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第一幕 酔いどれ女、幽世に現る!
4.(1):大吟醸最ッ高ッ!!
4
「ぷはーァッ大吟醸最ッ高ッ!! がはははははっ」
がはは、と笑っても、一人。
「ちょびっと味見するだけのつもりだったのに……なんて美味いんだこの酒ぁ……!」
桐箱入り大吟醸は、底からもう数センチほどしか残っていないように見える。
一升あったのにも関わらず、だ。
「まあ、なかったことにした方が世のため人のためだよね。ほら、冷蔵庫の麦茶だってちょこっと残しておくと母さんに怒られるしそういうもんだよねそうだねそうしよう」
あたしは誰もいない一軒家の二階で誰も聞いてない言い訳をこき、ぐっと酒瓶に口をつけて一気に呷った。喉がぎゅぎゅっと鳴って、最後のまろやかな流れを飲み干す。
いい感じにふわんふわんになった頭が、先ほどまでのクサクサした気持ちにどんどんモザイクをかけていく。酒がない人生はベリーハードモードだ。大人になってよかった。
さて、この極致になって気づいたことがある。
「幽世から出られない――てことは、仕事行かなくていいんじゃね……!?」
これはもはやボーナスステージだ。
仕事に行かなくてもいいのであれば、あたしの時間すべてがゲ制に費やせるのだ!
「そういや、この部屋の明かりは蛍光灯だけど、幽世の町にも現世と同じく電気が通ってるってことだよね。電源が確保できるならPCを使うことも可能か……電圧一緒ぽいもんな」
部屋の四隅、壁際を入念に調べながら、置きっぱなしの埃っぽいなんやらかんやらをどかしてまとめる。するとよく見かけるような縦長の穴が二つならんで埋め込まれているのを発見した。この部屋にはそれが二か所、合計四口確認できる。
これで、まさかこの部屋の明かりが幽世ならではの不思議パワーで動いてました、などと今更言われても困ってしまう。その問題はとりあえず置いておこう。
「あとはCPUをなんとか……あ、USBメモリ落ちてる。うーん、使えなくもないけど何が入ってるかわからんし、自分のPCに挿すのは怖いな。えーっと、これは……フロッピーディスクドライブ? 何でこんなジャンク品がこの部屋にあるんだ?」
ちょこちょこ視界の端に入ってくる明らかな文明の利器。古いものが多いが、前時代的風景の幽世で生産されたものとは考えにくい。なぜならよく見知った海外製ブランドの名前が入っており、現代のあたし達が使っている機器と同じものだからだ。
しかしこの家で使われている形跡はないし、精密機器の取り扱い方法としてはめちゃくちゃな保管をされている。
「誰かがどっかから持ち込んでるってことなんかな? 残月先生が? それとも――」
その時、大きな音が部屋に鳴り響く。
黒電話の呼び鈴だ。
「な、なん……てあたしのスマホじゃん」
古めかしい呼び出し音に設定されているのは、雑踏や街の喧騒の中でも目立つからだ。けれどもこの昭和感満載の景色の中でそんな音を鳴らされると、何事かと身構えてしまう。
「あいもしもーし? ――って、あれ? ここ電波なかったような……」
『あーっ! やっとつながった!』
一瞬、怪奇現象の方向性を疑ったが、あたしの鼓膜を揺らしたのはよく知った声だった。
「お、おつかれーっす百式氏」
『お疲れっすーじゃないわい! 珍しいじゃん、おきよがゲ制会議ブッチするなんて。何かあったんじゃないかって心配してたんだよ?』
げ、そうだった。
自分は(自分主導の会議を無断欠席した)咎人であった。
「い、い、いやあー……ちょっと、いろいろあっちゃって……」
『そうなん? マジで大変なヤツ?』
「ま、まあ……そんなとこかな」
ひゅん……と酔いが萎んで、浮かれてばかりはいられない現実が還ってくる。
あたしはインディーゲームフェスに出られないままなのだ。
『おきよ、ちょっと声が疲れてるよ?』
「え、そ、かな」
『あ、サケヤケかあ? あはははは』
「そうかも~あはははは……」
あたしは変わりない幼馴染の声を聞いて、体がほどけていくのを感じるのと同時に、頭の隅っこが放置しすぎた冷凍庫みたいに霜が広がっていくのを感じていた。
現状、自分でもよくわからない身の上。この電話で助けを求めたとして、誰が新しいゲームシナリオの妄言と違いを認識できる?
あ、それは日頃の行いか。
「言うてそこまで大したことじゃないよ、心配しないで」
結局、自分を裏切る後ろめたさをキルして、明るく装う言葉しか出なかった。
『え? 本気では心配してない』
オイオイこのォー……さすがはあたしの親友歴二十年の猛者じゃないか。さらっと死体蹴りをするなど、どうかしてるぜ(褒めている)。
そんなあたしの複雑な心境をよそに百式氏、もとい色川百絵からさっそく今日までの首尾が届く。画像ファイルだ。
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