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プロローグ
世は情報社会。
情報はより具現化し、あるハッカーが当時の大国ナヒムネラの機密情報を奪って他国にばら撒いた。その暴動は瞬く間に世界中に広まり、そして2040年、数々の散りばめられたデータを巡って各地で争いが勃発。
各国はこぞって工作員を雇い、様々な方法で情報データを奪わせるようになった。
そしてそれぞれの国がそれぞれの方法で工作員を育てるための養成所を急速に発展させていった。
ある東洋の島国、シキムでは、国からの要請により情報を奪い集める役目を果たす者たちを総称して「ライオンマティ」と呼んだ。彼らは国家最高任務を任される者として国内で讃えられ、地位も高かった。
そのライオンマティに直結する養成所として、獅子学園というところがある。
九方 胡雄(くほう こお)。
12歳。
今は無きナヒムネラ帝国で生まれた、第四皇子である。
第一皇子アレクサンドルド、第二皇子ナルーゼ、第三皇子セドヨガットに次いで生まれた。
そう。
俺は、本当は「九方胡雄」じゃない。ちゃんと正式な名前があったはずなんだ。
…覚えて、ないけど。
なのに。
東洋の国に連れ去られて、こんな名前をつけられた。
兄達は死んだ。殺された。当たり前だ、滅んだ国の皇子なんて厄介者以外の何者でもない。
いっそあの時、俺も一緒に殺してくれりゃ良かったのに。
今でもわからない。
あいつが、何を考えて俺を生かしたのか。
…はっ。
ぼーっとしてた。
今は獅子学園の編入試験の真っ最中だった。
広い敷地内の一部分、2000平方メートルくらいある訓練場では、闘志に満ちた輩が熱を放って煩わしい。
…あー、つまんねぇ。
みんなで目ぇギラギラさせて鼻息荒くして、馬鹿だろホント。
あいつとやってた訓練の方が、よっぽど楽しかった。
そんなにここに入りたいのか。魅力が全くわからない。
…あー、無性にイライラしてきた。
…何で俺、こんなところに来てんだろ。
あいつの声が蘇る。
「獅子学園に行きなさい」
…はっ、なんだそれ。
自分は勝手にどっか行っちまって、都合がいいなぁ、おい。
…あーあ。なんで俺、あいつの言う事なんか聞いてんだろ。
あいつの言う事を良い子に聞いて、物事が良い方向に進んだ試しがあったか。
試験?学園?
なんだそりゃ。
俺にはそんなの、必要ないのに。
不意に、左手が痛んだ。
親指と人差し指の間にできた、亀裂のような痕。
「…痛ぇよ。しね」
⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎
「コウちゃん、手、出して?」
粘土をねって貼り付けたような笑顔。迷いのない冷え切った右手が、俺の方に真っ直ぐと伸びてくる。
…やめろ。
来んな。
左手には、尖ったガラスの欠片。
こいつは、狂ってる。
「…なんで?」
俺は平気なフリをして、表情を崩さず奴に言った。
また奴の口角が上がる。
きもちわるい。
その笑い方、なんだよ。
こいつが何を考えているのか分からない。
こいつは一歩も動いていないのに、何故だ。
さっきまで後ろにあった空間が、ない。後ずさりが、できない。
それ程の威圧感。
「仲間になるためだよ、コウちゃん」
奴はまた、ニッコリと微笑んだ。
は?
何言ってんだ、こいつ。
仲間?
手に凶器持って殺気ぶっ放してるお前が何言ってんだコラ。
ここは暗い。
灯りが今にも消えそうな点滅中のランプだけのこの家は、異様な雰囲気が漂っている。
息がつまる。
なんだよ、なんなんだよこれ。
…やっぱり俺は、邪魔になったのか。
だから殺すのか、お前の気まぐれで。
意味のない沈黙が続く。
不意に、身体が浮いた。
「がッ…」
奴が、俺の右足を蹴ったのだ。いや、正確には「蹴った」という言葉では些か語弊がある。
「突いた」のだ。
速い。速すぎる。
足の痛みよりも、身体が浮く感覚の方が先に出た。
ヤバイこいつ、本気だ。
前のめりになってブレーキがきかない。
「う、わあぁ!」
俺の左手は奴の思惑通り、自らスッポリと奴の右手に突っ込んでいった。
手首をガシッと握られ、固定される。横にも縦にも振れない。
「…は、なせッ!」
にげられない。
言いようのない恐怖が身体全身に行き渡る。
なんで。
なんでだよ。
奴がガラスを持った手を振り上げる。
少しでも、信じてみようと思った俺は、愚かだ。
「いやだああああああああぁ!!」
ザクッッッ
俺の意識は、そこで途切れた。
「……コウちゃん。ふふふ。だめだなぁ、あれくらい避けなきゃ。僕の教えたこと、ちゃんと」
男は、もたれた彼の身体を支えながら手首をそっと離した。細い手首に刻まれた、まばらな爪の跡。
「……」
男は少しの沈黙の後、天井を見上げ目を閉じた。
「仲間になってくれて、有難うね」
男は、血にまみれた少年の手を自分の頰に当て、強く、強く、彼を抱き締めた。
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