六股聖女の七度目の召喚 〜正体を隠して日本に戻るまでの一年間を逃げ切りたい聖女ヤマダと六人の王の攻防記〜

小声奏

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アクスウィス 1

1−1

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「つっかれた」

 私はシャーペンを放り出して、机の上に突っ伏した。
 今は定期テストの真最中。
 4日目を終え、残すは苦手な古典と世界史のみだ。

「誕生日に勉強漬けとか最悪なんですけど……」

 机の上に広げたノートに頰をつけたまま、独り言ちる。
 食後用にケーキを用意してくれているけれど、ゆっくり食べる暇もない。
 毎回毎回、余裕を持って勉強に取り組もうと決意するのに、気づいてみればほとんど手つかず。もうここまできたら、悪あがきでしかない。

(美味しいカレーの作り方を書けば点数くれるって都市伝説、本当にならないかなぁ)

 はぁーーーーー
 大きく息を吐くと、体を起こした。

(えーと、スマホスマホ)

 視線を彷徨わせるも、机の上には見当たらない。鞄に入れっぱなしだったのを思い出し、立ち上がった。


(ここ、どこ……)

 それは一瞬だった。
 美味しいカレーの作り方を検索するため、鞄に向かったところまでは覚えている。
 あともう一歩で手が届くというところで、瞬きをした。その次の瞬間に、周囲がガラッと入れ替わっていた。
 鬱蒼と茂る木々とその中に点在する白い石作りの朽ちかけた柱。足元は苔むした石。頭上を見上げれば不気味なほど赤く染まった空が見えた。
 勉強が嫌すぎて、とうとう白昼夢が見えるようになってしまったのかもしれない。
 そう思うには靴下を通して伝わる石の冷たさがリアルだった。
 どれくらいの時間、呆然と立ち尽くしていただろう。
 徐々に暗くなる木々の間と、正反対にどんどんと赤みを増す空に言いようのない不安を覚えた。
 ここでじっとしているのはマズい。
 それはわかるけど、だからってどっちへ行けばいいかわからない。
 空は雲が流れる方向に行くに従い赤みが強い。

(向こうはダメだ)

 何故だか、そんな気がして反対へと足を踏み出そうとする。
 その時だった。
 生い茂る葉の間に茶色いものが見えた。それが誰かの頭だと気づいて、私は走り出した。
 靴下しか履いていない足の裏に、小石が食い込んで痛い。

「待って! ねえ、待って!」

 木々の間に見えては消える茶色い髪を見失わないように必死に追った。それなのに距離はどんどんと開いてついには見えなくなってしまった。
 それでも私は走り続けた。足元が石から土に変わる。

「わわっ」

 柔らかい土と下草に足を取られて転びかけたとき、横手から伸びた手に腕を掴まれてた。
 助けてくれたんだ! と思ったのは束の間で、その手は容赦のない力で私を引き倒す。
 とっさに目を瞑った。強かに体の側面を打ち付ける。土の匂いが近い。
 痛みに反射的に体を丸めようとするが、今度は肩を掴まれて仰向けに転がされる。

「お前、何者だ」

 静かな声だった。だが、その響きは赤点の答案を見せたときの父よりも厳しい。
 薄っすらと目を開ける。
 誰かが馬乗りになっていた。
 目の前には見慣れぬ銀色の……刃!?

「ひっ」
「声を出すな」

 ぐっと肩に置かれた手に力が入る。
 私はお婆ちゃんの家で見た赤べこ並みに小刻みに頷いた。
 頷きながら、馬乗りになっている人物が少年であることに気づいた。多分、私と同じくらい。
 茶色い髪で、刃物を所持している……
 不良少年かな?
 平素なら絡みたくない相手だが、今は嬉しい。

「あの、すみません。ここどこですか。あと私、お金持ってません」

 刃物を突きつけながら、怪訝な顔で私を見ていた少年は眉根を寄せて考え込むと、肩から手を放した。

「すまない。どうやら早とちりをしたようだ」

 言って立ち上がると手を差し出す。
 どうやら、本当にお金をもっていそうにないと分かってもらえたらしい。
 有り難く手を借りて立ち上がる。隣の少年と目線がほぼ並んだ。
 私より少し高いくらいかな?
 と、じっと目を見て、気づいた。
 少年の目が青いことに。よく見れば顔立ちも見慣れない。ハーフっぽいようなそうでもないような。うまく表現できないけれど、明らかに日本人のそれとは違う。
 じっと少年を無遠慮に観察していると、視線にひるんだのか、少年が顔を背けた。

「それじゃあ」

 刃物を腰に差してある大小二本のうちの小さな鞘に戻すと、少年はそう言って踵を返そうとした。
 その腕をがしりと両手で掴む。

「ま、待ってください。私、たぶん、ほって行かれたら死にます!」
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