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第一章
034 ボスクリーチャー
しおりを挟む「あ、あの化け物、まだ生きていたの!? 何で死んでないのよ!」
「天橋さん、化け物の相手は化け物にさせましょう! 今は逃げるべきです!」
「科賀の言う通りだ! 早くずらかるぞ!」
どうやら天橋も僕が生きていることに気づいたみたいだけど、そのまま退散するみたいだ。
ここで挟み撃ちにあったら不味かったし、そもそも協力してくれたとも思えない。だったら早いうちに消えてほしかった。
ボスクリーチャーを倒してから、天橋たちもという風に、欲を出さない方がいいだろう。
まずは確実に、目の前のボスクリーチャーを倒すことを考えなければいけない。余計なリソースを使いたくはなかった。
「キュルルル!」
「うわっ!」
するとボスクリーチャーが、口内にある無数の触手のような舌を伸ばしてくる。思った以上に長い。
虫のクリーチャー以上に、長く伸ばせるみたいだ。それに先端が尖っていて、とても危ない。
僕はなんとか回避しようとしたけど、流石に避け切れなかった。いくつかが体に突き刺さる。
「キュルッ!」
「ぐぁ!?」
そして血を吸うかのように、体液が吸われ始めた。痛覚がかなり鈍くなっていたのにもかかわらず、想像を絶する痛みが襲ってくる。
とっさに引き抜こうとしても、なかなか引き抜けない。一本一本がまるで生きているかのように、抵抗してきた。
またその部分を灰色のスライムにしても、同様の結果に終わる。更に酸で溶かそうとしても、全く溶ける様子がなかった。
もしかしたらボスクリーチャーは、酸に耐性があるのかもしれない。
擬態クリーチャーを捕食するのであれば、持っていてもおかしくはない耐性だった。
このままだと……死ぬ。
だけど、そう思ったときだった。
途端に体中に力が漲り、突き刺さっていた舌を容易に抜くことができてしまう。
これは……!
その現象に、僕は心当たりがあった。これは間違いなく指山さんの異能、【物体強化】である。
ふと見れば、指山さんは軽井沢さんに上半身を抱えられていた。けどその下半身は、既に存在していない。
なぜなら近くに、その切り離された下半身が落ちていたからだ。
「裏梨君……勝って、生きてくれ……」
指山さんが力なくそう発した言葉を、僕の核が拾う。それと同時に、指山さんは息絶えるようにぐったりとして、僕に伸ばした手が地面へと落ちる。
最後の力を振り絞り、僕に異能を使ってくれたことを、その瞬間に理解した。
【物体強化】でギリギリ生存していたのに、無理して僕にも発動したことで、その命が尽きたのだろう。そう思わずにはいられない。
僕は悔しかった。指山さんは、初めてできた仲間である。
少し頑固なところはあったけれど、真面目で仲間想いの人物だった。片足を失っても、仲間のために率先して動いてくれていたのである。
昨日まで三人そろってデスゲームから抜け出そうって、そう夜に話し合った。
けどそれは、もう実行不可能だ。語り合った何もかもが、水泡に帰してしまったからである。
もう指山さんに息は無く、亡くなってしまった。軽井沢さんの悲痛の叫びが、ここまで届いてくる。
起き上がってから、僕は目を逸らしていた。指山さんが襲われたのを知っていたのにもかかわらず、怖くて見れなかったのだ。
しかしこうして実際に目にしたことで、僕の中で様々な思いがこみ上げてくる。
一人で探索に出た僕が、安易だったのだろうか? それとも、敵を殺さずに済ませたせいだろうか? いや、そもそもとして、ボスクリーチャーの存在を、もっと考えるべきだった。
戦いの最中にもかかわらず、僕はそう一瞬考え込んでしまう。
修復がもっと早ければ、ここを拠点にしなければ、そもそも僕が仲間にならなければ……。
どんどん、負の感情が湧き上がってくる。
しかしそんな中でも一番許せないことだけは、何よりも理解していた。
だからここで、僕は思考の海から這い上がる。自己嫌悪やたらればを考えるのは、今じゃない。
故に僕は目の前の存在に右手の指先を向けて、こう言い放った。
「お前だ。お前が、指山さんを殺したんだ」
「キュルルル」
そう言って僕はボスクリーチャーを睨みつけ、言葉を続ける。
「どんな手を使ってでも、確実にお前を殺す」
「キュル!?」
するとその瞬間、僕はその場から跳躍した。指山さんの【物体強化】により、体は羽のように軽い。
探索中に効果が切れていた【物体強化】は、ここから一時間は切れずに効果が続く。倒すまでには、十分過ぎる時間だった。
そうしてボスクリーチャーの背に僕は立つと、両足を灰色のスライムにして張り付く。
「喰らえ!」
続けてそこに、右腕のアゴを背中に強く突き刺した。
「キュルルル!!」
当然ボスクリーチャーは暴れるけど、僕が振り落とされることはない。そのために、両足のスライムで張り付いているのだ。
また無数の触手のような舌が伸びて来るけど、僕も右手の平から舌を伸ばし、まとめてその途中から縛り上げる。
ボスクリーチャーの舌は単調にほぼひとまとまりに向かってきたので、絡め取るのは簡単だった。
一応他にも舌は残っているみたいだけど、長く伸ばせる舌の数は限られているらしい。なので、ここまで届くことはなかった。
それに【物体強化】によって、僕の右手の平の舌は負けずに均衡を保っている。ただ長くは持たない気がしたので、決着は早急につける必要があった。
僕はボスクリーチャーの舌を自身に届かせないように踏ん張りながら、引き続き何度もアゴを突き刺していく。
「ギュルルッ!!」
それによってピンク色の体液が撒き散らされ、ボスクリーチャーは先ほどよりも当然暴れ回る。
ひっくり返られたら終わりだけど、ボスクリーチャーにそこまでの知能はないらしい。
イモムシのような胴体を、激しく波のように曲げたり伸ばしたりしながら、池の中を駆けずり回る。
けれどもそれに対して、僕は全く振り落とされることはない。なぜならば突き刺した箇所は複数あり、そこからスライムを新たに侵入させていたからである。
スライムが内部で踏ん張ることにより、より安定性が増した感じだ。
また突き刺した穴のうちの一つに、大事な僕の核を移動させた。
これは一見意味の無いようなことに思えるかもしれないけど、次の瞬間、それが僕を救うことになる。
ボスクリーチャーは知能は低くとも、本能的に背中の僕をどうにかするため、その場で回転し始めた。
もし核を移動させていなければ、そのまま核を潰されていた可能性がある。
核さえ守り通せば、僕が死ぬことはおそらくない。実際体は潰されたけど、意識はしっかりとあった。
加えてボスクリーチャーの体はブヨブヨしており、それがクッションになったのか、そこまで致命傷は受けていない。
修復する必要などなく、すぐに復帰することができた。
そして内部にスライムを侵入させた理由は、ほかにもある。外側は酸に耐性があっても、内側はそうではないと思ったからだ。
また仮に耐性があるとしても、それは胃袋までだろう。
なので既にスライムが傷口から侵入を果たしている以上、ここからは時間との勝負だった。
「外側には酸耐性があっても、内側はそうとは限らないはずだよな!」
「ギュルルルルル!!??」
僕はそう言うと、侵入させたスライムたちに消化液を出すように命じる。すると面白いくらいに、それは良く効いた。
ボスクリーチャーの内側から、その肉体を少しずつ溶かしていく。
僕はその度に吸収して、先ほど吸われた分を核から生成し直した。ダメージもこれで完治し、エネルギーも満タンである。
加えて闘牛のように暴れるボスクリーチャーだけど、ハサミの届かない範囲なら、それも脅威にはならない。
また唯一届く長い触手のような舌も封じられてしまえば、もうそれはでかいだけの、ただのイモムシだった。
そしてボスクリーチャーがいよいよ弱ってくると、僕は今ならいけると本能的に、確信をしてしまう。
もはや自分が人間でなくなることなど、今は全く気にもしていなかった。
とにかく力が欲しい、どのような事態でも覆せるような、そんな力を求めたのである。
だからこそ僕は、その異能を発動したのだった。
「吸収融合!」
「――ッ!?」
その瞬間、ボスクリーチャーの体が僕に吸い込まれていく。そしてあっという間に綺麗さっぱり消えてしまうと、融合が開始され始めた。
「うぐっ!?」
しかしこれまでとは違い、強く、大きく、そして凶暴な力である。加えて相手はボスクリーチャーと言えるくらいには、大物だ。
それに対して【吸収融合】を発動すれば、これまでとは違って即座に反映されなくても、なんら不思議ではない。
「や、やったッス! 裏梨君が勝ったッス! グエッ!?」
「少し黙ってくださいね。あなたには今後、私たちの役に立ってもらいます」
すると軽井沢さんの側に、あの三人組がいた。非戦闘員の軽井沢さんは、あっという間に捕まってしまう。
「なあ、今ならあの化け物、倒せるんじゃねえか? 少しは疲労しているはずだしよ」
「悔しいけど、今は無理ね。あいつの異能は普通じゃないわ。ここは一先ず、退散をするべきね。
何より私達には、もっと手駒と力が必要だわ。それに私の異能である【天使の卵】を今以上に成長させれば、きっとあの化け物も楽に倒せるようになるはずよ」
そう言って僕のことを睨むと、三人は軽井沢さんを拉致してその場から逃げ去っていく。
「ま、待て……」
しかしそんな僕の言葉が届くことはなく、軽井沢さんはそのまま連れさられてしまった。
くそっ、ボスクリーチャーに勝ったのに……でも、これで終わりだとは思うなよ。
僕は三人に対して、強い憤りを覚える。
漁夫の利でトロフィーを奪われたような、そんな感覚に襲われた。
しかし、悪いことばかりではない。
三人は僕の異能を完全には理解していなかったようで、時間があれば倒せると判断したようである。
だけどそれは全くの見当違いであり、致命的な愚策となっただろう。
あの三人は僕に時間を与えたことを、いずれ後悔することになるはずだ。
僕は今後、更にクリーチャーに【吸収融合】を使っていき、より強大な存在になっていくだろう。
そのとき後悔しても、もう遅い。
軽井沢さんは、いつか絶対に助け出してみせる。
そうしてボスクリーチャーに【吸収融合】を使った影響なのか、僕の意識は途絶え始め、池の中へと倒れ込んでしまう。
だけどそのとき最後に見たのは、僕のスマートウォッチに映し出されていたある内容である。
そこには【第一フェーズ終了】という文字が、大きく表示されていたのだった。
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