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1 冬のカツ丼定食
二 夢じゃなかった
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歩いて五分のラブホテル。
金曜日の午後八時前というわけで激戦。一室しか空いていなかった。
いちばん狭い部屋。セックスをするための場所なのだから充分だ。あああああああ。本当に!? 俺たちこれから……うわあああああ。大興奮。
クイーンサイズのベッドがでんと置いてあり、歩ける面積は激狭の、ベッドだけの部屋。緊張しすぎてどうにかなりそう。
冬くんは俺を先に歩かせて、俺はベッドに倒れそうになりながら、帽子を脱いでコートを脱ぐ。スーツの背中をゆるく抱かれて、緊張は最高潮。
「ふふ。花火くん。やーっと会えて嬉しいです。初めてなのに、初めてって感じがしませんね。一年近くSNSでやり取りしてたからでしょうか」
甘くて柔らかい声が心地いい。イケメンは声もいい。イケボ。素敵……。射精しそう。
冬くんとはSNSで出会った。
というか俺は、冬くんを一方的に知っていた。時々おすすめに出てくる、ファッション系サラリーマンでスーツがめちゃくちゃ似合う若い男の子。アパレル案件系で、顔出しはしていないものの雰囲気がばりばり出てて、フォロワー数は数十万単位。
対して俺はゲイアカウント。
といってもエロ系ではなくて、出先で外食写真をアップする食いしん坊ウケ野郎。たまに交流して誰かと寝ることもあるものの、メシの写真のほうが人気だからほとんどグルメアカウント。
「ふふ。ずっと会いたかったです。花火くんは?」
「おおおおれも……!」
サービス精神旺盛の冬くん。お小遣いいるかな。手持ちあるっけ。たしか三万円は財布の中に入っている。もしそれ以上必要だったらATMに寄ってもらわないと……。冬くんにクレジットカード切れないし……。切れるなら限度額まで使っちゃうだろうけど……。
背後からゆるく抱かれながら首筋に口づけられて、あったかくて唇が気持ちいい。いいにおい。冬くんは汗も髪も何もかもいいにおい。
「んっ、ふ、ふゆくん……」
「かーわいい声。ねー、キスしましょ」
する。するするする。キスしていいならいくらでもしたい。
ちゅ、と唇が触れて、それだけでイきそうになる……。
ある時、冬くんに無言フォローされて、俺は飛びあがって驚いたものだ。
何かの間違いだろうと思った。ただの飯テロアカウントだと思ってるとか。
だが二十四時間経っても、四十八時間経っても、三日経ってもフォローされたままだったので、恐る恐る、フォローを返した。
あのときも手が震えた。
ちょうど仕事が立て込んでいて、出張が多くて出先で外食をすることが多い俺は、グルメアカと間違えられているんだったらこのままグルメアカのふりをし続けるほうがいいのでは……と思って、とにかくメシを美味しそうに撮影しまくった。冬くんの気を引きたくて。
我ながらキモい。生きててすみません。
冬くんからは、いいねがつくようになった。自己承認欲求が満たされまくり、脳内麻薬がドバドバ出た。
あるとき、無言ですみませんと挨拶をされて、そこからはたまに表で絡んで、好きな食べ物や旅行先で盛り上がったらDMにしたり、時々通話もするようになった。
今は、ネット上ではいちばん仲がいい。俺は。
冬くんはもっとたくさんのひととリアルでもネットでも関わっているだろうから、冬くんから見た俺は、『名前を知ってる』程度だろうけれど、俺の暗闇よりも真っ暗な実生活に彩りを添えるただひとりの推しだ。
推しって凄い。希望の光。
こりゃみんな推しに沼るわけだよ。
しばらくして、冬くんがゲイのタチだと知った。そのときまで俺は、自分がゲイでウケだと忘れていた。アイドルに熱狂するファンのように、話せるアイドルである冬くんにのめり込んでいた。冬くんの一挙手一投足に喜んでいた。
つい一ヶ月前のことだ。
近くに行くことがあったら遊びませんかと言われて、ももももちろんです! と答えた。
そして先日、冬くんが大阪に来るというから、出会って一年、初めてのご対面。
セックスするか訊いたのは、俺のほうだ。
めっちゃくちゃ勇気を出して、もしよければセックスしますか、と訊いた。返事が来るまでの間、ずっと後悔していた。俺の発言はいつなんどきも後悔が付き物なのである。
一回でいい。思い出にしたかった。
NGなんて何もないから、冬くんの好きにされたかった。きっと一回会ったら、俺みたいな陰キャとはもうかかわりあいになりたくないだろうから、ワンチャンス。
返事は来た。
そして今に至る。あのとき勇気を出した俺、よくやった。
ワイシャツとスラックス。ベルトを外して、ベッドに押し倒される。キスしながら。
唇を食みあって、舌先で触れ合って、絡ませて、体温、におい。唾液。体中の毛が逆立っているのは、あまりにも気持ちいいせい。
二センチメートルの距離。
両手で頬を包まれながら真剣な眼差しで見据えられて、とろとろ。
「冬くん……」
スラックスごしにお互いのそれが触れている。固くてぱんぱんに張ってる。冬くんも感じてる。吐息がやらしい。
夢みたい。夢じゃなかった! 泣きそう。
めっちゃ好き。めっちゃ推し。
「花火くん。えっちしましょ」
とけそうー……。
金曜日の午後八時前というわけで激戦。一室しか空いていなかった。
いちばん狭い部屋。セックスをするための場所なのだから充分だ。あああああああ。本当に!? 俺たちこれから……うわあああああ。大興奮。
クイーンサイズのベッドがでんと置いてあり、歩ける面積は激狭の、ベッドだけの部屋。緊張しすぎてどうにかなりそう。
冬くんは俺を先に歩かせて、俺はベッドに倒れそうになりながら、帽子を脱いでコートを脱ぐ。スーツの背中をゆるく抱かれて、緊張は最高潮。
「ふふ。花火くん。やーっと会えて嬉しいです。初めてなのに、初めてって感じがしませんね。一年近くSNSでやり取りしてたからでしょうか」
甘くて柔らかい声が心地いい。イケメンは声もいい。イケボ。素敵……。射精しそう。
冬くんとはSNSで出会った。
というか俺は、冬くんを一方的に知っていた。時々おすすめに出てくる、ファッション系サラリーマンでスーツがめちゃくちゃ似合う若い男の子。アパレル案件系で、顔出しはしていないものの雰囲気がばりばり出てて、フォロワー数は数十万単位。
対して俺はゲイアカウント。
といってもエロ系ではなくて、出先で外食写真をアップする食いしん坊ウケ野郎。たまに交流して誰かと寝ることもあるものの、メシの写真のほうが人気だからほとんどグルメアカウント。
「ふふ。ずっと会いたかったです。花火くんは?」
「おおおおれも……!」
サービス精神旺盛の冬くん。お小遣いいるかな。手持ちあるっけ。たしか三万円は財布の中に入っている。もしそれ以上必要だったらATMに寄ってもらわないと……。冬くんにクレジットカード切れないし……。切れるなら限度額まで使っちゃうだろうけど……。
背後からゆるく抱かれながら首筋に口づけられて、あったかくて唇が気持ちいい。いいにおい。冬くんは汗も髪も何もかもいいにおい。
「んっ、ふ、ふゆくん……」
「かーわいい声。ねー、キスしましょ」
する。するするする。キスしていいならいくらでもしたい。
ちゅ、と唇が触れて、それだけでイきそうになる……。
ある時、冬くんに無言フォローされて、俺は飛びあがって驚いたものだ。
何かの間違いだろうと思った。ただの飯テロアカウントだと思ってるとか。
だが二十四時間経っても、四十八時間経っても、三日経ってもフォローされたままだったので、恐る恐る、フォローを返した。
あのときも手が震えた。
ちょうど仕事が立て込んでいて、出張が多くて出先で外食をすることが多い俺は、グルメアカと間違えられているんだったらこのままグルメアカのふりをし続けるほうがいいのでは……と思って、とにかくメシを美味しそうに撮影しまくった。冬くんの気を引きたくて。
我ながらキモい。生きててすみません。
冬くんからは、いいねがつくようになった。自己承認欲求が満たされまくり、脳内麻薬がドバドバ出た。
あるとき、無言ですみませんと挨拶をされて、そこからはたまに表で絡んで、好きな食べ物や旅行先で盛り上がったらDMにしたり、時々通話もするようになった。
今は、ネット上ではいちばん仲がいい。俺は。
冬くんはもっとたくさんのひととリアルでもネットでも関わっているだろうから、冬くんから見た俺は、『名前を知ってる』程度だろうけれど、俺の暗闇よりも真っ暗な実生活に彩りを添えるただひとりの推しだ。
推しって凄い。希望の光。
こりゃみんな推しに沼るわけだよ。
しばらくして、冬くんがゲイのタチだと知った。そのときまで俺は、自分がゲイでウケだと忘れていた。アイドルに熱狂するファンのように、話せるアイドルである冬くんにのめり込んでいた。冬くんの一挙手一投足に喜んでいた。
つい一ヶ月前のことだ。
近くに行くことがあったら遊びませんかと言われて、ももももちろんです! と答えた。
そして先日、冬くんが大阪に来るというから、出会って一年、初めてのご対面。
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めっちゃくちゃ勇気を出して、もしよければセックスしますか、と訊いた。返事が来るまでの間、ずっと後悔していた。俺の発言はいつなんどきも後悔が付き物なのである。
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二センチメートルの距離。
両手で頬を包まれながら真剣な眼差しで見据えられて、とろとろ。
「冬くん……」
スラックスごしにお互いのそれが触れている。固くてぱんぱんに張ってる。冬くんも感じてる。吐息がやらしい。
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「花火くん。えっちしましょ」
とけそうー……。
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