213 / 396
番外編10 おまけ5
2* ある遠い夏の記憶
しおりを挟む
一
吐きそう……。
東京は暑い……。親族がいるから時々来るけど、この辺りなのに家が見つけられない。いつもお母さんがいて助けてくれるのに、今日はいない。
ひとりぼっち。困ったなぁ。
東京は本当に暑い。なぜこんなに暑いの。
ヒートアイランド現象。温暖化問題。温室効果ガス。平均気温は世界規模で年々上昇している。
仙台は海洋性気候の傾向はあるが亜寒帯、東京は温帯湿潤気候。
気温があがると湿度を感じやすくなる。空気が含むことのできる水蒸気量は温度が高くなるほど多くなる。
湿度の求め方は、いまの水蒸気量÷飽和水蒸気量×100。単位はパーセント……。
俺は住宅街にある緑の茂った小さな公園に入り、陰にあるベンチによろよろと寄っていって横たわった。
暑いものの直射日光は避けられる。
公園には誰もいない。
蝉の声はうるさいけれど、人間のやかましい声よりはいいや。
一安心。一休み。
修学旅行の自由行動中に、親戚の家に顔を出すといって抜けてきた。
男子には女みたいだといじめられてハブられて、女子にはきゃーきゃー叫ばれてつきまとわれて、学校なんてちっとも楽しくない。
早く中学に進学したい……。あと半年で卒業だ。受験がんばって、太郎お兄ちゃんと次郎お兄ちゃんと同じ中学に行きたい。のんちゃんと同じ学校はなし。いじめられるに違いない。
運動神経も良くて頭もいいのんちゃんと比べられるのはすごく嫌。のんちゃんはのんちゃんで、外見にコンプレックスがあるみたいで、学力でも運動神経でも劣っている俺をそれでも目の敵にしてくるし。
陰でも暑いなぁ。
どこかに自販機ないかな。意識が遠のいていく。もう少し休まないと。
俺は目を閉じる。
しんどい。
ぼーっとしてくる……。
「おーい。大丈夫か!?」
気づくと、誰かが顔を覗き込んできていた。
そして、冷たいものを額に掛けられてびっくりする。なんだこれと思っていると、どうやら水に濡れたタオルらしい。
額の熱が抜けていくみたい。
まだくらくらする。いつの間に寝ていたんだろう。ひとなんていなかったのに。いつの間に。意識が途切れていたんだ。
ベンチの前に立つ少年が、持っていた水筒を開けて、コップにお茶を注いだ。
「ほら、麦茶」
他人の水筒、口つけたくないな……。おなか壊しそう……。
でも水分が欲しい。
水筒のコップを受け取って飲む。喉を通っていくと生き返るみたい。
「……ありがと」
「もう一杯飲む?」
「うん」
楽になった。ひとの家の麦茶の味には違和感があるけど。背に腹は代えられない。
俺は少年を見る。小学校中学年かな。何歳か年下だと思う。
つんつんの短髪、少年野球のユニフォームを着ている。脇の下にグローブを挟んでいる。日焼けして真っ黒。このへんの子なんだろうな。ちっこくてちょこまかしてそう。
二杯目を飲むと、ブレていた視界が戻ってきた。
少年が心配そうに訊ねてくる。
「顔色悪いよ。大人のひとは?」
「近くに親戚の家が……」
「連れてってやるよ。どこ? 俺さいきんここに引っ越してきてさ。探検しまくってるから任せろ」
地図を持っているので、俺は地図を開いて、このへん、と指をさした。
「ここってお屋敷のあるとこじゃん」
「?」
「行こう」
手を引かれて直射日光の下に出ると、暑くて一気にくらくらしてくる。
俺の頭に、彼は自分が被っていた野球帽を被せてきた。人の体温が残っていて汗っぽい。やだなぁ。
だけど、目が陰になったおかげで、少しマシになる。
「濡れタオル、首にかけとくといーよ」
「ん……」
親戚の家はすぐそこだった。
「うわっ、本当にお屋敷じゃん」
「?」
インターフォンを鳴らして、名前を名乗ると、開けるねといわれて、玄関扉の施錠が解かれた。アプローチの向こうで、親戚のおばさんが手を振っている。
そのとき、遠くで学校のチャイムの音が鳴りはじめた。
少年が慌てて顔をあげる。
「あっやべっクラブ遅刻するっ、じゃあねっ」
「あ……」
野球少年は、突然走り出した。
俺は慌てて、かぼそい声で呼び止める。
「帽子……!」
彼は振り返って手を振った。
「あげるよ!」
あっという間に姿が見えなくなる。
住宅街の路地に残っているのは、夏の終わりの午後の、真っ白な光だけ。
「お友達? よかったの?」
「公園で会った、知らない子……」
「そこの小学校の子よねぇ。少年野球の子」
「そうなんだ……」
「おうち入って。熱いわね。涼みましょ」
俺はその後、熱が出てしまって帰れなくなり、俺の修学旅行はこれで終わりになった。
残されたのは、野球帽と濡れタオル。
二
「多紀、帽子どこやったの!」
母さんが怒鳴っている。うるさいなぁ……。
「あげたー」
「はぁ? あげた? 誰に?」
「道に迷ってた女の子」
肌が真っ白で、目が大きくて瞳の色が薄くて、細くてかよわそうで、めちゃめちゃ美少女だった。クラスにひとりもいないようなお嬢様。
探検していたときに見つけた、このあたりで一番のお屋敷。あの家の親戚なのかー。
また会えるのかな。名前、聞き取れなかった。なんて名前なんだろう。
体調悪そうだった。元気になるといいな。
「どうせまたどこかに忘れてきたんでしょ!?」
「違うしー」
「まったくもー。ほら水筒出して」
「ほーい」
「タオルは?」
「あげた」
「はぁー!?」
うるさいなぁ……。
三
「三郎坊ちゃま、このお帽子、どうなさいます?」
お手伝いの瑞穂さんが、野球帽を手にして首を傾げている。
修学旅行から帰ってきて、洗濯したものがすべて乾いて、その中にあったもの。
「……んー? なんだっけ、これ」
「おばさまのおうちに連れていってくださった男の子がくれた、とお聞きしたような」
「そういえば、そうだったかも。朦朧としてて記憶がない……」
暑くて熱くて、思い出そうとしてもおぼろげ。
あのときは危なかったんだなぁ。気をつけないと。
「お熱がありましたもんねぇ」
「ん、あ、帽子、とっておいて」
「おばさまにお願いして、その子の小学校を教えてもらって、お返ししましょうか」
「うーん……なんか、もらったような……」
「では、被られます? ご趣味とは合わないですが」
「んー……」
「とりあえず仕舞っておきましょうか」
「うん」
<ある夏の記憶 終わり>
吐きそう……。
東京は暑い……。親族がいるから時々来るけど、この辺りなのに家が見つけられない。いつもお母さんがいて助けてくれるのに、今日はいない。
ひとりぼっち。困ったなぁ。
東京は本当に暑い。なぜこんなに暑いの。
ヒートアイランド現象。温暖化問題。温室効果ガス。平均気温は世界規模で年々上昇している。
仙台は海洋性気候の傾向はあるが亜寒帯、東京は温帯湿潤気候。
気温があがると湿度を感じやすくなる。空気が含むことのできる水蒸気量は温度が高くなるほど多くなる。
湿度の求め方は、いまの水蒸気量÷飽和水蒸気量×100。単位はパーセント……。
俺は住宅街にある緑の茂った小さな公園に入り、陰にあるベンチによろよろと寄っていって横たわった。
暑いものの直射日光は避けられる。
公園には誰もいない。
蝉の声はうるさいけれど、人間のやかましい声よりはいいや。
一安心。一休み。
修学旅行の自由行動中に、親戚の家に顔を出すといって抜けてきた。
男子には女みたいだといじめられてハブられて、女子にはきゃーきゃー叫ばれてつきまとわれて、学校なんてちっとも楽しくない。
早く中学に進学したい……。あと半年で卒業だ。受験がんばって、太郎お兄ちゃんと次郎お兄ちゃんと同じ中学に行きたい。のんちゃんと同じ学校はなし。いじめられるに違いない。
運動神経も良くて頭もいいのんちゃんと比べられるのはすごく嫌。のんちゃんはのんちゃんで、外見にコンプレックスがあるみたいで、学力でも運動神経でも劣っている俺をそれでも目の敵にしてくるし。
陰でも暑いなぁ。
どこかに自販機ないかな。意識が遠のいていく。もう少し休まないと。
俺は目を閉じる。
しんどい。
ぼーっとしてくる……。
「おーい。大丈夫か!?」
気づくと、誰かが顔を覗き込んできていた。
そして、冷たいものを額に掛けられてびっくりする。なんだこれと思っていると、どうやら水に濡れたタオルらしい。
額の熱が抜けていくみたい。
まだくらくらする。いつの間に寝ていたんだろう。ひとなんていなかったのに。いつの間に。意識が途切れていたんだ。
ベンチの前に立つ少年が、持っていた水筒を開けて、コップにお茶を注いだ。
「ほら、麦茶」
他人の水筒、口つけたくないな……。おなか壊しそう……。
でも水分が欲しい。
水筒のコップを受け取って飲む。喉を通っていくと生き返るみたい。
「……ありがと」
「もう一杯飲む?」
「うん」
楽になった。ひとの家の麦茶の味には違和感があるけど。背に腹は代えられない。
俺は少年を見る。小学校中学年かな。何歳か年下だと思う。
つんつんの短髪、少年野球のユニフォームを着ている。脇の下にグローブを挟んでいる。日焼けして真っ黒。このへんの子なんだろうな。ちっこくてちょこまかしてそう。
二杯目を飲むと、ブレていた視界が戻ってきた。
少年が心配そうに訊ねてくる。
「顔色悪いよ。大人のひとは?」
「近くに親戚の家が……」
「連れてってやるよ。どこ? 俺さいきんここに引っ越してきてさ。探検しまくってるから任せろ」
地図を持っているので、俺は地図を開いて、このへん、と指をさした。
「ここってお屋敷のあるとこじゃん」
「?」
「行こう」
手を引かれて直射日光の下に出ると、暑くて一気にくらくらしてくる。
俺の頭に、彼は自分が被っていた野球帽を被せてきた。人の体温が残っていて汗っぽい。やだなぁ。
だけど、目が陰になったおかげで、少しマシになる。
「濡れタオル、首にかけとくといーよ」
「ん……」
親戚の家はすぐそこだった。
「うわっ、本当にお屋敷じゃん」
「?」
インターフォンを鳴らして、名前を名乗ると、開けるねといわれて、玄関扉の施錠が解かれた。アプローチの向こうで、親戚のおばさんが手を振っている。
そのとき、遠くで学校のチャイムの音が鳴りはじめた。
少年が慌てて顔をあげる。
「あっやべっクラブ遅刻するっ、じゃあねっ」
「あ……」
野球少年は、突然走り出した。
俺は慌てて、かぼそい声で呼び止める。
「帽子……!」
彼は振り返って手を振った。
「あげるよ!」
あっという間に姿が見えなくなる。
住宅街の路地に残っているのは、夏の終わりの午後の、真っ白な光だけ。
「お友達? よかったの?」
「公園で会った、知らない子……」
「そこの小学校の子よねぇ。少年野球の子」
「そうなんだ……」
「おうち入って。熱いわね。涼みましょ」
俺はその後、熱が出てしまって帰れなくなり、俺の修学旅行はこれで終わりになった。
残されたのは、野球帽と濡れタオル。
二
「多紀、帽子どこやったの!」
母さんが怒鳴っている。うるさいなぁ……。
「あげたー」
「はぁ? あげた? 誰に?」
「道に迷ってた女の子」
肌が真っ白で、目が大きくて瞳の色が薄くて、細くてかよわそうで、めちゃめちゃ美少女だった。クラスにひとりもいないようなお嬢様。
探検していたときに見つけた、このあたりで一番のお屋敷。あの家の親戚なのかー。
また会えるのかな。名前、聞き取れなかった。なんて名前なんだろう。
体調悪そうだった。元気になるといいな。
「どうせまたどこかに忘れてきたんでしょ!?」
「違うしー」
「まったくもー。ほら水筒出して」
「ほーい」
「タオルは?」
「あげた」
「はぁー!?」
うるさいなぁ……。
三
「三郎坊ちゃま、このお帽子、どうなさいます?」
お手伝いの瑞穂さんが、野球帽を手にして首を傾げている。
修学旅行から帰ってきて、洗濯したものがすべて乾いて、その中にあったもの。
「……んー? なんだっけ、これ」
「おばさまのおうちに連れていってくださった男の子がくれた、とお聞きしたような」
「そういえば、そうだったかも。朦朧としてて記憶がない……」
暑くて熱くて、思い出そうとしてもおぼろげ。
あのときは危なかったんだなぁ。気をつけないと。
「お熱がありましたもんねぇ」
「ん、あ、帽子、とっておいて」
「おばさまにお願いして、その子の小学校を教えてもらって、お返ししましょうか」
「うーん……なんか、もらったような……」
「では、被られます? ご趣味とは合わないですが」
「んー……」
「とりあえず仕舞っておきましょうか」
「うん」
<ある夏の記憶 終わり>
196
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる