヴィア!こっちこっち!」
私の顔を見るなり、同期のリベールが声を上げた。周りには同じく同期の修道女が2人座っていた。もれなく全員顔見知りだ。
「ちょっと待ってねー!」
リベールの元気に負けじと返事をして、入り口から程なくある厨房の受け取り口へと移動して、料理を受け取った。今日も実に美味そうな、鮮やかな赤色のスープだ。円卓を囲む3人は4人席に座っていて、私は空いている席へと座った。
「今日は珍しく遅かったね」
こんどはアバンセが声をかけてくる。
「うん、ちょっと考え事してたら、遅くなっちゃった」
「ぼーっとしてただけでしょー!」
茶化すように、でも悪意ない笑い声を横からあげたのはクラディア。
「別にー、ちゃんと考え事してたし。さ、いただきまーす」
いつもの4人組で今日も昼ご飯を煽る。午後の業務へ向けたささやかな癒しだ。それから雑談をしながらご飯を食べ終わって、各々午後の仕事へと移っていく。私とリベールは今度は懺悔室の担当だ。懺悔室に訪れる人の話は、たまにぶっ飛んだのがあって面白い。口を拭いて、午後の仕事へと思案をして、私はリベールと、ゆっくりと腰を上げた。
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