光の行き先

梅田星子

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後日談 千紘の独白

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俺は勉強が苦手、だから彩人先輩に教えてもらおうと家に招いた。
彩人先輩は俺の恋人だ。
初めは仲のいい先輩だったけど、気付いたら恋人になってた。
その瞬間は怖かった、でもすぐに彩人先輩に俺は堕とされた。
身体からの関係だった、だけどすぐに俺は彩人先輩のことが好きになってた。
彩人先輩の優しい微笑み、俺が困ってるとすぐ助けてくれる気遣い。彩人先輩の狂気。そして誰よりも俺を大切にしてくれる愛、俺は心から彩人先輩の全てが好きだ。
きっと彩人先輩は気付いていない、俺がこんなにも彩人先輩のことが好きってことに。
だっていつも不安そうにしてるから。
不安そうに俺をベッドへ誘い、言葉を紡ぐことなく愛を植え付ける。そして俺に何も言わせてくれない。きっとそうでもしないと俺が正気に戻って彩人先輩から離れていってしまうと思っているのだと思う。
そんなことないのに。
彩人先輩は何をそんなに不安がっているのだろう。何か過去にあったのかな、それとも彩人先輩の性質なのかな…。
確かに俺は変わったと思う。
世界の全てがキラキラして見えてたあの頃とは違って今はどこか世界が色褪せて見える。
前は友達と話す時間が楽しくて、家族とのコミュニケーションも大切だったのに。
今では誰の話を聞いても何も思わない、何をみても感動なんてない。
何がそんなに俺を楽しませていたのか、何んでそんなに大切だったのかもう今ではわからない。
でもそんな中でも、唯一輝いて見えるのがある。それは彩人先輩。彩人先輩だけが俺の世界を眩しいくらいに輝かせる。
俺の中で何かが変わってしまったことは間違いない。その原因も彩人先輩だ。
彩人先輩は勉強も運動も出来る。素敵な恋人だ。
俺は今日のために彩人先輩にお菓子を作った。
俺も彩人先輩も甘いものが特別好きというわけではないから甘さ控えめの生姜のクッキーにしてみた。今は冬だし暖まるから丁度いいかなって思ったし。
部屋も片付けて勉強用具も準備していつでも招ける状態にしてすぐ家のチャイムが鳴った。

「彩人先輩かな」

俺はすぐにインターホンで確認する。
思っていた通り彩人先輩ですぐに開けますと伝えて玄関へ向かう。

「千紘のお客さん?」
「うん!学校の先輩で勉強を教えてもらうんだ」
「そうなの。ちゃんとしなさいね」

その途中お母さんに話しかけられて軽く説明する。
お母さんが少しホッとした顔をしたけどどうしたんだろう。
最近お母さんが俺を見て何やら不思議な顔をする。いや、お母さんだけじゃない、お父さんも弟も妹だ。
そして決まって「千紘、どこか変わった?何かあったの?」って心配そうに言うんだ。
確かに変わったけど…心配されるような事ではないから、そんな事ないって否定してる。
俺が変わったところなんて友達との距離感が変わったとかそんなことで、どうでもいいことだ。だって、友達の話を聞いてたって心が動かされないし楽しくない。彩人先輩との時間以外は価値のない時間だ。
だったらある程度付き合いを保っておけばいい。
俺にとってその変化はそんなことって片付けられる程度のことだ。
だからあの視線が俺には煩わしい。
でも、妹だけは俺に「お兄ちゃんなんて言うか嬉しそう!」って言う。
妹だけはわかってくれる。俺にとって大切と思える家族はもう、妹だけなのかもしれない。
そんなことを考えながら玄関を開けると彩人先輩がやっほって手を振りながら立っていた。
彩人先輩が視界に入った瞬間俺の世界は色付いた。

「彩人先輩!!」
「千紘、こんにちは。お邪魔します」
「はい!俺の部屋は2階なんです。こちらです」

俺は彩人先輩に会えた嬉しさが抑えきれず声が弾んでしまう。ちょっと恥ずかしいけど仕方ないよね、だって彩人先輩に会えたんだから。

「千紘、ご家族に挨拶とか…」
「大丈夫ですよ、それより早く部屋に行きましょう?」
「もう、せめてこんにちはくらいは言わせて」
「むっ…はい…」

彩人先輩と早く二人きりになりたかったのにと少し不満を顔に出すと困ったように笑われた。
その後彩人先輩はお母さんにお邪魔しますと言ってお土産を渡していた。
そんなのいいのに…。
そして挨拶が終わると俺はすぐに彩人先輩の手を引いて部屋に案内した。
初めて招く俺の部屋。彩人先輩が部屋にいることが嬉しくて口角が上がってしまう。

「千紘機嫌いいね」
「はい!だって彩人先輩と一緒にいられるんで。それだけで嬉しいんです!!」
「可愛い」

彩人先輩に頭を撫でられた。いい子って撫でる手つきが優しくて俺はすぐに蕩けてしまう。
でも、今日は勉強なんだと自分に言い聞かせて座る。

「彩人先輩、テスト勉強よろしくお願いします!!」
「はい、わかりました。千紘くんのテスト結果を赤点ゼロにしてみせます!」

彩人先輩はわざとらしく敬語を使って意気込みを語る。
その後すぐに教科書や参考書を開いて勉強をみてもらう。今日は数学を教えてもらうことになっている。
俺は勉強が本当に苦手で授業がさっぱりわからない。聞いてても気付くと彩人先輩の事を考えてぼーっとしてたり、そもそも意識が飛んで夢の世界に旅立ってしまってる。ちなみに夢の世界でも大体彩人先輩が出てくる。
だから気づくと先生が俺の席の前に立っていて課題が増えていることがよくある。
ちなみにそれを伝えると「僕のこと考えてくれるのは嬉しいけどちゃんと勉強はしよ?」って言われる。でも「そんな千紘も可愛いけど」って最後には笑って撫でてくれるんだ。
そしてその度に彩人先輩が勉強を教えてくれてなんとか課題を終わらせている。
テストも今までは先生のサービス問題で赤点を免れていたが授業が進むにつれてそれも厳しくなってきた。
だから俺は彩人先輩に教えを乞うことにした。
そうすれば彩人先輩と一緒に過ごせるし、勉強も出来る。一石二鳥だ。
それを彩人先輩に伝えたら「本当に千紘は可愛い」って笑ってくれた。
ちなみに彩人先輩に迷惑かけちゃうなら一人で頑張るって言ったら抱きしめられて「僕に教えさせて、だって一石二鳥なんでしょ?」って甘く囁かれた。
ドキドキして顔が真っ赤になって…それを彩人先輩に指摘されてさらに赤くなって笑われた。
意地悪しないでくださいって睨んだらくすくす笑われた。完全に揶揄われていた。
でも、そんな彩人先輩のことが俺は大好きだけど。

「この問題はこの公式を使って…」
「え…えっと…」
「ふふ、じゃあこう言ったらわかる?」

そうやって彩人先輩は俺がわからなければ噛み砕いて説明してくれる。本当に優しい。
俺が彩人先輩のところに堕とされたあの日も勉強を教えてもらっていた。
あの時は俺は普通に仲の良い先輩と思ってたから何も思わなかったけど…

「千紘?」
「…!!」

教科書を覗き込む彩人先輩の顔、表情が良すぎて…胸が苦しい。
伏せ目がちで色気がすごい。あと彩人先輩は元々可愛い見た目をしている。まつ毛もすごく長い…こんな可愛い先輩がベッドの上では…と考えると鼓動が速くなる。

「あ、彩人先輩…お…俺…」
「何?僕の可愛い顔に見惚れちゃったの?」
「うぅ~」

彩人先輩はニヤニヤとこちらをみながら言うとそのまま人差し指で俺の鼻を突いた。

「だーめ。今は家族もいるんでしょ?」
「…」
「それに千紘の弟も妹も小学生でしょ。流石にだめ!それに千紘色々我慢できないでしょ」

声とか…と言って今度は優しくおでこをツンと突いた。
そうだけど…でも…と彩人先輩の腕にしがみつく。

「んっ…」

すると彩人先輩は俺の前髪を掻き分けてそっとおでこにキスを落とす。
その唇の温度が俺を満たす。でも、まだ足りない…俺は欲しがりだから。
彩人先輩から受け取れるものはどれだけでも欲しい。

「これで我慢して?それに今日は勉強しないとでしょ」
「はい…」

彩人先輩はダメって己の唇に手を当てる。
その仕草が色っぽくてつい見惚れてしまう。
俺が目を逸らして黙ってしまった事を可笑しそうに笑う。
それが悔しくて恨めしそうに彩人先輩を見ると俺を愛おしそうに見つめて笑った。

「千紘はすぐにそういう顔するんだから」
「だって…彩人先輩が好きだから、少しでも触れたくて…触れて欲しくて…」
「…」

俺の言葉に彩人先輩の瞳は不安そうにする。
きっと俺が触れて欲しいと言ったから、俺が彩人先輩にそういうことしか求めてないって思ったのかな。始まりが始まりだから。
多分彩人先輩は俺の全部が欲しいのだろう。一部じゃなくて。
心も体も繋がってなきゃダメで。じゃないと俺が離れていくって…。だって一部なら他の人間でも与えられるかもしれないから。
今日こそ伝えなきゃ…俺が、俺が彩人先輩のこと大好きって。
だって俺が不甲斐ないから彩人先輩にそんな想いさせてるんだから…だから伝えないと。
俺は彩人先輩に抱きついた。
そして…

「ねえ、彩人先輩。そんな表情しないで下さい。俺は彩人先輩のことが…彩人先輩が思っている以上に好きなんです」
「?」
「確かに俺と彩人先輩は身体からの関係だったかもしれません。けど!今は、彩人先輩のことを心から愛してます」
「!!」
「あの日、彩人先輩が怖かったことは間違いないありません。でも、今はそれすら感謝してます。だって、彩人先輩とこんなに関われるようになったから。そのおかげで知らなかった彩人先輩の事をたくさん知ることが出来たんです」

俺の言葉に目を見開いて驚く彩人先輩。彩人先輩の背中に回してる腕に力を入れて俺は訴える。

「俺は、彩人先輩の全てが愛おしいです。俺は彩人先輩以外どうでもいいと思ってしまう。彩人先輩以外いらない。そんな考えすら頭にあります。そんな風に彩人先輩に変えられたんです。そんな俺からの愛は信じられませんか?」

俺が彩人先輩の身体だけを求めてると思ってるんですか?俺は彩人先輩の全部が好き、愛してると必死に伝える。

「…っ!!千紘!!」

彩人先輩が俺を抱きしめ返してきた。
強く、痛いくらいに。でもそれが嬉しくて。

「本当に?僕は千紘を狂おしいほどに好きなんだ。愛している。また、初めての時のように暴走するかもしれないし…それ以上のこともするかもしれない」
「はい…」
「それでも僕のこと好き?」

彩人先輩が不安そうに俺に問いかける。
彩人先輩の声は少し震えている。
それに俺を奪ったあの時の狂気の瞳が嘘のように怯えている。
俺はそれが少しでも和らぐように彩人先輩の胸に擦り寄る。

「僕、不安になったら千紘のこと鎖で繋いで監禁とかしちゃうなもよ?」
「それはそれで彩人先輩しか俺の世界から映らなくなるので望むところです」
「ふふ、千紘の変態」
「彩人先輩に言われたくないです!」
「ふふ!もう、離さないから覚悟してよ。束縛だって激しいからね」
「今更です」

俺がそう笑うと確かにって言ってお腹を抱えて笑い始めた。
彩人先輩の笑顔が好き、彩人先輩の俺を見る狂気に塗りつぶされた瞳も好き…全部全部大好き。


「彩人先輩、俺をこんな風にした責任ちゃんと取ってくださいね」
「うん。千紘こそ僕の愛に耐えて見せてよ。まあ、壊れても離さないけど」
「俺はもう、壊れてますよ」
「確かに…じゃあ千紘が抜け殻になっても愛すから」

俺たちは見つめ合う。彩人先輩の頬が少し赤い。照れてるのかなって思うと嬉しい。
彩人先輩の色んな表情が見られるのが、そしてそんな表情をさせた自分が誇らしい。
そして、ドロドロと仄暗い感情をのせた彩人先輩の瞳が俺は大好きだ。
その瞳に俺は囚われてるから。それを証明するように彩人先輩のその素敵な瞳に映る俺はうっとりとしていた。

ねえ、彩人先輩…狂ってるのは彩人先輩だけじゃないんですよ…

だって…俺は貴方に壊されたのだから…
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