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第18話 レオンの独占欲の片鱗
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第18話 レオンの独占欲の片鱗
カフェの営業が始まって一ヶ月半。
朝の常連タイムは、すっかりレオン様の指定席になっていた。
窓際の一番奥、森が見える席。
今日も開店と同時にレオン様が入ってきて、無言でそこに座る。
「おはようございます、レオン様。今日もモンブランですか?」
私は笑顔でメニューを運んだ。
レオンは小さく頷き、いつものように無表情でフォークを動かし始める。
でも、最近気づいたことがある。
レオン様は、私が他の客と少し長く話すと、わずかに眉を寄せるのだ。
最初は気のせいかと思っていたけど、明らかにパターンがある。
たとえば、昨日リオが仕入れに来たとき。
リオが陽気に「エレナー! 新作チョコレートケーキ、俺に一番乗りで食わせてくれよ!」と大声で絡んできた。
私は笑いながら「もちろん!」と答えて、試食用の一切れを渡した。
その瞬間、レオン様のフォークが一瞬止まった。
視線が、チラリとリオの方へ。
無表情だけど、どこか冷たい空気。
リオは気づかず尻尾を振って喜んでいたけど、私はドキッとした。
(……嫉妬?)
まさか、冷徹辺境伯が。
今日も似たようなことが起きた。
午前中の客が引けた頃、冒険者の若い魔法使いの女性がカウンターに寄ってきた。
「エレナさん! このプリン、魔力回復量がすごくて本当に助かってます!
いつもありがとうございます!」
彼女は目を輝かせて、私の手を握ってきた。
「こちらこそ、来てくれて嬉しいわ。また新しいの作るから楽しみにしていてね」
私がにこにこ答えると――
背後から、かすかな音。
振り返ると、レオン様が紅茶のカップを少し強めにテーブルに置いたところだった。
灰色の瞳が、じっとこちらを見ている。
女性客が気づいて、慌てて頭を下げた。
「あ、辺境伯様……お、おはようございます!」
レオンは無言で頷き、立ち上がった。
会計を済ませて、いつもより少し早めに店を出て行く。
……明らかに機嫌が悪い。
私は少し心配になって、厨房でリナに相談した。
「リナ、レオン様、今日なんか不機嫌じゃなかった?」
リナがくすくす笑った。
「お嬢様、気づいたんですね。あれ、絶対にヤキモチです!
最近、他の人とお嬢様が楽しそうに話すと、レオン様の目が怖くなりますよ」
「え、ヤキモチ!? レオン様が?」
想像しただけで、胸がきゅんとする。
無表情の裏で、そんな感情を抱いてくれているなんて。
夕方、店が閉まって片付けをしていると、意外な訪問者があった。
レオン様が、一人で店に戻ってきたのだ。
普段は朝しか来ないのに。
「レオン様? どうかしましたか?」
私はエプロンを外しながら迎えた。
レオンは少し視線を逸らし、ぽつりと呟いた。
「……明日からの一週間、屋敷の執務が忙しくなる。来られない」
「えっ、そうなんですか……寂しくなります」
私は素直に言った。
レオン様がいない朝は、なんだか物足りない。
レオンは私の顔を見て、わずかに目を細めた。
「……お前は、毎日多くの客と話す」
「はい、みんな喜んでくれるから嬉しいんです」
「……あの獣人や、騎士団長、冒険者たちとも」
レオンの声が、少し低くなった。
私はハッとした。
(これって……)
「レオン様、私が他の人と話すのが……嫌ですか?」
レオンは一瞬、黙った。
灰色の瞳が、わずかに揺れる。
「……別に」
ツンとした答えだけど、耳が少し赤い。
(可愛すぎる!!)
私は思わず笑ってしまった。
「レオン様、安心してください。私が一番楽しみにしているのは、毎朝レオン様が来てくれることですよ。
モンブランを食べて、少しでもリラックスしていただけるのが嬉しいんです」
レオンが、ぱっと私を見た。
無表情の奥で、瞳が優しくなる。
「……そうか」
小さな声。
そして、珍しく自分から言葉を続けた。
「では、執務が終わったら……また毎日来る」
「はい! 待ってます。新しいケーキも考えてるので、楽しみにしててくださいね」
レオンは小さく頷き、店を出て行った。
背中を見送りながら、私は胸を押さえた。
冷徹辺境伯の、独占欲の片鱗。
それは、私への特別な想いの証。
カフェは賑やかで、たくさんの人が来てくれる。
でも、私の心の中で、一番特別な席は――
いつもレオン様のもの。
そう思った、静かな夕暮れだった。
カフェの営業が始まって一ヶ月半。
朝の常連タイムは、すっかりレオン様の指定席になっていた。
窓際の一番奥、森が見える席。
今日も開店と同時にレオン様が入ってきて、無言でそこに座る。
「おはようございます、レオン様。今日もモンブランですか?」
私は笑顔でメニューを運んだ。
レオンは小さく頷き、いつものように無表情でフォークを動かし始める。
でも、最近気づいたことがある。
レオン様は、私が他の客と少し長く話すと、わずかに眉を寄せるのだ。
最初は気のせいかと思っていたけど、明らかにパターンがある。
たとえば、昨日リオが仕入れに来たとき。
リオが陽気に「エレナー! 新作チョコレートケーキ、俺に一番乗りで食わせてくれよ!」と大声で絡んできた。
私は笑いながら「もちろん!」と答えて、試食用の一切れを渡した。
その瞬間、レオン様のフォークが一瞬止まった。
視線が、チラリとリオの方へ。
無表情だけど、どこか冷たい空気。
リオは気づかず尻尾を振って喜んでいたけど、私はドキッとした。
(……嫉妬?)
まさか、冷徹辺境伯が。
今日も似たようなことが起きた。
午前中の客が引けた頃、冒険者の若い魔法使いの女性がカウンターに寄ってきた。
「エレナさん! このプリン、魔力回復量がすごくて本当に助かってます!
いつもありがとうございます!」
彼女は目を輝かせて、私の手を握ってきた。
「こちらこそ、来てくれて嬉しいわ。また新しいの作るから楽しみにしていてね」
私がにこにこ答えると――
背後から、かすかな音。
振り返ると、レオン様が紅茶のカップを少し強めにテーブルに置いたところだった。
灰色の瞳が、じっとこちらを見ている。
女性客が気づいて、慌てて頭を下げた。
「あ、辺境伯様……お、おはようございます!」
レオンは無言で頷き、立ち上がった。
会計を済ませて、いつもより少し早めに店を出て行く。
……明らかに機嫌が悪い。
私は少し心配になって、厨房でリナに相談した。
「リナ、レオン様、今日なんか不機嫌じゃなかった?」
リナがくすくす笑った。
「お嬢様、気づいたんですね。あれ、絶対にヤキモチです!
最近、他の人とお嬢様が楽しそうに話すと、レオン様の目が怖くなりますよ」
「え、ヤキモチ!? レオン様が?」
想像しただけで、胸がきゅんとする。
無表情の裏で、そんな感情を抱いてくれているなんて。
夕方、店が閉まって片付けをしていると、意外な訪問者があった。
レオン様が、一人で店に戻ってきたのだ。
普段は朝しか来ないのに。
「レオン様? どうかしましたか?」
私はエプロンを外しながら迎えた。
レオンは少し視線を逸らし、ぽつりと呟いた。
「……明日からの一週間、屋敷の執務が忙しくなる。来られない」
「えっ、そうなんですか……寂しくなります」
私は素直に言った。
レオン様がいない朝は、なんだか物足りない。
レオンは私の顔を見て、わずかに目を細めた。
「……お前は、毎日多くの客と話す」
「はい、みんな喜んでくれるから嬉しいんです」
「……あの獣人や、騎士団長、冒険者たちとも」
レオンの声が、少し低くなった。
私はハッとした。
(これって……)
「レオン様、私が他の人と話すのが……嫌ですか?」
レオンは一瞬、黙った。
灰色の瞳が、わずかに揺れる。
「……別に」
ツンとした答えだけど、耳が少し赤い。
(可愛すぎる!!)
私は思わず笑ってしまった。
「レオン様、安心してください。私が一番楽しみにしているのは、毎朝レオン様が来てくれることですよ。
モンブランを食べて、少しでもリラックスしていただけるのが嬉しいんです」
レオンが、ぱっと私を見た。
無表情の奥で、瞳が優しくなる。
「……そうか」
小さな声。
そして、珍しく自分から言葉を続けた。
「では、執務が終わったら……また毎日来る」
「はい! 待ってます。新しいケーキも考えてるので、楽しみにしててくださいね」
レオンは小さく頷き、店を出て行った。
背中を見送りながら、私は胸を押さえた。
冷徹辺境伯の、独占欲の片鱗。
それは、私への特別な想いの証。
カフェは賑やかで、たくさんの人が来てくれる。
でも、私の心の中で、一番特別な席は――
いつもレオン様のもの。
そう思った、静かな夕暮れだった。
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