異世界転生者はぶっ殺せ

UZI SMG

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第三章

勇気

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 ざわざわざわと、足元で何かが動く気配を感じる。
 そういえば、屋根の上だった……
 目をしっかりと開けると、気がつくと月が三つ昇っていて、夜になっていた。

 ……
 気配
 静寂
 ……


 不思議なほどに、何も聞こえない……

「起きたか?」脳内に声が響いた。
 だが、あたりを見回すと、何も見えない。

 ……

 また、不思議なほど静寂せいじゃくが広がる。

「お前に聞きたい事がある」

 そしてしばらくして直接脳内に響く声。かなり不気味な声だ。

 ……


「姿を見せろ!!」俺は、震えながらも声を張り上げる。

 ……

 また、静寂が続いた。と思ったら急に当たりが昼のように明るくなった。
目が慣れずに、顔を手で覆い、ゆっくりと光に慣らす。
 そして目を開けると


 一面に蜘蛛の子が這っており、白い糸が、雪のようにあたりを覆っていた。
 何匹かがギロリとこちらを睨んだのが分かった。
 そして、何かとてつもない大きな威圧感が、頭の後ろに感じた。

「お前は、勇者か?」

 今度は頭の後ろで声が響く。今度ははっきりと強く。

「違う!!!俺はあんな糞野郎じゃない!!」
 そう言って、その声に向き直ると、そこには巨大な蜘蛛の口があった。
 不気味に光るその口元は、どこまでも吸い込まれそうな漆黒が広がっていた。

「おもしろい反応だ。お前はこいつを知っているか?」

 そういい、蜘蛛は空から何かまゆのようなものを出してきた。
それが空中に浮く。白色の芋虫のようないびつな繭。これが何か分からない。

「いったい……何?」


「よく、その声を聞いてみろ」


 蜘蛛はそう言って、その繭を俺の顔の前に近づけてきた。
 恐怖で、感情が止まる。

「……た……す……け……て」


 どこかで、聞き覚えがある声が聞こえた。
 途切れ途切れ声がその繭からする。
 まさか……

「この村の村長とかいう者のようだ。知り合いか?」

 その蜘蛛が、そう答える。

 こいつは、いったい何を考えているんだ?考えようとしても脳みそが働ない。麻痺魔法でもかかっているのだろうか?
――だが今は、村長を助ける事だけを考えなければ。

「村長です……なんでこんなひどい事するんですか?」
「……さあな。お前たちもたくさん殺した。特に勇者というものは」
「俺は、勇者が嫌いです。俺も勇者に家族を殺されました」
「嘘をいうと、村長は死ぬぞ?」
 そう蜘蛛が語り掛け、繭から大量の血と、悲鳴が漏れる。

「やめてください!!!村長は関係がありません」
 俺は必死に蜘蛛を説得しようと声を張り上げる。

「おもしろい。魔族相手にお願いか?」
 蜘蛛の頭が、よだれを垂らしながら問う。
「そうです。私は弱いです。あなたに勝てません」
「そうだな。じゃあ戦うか?」
「……俺はあなたと戦いたくありません。ですがこれ以上村長を苦しめるなら、あなたを殺さなければならない」
「ふ……人間ごときが……魔族に一人で立ち向かうか?」
「……村は、俺が守らないといけないんです。お父さんと約束しました」

「……そうか、ならば死ね」

 蜘蛛がそう言って、一本の前足を突き出す。
目で追いつけない速度に、間一髪で、防御態勢をとるが、大きく後ろへ突き飛ばされた。
 体が、強烈な衝撃を受け、衝撃で激しく痙攣けいれんした。
いつも襲ってくるレベル3程度のゴブリンやスライムとは、桁違いだ。
とてもじゃないが勝てる相手ではない。改めて体が全身でそう感じた。

「もう、死ぬのか?」
「お願いです。この村を襲わないでください」
 俺は、豚のように魔物に頭を下げる。それを見た蜘蛛は、何も無い表情を浮かべている。
「勇気だけは認めてやる。我が王も勇気ある人間は好きだ……なに、村人の何人かを差し出してくれれば終わる話だ」

 そう言って、蜘蛛は村へ向き直る。
 レベルの高い魔族は、餌となる人間がいる村を見つけると、根絶やしにせずに牧場のようにそこを管理する風習がある。なので、力無い村や町は、魔物の繁殖地として村を捧げ、何人かが魔物の世話をしながら村を守るきまりとなっている。

「僕の村です……繁殖地にはできません……詠唱――お父さん力を貸してください」
蜘蛛を目で追いながら、刃に腕を当て、父の形見である刀に、祈りの魔法をかける。

――刃が、祈りを受けて黒く光り輝き出す。祈り魔法。

 勇者魔法で唯一使える魔法で、魂を呼び集めて力にする魔法だ。

「そんな脆弱ぜいじゃくな魔法で、戦う気か?人間はおもしろいな」


 蜘蛛がそう言ってあざけ笑う。




「俺に力を貸してください……お父さん。お母さん……」

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