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君和田芽菜子、原宿を行くの巻
∞5
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この期に及んでどこへ?
不思議に思いながら、芽菜子はブルーのサーキュラースカートを靡かせるトシの背中についていった。
ラフォーレを出て、こっちだ、と指したのは一度通過した竹下通りのメインストリート。
(竹下通り……といえばクレープかな? まあクレープは今日押さえてないけど、もうスイーツもタピオカも食べたし、甘い物食べ過ぎ……かも? けどチートデーということにすれば、やぶさかではない!)
一人で納得して、何をトッピングしようか早くも妄想する。
さっきはストロベリーチーズ風味のドリンクだったので、王道にチョコバナナも良さそうだ。
次にこっちだ、と指されたのは、竹下通りも中ほどを過ぎてそろそろ駅についてしまうのでは、という頃合いだった。
トシが連れてきたかった場所は、とあるビルの地下であった。
階段を下りれば近づいて来る喧騒。
楽し気な女の子たちの、きゃいきゃいとした高い声。
それから漏れ聞こえる、親し気な女性の案内音声。
「こ、ここって……!」
「そうだ、プリクラだ」
成人男性とプリクラ。
なんという意外性の組み合わせ。
「撮るんですか……!?」
「撮らずにここへ来る理由はなかろう」
つかつかと若い女の子たちの間を縫って、背の高いロリィタさんが奥へ突き進んでいく。中にはそんなトシを振り返る短いスカートの制服女子もいた。ロリィタさんはここではさほど珍しくはないだろうが、ヒール合わせて一八〇センチ越えの男性が来たら、それはびっくりする。
「お、置いてかないでくださいよぉーっ」
狭い店内にドカンドカンと数台の大きな機械が置いてあり、あとのフロアの隙間はすべて女の子達で埋まっているような状況。離れるとすぐに見失ってしまう。
(あれ? そういえばプリ撮るの、男性のみの入店お断りのゲーセンとかあるけど、ここはそうでもないのかな? きっとそうだよね、原宿だし。トシさんずんずん行っちゃうのは、お目当てのプリ機があるってことかな)
トシはとあるプリクラの機械の前で芽菜子を待っていた。
「はひィー……ここヤバいですよ! 密じゃないですかっ?」
「撮ってる間以外はマスク着用だ。それさえ守っていれば問題ない」
芽菜子の人生史上、みっつの指に入るほどの人口密度だ。
一位は、大学受験で朝早くに電車に乗ったら通勤ラッシュに巻き込まれた時。
二位は、今日の行きの山手線。
三位は、母校の体育祭で騎馬戦の馬になった時。
この時点で三位は、プリクラの機械の順番待ちに書き換えられる。
地元の幼馴染たちと放課後や休日に、ショッピングモールに出掛けた記念、などと言ってプリクラはよく撮っていた。制服でも、私服でも。
しかし今日は原宿なのに、芋ジャーというミスマッチコーデである。
「わ、私も入るんですよ、ね……?」
「当然」
「ムリムリムリ! だってこんな格好で!?」
「だから記念になるんだろうが」
「ええっ、私はヤですよぉ~ッ!?」
キューポットでだってそう言ったはずだ。
こんな格好で記録に残りたくはない。
芽菜子は首を横に振り続けた。
「往生際が悪いぞ。そんなに俺と撮るのが嫌か?」
「そそそそそうは言ってないじゃないですかっ! 完璧超絶美形のトシさんの横にこんな格好で並びたくないんですッ!」
やいやいと問答している間に、順番は無情にもやってくる。
「ほら、行け」
そして非情なトシによって撮影ブースに芽菜子はブン投げられた。
撮影コースや機械はトシにお任せしてしまったし、ここまで来てしまったらもはや逃げ場も無い。
芽菜子は解せない、という思いを表情にありありと滲ませながら、サブバッグをブースの端に置いた。諦めたのだ。
「……逆に聞きますけど、トシさんはこんな格好の私と撮りたいんですか?」
最後のあがきをぶーたれる。
「質問に質問で返すが、曰く、完璧超絶美形の俺の写真、欲しくないのか?」
「欲しいっ!」
「なら大人しく撮られておけ」
まんまと言いくるめられてしまった。
今度こそ、完全に手詰まりである。
「男一人だとこういった場所には入れないからな。この機会を逃すわけにはいかない」
少し寂し気に、トシは苦笑した。
(ああ、やっぱり、そうだったんだ……。このプリ機は全身写るし、トシさんが直行したのも、記念て言ったのも、今日このコーデで一緒に出掛けた人――私のことを覚えておくため、なんだろうな)
トシの人間性は短い時間だったが、なんとなく判って来ていたのに。
少なくとも、芽菜子に嫌がらせをしたくて撮ろうと言ったわけではないこと。
トシの今日のコーディネートも、隙無く細部までこだわり抜かれている事だって。
(ごねて悪い事をしたな。私って、まだまだ子供だ)
撮影自体はあっという間に終わってしまった。
機械の音声の案内通りにカメラを動かしたり、ポーズをとったり、位置を移動したり。準備がうまくいかずに撮影に入ってしまった失敗の一枚もあったが、それすらもう芽菜子にはどうでもいい事だった。
(楽しいな……今日は本当に、トシさんと遊べて、本当に楽しかった!)
ブースを移動して、撮った画像にらくがきを入れる。
今日の日付を入れて、「初原宿!」「トシさんと」という文字を芽菜子は書き込んだ。口元がにまにましてしまう。
「あれ、トシさん? トシさんがらくがきしたコレ……なんて書いてあるんですか?」
『次はロリデしような』
聞き慣れぬ言葉に、芽菜子のらくがきの手は止まる。
「ああ、ロリィタファッションを愛好する者同士、示し合わせてお出掛けをすることをロリィタでデート、略してロリデ、と言ったりするんだ」
「へぇ、なるほど……」
なるほど……。
だんだんと沁みていく言葉。
「デート!?」
「界隈でのスラングみたいなものだ。もしロリィタさんと出掛けるなら、そういった用語やノリも覚えておくといい」
芽菜子は、そうじゃなくて、と否定しそうになるが、ぐっと堪えた。
(いやいやいや……私も友達とふざけて今日は二人っきりデートだね♪ とか言ってたりしたけど、トシさん相手だと、ななななんか、こう、背徳的? みたいな……もやっとする!)
ともあれ、物に残して「次」があることを約束されたのは、芽菜子にとって素直に嬉しい事だった。
アプリでマッチングしただけの儚い出会いだと思っていただけに。
プリクラを撮ったビルを出て、原宿駅改札前。
振り返れば、到着した時とは違いライトアップされた竹下通りのアーチが二人を見守っている。
「それでは、今度こそ帰路につくが、忘れ物はないか?」
「忘れ物はー……ありますけどっ、また来るから今日は大丈夫です! また連絡しますね」
ふっ、と微笑んで青いスカートの貴婦人は原宿駅の反対側ホームの方へ歩き出した。
呆気ない別れだった。
けれど、それは次があるからこそ。
芽菜子は人山の向こうに、長身の貴婦人が見えなくなるまで見送った。
四月某日。
君和田芽菜子は、初めて授業を受けるために自分の籍のある大学の門を潜った。
芽菜子の専攻は栄養学である。
ネギ農家である実家の影響か、食材や料理に昔から興味があったのだ。
親からは農業の方面じゃないことをとやかく言われたが、我家のネギや群馬の野菜をもっと美味しく食べる勉強をしたいのだ、と説き伏せた。結局、両親はなんだか嬉しそうな顔をしていた。
東京の桜の終わりは想像していたよりも早く、校門までの沿道の木は青々とした葉を空に伸ばしている。木漏れ日を浴びながら、芽菜子と同じように教室を目指す者、友人とお喋りをしながら駅に帰る者など、いずれも若者が多く行き交っていた。
(都内に越してきてまだまだ分からないことだらけだけど、いっぱい友達できたらいいな。サークル勧誘とかもあったし、青春って感じでみんなパワフルだよね。こっちでの新しいバイト先も見つけなきゃ!)
これからやること、やりたいことは山ほどある。
芽菜子はるんるんな気分でその一日を終え、一人で下宿のアパートへ泥のような足取りで帰宅した。
(全ッ然誰ともお話しできなかった……ッ)
アパートの階段が粘着性を持っているのではないか、と思うぐらいに足が重たい。
授業は一回目ということもあり、さほど疲れはない。ほぼオリエンテーションだからだ。
疲労は、大勢の中の孤独のせいである。
「あぁー……本当にもう……何で私はこうも人見知りなんだぁ……大勢で集まると途端に話せなくなっちゃうんだよね。一対一とかだったらお話しできるんだけど」
これは自室に帰ったら反省会をするしかない。
なんとか部屋のある階まで上りきり、まだ馴染みのないドアの前で立ち止まる。
下宿先は学生街ということもあり、すんなりと見つかった。探してい時期が時期なだけに、ギリギリあと一部屋、という崖っぷちだったので、選択肢が無かったのもあるが。
それでも住宅のひしめく町の中に自分の帰る場所があるというのは、芽菜子にとって特別な感慨があった。
「えーと、部屋の鍵は……バッグのここに……って、あれ?」
無い。
鍵が、無い。
「そっそんなバカな!?」
思わず大きな声を出してしまう。芽菜子は完全にパニックに陥っていた。
バッグをひっくり返し、洗いざらい持ち物を見直してみる。部屋前の床を、人目もはばからず散らかした。
教科書、参考書、ノート、スマホ、お気に入りの四色ペン、筆箱、ポーチ――は中も改める。
そこへカチャッ、と静かめに隣の部屋のドアが開いたのが、横目に見えた。
徐に顔を上げると、同い年頃の男の子がこちらを胡乱な表情で窺っていた。
「鍵、失くしたの?」
表札には――塩崎龍星。
不思議に思いながら、芽菜子はブルーのサーキュラースカートを靡かせるトシの背中についていった。
ラフォーレを出て、こっちだ、と指したのは一度通過した竹下通りのメインストリート。
(竹下通り……といえばクレープかな? まあクレープは今日押さえてないけど、もうスイーツもタピオカも食べたし、甘い物食べ過ぎ……かも? けどチートデーということにすれば、やぶさかではない!)
一人で納得して、何をトッピングしようか早くも妄想する。
さっきはストロベリーチーズ風味のドリンクだったので、王道にチョコバナナも良さそうだ。
次にこっちだ、と指されたのは、竹下通りも中ほどを過ぎてそろそろ駅についてしまうのでは、という頃合いだった。
トシが連れてきたかった場所は、とあるビルの地下であった。
階段を下りれば近づいて来る喧騒。
楽し気な女の子たちの、きゃいきゃいとした高い声。
それから漏れ聞こえる、親し気な女性の案内音声。
「こ、ここって……!」
「そうだ、プリクラだ」
成人男性とプリクラ。
なんという意外性の組み合わせ。
「撮るんですか……!?」
「撮らずにここへ来る理由はなかろう」
つかつかと若い女の子たちの間を縫って、背の高いロリィタさんが奥へ突き進んでいく。中にはそんなトシを振り返る短いスカートの制服女子もいた。ロリィタさんはここではさほど珍しくはないだろうが、ヒール合わせて一八〇センチ越えの男性が来たら、それはびっくりする。
「お、置いてかないでくださいよぉーっ」
狭い店内にドカンドカンと数台の大きな機械が置いてあり、あとのフロアの隙間はすべて女の子達で埋まっているような状況。離れるとすぐに見失ってしまう。
(あれ? そういえばプリ撮るの、男性のみの入店お断りのゲーセンとかあるけど、ここはそうでもないのかな? きっとそうだよね、原宿だし。トシさんずんずん行っちゃうのは、お目当てのプリ機があるってことかな)
トシはとあるプリクラの機械の前で芽菜子を待っていた。
「はひィー……ここヤバいですよ! 密じゃないですかっ?」
「撮ってる間以外はマスク着用だ。それさえ守っていれば問題ない」
芽菜子の人生史上、みっつの指に入るほどの人口密度だ。
一位は、大学受験で朝早くに電車に乗ったら通勤ラッシュに巻き込まれた時。
二位は、今日の行きの山手線。
三位は、母校の体育祭で騎馬戦の馬になった時。
この時点で三位は、プリクラの機械の順番待ちに書き換えられる。
地元の幼馴染たちと放課後や休日に、ショッピングモールに出掛けた記念、などと言ってプリクラはよく撮っていた。制服でも、私服でも。
しかし今日は原宿なのに、芋ジャーというミスマッチコーデである。
「わ、私も入るんですよ、ね……?」
「当然」
「ムリムリムリ! だってこんな格好で!?」
「だから記念になるんだろうが」
「ええっ、私はヤですよぉ~ッ!?」
キューポットでだってそう言ったはずだ。
こんな格好で記録に残りたくはない。
芽菜子は首を横に振り続けた。
「往生際が悪いぞ。そんなに俺と撮るのが嫌か?」
「そそそそそうは言ってないじゃないですかっ! 完璧超絶美形のトシさんの横にこんな格好で並びたくないんですッ!」
やいやいと問答している間に、順番は無情にもやってくる。
「ほら、行け」
そして非情なトシによって撮影ブースに芽菜子はブン投げられた。
撮影コースや機械はトシにお任せしてしまったし、ここまで来てしまったらもはや逃げ場も無い。
芽菜子は解せない、という思いを表情にありありと滲ませながら、サブバッグをブースの端に置いた。諦めたのだ。
「……逆に聞きますけど、トシさんはこんな格好の私と撮りたいんですか?」
最後のあがきをぶーたれる。
「質問に質問で返すが、曰く、完璧超絶美形の俺の写真、欲しくないのか?」
「欲しいっ!」
「なら大人しく撮られておけ」
まんまと言いくるめられてしまった。
今度こそ、完全に手詰まりである。
「男一人だとこういった場所には入れないからな。この機会を逃すわけにはいかない」
少し寂し気に、トシは苦笑した。
(ああ、やっぱり、そうだったんだ……。このプリ機は全身写るし、トシさんが直行したのも、記念て言ったのも、今日このコーデで一緒に出掛けた人――私のことを覚えておくため、なんだろうな)
トシの人間性は短い時間だったが、なんとなく判って来ていたのに。
少なくとも、芽菜子に嫌がらせをしたくて撮ろうと言ったわけではないこと。
トシの今日のコーディネートも、隙無く細部までこだわり抜かれている事だって。
(ごねて悪い事をしたな。私って、まだまだ子供だ)
撮影自体はあっという間に終わってしまった。
機械の音声の案内通りにカメラを動かしたり、ポーズをとったり、位置を移動したり。準備がうまくいかずに撮影に入ってしまった失敗の一枚もあったが、それすらもう芽菜子にはどうでもいい事だった。
(楽しいな……今日は本当に、トシさんと遊べて、本当に楽しかった!)
ブースを移動して、撮った画像にらくがきを入れる。
今日の日付を入れて、「初原宿!」「トシさんと」という文字を芽菜子は書き込んだ。口元がにまにましてしまう。
「あれ、トシさん? トシさんがらくがきしたコレ……なんて書いてあるんですか?」
『次はロリデしような』
聞き慣れぬ言葉に、芽菜子のらくがきの手は止まる。
「ああ、ロリィタファッションを愛好する者同士、示し合わせてお出掛けをすることをロリィタでデート、略してロリデ、と言ったりするんだ」
「へぇ、なるほど……」
なるほど……。
だんだんと沁みていく言葉。
「デート!?」
「界隈でのスラングみたいなものだ。もしロリィタさんと出掛けるなら、そういった用語やノリも覚えておくといい」
芽菜子は、そうじゃなくて、と否定しそうになるが、ぐっと堪えた。
(いやいやいや……私も友達とふざけて今日は二人っきりデートだね♪ とか言ってたりしたけど、トシさん相手だと、ななななんか、こう、背徳的? みたいな……もやっとする!)
ともあれ、物に残して「次」があることを約束されたのは、芽菜子にとって素直に嬉しい事だった。
アプリでマッチングしただけの儚い出会いだと思っていただけに。
プリクラを撮ったビルを出て、原宿駅改札前。
振り返れば、到着した時とは違いライトアップされた竹下通りのアーチが二人を見守っている。
「それでは、今度こそ帰路につくが、忘れ物はないか?」
「忘れ物はー……ありますけどっ、また来るから今日は大丈夫です! また連絡しますね」
ふっ、と微笑んで青いスカートの貴婦人は原宿駅の反対側ホームの方へ歩き出した。
呆気ない別れだった。
けれど、それは次があるからこそ。
芽菜子は人山の向こうに、長身の貴婦人が見えなくなるまで見送った。
四月某日。
君和田芽菜子は、初めて授業を受けるために自分の籍のある大学の門を潜った。
芽菜子の専攻は栄養学である。
ネギ農家である実家の影響か、食材や料理に昔から興味があったのだ。
親からは農業の方面じゃないことをとやかく言われたが、我家のネギや群馬の野菜をもっと美味しく食べる勉強をしたいのだ、と説き伏せた。結局、両親はなんだか嬉しそうな顔をしていた。
東京の桜の終わりは想像していたよりも早く、校門までの沿道の木は青々とした葉を空に伸ばしている。木漏れ日を浴びながら、芽菜子と同じように教室を目指す者、友人とお喋りをしながら駅に帰る者など、いずれも若者が多く行き交っていた。
(都内に越してきてまだまだ分からないことだらけだけど、いっぱい友達できたらいいな。サークル勧誘とかもあったし、青春って感じでみんなパワフルだよね。こっちでの新しいバイト先も見つけなきゃ!)
これからやること、やりたいことは山ほどある。
芽菜子はるんるんな気分でその一日を終え、一人で下宿のアパートへ泥のような足取りで帰宅した。
(全ッ然誰ともお話しできなかった……ッ)
アパートの階段が粘着性を持っているのではないか、と思うぐらいに足が重たい。
授業は一回目ということもあり、さほど疲れはない。ほぼオリエンテーションだからだ。
疲労は、大勢の中の孤独のせいである。
「あぁー……本当にもう……何で私はこうも人見知りなんだぁ……大勢で集まると途端に話せなくなっちゃうんだよね。一対一とかだったらお話しできるんだけど」
これは自室に帰ったら反省会をするしかない。
なんとか部屋のある階まで上りきり、まだ馴染みのないドアの前で立ち止まる。
下宿先は学生街ということもあり、すんなりと見つかった。探してい時期が時期なだけに、ギリギリあと一部屋、という崖っぷちだったので、選択肢が無かったのもあるが。
それでも住宅のひしめく町の中に自分の帰る場所があるというのは、芽菜子にとって特別な感慨があった。
「えーと、部屋の鍵は……バッグのここに……って、あれ?」
無い。
鍵が、無い。
「そっそんなバカな!?」
思わず大きな声を出してしまう。芽菜子は完全にパニックに陥っていた。
バッグをひっくり返し、洗いざらい持ち物を見直してみる。部屋前の床を、人目もはばからず散らかした。
教科書、参考書、ノート、スマホ、お気に入りの四色ペン、筆箱、ポーチ――は中も改める。
そこへカチャッ、と静かめに隣の部屋のドアが開いたのが、横目に見えた。
徐に顔を上げると、同い年頃の男の子がこちらを胡乱な表情で窺っていた。
「鍵、失くしたの?」
表札には――塩崎龍星。
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