この能力で女を攻略してやる

第2章 新入社員「渡辺美優」

休職明け出勤

月曜日
結局1ヶ月入院していたので、新しい年度が始まっている。
新入職者も増えて、どんよりした職場が、新鮮な職場へ変化している。

ただその新鮮な環境も夏前には、いつものどんよりとした職場へと変わるのが定石だ。

新入社員の引田が、僕にお茶を運んで来た。
「部長おはようございます。4月に入職した「引田美緒」です。これから宜しくお願いします。」
と笑顔で挨拶するが、心の声が聞こえてしまう。
(わっ！本当にキモいオヤジだ。なるべく近づくのをやめておこう。何か無理やり犯されそう)

僕は冷静に心の声を聞いた。決して悟られない様に、無反応で時を過ごす。

心の声が聞こえる事で、段々と僕の気分は疲弊して行く。
それは女性職員だけでは無く、部下の男性職員からも心無い声が聞こえてくる。
仕事の内容の事なら耐える事も出来るが、容姿の事を言われるのは釈然としない。

油が浮いてるだとか、首が無いだとか、息がうるさい等、心の声では言いたい放題である。

何でこんな能力を持ってしまったんだろう？

僕の事をどう思っているかなんて分かっていたつもりだ。ただ心の声だとはいえ、実際に聞いてしまうと予想以上に辛い。

そんな辛い日が1週間。

この能力が無くなるどころか、段々と心の声が聞こえる範囲が広がっていった。
今では同じ電車の車両の端から端まで、特定の人の心の声まで聞き取れる。

いつもの様に朝の満員電車に乗り込む。

今日は職場の新人歓迎会が、近くの中華料理店で行われる。

普段でさえ心の声で僕の事を侮辱しているのに、酒が入ったらどんな悪口が聞こえてくるんだろう。

不安しか無い。

酒が入って心の声に対して、怒鳴ったりしないだろうか？

はあ～憂鬱だ。

来るな来るなと思う時間は、やけに早く感じる。

もう時間か

部下が僕に語り掛ける。

「部長、先に行ってます。」

「分かった。すぐ行く。」

医療機器を取り扱う我が社は、本社はアメリカであり、僕の部署は開発にも携わっている。
僕の研究した商品が何個か認められて、部長へと昇格したのだが、外資系ではごく当然の事なのだが、部下の課長や係長も僕より年上なのは、日本の風習には合わない。

特に仕事以外の飲み会の席は、日本文化の酒の席では無礼講と言う言葉を盾にして、この時ばかりと嫌な事をするのだ。

はあ～本当に気が重い