元カレが社内で迫ってくる

みつきみつか

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最終章 社内、午前八時

六 技術部くん、成婚退会

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 労務、午後七時。
 帰り際。
 男女一名ずつの退会票を両手で受け取って、俺はうやうやしく頭を下げた。

「この度はおめでとうございます」

 技術部くんと庶務さんの二名揃って、総務課にある労務チームの島、労務末端、俺のデスクにきた。そして二人でせーので退会票を提出。
 退会票というのは、社内婚活アプリの成婚退会のアナログ用紙。
 半切れになっていて、社員番号、氏名、年齢、お相手の名前という項目がある。いまどき手書き。
 アプリ上でも退会自体は可能なんだ。けど、社内婚活で成婚した場合に、この退会票を二人で提出すると、成婚退会という扱いになる。
 アプリの成婚数の実績になるのはもちろんのこと、実は成婚祝いと称してお祝い金が少し出る。二人分プラスα。
 二人は言った。

「おめでとうにはまだ早いけど……。結川のおかげだよ。お世話になりました」
「お世話になりました!」

 この後、俺と技術部くんで手を合わせた神社にいって、お礼と報告をしてくるらしい。
 俺もあとから、お礼をしにいこう。
 正式なプロポーズはまだで、具体的な話には進んでいないそうなんだけど、結婚を前提に付き合っているようで、お互いにもう婚活はやめるんだって。
 技術部くんがこっそり送信してきたメッセージによれば、近々、プロポーズをするそうな。
 プロポーズをどうするのか、少し相談はあったけれど、技術部くんの立てたプランは文句の付け所なんか一切なく、俺は手放しに大賛成。
 照れくさそうに微笑んで視線を交わすおふたり。
 なんだが雰囲気が似ているふたりで、こういう夫婦ってうまくいく気がする。
 俺には見える。
 この先、すべての出来事がトントン拍子で進むんだ。
 もちろん人生山あり谷あり。どんなことがあっても手を取り合って、ふたりが幸せでいられますように。
 それにしても、二十一組目、か。
 技術部くん庶務さんカップルを見送って、しばらくしてから荷物を用意して、会社を出るときに、1階ホールで社シスくんと出くわした。
 というか、待ち伏せていたのかして、社シスくんが駆け寄ってきた。

「結川~」
「おつかれーっす」
「いま帰り? 予定ある?」
「ちょっと寄るとこあるけど、急ぎじゃないから大丈夫だよ。どしたん」
「結川に案内された神社で縁結びを願ったら爆速で交際になったって聞いてさ。どこなのか教えてもらおうと思って~」
「おー、ちょうどお礼に参拝しようと思ってたんだよ。行こうか」

 社シスくんと並んで神社に向かう。
 夜の道で、社シスくんはちょっとため息。

「俺、婚活、うまくいかないんだよね~」
「そっかぁ」
「結川に相談すると大抵のことは解決するじゃん。どうしたらいい? アドバイスちょうだい」
「うーん」

 でもなぁ。うまくいけばそれはベストだけど、うまくいかないこともあるよね。
 だけど俺、ひとのことあれこれ言える状況にないんだよね。

「心折れそうなんだよ。頼むよ。忌憚ない意見をくれ!」
「うーん……じゃあ、甘口がいい? 辛口にする?」
「激辛で。ちゃんときくから」

 言われて考える。二秒くらいで結論が出る。
 俺、他人の問題ごとの解決方法を考えるのは得意なんだ。これが自分のことになると、ちっとも解決できないくせにね。

「よし、わかった。ダイエットと垢抜けしよ。千円カットじゃなくて、おしゃれ系理美容に行こう。眉カットして、十キロ減らして、筋トレして、体に合わせたスーツ買おう」
「めっちゃ具体的……!?」
「俺が思うに、必要なのは神頼みじゃない。運動だ。そうだ、いまから自宅まで歩いて帰ろう。アドバイスしたからには付き合う」
「えっ…………付き合ってくれるの?」
「もちろん」
「うち、船橋なんだけど……」

 船橋。
 千葉県船橋市。
 ここからだと、徒歩で五時間半ぐらいかな?
 俺は目を閉じて唸った。
 気合い。

「わかった。男に二言はない」
「男らしすぎるじゃん……」

 青ざめた社シスくんは日和って

「結川、本気?? 冗談だよね??」

 と言って電車に乗ろうとしたが、俺は止めた。神社も行くし、船橋まで行く。俺は決めたんだ。
 それから俺は社シスくんと二人、社シスくんの実家である船橋まで、歩いた。
 途中で食事をして、着いたら夜中だったので、実家に泊まらせてもらい、ご家族に事情を話すと、同期をそんなことに付き合わせるなと、社シスくんは叱られていた。
 社シスくんのテーマは自立だな。

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