元カレが社内で迫ってくる

みつきみつか

文字の大きさ
40 / 56
最終章 社内、午前八時

九 低カロリービスケット

しおりを挟む
「お疲れさま~」

 社内システム。夕方。
 水族館に付き合った後に解散して、会社を覗くと、断線したLANをつなげたのち、そのまま別の仕事をしているらしき社シスくんを発見。
 水族館で低カロリーのビスケットを見つけたので、お土産に買って、持ってきた。四連になっていて、二十グラムずつ入っている幼児向けみたいなやつ。
 社シスくんは久しぶりのお菓子を喜んでいる。さいきんお菓子をセーブしてるもんね。
 だがいじけているので、デートのお土産ビスケットだとこすってくる。

「ラブラブ彼女と水族館ラブラブデート、か。彼女とはうまくいってない! なんて俺向けのリップサービス、よく言ったものですね」

 と恨みがましい視線と怨嗟の声。
 卑屈が過ぎるだろ。

「ブッブー! 残念。姉貴でーす!」
「はー? 証拠見せろや!」

 姉に撮影させられた自撮り水族館デート写真を見せる。姉とイルカと俺。
 姉も妹もそれなりに美人だけど元ヤンのギャル系なので、社シスくんの好みではないと思う。

「うお、結川と顔は似てるのに、お姉様ギャル……」

 俺は社シスくんのとなりのスツールに掛けた。

「妹も顔似てるギャルだよ」
「ふーん。彼女とはうまくいってないままなのー?」
「うーん」
「そんなんさぁ、愛してる! ガバッ! ぶっちゅー! ハッピーエンッなんじゃないの?」
「映画じゃあるまいし……そんなの言うかね」

 愛してるなんて、言ったことないよ。
 言われたこともないし。

「えっ、じゃあどうやって付き合ったの? 俺いつも不思議なの。世の中の男女っていったいどうやって始まるの? 俺だけが一向に始まらないんだよ。いつ始まるの?」

 俺だって女子と始まったことない。ひとのこと言えないけどそれは伏せる。
 そういえば、高岡主任に、好きだって言われたことないな。

「装備が弱いんだよ」
「最初の村から出られん」
「まだチュートリアル」
「チュートリアルのまま三十歳になったよ?」
「えっ、誕生日? おめでとう! いつ?」
「今日。帰ったら誕生日パーティー。実家で。今日はチートデイだからたっぷり食べるんだ。ビスケットも全部食う!」

 そう言いつつ、社シスくんはビスケット一袋だけにしている。俺は嬉しくなる。
 なんだかんだいいながら、進歩してるじゃんね。ダイエットも板についてきてさ。
 なんでも好きなように食べるチートデイを設定してる、つまり、ふだんはちゃんと抑制してるってことだ。やるじゃん。
 以前は、ポテトチップス二袋を一息に開けて食い尽くして、「ポテトチップスは飲み物」といって憚らなかったのに。
 ずいぶん成長したなぁ。
 俺も成長しなきゃ。
 高岡主任とよく話し合うんだ。
 何か、見つけられるかもしれないから。別れることになったとしても、話さなきゃ。

「よし、いまからなら着いても電車で帰れるし、船橋まで歩こうか。付き合うよ」
「狂ってる……? あ、部長から頼まれてたメモリーカード渡しにいかなきゃ」
「おっけ。正面玄関で待ってるね」
「え、上こそ付き合ってよ。役員室なんか一人で行きたくないよ」

 役員室と秘書課、経営企画、財務のあるフロアは、たしかに他のフロアとは雰囲気が異なる。
 社シスくんの気持ちはわからないでもないけど、日頃どうやって仕事してるんだろ。
 中央エレベーターでふたりで並ぶ。階段を使うか訊ねたものの、「階段昇降は死んでしまう」といって断られた。
 フロアに着いて、俺は社シスくんの後ろをついていく。
 一応まともな格好だけど、スーツではないし、休日だし、どこまで入っていいかな。雰囲気を見て引き返そう。
 広いフロアは全面絨毯敷きで、壁を抜いたオープンなフロアをグリーンでゾーニングしていて、奥にガラス張りの役員室と会議室と資料室が並んでいる。だいぶ雰囲気の違う、おしゃれでスタイリッシュなエリアだ。
 今日、このフロアは全員集合かな。重要な会議でもあるのかもしれない。
 ふだんは平日メインだけど、重役と海外との折衝があるときは曜日や時間帯関係なく動いてる。そんな部署。
 経営企画はシュッとしてる。財務はお堅そう。渉外のひとも混ざってる。
 秘書課は華やかだな~。そもそも美しい弊社のお嬢様方。そのなかでも指折りの美女軍団。
 と、高岡主任がいた。
 俺には気づいていなくて、秘書のひとりと資料を見合わせて、何やら笑っていた。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

分厚いメガネ令息の非日常

餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」 「シノ様……素敵!」 おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!! その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。 「ジュリーが一番素敵だよ」 「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」 「……うん。ジュリーの方が…素敵」 ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい 「先輩、私もおかしいと思います」 「だよな!」 これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

処理中です...