嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい

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第2章 黒領主の旦那様

33 鬱憤を晴らす時

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 クリフトンとコンラッドが、レイラの娘クローディアの強制送還の進捗状況を確認しようとしている。
 その背後に、そおっと忍び寄る影があった。その者の眼鏡がキラリと光り、一匹の小動物を放した――


「なっ、なんだ、この小汚ないネズミは? どこから入った!?」
「離れてください。すぐに摘まみ出します」

 しかし、そのネズミはすばしっこい。ドスドスと角に追い込もうとするコンラッドを巧みに躱し、クリフトンの方へまっしぐらに進む。

「くっ! こやつめ、わしを馬鹿にしているのか!?」

 ネズミこと聖獣ココは、わざと前公クリフトンの周りをチョロチョロと回って挑発し、尻もちをつかせた。

「クリフトン様! このっ! ちょこざいな!!」

 クリフトンの身体を踏み台に、コンラッドの剣撃を跳躍で掻い潜ったココは、書棚の上で尻尾を振っている。
 追いかけようとして前公を踏みつけそうになったコンラッドは、床に顔面からダイブし難を逃れた。
 今まで誰も、試練の番人の姿を見たことがないから、まさか目の前のオフサネズミだとは思いもしない。

 ニジリ寄る衛兵たちも下手に手出しできないくらい、あえてクリフトンとコンラッドの近くでココはチョロチョロし、小馬鹿にしている。

「コンラッド、何をしておる! 早くせい! 逃げてしまうぞ!?」
「は、はいッ。――ちっ。城の外に行って、魔法で打ちとってやる」

「それはよいな。わしの本来の実力を出せる」

 得意げに杖をカツカツと打ち鳴らすクリフトンに、頭に血がのぼり切った鼻息荒いコンラッド。二人がココを追い公城の中庭に出る。
 二方向から魔法を放とうとしたその時――



 ――バサッバサッ――

 命じてもないのに飛竜が降り立った。

「ん!? なぜこんなところに飛竜が?」
『ムー』

 飛竜の頭にはちょこんとムムが乗り、ココがその隣に陣取る。

「こら、飛竜! そのネズミを降ろせ!」

 しかし、飛竜はクリフトンの命を聞こうとしない。なにせ頭に乗せているのは、ここにいる生き物の中で一番格上なのだ。

 どこからか別の飛竜が二頭、公城の上空を旋回した後、優雅にクリフトンとコンラッドの前に着陸した。


「楽しかったですわ、クローディア様、ユージーン様。飛竜で出掛けるのが病みつきりなりそう」
「少しでも気分転換になったのでしたら幸いです」

「さすがレイラ様。素晴らしい腕前でした。チャールズも楽しかったわね」
「よかったわ! チャールズも早く一人前になって、飛竜を操れるようになるのよ?」
「はい、レイラ様!」


「グレース!」
「ビヴァリーにチャールズ!」

 クリフトンとコンラッドの顎が外れそうなほど、あんぐりと口が開かれていた――


 ***


 グレースさんはお祖父様の愛人だ。お祖母様が亡くなってからずっと、私生活を支えてきてくれたらしい。
 ビヴァリーさんはコンラッドさんの奥様で、次の公になるチャールズ君のお母様。

 この御婦人たちは、色々と不満を溜め込んでいたのだ――



「どうされましたか? そんなに驚いた顔をして。間抜け面になっていますわよ?」
「なぜ飛竜がここに? なぜグレースが乗っている? それに、その娘は公国から追い出したはず」

 祖父は動転しているのか口をハクハクとさせ、グレースさんに何から話してもらうべきか分からないようだ。

「そんなことよりクリフトン様、いい加減に公務から手を引いてくださらない? 私と余生をゆっくり過ごしたいと言ったのは嘘でしたの?」
「嘘じゃないんだよ、グレース。だがレイラが心配でつい……」

 言い訳したお祖父様に、グレースさんの眉がつり上がった。

「いつまで親馬鹿しているのですか? レイラ様はもう十年以上も、立派にご公務をこなされていますよ?」
「しかしだな……、女一人では何かと大変だろうしだな……」

 子離れできず母のことにばかりかまけていた祖父に対し、放っておかれたグレースさんの不満が爆発。

「それに、実の孫を受け入れられない狭量な方は嫌いです。一緒に過ごす時間もないうえ、人でなしな御方とは、これ以上お付き合いする必要性はないわね。お別れしようかしら?」
「グレース……。頼むから、そんなことを言わんでくれ……」

 祖父はそっぽを向いてしまったグレースさんのご機嫌をとろうと必死になっていた。



「チャールズが公になっても、クリフトン様は口出ししてきそうですね……。しかも貴方まで一緒になって。こんなねちっこいジジイ共に囲まれた未来なんて、この子が可哀想だわ」
「父上! 僕ねイスティリア王国のロシスター騎士団に勉強しに行くよ! 父上も昔行ったんでしょう? 僕も父上のように立派な男になりたい!」

「ビヴァリー、チャールズ……」

 ビヴァリーさんがコンラッド君に聞こえないよう、そっと耳打ちする。

「いつまでレイラ様のお尻を追いかけている気? ずるずる過去の失恋を引きずる未練がましい男とは離縁して、さっさとイスティリア王国にチャールズと行こうかしら?」
「け、けして引きずっているわけではないんだ……」

「歯切れが悪いわね。それとも何? まだレイラ様に懸想しているのかしら? チャンスがあるとでも?」
「い、いや。そういうわけでも……」

「ならばなぜ、飛竜定期便を止める必要がございます? ああ、悲しいかな。私とチャールズは片道切符になるかもしれませんね」
「すまん。止める必要などなかった。飛竜は運行させる」


「運行させる? その権限はクリフトン様にもコンラッド殿にもありませんよ? なあ試練の番人たち?」
『そうだよ~。悪いね、僕たちクローディア側だから、飛竜も意地悪な二人の命はもう聞かないよ~』


 飛竜がお母様とユージーンと私、さらに私たちの味方についたココとムムの命で動くことを知り、愕然とするお祖父様とコンラッドさん。
 グレースさんとビヴァリーさんに積年の恨みを吐露されゴリゴリと精神を削られ、挙げ句別れをほのめかされていたお二人にとっては弱り目に祟り目。


「皆、色々すまんかった……」

 祖父は完全に隠居し、グレースさんとゆっくり老後を過ごすことに決めた。

「ビヴァリーもチャールズも私を置いて行かないでくれぇ」

 チャールズ君はみんなに説得され、十三歳になったらロシスター騎士団に留学する予定だ。

 お母様とユージーンの企てにより親子関係から大人の恋愛事情まで、何はともあれ全て丸く治まったのである――
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