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第一章
002 初めての遭遇
しおりを挟む飛び出してきたのは、二十代の男性。服装はパンク系ファッションであり、金髪のモヒカンで、耳には複数のピアスを着けている。
明らかにその見た目は、普段なら関わりたくないような人物だった。
しかしこのような現状もあり、僕は思わず声をかけてしまう。
「あ、あの、あなたもこの場所に連れてこられたんですか? 僕も気がついたらここにいて、何か知っていることとかありませんか?」
その問いかけで僕の存在に気がついたパンク系の男は、睨むような鋭い眼差しを向けてきた。そして、僕に対してこのような返事をしてくる。
「はぁ? んのこと知るか! というか誰だよてめぇ!」
威圧的な言葉に少々怯みそうになるけど、それを悟らせないようにしつつ、僕は言葉を続けた。
「僕は裏梨希望っていいます。高校生です。本当に困っていて……」
「困ってるだぁ? 俺だって困ってる! というかてめえ、裏切りそうな面と名前じゃねえか! 信用できるわけねえだろ!」
ここでいきなりそれを言うのか。それを言われると、どうしようもない。
「そ、そういうキャラいますけど、僕ってほら、関西弁じゃないし、キャラ違いですよ。信用してください」
気がつけば、いつもの癖でそう言ってしまっていた。
「余計に信用できるか! 近づくんじゃねえ!」
「うわっ!?」
するとパンク系の男はそう言うと、右の手の平から炎を出してきた。僕の目の前の地面を、炎が焼く。
マ、マジか! 手品って威力じゃない! どう考えても、これがこいつの異能かよ!
その瞬間、何かのドッキリという僅かな希望が、打ち砕かれる。明らかに目の前のそれは、普通の現象ではなかった。
「は、ははは! すげぇ! やっぱり俺の異能、【消毒の炎】は本物だ!」
どうやらパンク系の男の異能は、【消毒の炎】というらしい。パンク系のファッションといい、もしかして世紀末のザコだろうか?
いや、そんなことを考えている場合じゃない。この状況は、普通に不味すぎる。
「どうせあれだろ? デスゲームってやつだろ? おめえも何か、異能を持っていやがるはずだ! それで俺に近づいて、裏切る魂胆だったんだろ! な、なら、やられる前にやってやるぜ!」
やばい。このままだと殺される。
ここにきて、急にデスゲームへの現実感が増していく。どこか僕は、夢見心地だっただったのかもしれない。
あんなあからさまにヤバそうなやつに声をかけるとか、いつもならすることはなかった。
逃げるか? いや、背を向けたらやられる気がする。ならここで、僕も異能を使うしかない。
僕の異能は、【吸収融合】だ。使い方は全く分からない。だけど、何かを吸収してそれと融合するというのは、名称から読み取れる。
先ほど部屋にいたときの予想が正しければ、手に持っている鉄の棒に発動できるかもしれない。
もしかしたら不可逆で取り返しのつかないことになるかもしれないけど、ここで使わなければ焼き殺される。
なら、一か八かだ。
僕は握っている鉄の棒に対して、【吸収融合】の発動を強く意識してみた。
「は?」
だがどういう訳か、何も起きない。
「吸収融合!」
言葉に出してみても、変化はない。
え? 嘘……だろ。
僕の【吸収融合】は、鉄の棒を対象に発動することはなかった。
「ぎゃはは! なんだその間抜け面はよぉ! その感じだと、てめえの異能は発動しなかったみてえだなぁ! ハズレ異能かよぉ! 笑えるぜぇ! おらっ! ハズレ野郎は消毒だぁ!」
「!?」
するとパンク系の男が笑いながら、手の平から炎を飛ばしてくる。幸いまだ相手も使い慣れていないのか、僕の方には当たらずに、その真横を通り過ぎていった。
やばいやばいやばい!
通り過ぎた炎の熱気を感じて、僕は命の危機だと強く実感する。あんなのが当たれば、焼き殺されるのは明白だった。
「ま、待ってくれ! 敵対する気はない! 見逃してくれ! 先ほどドアから出るときに使ったけど、90エン持っている。それを出すから、殺さないでくれ!」
情けなくも僕は、命乞いをしてしまう。だけど異能が役に立たない以上、こうするしか生きる道はなかった。
「ぎゃはは! 騙されるかよぉ! 俺は知ってるんだぜ! こういうデスゲームはよぉ、油断した瞬間に逆転されるってことをなぁ! 昨日web漫画で、デスゲームものを見たばかりだぜぇ!」
「なっ!?」
そんな見た目で、普通にweb漫画を読んでいるのかよ! しかもデスゲームものを読んだばかりとか、最悪だ。
パンク系の男は警戒心が高く、決して僕の言葉を信用することはなかった。
このままだと、本当に殺される。
先ほどの炎の勢いからして、おそらく逃げられない。逃げれば背後から、そのまま焼かれてしまうだろう。
避けるのも無理だ。炎があっという間に僕の横を通り過ぎたのを、さきほど目にしたばかりである。
【吸収融合】は使い方が分からないし、僕は何かの武術の達人でもない。運動神経は平均以上だけど、それだけだ。どこにでもいる、普通の高校生。それが、僕だった。
終わった。なんで僕がこんな目に……。死にたくないなぁ……。
あまりの出来事に、僕は逆に落ち着き始めていた。世界がまるで、ゆっくりに感じる。
そしてパンク系の男が何かを言いながら、僕に右の手の平を向けた。もはや何を言っているのか、意識する気も起きない。
結局僕は、この裏切りそうな糸目の狐顔と、それを補強するような胡散臭い裏梨希望という名前。それによって、こんな結末を招いてしまったのだろう。
もう少し普通の顔立ちで、もう少し普通の名前なら、生き残る可能性があったのかもしれない。
そんなことを、つい脳内に思い浮かべてしまう。けど死の瞬間がくると思われたそのとき、驚くべき事態が発生する。
「は?」
パンク系の男の右太ももに、何かが張り付いていた。
それはピンク色のイモムシのような生き物であり、ムカデの足のような物が大量に生えている。
更に先端にはクワガタのようなアゴがあり、パンク男の右太ももを挟み込んでいた。
大きさは、二リットルのペットボトルを、一回り大きくしたくらいである。
どう考えても、普通の生き物ではない。
その生き物が現れたことで、一瞬の静寂が走る。
だが次の瞬間、自体は大きく動いた。
「な、なんだこ――ぎゃぁあ!!」
「なっ!?」
すると突然その生き物が、見る見るうちに肥大化していく。ピンク色の皮膚が伸ばされ、徐々に赤みを増していった。
もしかして、血を吸っているのか!?
「ぐあぁあ! 【消毒の炎】!」
パンク男は異能を使って、その生き物を燃やし尽くす。
「へへ、ざまぁみやが……」
だがその生き物は、一匹ではなかった。
見れば壁や床に、同じ生き物が数匹いたのである。音も無く忍び寄り、パンク系の男へと飛びついた。
「た、助けっ――!!」
謎の生き物はヤツメウナギのような歯でパンク系の男に噛みつき、中にはアリクイのような長い舌を、先ほど吸われてできた傷口に突き立てる個体もいたのである。
イモムシの体、ヤツメウナギの口、クワガタのアゴ、ムカデの足、アリクイの舌。そしてヒルのように血を吸うそれらを足したような生き物。まさしくそれは、クリーチャーと呼べる化け物だった。
僕は一瞬あまりの恐怖に動けなかったけど、すぐに気を取り戻して、その場に背を向けて駆けだす。
幸いあのクリーチャーたちは、パンク系の男に群がって僕のことなど眼中にはなかった。
もしかしたら、血に反応していたのかもしれない。
最初の一匹が偶然だとしても、その後は血に反応して、パンク系の男に群がっているようにも見えた。
あんな一度に血を吸われれば、意識を保つこともできないかもしれない。その後は、死ぬまで血を吸われることになるだろう。
僕は、そんな死に方は嫌だった。
デスゲームでは人間も危険だけど、それに襲い掛かるクリーチャーも無視はできそうにない。
だからこそ、信用できそうな味方を集めるべきなんだろうけど、果たしてそれが僕にできるだろうか?
デスゲームにおいて、裏切りそうな雰囲気というのは、あまりにも致命的だった。
「こんなの、あんまりだ……」
運よく生き延びたけど、僕はこの先無事に生きていけるイメージが、一切できそうにはない。
死にたくないなぁ。
この狂った状況から、どうにかして抜け出したかった。
それだけを思いながら、僕はあてもなく駆け続ける。
ルールもクリア方法も不明の中、僕のデスゲームは、こうして始まったのだった。
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