六股聖女の七度目の召喚 〜正体を隠して日本に戻るまでの一年間を逃げ切りたい聖女ヤマダと六人の王の攻防記〜

小声奏

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アクスウィス 1

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 芋の浮いた熱々のスープ。ぱりっと焼きあがった皮が香ばしい鶏肉。少々硬いが、穀物の風味が生きているパン。

「うまいか?」
「はい!」

 熊男の問いに私は全力で頷いた。
 空腹は最高の調味料と言うけれど、それを引いても出された食事は絶品だった。
 今、私は熊男やアレクシスたちとともに森の中を移動中だ。
 野営でこんなに美味しい食事がでてくるなんて。
 私の選択はやはり間違っていなかった。

「そうだろうとも。レニーの作る飯に間違いはねえ。なあレニー!」

 とっぷりと暮れた夜の森。輪になって囲む焚き火の炎が皆の顔を照らしている。
 レニーと呼ばれた赤毛の青年は「当然ですよ」と笑った。ついでに「しっかり食えよ」と私に片目を瞑ってみせる。
 おおう、キザ。
 ちょっぴり引きながら、私は「はい」と頷いた。


「嬢ちゃん、あんた、行くところがねえって話だったな?」

 食事もあらかた終わった頃、熊男は思案顔で顎をなでつつ私にそう問いかけた。

「はい。全くありません」

 火事場泥棒か? と警戒したが、なんだかんだで親切にしてもらい、その上美味しい食事ときたら、もう彼らについて行くことに迷いはなかった。他に選択肢ないし。

「うちとしても、今は嬢ちゃんを解放するわけにもいかんしな。かといってただで養ってやる余裕もない」

 熊男はうーんと唸ると横目で隣に座るアレクシスを見た。

「よし!」

 バンっと勢いよく膝を叩く。

「嬢ちゃんは、調理補助兼、資材調達兼、馬番兼、装備手入れ係りだ」

 兼多くね?

「いいよな、レニー!」
「ああ、いいぜ。可愛い女の子なら大歓迎だ」

 赤毛の青年は白い歯を見せて親指を立てる。
 おおう、キザ。
 私はやっぱりちょっぴり引きながら頭を下げた。

「あとはアレクシス、お前責任もって面倒みてやれ」
「え?」

 二つ返事のレニーとは逆にアレクシスは思いっきり困惑顔だった。

「拾ってきたんだ。責任をもつんだな」

 私は犬か猫か?

「わかった」

 アレクシスは熊男の顔をじっと見つめ、彼に翻意がないと分かると渋々と言った様子で頷いた。
 それから私に視線を向ける。

「お前、名は? 俺は今更だがアレクシス……だ」
「……奈子です。よろしくお願いします」

 苗字か名前、どちらを名乗るか一瞬迷ったが、アレクシスに合わせた。
 郷に入れば郷に従えだ。……アレクシスがファミリーネームってことないよね???

「おお、すっかり名乗り忘れてたな。俺はサイだ」

 熊男もといサイの一言で、輪になった男たちが次々と名乗り始める。
 彼らの年齢は二十代から四十代まで様々。ただ皆一様に鍛えられていると分かる体をしている。

「よろしくお願いします」

 名乗られるたび、いちいち頭を下げたが、十数人の顔と名前を一度に覚えられる自信は全くない。
 食事が終わると、私は馬車に押し込められた。マントを一枚渡される。

「夜はここから出ないように。何か用があったら俺を呼べ」

 アレクシスはそっけなくそう言うと、食事時よりも小さくなった男たちの輪の中に入っていく。
 男たちの顔は食事時とは打って変わって厳しい。
 何を話しているか気になったが、知るのが怖くもあった。
 知れば、きっと引き返せない。
 私は幌の中にひっこむと大人しくマントにくるまり横になった。


 男たちとの生活は基本、移動と野営。
 森の中を移動しながら、時折馬車を置いてどこかへ集団で出かける。
 私はアレクシスとその他二、三名と居残りだ。その他はレニーだったり、他の人だったりするけれど、アレクシスだけは毎回変わらなかった。
 それがアレクシスには不満だったらしい。
 ある日、食事の準備の途中、皆から離れた場所でサイに食ってかかっているのを見かけた。

「俺も出たい。ずっと馬車番なんて嫌だ」

 アレクシスの表情はどこまでも真摯だった。どこか思いつめているようにも見える。しかしサイの答えはすげない。

「言っただろう。お前にはナコを拾った責任がある」
「だがっ!」
「だがもくそもねえ。いいか? 俺はお前を信用して嬢ちゃんを任せている。女一人守れんで、何を守れるってんだ!」

 アレクシスは悔しそうに唇を噛み締め俯く。
 しかし、すぐに顔を上げると再びサイに詰め寄った。

「私にはもう守るものなんてない。父上も母上も亡くなられた。兄上の行方だって……」

 これ、聞いちゃいけないやつだ。
 突然変わったアレクシスの口調に、不穏なものを覚えて一歩後ずさりする。
 と、同時に、首に何かが巻きついた。

「っ……」

 喉から出そうになった悲鳴は、口に当てられた手に塞がれた。

「ナーコ。盗み聞きはよくないぜ。ほら、戻るぞ」

 レニーの声だった。首に巻きついたのは彼の腕だったらしい。
 こくこくと頷くとそのままレニーに引きずられるようにしてその場を離れる。

「ワタシナニモキイテマセン」

 鍋を混ぜながら、私は言った。

「思いっきり棒読みになってるぞ」

 ばればれだ。
 男たちは火事場泥棒じゃない。なら何なのかとずっと考えていた。
 そのうち、彼らの持つ剣が皆同じ作りであることに気づいた。その柄と鞘に何かを消したらしき削り跡があることにも。
 さらに男たちは皆、サイに忠実でアレクシスとは見えない距離がある。
 ぼんやりと浮かびつつあった想像がアレクシスの言葉で確信に変わった。
 削ったのは身分を示す紋章でアレクシスは彼らが仕える相手だ。

「まあ、聞こえなかったってことにしといてやるよ。俺はナコを信じてる。可愛い女の子に悪人はいないってのが俺の信条だからな」

 かっる! 軽いなレニー! それでいいのかレニー!
 私は信じられない思いで、レニーをまじまじと見つめた。
 その視線をどう勘違いしたのか、レニーはにっと笑って髪をかき上げる。

「ああ、俺に惚れるのはナシだぜ。こう見えて、もう売約済みだからな」

 おおう、キザ……
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