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第十二章
416 ハンスとの話し合い
しおりを挟むすると早速ハンスは、俺にまず結論から言ってくる。
「俺とお前は過去に色々あったが、それは忘れよう。ジン、俺と手を組まないか?」
(俺の手駒になれ!)
「は?」
どうやらハンスは俺と手を組むと口にしたが、心の中では手駒にしたいらしい。
それと過去に色々あったと言うが、俺に対して一方的にハンスが突っかかってきただけなのだが。
まあどちらにしても、ハンスと組むのはあり得ない。
すると俺が内容を理解していないと思ったのか、ハンスが詳しい内容を話し始める。
「まあいきなり言われても、戸惑うのも無理はない。だがよく考えてみろ、俺はあのジンジフレ様に認められて、Bランクモンスターを与えられた男だぞ? この意味、わかるよな?」
(気づけよ間抜け! 俺の方が格上なんだよ!)
「そうか……」
ハンスは昔と違って言葉遣いは一見おとなしいが、心の中は昔と変わらないようだった。
とりあえず心の声に反応したら不味いし、ここは気づかない振りをして、ハンスの目的を聞くことにしよう。
俺はそう考えて、少しの間は曖昧な返事をすることにした。
「そういうことだ。お前の方が先に目をつけてもらっていたみたいだが、悪いが諦めてくれ。だがお前の力はかなり俺とは違うみたいだし、俺と組めばそれをより活かしてやれる」
(お前はサーヴァントの数が多いが、ザコばかりだ。しかし他人にサーヴァントを譲渡できるというネタは、既に上がっている。いずれは、全部むしり取ってやるぜ!)
なるほど。どういう訳か、俺がカードを他人に譲渡できることを知っているらしい。
もしかして、エーゲルたちから聞いたのだろうか? そのあたりのことが、気になるな。
それと昨日俺がCランクモンスターである、ソイルセンチピートを使った情報はまだ届いていないらしい。
まあ夜は家族と食事で、朝は寝坊後にすぐ俺と話す形になっているからな。偶然耳に入らなかったのだろう。
俺はそう思いつつ、とりあえず言葉で思考を誘導することにした。
「活かすも何も前提として、ハンスは俺の特別な力とやらについて、どれくらい知っているんだ?」
「は? サーヴァントの数が多いのと、他人に譲渡できるということだろ? お前の情報は、俺には筒抜けだ」
(あの時ブンとかいうデブが、間抜けにも俺を同類と勘違いして、お前がカードを譲渡できることを教えてくれたんだがな)
そういうことか。時期は不明なものの、ベックの仲間であるブンが、口を滑らせてしまったらしい。
確かハンスは以前エーゲルたちのパーティにもいたみたいだし、そのエーゲルたちにも俺はカードを与えていた。
なのでハンスもそのうちの一人だと、何らかの形で出会ったブンは、勘違いしてしまったのだろう。
それにハンスも一応俺と関わったことはあるし、そのときの話題にもついていけたことが、勘違いの要因の一つになっていたのかもしれない。
これはブンが勘違いしてしまったのも、まあ仕方がないだろう。
「なるほど。良く調べているな。それじゃあ次は、ハンスがどのようにして選ばれたのか、最初から教えてくれ。ここまで成り上がったのも、そこにあるんだろ?」
「ほほぅ。気になるか? 気になるのか? 俺がどのようにして、ジンジフレ様に選ばれて、この町の頂点に立ったのかがよぉ?」
(やっぱり気になるのか。この俺の伝説をよぉ! 仕方ねぇなぁ!)
「あ、ああ……」
俺がそのことに触れると、ハンスは待ってましたと言うばかりに、嬉しそうにそう答える。
ハプンが言っていた通り、自分の成り上がりエピソードを自分自身で話すのが、ハンスは好きらしい。
「まず俺は、お前があの時に消えたあと――」
そこからハンスの話は長かった。俺が当時関わるのが嫌で消えたあの時点からのエピソードを、長々と語り始めたのである。
内容は概ね愚痴と自慢話が大半であり、どうでもいいものばかりだった。それに誇張された内容や、自身の功績を増やすような嘘に加えて、他人の評価を貶めるような虚実を平気で口にしていたのである。
しかしハンスの心の声は駄々漏れだったので、俺はハンスの成り上がりエピソードの真実を、どうにか知ることができた。
結果としてハンスの成り上がりエピソードをまとめると、以下の通りとなる。
1.俺が消えた後は冒険者業を休業して、ハンスはハプンの行商の手伝いをする。
2.エーゲルとランジの活躍を知り、またグレイウルフを使役していることを知る。それによる妬みと怒りから、冒険者業を再開する。
3.結局うだつが上がらずに腐り始めていたところ、エーゲルとランジと偶然再会して、無理やりパーティへと転がり込む。
(俺を出しに低姿勢で土下座をしてお願いし、もし断ったら俺について、あることないこと言うかもしれないと実質脅しをした)
4.エーゲルとランジのパーティに入り、しばくは雑用などもしつつ、ある程度は真面目に頑張った。
(二人の活躍の秘訣であるグレイウルフについて、情報を訊き出そうとしていたため)
5.セマカの町のダンジョン騒動に駆け付けた際に、ベックたちと出会う。そこでエーゲルたちとベックたちは、俺という共通点から意気投合する。
(このときにブンから、俺にカードを譲渡してもらったという情報をハンスは得る)
6.ダンジョン騒動終結後、俺がいなければグレイウルフが手に入らないという事実に絶望して、パーティを抜けてセマカの町にハンスが留まる。
7.この時にハンスは激しい嫉妬や怒り、欲望から、都合の良い妄想をし始める。また危ない薬にも手を出して、現実逃避もしていた。
結果としてハンスの妄想が生み出した神のような存在に、ハンスはカードをくれと縋り続ける。するとある日その願いが奇跡的に叶ってしまい、ハンスは信仰スキルを手にしてしまう。
8.そしてBランクモンスターのサーヴァントを手に入れたハンスは、セマカの町のダンジョンで無双する。それにより金も稼ぎ、羽振りが良くなる。また調子に乗り、精神も安定し始めた。
9.結果として様々な人からチヤホヤされ、酒の席でうっかりサーヴァントやジンジフレのことをハンスは話してしまう。
(この時は既に信仰スキルの効果から、サーヴァントやジンジフレの名前を知っていた。ハンスは鑑定のスキルを持っていたので、自身でも鑑定することができた感じである)
10.しかしそれからしばらくして、気がつけばジンジフレのことが町中に広まっており、中には信仰スキルに目覚めた者が現れ始めていた。
11.焦ったハンスは、これをわざと人々のために流布したのだと方向転換して、それを隠していたエーゲルたちを悪者にすることに決める。
12.結果として事あるごとに運良く物事が進み、とんとん拍子にハンスは成り上がっていった。
13.そうしてここまでの地位を築き上げたある日のこと、またしても運良く俺がセマカの町に現れたのである。
以上がざっくりとした、ハンスの成り上がりエピソードという感じだった。
まさか危ない薬を使った妄想が、俺への信仰に至るとは、流石に予想外である。
ハンスの他責思考と妄想力、そして状況が上手い具合に噛み合った結果なのだろう。
特にカードを手に入れることを強く願ったことが、名前を知らずとも俺への信仰に繋がったのかもしれない。
あるいは俺とハンスに、一応あんな過去でも関わりがあったからだろうか?
とりあえずハンスのような状態からでも、信仰スキルを得てしまう例を知れたのは、ある意味では収穫かもしれない。
そしてハンスは他にも事あるごとに、運良く成功を掴んでいたようだ。
しかしこれについては、ある程度のカラクリがあった。といってもハンスのサーヴァントが、運に関連するスキルを所持しているからである。
またダンジョンを攻略した際に、運を上げるアイテムもハンスは手にしたようだった。つまりハンスの運は、そうした要因から底上げされていたのである。
加えて最初からハンスは、悪運も強かった。このことも、それに影響しているのだろう。
そしてここまで上手く成り上がれば、ハンスがジンジフレ、つまり俺に選ばれたと勘違いしても、まあ仕方がないのかもしれない。
ちなみに使徒だと以前から言っていたのは、ハンスが勝手にそう思っているだけだった。
それとここまでの内容をハンスから聞いている途中で、実は一つ面倒なことが起きたのである。
まさか過去のエピソードを思い出しているうちに、俺を恨み始めるとは……。
そう。ハンスはそもそも俺がカードを譲渡しなかったことに対して、話の途中から思い出したかのように、憤り始めたのである。
一応表面上は先ほどと変わらないようにしているみたいだが、心の中では俺への罵声が始まっていた。
やはりハンスは昔と変わらない。いや、昔以上に面倒な性格になっており、色々と悪化している。
「そう言うわけで俺とお前がこうして再会したのは、ジンジフレ様の思し召しに違いない。だから、俺に従え」
(利用して使い潰したら、始末しよう。汚いおっさん共に犯させて命乞いをさせた後に、刻んでモンスターの餌にしてやる)
もはやハンスの心の中では、俺を利用した後に酷い目に遭わせて、殺す算段をしているようだった。流石にそれは、ライン越えである。
町一つに信仰を広げたことは偶然だとしても、ある意味評価していたのだがな……。
この瞬間ハンスは最悪の不運を自らの愚かさにより、こうして引き寄せてしまうことになるのだった。
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