236 / 535
第六章
231 幻億の導き ⑤
しおりを挟む
新米魔王という言葉に、俺は心の中で驚いた。
すると偽アルハイドがそれを隙と見なしたのか、こちらへ突貫してくる。
凄まじい速度であり、斬りかかってくる剣に双骨牙を合わせるのがやっとだった。
「ひひゃ! すげぇな~。これを普通に受けるのか~」
「くっ!」
デミゴッドの身体能力に迫るものを感じながらも、なんとか押し返して距離をとる。
対して偽アルハイドは、楽しそうに笑みを浮かべていた。
くそっ、見た目こそ人族のアルハイドだが、中身は完全に別物という訳か。
明らかに、人族が出せる力を逸脱していた。
それか、相当効果の高いスキルを所持している可能性がある。
俺はそう考えると、次に鑑定を飛ばした。
しかし鑑定は簡単に弾かれ、いくら魔力を込めても手ごたえがない。
「ひゃは! ざんね~ん! 俺様のスキルを覗き見したいみたいだが、無駄だぜ~。俺様、その辺りのスペシャリストだからなぁ~。
でもよ~。見ようとしたことは事実だし、俺様にも見せろよ~。さっきと違って、これは確実に通るぜ~」
「っ!?」
すると一瞬にして、鑑定された感覚が体を駆け巡った。
超級鑑定妨害があるのにもかかわらず、ステータスを覗かれてしまう。
「……ひ、ひひゃひゃひゃ! そういうことか、俺様がお前の魂を読み取れなかったのは、神授スキルとかいう、ふざけたスキルを持っているからかよぉ~。
しかも種族がデミゴッドに加えて優秀なスキル、そしてよく分からない称号とかよぉ~。お前、絶対神の使徒じゃんかよぉ!」
偽アルハイドは下品な笑い声を上げながら、嬉しそうに左手の平を額に当てて天を仰ぐ。
だがそれも途端にピタリと止めると、俺を睨んでこう言った。
「でもよ~。これは厄介過ぎるだろぉ。だってお前、俺様を殺せる可能性がありそうじゃんかぁ~。
それによ~。ここは幻の世界で何が起ころうとも、未来の俺様は知ることができないときたぁ。つまり最悪俺様が負けたら、情報だけ奪われるってことじゃんかよ~」
偽アルハイドはそう判断をしたのか、驚くことに剣をしまってしまう。
「!? 何のつもりだ!」
俺がそう叫ぶが、偽アルハイドはニヤニヤするだけで何も言わない。
しかし明らかに、これ以上俺と戦う気がなさそうだった。
どうする? こちらから攻撃を仕掛けて、無理やりでも戦うか?
視線をずらすと、レフとリーフェは女王を安全なところに運び終わっていた。
これは先に意思疎通をしていた通りであり、今ならば大技も可能だろう。
相手は生半可な相手ではない、一気に畳み掛けるべきだ。
そう判断を下した俺は、カオスアーマーを発動する。
更に精鋭配下であるネームドたちと、Aランクのモンスターを三体召喚した。
その三体は、スパークタイガー、ボーンドラゴン、そして新たに名付けたバーニングライノスのグライスだ。
種族:バーニングライノス (グライス)
種族特性
【火地無属性適性】【火地属性耐性(大)】
【炎弾連射】【大噴火】【物理耐性(大)】
【チャージ】【ホーミング】【気配感知】
過剰戦力な気もするが、構わない。
これでもダメなら、ゲヘナデモクレスを召喚せざるを得ないだろう。
そしてこの中で最初に攻撃したのは、ジョンだった。
魔銃召喚で魔導ライフル銃を呼び出すと、先制の一射を飛ばす。
「クイックショットッス!」
だがその攻撃は、驚くことに偽アルハイドを素通りしてしまう。
続けて他の配下たちも攻撃を加えるが、全て透過していった。
攻撃が全く通じない。どういうことだ?
俺がその状況に困惑していると、偽アルハイドがようやく口を開く。
「無駄だぜ~。もうこの幻は消えるからよぉ。そろそろ夢から覚める時間だぜぇ~。俺様の情報は、簡単には与えねぇ。傷口の浅い今の内に切り上げるのが、最適解だぁ~。
でもよ~。それにしても、驚きだぁ。すげえなぁ。まさか、魔王の卵を従えているとか、反則だろぉ~」
すると偽アルハイドは、グインを指さしてそう言った。
「魔王の卵だと?」
俺がそう訊き返すと、偽アルハイドは一瞬迷ったような素振りを見せたが、笑みを浮かべながら語りだす。
「これについては、まぁいいか~。そいつ、イレギュラーモンスターだろぉ? イレギュラーモンスターってのはなぁ、世界のバグなんだぜぇ~。
大抵見つかり次第狩られちまうけどよぉ~。稀に超成長すると、俺様のような魔王になれる可能性があるってわけだぁ」
「なに!?」
それが本当であれば、驚きの事実である。
確かにイレギュラーモンスターには、【あらゆる隷属状況下でも、自由行動を可能とする】という効果があった。
もしかしたらこれ自体が、そのバグを引き起こす要因なのかもしれない。
思えば、イレギュラーモンスターという存在自体が異常だ。
ダンジョンについての知識をつけるほどに、そう思える。
だがそれでも、イレギュラーモンスターが魔王になるなど、聞いたことがなかった。
「信じられないみたいだなぁ? でもよ~。それも仕方が無いか~。魔王の席は決まってるしよぉ、大抵は魔王になれずに終わるんだよなぁ。たぶん席の数も少ないし、わざわざその秘密を言うやつもいないはずだよなぁ。
だが俺様はその点、本当に運がよかったぜぇ~。偶然出会った前任者が、欲しいものが無くなったとか言って、席を譲ってくれたんだからなぁ」
偽アルハイドが言う通りならば魔王というのはとても数が少なく、また成る為には前任者から譲られるか、もしくは奪うしかないのかもしれない。
そしてちょうど偽アルハイドの話が終わったころ、周囲から光の粒子が溢れ、全体が徐々に薄くなってくる。
どうやら、この幻の世界も終わってしまうようだ。
口惜しいが、これ以上何かできそうにはない。
俺がそう思った時だった。
偽アルハイドの口から赤い煙のようなものが飛び出すと、目にも留まらない速度でグインへと飛び、その体を通り抜けていく。
一見何の意味のなさそうな行為だが、俺の直感が警報を鳴らしていた。
よく分からないが、これは不味い!
すると俺の焦りが伝わったのか、偽アルハイド、いや赤い煙が笑い声を上げる。
煙の右手でこちらを指さし、黄一色の怪しく光る瞳を歪ませながら、大きな口を開いた。
「ひひゃひゃ! 俺様は単なる幻だけどよぉ、これでも魔王様だぁ。切っ掛けは与えられるんだぜぇ~。それをこの先見れないのが、とても残念だぁ。
でもよ~。これはきっと、面白いことになるぜぇ~。でもってこれを最後に――」
くっ、間に合わない!
思考を巡らせて対処法を考えようとするが、身体がやけに重い。
幻の世界が終わるせいなのか、それとも赤い煙が何かしたのかは、全くの不明だ。
誰でもいい、近くにいる者で動けるやつは、そいつを止めるんだ!
俺はとっさに、配下たちに命令を出した。
すると赤い煙がそう言って最後に何かをしようとした瞬間、そこで一匹だけ動く者がいた。
「え~い! フィアー!」
なんとそれは、リーフェである。
偶然かあるいは必然なのか、赤い煙の近くにいたリーフェが、スキル【フィアー】を発動させた。
そしてタイミング的に、赤い煙はそれを避けられない。
「は……? ぎゃあああああ!? ひぃいいい! 怖い怖いくぉわい! 寒いぃいい! 器ぁ! 俺様の器ぁ!」
するとフィアーを受けた赤い煙は、先ほどまでの余裕が嘘のように発狂しだす。
そして求めてやまない器とは、間違いなくアルハイドの体のことだろう。
俺はたとえこの幻の世界が消えるとしても、一矢報いたかった。
故にとっさに俺は、ストレージのスキルをダメもとで発動する。
「なぁあ!? カエセヨォ! オレサマノ! ウツワァ!」
「ははっ、誰が返すか!」
「キサマァ! コロス!」
結果的に物と判定されたのか、アルハイドの体は無事に収納できた。
それを見た赤い煙は、もはや言葉すらもぎこちないカタコト語になる。
「えいえい~! フィアー! フィアー! フィアー!」
「ギャアアッ!? フザケルナァ! ユルサナイ! ユルサナイ! ミライノオレサマハ、イマヨリモ、ズットツヨイ! キサマラテイドガ、ゼッタイニ、カテルモノカァ!」
すると最後、リーフェのフィアーを連続で受けた赤い煙がそう言うのと同時に、幻の世界は真っ白に包まれた。
そして気がつくと俺は、現実世界へと戻ってくる。
場所は冒険者ギルドではなく、女王の間だった。
周囲にいるのは召喚した配下たちだけであり、女王や赤い煙はいない。
一応カード化を発動してみるが、反応は無かった。
また感知系スキルなどの反応も、皆無である。
どうやら幻憶のメダルによる導きは、ここまでのようだ。
見ればメダルは、真っ二つに割れている。
おそらくもう、幻の世界に行くことはできないだろう。
とりあえず今は、このままメダルをポケットにしまっておく。
にしても、色々と凄い事実を知ってしまったな。
女王の過去はもちろんのこと、イレギュラーモンスターが魔王の卵であることもそうだ。
そしてこの大陸を支配しているのは、どう考えてもあの赤い煙だろう。
また最後に何かしようとしたみたいだが、ギリギリのところでリーフェが止めてくれた。
あれはまさに、見事なファインプレーと言える。
時間ができた時に、トーンシロップや他に甘いものをやることにしよう。
そして一応、グインに異常が無いか訊いてみる。
「グイン、身体に何か異常はないか?」
「グオォ」
「そうか。ならいいが、異変を感じたら必ず知らせてくれ」
「グォ」
特に何も感じていないみたいなので、とりあえずは様子見をするしかない。
ステータスも確認してみたが、こちらにも異常はなさそうだ。
であればもう安全そうなので、カオスアーマーを解除すると、俺はレフを除く配下たちをカードへと戻した。
「ん? これは……まあそれだけの経験になったということか」
見れば、リーフェのカードに進化の兆候が現れている。
進化には早いと一瞬思ったが、リーフェはこのところ経験を多く稼いでいた。
沼のダンジョンでは大量のペストモスキートを眠らせたし、キャリアンイーターにもフィアーの効果を通していた。
そして幻の世界ではオークの群れとも戦い、最後には自分を魔王と言っていたあの赤い煙を追い詰めている。
幻属性魔法はあの赤い煙の弱点みたいだったし、これは素直に嬉しい。
進化方法については、よく考えて行うことにしよう。
そうして一旦カードを異空間へとしまうと、何か異変を感じ取ったのか、そこへ女王たちが慌てたように駆けこんでくる。
「――! はぁ、やっぱりジン君だったのね。突然女王の間に大量の反応と共に現れるから、びっくりしたわよ」
「いきなり女王様が駆けだす故、何事かと思いましたぞ」
「ひぃひぃ、二人とも、速いよ……」
女王ならこの場所に直接転移できそうなものだが、そうとう焦っていたのか、そのまま走ってきたみたいだった。
後ろにはエンヴァーグもおり、ヴラシュも息を上げながらやってくる。
これは、ある程度説明をした方がよさそうだな。
だが俺がそう思うのと同時に、それは起きる。
俺のポケットから、二つに割れた幻憶のメダルが勢いよく飛び出して、宙に浮く。
そして瞬きもしないわずかな時間で、メダルは青白く鋭い光線を放つと、女王の胸をその光で貫いたのだった。
すると偽アルハイドがそれを隙と見なしたのか、こちらへ突貫してくる。
凄まじい速度であり、斬りかかってくる剣に双骨牙を合わせるのがやっとだった。
「ひひゃ! すげぇな~。これを普通に受けるのか~」
「くっ!」
デミゴッドの身体能力に迫るものを感じながらも、なんとか押し返して距離をとる。
対して偽アルハイドは、楽しそうに笑みを浮かべていた。
くそっ、見た目こそ人族のアルハイドだが、中身は完全に別物という訳か。
明らかに、人族が出せる力を逸脱していた。
それか、相当効果の高いスキルを所持している可能性がある。
俺はそう考えると、次に鑑定を飛ばした。
しかし鑑定は簡単に弾かれ、いくら魔力を込めても手ごたえがない。
「ひゃは! ざんね~ん! 俺様のスキルを覗き見したいみたいだが、無駄だぜ~。俺様、その辺りのスペシャリストだからなぁ~。
でもよ~。見ようとしたことは事実だし、俺様にも見せろよ~。さっきと違って、これは確実に通るぜ~」
「っ!?」
すると一瞬にして、鑑定された感覚が体を駆け巡った。
超級鑑定妨害があるのにもかかわらず、ステータスを覗かれてしまう。
「……ひ、ひひゃひゃひゃ! そういうことか、俺様がお前の魂を読み取れなかったのは、神授スキルとかいう、ふざけたスキルを持っているからかよぉ~。
しかも種族がデミゴッドに加えて優秀なスキル、そしてよく分からない称号とかよぉ~。お前、絶対神の使徒じゃんかよぉ!」
偽アルハイドは下品な笑い声を上げながら、嬉しそうに左手の平を額に当てて天を仰ぐ。
だがそれも途端にピタリと止めると、俺を睨んでこう言った。
「でもよ~。これは厄介過ぎるだろぉ。だってお前、俺様を殺せる可能性がありそうじゃんかぁ~。
それによ~。ここは幻の世界で何が起ころうとも、未来の俺様は知ることができないときたぁ。つまり最悪俺様が負けたら、情報だけ奪われるってことじゃんかよ~」
偽アルハイドはそう判断をしたのか、驚くことに剣をしまってしまう。
「!? 何のつもりだ!」
俺がそう叫ぶが、偽アルハイドはニヤニヤするだけで何も言わない。
しかし明らかに、これ以上俺と戦う気がなさそうだった。
どうする? こちらから攻撃を仕掛けて、無理やりでも戦うか?
視線をずらすと、レフとリーフェは女王を安全なところに運び終わっていた。
これは先に意思疎通をしていた通りであり、今ならば大技も可能だろう。
相手は生半可な相手ではない、一気に畳み掛けるべきだ。
そう判断を下した俺は、カオスアーマーを発動する。
更に精鋭配下であるネームドたちと、Aランクのモンスターを三体召喚した。
その三体は、スパークタイガー、ボーンドラゴン、そして新たに名付けたバーニングライノスのグライスだ。
種族:バーニングライノス (グライス)
種族特性
【火地無属性適性】【火地属性耐性(大)】
【炎弾連射】【大噴火】【物理耐性(大)】
【チャージ】【ホーミング】【気配感知】
過剰戦力な気もするが、構わない。
これでもダメなら、ゲヘナデモクレスを召喚せざるを得ないだろう。
そしてこの中で最初に攻撃したのは、ジョンだった。
魔銃召喚で魔導ライフル銃を呼び出すと、先制の一射を飛ばす。
「クイックショットッス!」
だがその攻撃は、驚くことに偽アルハイドを素通りしてしまう。
続けて他の配下たちも攻撃を加えるが、全て透過していった。
攻撃が全く通じない。どういうことだ?
俺がその状況に困惑していると、偽アルハイドがようやく口を開く。
「無駄だぜ~。もうこの幻は消えるからよぉ。そろそろ夢から覚める時間だぜぇ~。俺様の情報は、簡単には与えねぇ。傷口の浅い今の内に切り上げるのが、最適解だぁ~。
でもよ~。それにしても、驚きだぁ。すげえなぁ。まさか、魔王の卵を従えているとか、反則だろぉ~」
すると偽アルハイドは、グインを指さしてそう言った。
「魔王の卵だと?」
俺がそう訊き返すと、偽アルハイドは一瞬迷ったような素振りを見せたが、笑みを浮かべながら語りだす。
「これについては、まぁいいか~。そいつ、イレギュラーモンスターだろぉ? イレギュラーモンスターってのはなぁ、世界のバグなんだぜぇ~。
大抵見つかり次第狩られちまうけどよぉ~。稀に超成長すると、俺様のような魔王になれる可能性があるってわけだぁ」
「なに!?」
それが本当であれば、驚きの事実である。
確かにイレギュラーモンスターには、【あらゆる隷属状況下でも、自由行動を可能とする】という効果があった。
もしかしたらこれ自体が、そのバグを引き起こす要因なのかもしれない。
思えば、イレギュラーモンスターという存在自体が異常だ。
ダンジョンについての知識をつけるほどに、そう思える。
だがそれでも、イレギュラーモンスターが魔王になるなど、聞いたことがなかった。
「信じられないみたいだなぁ? でもよ~。それも仕方が無いか~。魔王の席は決まってるしよぉ、大抵は魔王になれずに終わるんだよなぁ。たぶん席の数も少ないし、わざわざその秘密を言うやつもいないはずだよなぁ。
だが俺様はその点、本当に運がよかったぜぇ~。偶然出会った前任者が、欲しいものが無くなったとか言って、席を譲ってくれたんだからなぁ」
偽アルハイドが言う通りならば魔王というのはとても数が少なく、また成る為には前任者から譲られるか、もしくは奪うしかないのかもしれない。
そしてちょうど偽アルハイドの話が終わったころ、周囲から光の粒子が溢れ、全体が徐々に薄くなってくる。
どうやら、この幻の世界も終わってしまうようだ。
口惜しいが、これ以上何かできそうにはない。
俺がそう思った時だった。
偽アルハイドの口から赤い煙のようなものが飛び出すと、目にも留まらない速度でグインへと飛び、その体を通り抜けていく。
一見何の意味のなさそうな行為だが、俺の直感が警報を鳴らしていた。
よく分からないが、これは不味い!
すると俺の焦りが伝わったのか、偽アルハイド、いや赤い煙が笑い声を上げる。
煙の右手でこちらを指さし、黄一色の怪しく光る瞳を歪ませながら、大きな口を開いた。
「ひひゃひゃ! 俺様は単なる幻だけどよぉ、これでも魔王様だぁ。切っ掛けは与えられるんだぜぇ~。それをこの先見れないのが、とても残念だぁ。
でもよ~。これはきっと、面白いことになるぜぇ~。でもってこれを最後に――」
くっ、間に合わない!
思考を巡らせて対処法を考えようとするが、身体がやけに重い。
幻の世界が終わるせいなのか、それとも赤い煙が何かしたのかは、全くの不明だ。
誰でもいい、近くにいる者で動けるやつは、そいつを止めるんだ!
俺はとっさに、配下たちに命令を出した。
すると赤い煙がそう言って最後に何かをしようとした瞬間、そこで一匹だけ動く者がいた。
「え~い! フィアー!」
なんとそれは、リーフェである。
偶然かあるいは必然なのか、赤い煙の近くにいたリーフェが、スキル【フィアー】を発動させた。
そしてタイミング的に、赤い煙はそれを避けられない。
「は……? ぎゃあああああ!? ひぃいいい! 怖い怖いくぉわい! 寒いぃいい! 器ぁ! 俺様の器ぁ!」
するとフィアーを受けた赤い煙は、先ほどまでの余裕が嘘のように発狂しだす。
そして求めてやまない器とは、間違いなくアルハイドの体のことだろう。
俺はたとえこの幻の世界が消えるとしても、一矢報いたかった。
故にとっさに俺は、ストレージのスキルをダメもとで発動する。
「なぁあ!? カエセヨォ! オレサマノ! ウツワァ!」
「ははっ、誰が返すか!」
「キサマァ! コロス!」
結果的に物と判定されたのか、アルハイドの体は無事に収納できた。
それを見た赤い煙は、もはや言葉すらもぎこちないカタコト語になる。
「えいえい~! フィアー! フィアー! フィアー!」
「ギャアアッ!? フザケルナァ! ユルサナイ! ユルサナイ! ミライノオレサマハ、イマヨリモ、ズットツヨイ! キサマラテイドガ、ゼッタイニ、カテルモノカァ!」
すると最後、リーフェのフィアーを連続で受けた赤い煙がそう言うのと同時に、幻の世界は真っ白に包まれた。
そして気がつくと俺は、現実世界へと戻ってくる。
場所は冒険者ギルドではなく、女王の間だった。
周囲にいるのは召喚した配下たちだけであり、女王や赤い煙はいない。
一応カード化を発動してみるが、反応は無かった。
また感知系スキルなどの反応も、皆無である。
どうやら幻憶のメダルによる導きは、ここまでのようだ。
見ればメダルは、真っ二つに割れている。
おそらくもう、幻の世界に行くことはできないだろう。
とりあえず今は、このままメダルをポケットにしまっておく。
にしても、色々と凄い事実を知ってしまったな。
女王の過去はもちろんのこと、イレギュラーモンスターが魔王の卵であることもそうだ。
そしてこの大陸を支配しているのは、どう考えてもあの赤い煙だろう。
また最後に何かしようとしたみたいだが、ギリギリのところでリーフェが止めてくれた。
あれはまさに、見事なファインプレーと言える。
時間ができた時に、トーンシロップや他に甘いものをやることにしよう。
そして一応、グインに異常が無いか訊いてみる。
「グイン、身体に何か異常はないか?」
「グオォ」
「そうか。ならいいが、異変を感じたら必ず知らせてくれ」
「グォ」
特に何も感じていないみたいなので、とりあえずは様子見をするしかない。
ステータスも確認してみたが、こちらにも異常はなさそうだ。
であればもう安全そうなので、カオスアーマーを解除すると、俺はレフを除く配下たちをカードへと戻した。
「ん? これは……まあそれだけの経験になったということか」
見れば、リーフェのカードに進化の兆候が現れている。
進化には早いと一瞬思ったが、リーフェはこのところ経験を多く稼いでいた。
沼のダンジョンでは大量のペストモスキートを眠らせたし、キャリアンイーターにもフィアーの効果を通していた。
そして幻の世界ではオークの群れとも戦い、最後には自分を魔王と言っていたあの赤い煙を追い詰めている。
幻属性魔法はあの赤い煙の弱点みたいだったし、これは素直に嬉しい。
進化方法については、よく考えて行うことにしよう。
そうして一旦カードを異空間へとしまうと、何か異変を感じ取ったのか、そこへ女王たちが慌てたように駆けこんでくる。
「――! はぁ、やっぱりジン君だったのね。突然女王の間に大量の反応と共に現れるから、びっくりしたわよ」
「いきなり女王様が駆けだす故、何事かと思いましたぞ」
「ひぃひぃ、二人とも、速いよ……」
女王ならこの場所に直接転移できそうなものだが、そうとう焦っていたのか、そのまま走ってきたみたいだった。
後ろにはエンヴァーグもおり、ヴラシュも息を上げながらやってくる。
これは、ある程度説明をした方がよさそうだな。
だが俺がそう思うのと同時に、それは起きる。
俺のポケットから、二つに割れた幻憶のメダルが勢いよく飛び出して、宙に浮く。
そして瞬きもしないわずかな時間で、メダルは青白く鋭い光線を放つと、女王の胸をその光で貫いたのだった。
174
あなたにおすすめの小説
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます
内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」
――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。
カクヨムにて先行連載中です!
(https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)
異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。
残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。
一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。
そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。
そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。
異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。
やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。
さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。
そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。
実家にガチャが来たそしてダンジョンが出来た ~スキルを沢山獲得してこの世界で最強になるようです~
仮実谷 望
ファンタジー
とあるサイトを眺めていると隠しリンクを踏んでしまう。主人公はそのサイトでガチャを廻してしまうとサイトからガチャが家に来た。突然の不可思議現象に戸惑うがすぐに納得する。そしてガチャから引いたダンジョンの芽がダンジョンになりダンジョンに入ることになる。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる