白い結婚 ~その冷たい契約にざまぁを添えて~

霧島

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最終話 「嵐の果てに輝くもの」

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 突如として現れた黒狼(ブラックウルフ)の頭領・リュシアンを伴うロイ・ラトレイ。想定外の来訪が、クロウフォード家の別邸に新たな混乱をもたらす。
 過去の因縁を抱えるヴィクトル、そして彼を取り巻く黒々とした闇。
 逃げ場のない状況に追い詰められたルシアーナは、家族と使用人を守り、自らの意地を貫くために何ができるのか――。
 白い結婚は形ばかりの愛に縛られていたはずが、今や黒狼との危険な駆け引きを巡る要衝となりつつある。もし、ルシアーナがここで一手を誤れば、フィオレット家への禍根が残るだろう。だが、もし巧みに事態を操れるならば、ヴィクトルの信頼を得て“ざまぁ”と喝破する未来も見えてくるかもしれない。
 嵐が去ったはずの空に、またしても暗雲が立ち込める。次に降り注ぐのは、冷たい雨か、それとも新たな希望の光か。
 ルシアーナの“契約結婚”は、冷徹なる侯爵との真の関係が試される舞台へと変貌していく――。




1.迫りくる決戦

クロウフォード家の別邸に、黒狼(ブラックウルフ)の頭領・リュシアンが現れた。それも、ラトレイ男爵家の青年ロイを引き連れ、正面から堂々と乗り込んできたのだ。
玄関ホールで対峙したルシアーナは、リュシアンの挑発に耐えながら、状況を冷静に見極める。彼がここへ来た目的はただの交渉ではなく、クロウフォード家に対する最後通牒だと直感した。

「さて、奥様」リュシアンがニヤリと笑う。「俺たちがここにいる理由を教えてやろうか?」
「聞きたくもありませんが……どうせ一方的に語るおつもりなのでしょう?」
ルシアーナは毅然とした態度で応じる。リュシアンは少し面白そうに彼女を見つめたあと、低い声で告げた。
「簡単な話だ。俺たちはクロウフォード家の滅亡を見届けに来たんだよ」

その言葉に、屋敷中がざわめいた。リュシアンは続けて、ヴィクトルが過去に交わした協定を破棄し、黒狼を裏切ったことへの報復を宣言する。
「今夜、ここに仕掛けるつもりだ。もし生き残りたければ、俺たちに従え。それが嫌なら……全てを灰にしてやるだけだ」


---

2.ヴィクトルの本心

その場に急ぎ駆けつけたヴィクトルが、冷酷な目でリュシアンを睨みつける。
「貴様らの言い分は聞いた。だが、クロウフォード家を脅すことができると思うな」
その言葉は鋭い剣のようだったが、ルシアーナには、彼が内心焦りを抱えているのが分かった。ヴィクトルは冷徹に見えて、実は家を守るために常に自分を追い込んでいるのだ――その事実が、リュシアンの笑みをさらに深めさせる。

「守れるのか? そんな薄っぺらい覚悟で?」

ヴィクトルは返答をせず、ただリュシアンを睨み続ける。だがその隙をつくように、黒狼の部下たちが屋敷内に潜り込み始めた。
「……まずい、屋敷が崩壊するわ!」ルシアーナはヴィクトルの袖を掴み、小声で訴えた。「わたしたちだけでは防ぎきれない。何か策を――」
ヴィクトルは一瞬だけ彼女を見つめ、苦々しく答える。
「余計な口を挟むな。これは俺が――クロウフォード家が背負う問題だ」
だが、その言葉を聞いたルシアーナは目を伏せ、決意を固めるように静かに告げた。
「それは違います。わたしはここに、“あなたの妻”として嫁いできたのです。ただの飾りではなく、クロウフォード家を守るために」
ヴィクトルは驚いたように彼女を見返した。今まで何度も突き放してきた相手が、自分以上にこの家を守ろうとしている――その覚悟を感じ取ったのだ。


---

3.ルシアーナの策

その夜、ルシアーナは黒狼に立ち向かうため、自ら計画を練った。彼女が用いたのは、かつてフィオレット家の財務を支えた知識と、今のクロウフォード家が抱える状況を徹底的に分析した結果だった。
「リュシアンが本当に狙っているのは、クロウフォード家の財力と流通網です。その要所を抑えられれば、彼らの思うがままになる。でも、逆手に取ることは可能です」

ルシアーナは、リュシアンに「交渉を受け入れるふり」を提案した。その隙に、ヴィクトルの忠実な部下たちを使って、黒狼の拠点を一網打尽にする計画だ。
「……俺が囮になるというのか?」
「いいえ。ヴィクトル様、あなたにはただ“待つ”だけの役割をお願いしたいのです。信じてください、わたしの策を」

ヴィクトルは一瞬だけ迷ったが、最終的に彼女の提案を受け入れた。そして、彼女が計画を実行に移す夜が訪れる。


---

4.決着と「ざまぁ」

リュシアンはクロウフォード家の交渉を受け入れると見せかけ、夜中に屋敷を包囲した。だが、その瞬間、逆に黒狼の拠点が襲撃されたという報告が入る。
「……なに?」リュシアンは動揺し、手下たちに指示を出すが、すでに彼らの勢力は瓦解しつつあった。
ルシアーナはその場に姿を現し、毅然と告げる。
「これが、わたしたちクロウフォード家の力です。あなたたちのような裏切り者に、この家を脅かすことはできません」
リュシアンは悔しそうに睨みつけたが、彼女の冷静な態度に押し黙るしかなかった。そして、ヴィクトルが最後の一撃として告げる。
「二度と俺たちに近づくな。次は容赦しない」

黒狼が退散した後、ヴィクトルはルシアーナを見つめ、呟くように言った。
「……なぜここまで俺を助ける?」
ルシアーナは微笑みながら答えた。
「それが、わたしの役目だからです。そして……あなたに“ざまぁ”と言わせる日が来るまで、諦めませんから」
その言葉に、ヴィクトルは苦笑しつつも、初めて少しだけ柔らかな表情を見せた。


---

エピローグ

数ヵ月後、クロウフォード家の名誉は完全に回復し、ルシアーナは「実質的な主」として一目置かれる存在となった。ヴィクトルとの関係も、少しずつ信頼を深めるものへと変わっていく。
屋敷の庭で咲く花を眺めながら、ルシアーナは静かに呟いた。
「この結婚は“愛”から始まったわけではないけれど……わたしが“勝つ”ことで、全てが変わるわ」


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