異世界転生者はぶっ殺せ

UZI SMG

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第一章

復興した村

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 そして村の人間が半数以上殺された日から、10年の年月が経った。

 俺は16歳になっていた。


 10年前の勇者が現れた時刻、あの日と同じ夕暮れ時、鎮魂ちんこんのため、村の皆は黙祷もくとうしていた。
 家族がいない俺は、足も目も使えなくなった村長の手を握っていた。


「私が、あの時しっかりしていれば……ロイスほんとに申し訳ない事をした」

 鎮魂ちんこんの鐘が鳴る中、後遺症で目が見えなくなった村長が遠くを眺めながらつぶやく。10年前と変わらないように無理に優しく笑った目からは、涙がこぼれていた。

「いえ、気にしないでください」俺は、村長の手を強く握る。震えた老人のしわくちゃな手。目も足も使えないのにこの人は、勇者を追い払えなかった事を10年間ずっと後悔してきたのだろう。

 隣で、同い年のハッサムが涙を堪えている。

 かつて勇者が発動した、爆炎魔法は、田畑を殺して不毛の大地を作った。

 偏狭の地だったこの村は、生き残った人間達の手で10年かけてやっと蘇った。
村人は、必死に水路を整えて、田畑をたがやし、老人達や、両親を失った幼い子供さえも、悲しみで泣きたい事を必死に殺し、大地をよみがらすため、昼夜を問わず寝ずに働いた。
俺も、村長の元で、他の子どもと一緒に死ぬ気で働いた。

 9年前……

「休む?」と、自分より大きいくわを持って農作業をしていた同じ年のハッサムに聞くと、いつも「大丈夫」と笑って畑では答えた。


 だが、夜になると寂しくて泣いている声が隣から聞こえていた。
 ハッサムも両親を勇者に殺されたのだ。

 何日も食べ物が無く、ひもじかった。雨を皆、豚のように飲み、森にある草を虫のように食らった。


 次第に、大人達は他の村に出ていくようになり、孤児ばかりが村に残るようになった。



 だが、この状況に誰も文句を口に出す者はいなかった。


 生きるために、そして、皆、生まれた土地と村の人間が好きだったから。



「ロイス……お前の父は立派だった。いつも私のような弱い人間を守ってくれていた」

 村長の優しい言葉が、胸に突き刺さる。勝手に転生してきた勇者に虫けらのように殺された父を思うと頭が割れそうになる。
「……」

「ロイス、ハッサム……この村にずっといてくれよ」
「「……はい」」
 二人は声を揃えて返事をした。
 鎮魂の鐘が、むなしく小さな村に鳴り響く。



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 王国は、勇者の手によって歴史の表舞台から消えた。
 異世界転生者の知識はすさまじく、王都では文明さえも変わろうとしていた。

 王国派と呼ばれる人間は、次々に勇者をあがめる革命派組織、“ユースケ帝国”に殺された。
 勇者の圧倒的な力を背景に、混沌こんとんの時代が訪れた。

 そのタイミングを待っていたように、魔王が郊外で侵攻を開始し出した。
 蹂躙じゅうりんされる人間達。資源がなくなった町は、略奪が横行し平和は無くなった。

 王都で立ち向かう勇気ある騎士達はもういない――
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「ロイス!!大変だ!!」

 ハッサムが村の外を指指して叫ぶ。

 村長と、俺は、その指の方向を見る。

 そこには何人かの人影が夕日に浮かんでいた。

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