キメラフォックス ~デスゲームでクリーチャーに異能【吸収融合】を使い、人外となっていく狐顔~

乃神レンガ

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第一章

030 不穏が迫る

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 僕が探索している間に、仲間として引き入れたのだろうか?

 争っている様子はないし、友好的な人たちなのかもしれない。

 一応拠点に人が来て、争いになることも考えてはいた。強い異能を持っている者が来たら、瞬く間に奪われてしまうのではないのかとも。

 しかし二人と話し合った結果、僕はこうして探索に出たのである。僕自身も、二人なら任せられると思った。

 けど不安が無かったのかと言えば、嘘になる。拠点に現れた者たちが、まともな人間であることを祈るしかない。

 そんなことを思いつつ池を渡り、僕は両手に持った廃材と重くなったリュックサックを下ろす。

 今回は靴がれるのも構わず、池を突っ切った。後で体内に取り込めば、たぶん水と分離できるので問題ない。

「おかえりなさいッス! なんと裏梨君が探索に行っている間に、仲間が増えたッスよ!」

 するとそう言って、軽井沢さんが笑みを浮かべて近づいてきた。その後ろには、二人の女性がいる。

 一人目は金髪ショートで黒いスカジャンと白いシャツ、そしてジーンズ姿をした、二十代のヤンキー系の女性。

 鋭い瞳はどこか、獰猛どうもうな獣のような印象を受ける。

 夜のコンビニとかで遭遇したら、何となく警戒をしてしまうかもしれない。

 続いて二人目は細身で茶髪のお団子ヘアーをした、黒縁の眼鏡をかける三十代の女性だった。

 またクリーム色のズボンと、明るいミント色のシャツを着ている。どこかオシャレな感じがした。

 二人とも最初は笑顔だったけど、何やら僕の顔を見るとギョッとする。加えてなぜか僕の右腕に視線が集まっている気がした。

 なんだろう。すごく嫌な予感がする。

「こっちのヤンキーの姉ちゃんが金城初美きんじょうはつみさんで、こっちの女性が科賀里代しながさとよさんッス!」

 すると軽井沢さんがそう言って、二人を紹介してくれた。

「……どうも初めまして。裏梨希望うらなしのぞむです。異能は見ての通り、この右手の【黒手こくしゅ】という感じです。直接戦闘は得意です」

 僕は異能を【黒手】と偽る。ちなみにこれは、指山さんと軽井沢さんにも言っていた内容だった。話し合いの中で、とっさにそう言ってしまった感じである。

「よろしくな。あたいの異能は【身体強化】だ。殴り合いには自信がある」
科賀しながです。異能は【火吹き】で、口から火が吹けます。私はあまり戦いについては得意じゃないけど、家事全般は得意よ」

 二人は僕の異能を聞くと、それぞれ異能を教えてくれる。どちらも戦闘では、重宝しそうだった。

 また軽い挨拶が済むと、そこで軽井沢さんが再び口を開く。

「それとあともう一人、天橋小凪あまはしこなぎさんっていう、気の強そうな女子高生がいるッス! 今は指山さんと一緒に、付近を見回っている感じッスね!」

 どうやら、あともう一人いるらしい。けど、どうして指山さんは、一緒に拠点の外へと行ったのだろうか? その女子高生が一人で、不安になった? 

 いや、でも他の二人は戦闘系の異能なのに、なぜ会ったばかりの指山さんと女子高生を二人きりで行かせるだろうか?

 何よりいくら仲間に加えたからといって、あの指山さんが軽井沢さんを残していくだろうか?

 僕はどうにも、そこに引っ掛かりを覚えてしまう。

「そういえば、話は聞いてるぜ。一人で戦いながら、探索に行ってたみたいじゃないか? あたいは、そういう男を好ましく思うよ」
「!?」

 すると突然、金城さんが僕に肩を組んでくる。なんだか良い匂いと、大きな胸が体に当たってきた。高校生の僕には、刺激が強い。

「すごいわね。裏梨君みたいな強い男の子、おばさん息子に欲しいくらいだわ」

 加えて科賀さんが、僕のことをそう言って持ち上げてくる。

「裏梨君には、俺も何度も助けられたッス! 流石は裏梨君、女性にモテモテッスね!」

 更に軽井沢さんが、軽いノリで僕をほめたたえた。

 そうして周囲からチヤホヤされると、僕もいい気分に……なるはずがない。

 ……おかしい。何かがおかしい。この胸の底から湧き上がってくる、違和感の正体はなんだ?

 軽井沢さんは、確かに軽い乗りの人だ。けどここまで、安易に褒め称えるような人ではない気がする。チャラそうに見えて、意外と真面目な人なのだ。
 
 まだ僅かな間しか関わっていないけど、そのことを知っていた。

 そうした違和感と不安から、僕はあることを思う。

 もしかして、何か異能の影響を受けているのか? この二人の口にした異能は、僕と同じで偽りだったのではないだろうか?

 異能を素直に言うとは、限らない。僕だって【吸収融合】を【黒手】と偽ったのだ。相手も偽っている可能性は、十分にあるだろう。

 だとすれば軽井沢さんの態度に違和感があり、指山さんが安易に拠点を離れた理由にもそれは繋がる。

 何かしらの異能によって操られているのであれば、この違和感の正体にも納得ができた。

 そう思った瞬間、僕は金城さんの腕から抜け出して、その場から少し距離を取る。

「なんだい? もしかして恥ずかしくなったのか? 可愛いところがあるじゃないか。そういう初心うぶなところも、あたいは嫌いじゃないぜ」
「真面目そうね。おばさんも、そういうところは好ましく思うわ」

 それにこうして持ち上げてくるのは、僕を油断させて、その隙をうかがっているような気がしてならない。

 指山さんと軽井沢さんも、そうして隙を突かれたのだろうか? あとは出会ったときの視線。あれは最初から、僕の情報を知っていた可能性がある。 

 顔と右腕を交互に見てきたのは、おそらくこの特徴的な狐顔と、虫のクリーチャーの右腕を知っていたのだろう。

 あの驚き方は、初めて会った人にするような感じではない。一瞬の表情だったけど、僕はそれがとても印象に残っている。

 実際正体がバレたのかは分からないけど、怪しまれている可能性があった。

 おそらく事前に指山さんと軽井沢さんから、僕について話を聞いていたのだろう。

 知っている姿と、聞いた姿が微妙に違ったのだろうけど、狐顔や服装などその類似点は多い。怪しむ理由には、十分だったと思われる。

 そして僕と実際に会ったことで、その疑いは増したのだろう。

 もしかしたらそれがあるからこそ、こうして探りにきているのかもしれない。

 なによりそもそもとして、僕の右腕の情報を知っている者は、限られていた。それこそ生きている者では、一人しかいない。

 なるほど。ここであの光の矢を放った少女が、関わってくるのか。

 そう、あのとき逃がしてしまった少女しか、それを知る者はいないのである。

 だとしたら今指山さんと共にいる人物こそ、あの少女に違いないだろう。

 僕はその答えに辿り着いたことで、同時にあせりの感情が湧き上がってきた。

 最悪だ。どう考えても状況は、危機的状況にある。

 指山さんと軽井沢さんに異常が起きており、潜在的な敵が三人。どう考えてもこのままだと、戦闘は不可避だった。

 この二人はまだ僕と会ったばかりだから、確信に至ってはいない。けどもう一人の少女は、そうではないだろう。

 たとえ右腕の見た目と髪の色が変わっていても、僕の顔を見れば本人だと気づかれる。

 あのとき僕に敵愾心てきがいしんを持ったのは、確実だろう。捨て台詞も吐いていたし、出会えば争いになることは間違いない。

 ならどうにかして、まずはこの状況から抜け出す必要がある。

 けど、そう思ったときだった。

 不運というものは続くようであり、その少女、天橋小凪あまはしこなぎが戻って来てしまう。

「今戻ったわよ! あれ? 本当に灰色? ……探索に行っていた人が戻ってきているのね。今池を渡るから、待っていて」

 チラリと背後を一瞬だけ見れば、間違いなくあのときの少女だった。今は僕の背中しか見えないからか、バレてはいないようである。けど僕だと発覚するのも、時間の問題だろう。

 考えろ。考えろ。何かこの状況を、くつがえす一手を考えるんだ。

 しかしあせりや不安が強く、思考がまとまらない。漫画の主人公のように、的確な方法を瞬時に思いつけるはずがなかった。

 そうして天橋という少女と、指山さんが池を渡ってくる。

 加えて警戒しているのか、靴を脱いでいる様子はない。指山さんにも、靴のまま池に入らせているようだった。

 やっぱり、事前に情報は得ているよな。少なくとも狐顔というだけで、疑っていたのは間違いない。

 ならここで別人の振りをするのは、難しいだろう。戦うべきか、逃げるべきか。結局は、この二つになる。

 僕はこの瞬間に、大きな決断をしなければいけない。どちらを選んでも、きっと面倒なことになるだろう。

 いったい、どうすればいい?

 思考が頭の中で、ぐるぐると巡っていく。選択をするには、時間も、心の落ち着きすらも足りない。

 けれどもそのときだった。指山さんが不意に喉から無理やり声を出して、このように叫ぶ。

「ニ、ニゲロ!!」
「!?」

 それは確かに、『逃げろ』という言葉に他ならない。

 その瞬間、僕の思考はそれで定まり、全力でその場から離脱することを決めたのだった。

 だがその言葉を聞いたのは、僕だけではない。

「ちっ、異能や他のことについて、もっと直接聞くはずだったのによ! おらっ! タイマン発動だ!」
「なっ!?」

 すると金城さん、いや金城がそう言った途端、僕の足が止まり、体がかってに金城と向き合う。

 加えてなぜか直感的に、あることを理解してしまった。

 それは逃げられない。一対一でどちらかが倒れるか負けを認めるまで、戦わなければいけないということだった。

 くそっ、これが偽っていた本当の異能か!

 状況はより悪く、より危機に面してしまう。

 そして僕は逃げることもできずに、金城と戦うことを強いられるのであった。
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