Reincarnation 〜TOKYO輪廻〜

心符

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15. 輻輳する脅威

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~東京お台場~

TERRAコーポレーションの高層ビルに併設された、大きなコンサートホール。

四季に合わせて、TERRAが主催のミュージックフェスが開催されていた。

大観衆の中、オープニングは主催者である、トーイ・ラブが務める。

ドームの天井からステージを使って、神秘的で壮大なプロジェクションマッピングが始まり、その天から、ラブが舞い降りて来る。

大歓声が湧き起こり、ステージに降りたった瞬間、派手な爆発花火。
そして、ドーム内を闇が包み込む。
静まり返る場内。

静かにピアノが流れ、小さな光が灯る。
ラブの指先がメインモニターに映る。

徐々にテンポがあがり、拍手がシンクロする。
真似出来ない超高速の演奏に歓声があがり、そのタイミングで消えた。

3秒後、爆音と花火演出の中、ラブが新曲『心譜』を歌い始める。

超ミニのセクシーなローショートパンツ。
そこから伸びる美しい脚の先は裸足である。
ハートと星が🌟煌めくアンクレット。
ヘソ出しキャミソールに、シースルーの羽織。

これがミュージックスターラブの、いつものスタイルである。

期待を裏切らない演出。
綺麗に澄み渡る唄声。

世界中から愛されるラブの一つの顔。

「こんにちわ、ラブです」

大歓声が応える。

「こ~んなにも沢山❣️本当にありがとうございます。今回も、素敵なアーティスト達が来てくれました。最後まで皆さん楽しんで行ってくださいね❣️」

続けて2曲歌い、次のアーティストに代わる。

舞台を後にしたタイミングで、アイの『声』。

(ラブ様、例の骨細工について、ネット購入者のリストが出来ました)

(アイ、富士本さんに送って、回収をお願いして。十分気を付ける様にと)

(了解しました)

「またまた派手なステージでございましたね。盛況でなによりでございます」

「ヴェロニカ、解析はどう?」

「回収済みの分と、先日の新宿での騒ぎの分、ソレを盗まれた骨から差し引いて、残りは200個程かと思われます」

「ネット通販分が約80個…まだまだね」

「但し、見つかっていないご遺体も考えられますから、まだ確信は持てませんわ」

(彼の死からもう1週間。なぜ何も?)

ラブの携帯が鳴る。

「ラブです。咲さん、珍しいですね」

「ラブさん、リストありがとね。助かるわ」

基本ストレートな彼女が、本題から話さないことに、その深刻さを知るラブ。

「問題みたいですね」

「ええ…かなりね」

「分かりました、すぐに行きます」

今警察が抱えている問題は2つ。
どちらにしろ、深刻な脅威には違いない。
嫌な予感が外れることを祈った。

これがラブのもう一つの顔である。
事件解決の影にラブがいることは、マスコミも分かっていたが、警察はそれを伏せ、世間も追及はしない。

(ラブ様、クリスター長官からです)

ヴェロニカを見る。
察した彼女が、専用通信機を渡しす。

「長官、やはり今回も同じでしたか…」

クリスター長官は、ラブが率いる機密組織EARTHを任せている人物である。

「君の予想通りだ。これからはNASAと共同調査になるが…」

「ナスカの真実を話さなきゃならないわね。長官、ティークに護衛をさせます。気をつけて」

通信を切る。

また、人口25万人の町が、一晩で無人と化したのであった。

(いったい…何がおきてるの?)

そしてこれが、ラブの裏の顔。
地球規模の敵と戦う最強の戦士である。

舞台は今正に、想定外の新しい局面に突入したのであった。




~警視庁凶悪犯罪対策本部~

華やかなフェスのすぐそばでは、富士本率いる刑事課の面々が、対策に追われていた。

入り口のドアが開き、ラブが到着。

「あっ……」

日本には、空いた口が塞がらないと言う諺《ことわざ》がある。
まさにそれが、これであった。

「ラ…ラブさん、その格好で?」
紗夜も呆然とした。

「すみません、急を要する様でしたので、ステージからそのまま来ちゃいました💦」

「写真いいですか?」

「昴!」咲の一喝。

「そ、そうでしたか💦」

「カシャ」

「淳❗️💢」紗夜の激喝。

「ま、まぁ急いで来てくれたんだ💦話を始めようじゃないか」

目のやり場に困る富士本であった。

「そうだぜ、さっさと始めろ」

「そ…そうね。始めましょ…って❗️なんであんたがいるのよ⁉️」

入り口に立つ、飛鳥神。

「あんたは部外者でしょ!だいたいヤクザの組長が、警察の会議に出るかって~の❗️」

「部外者…か。そうならいいんだが」

いつになく、真剣な眼差しに圧《お》される咲。

「こんなもんが届いてな」
神が赤い封筒をテーブルに投げた。

「こ…これは!」
富士本も赤い封筒を出した。

「同じもの…内容は?」

ラブが神を見る。
神がラブを見る…❤️

「お、おい💦何なんだその格好はラブ❣️」

遅っ💧

「\(//∇//)\ テヘっ♪」

ついアイドルスマイルしてしまうラブ💧

「神さん、いいじゃないですか」
コッソリ写真を収めた昴であった。

「アイドルが警視庁って変だろうが💦」

「警視庁に組長よりはマシじゃねえか?」
たま~に鋭いツッコミをする淳一。

「………」神&ラブ。

「同じ…内容だわ」
我関せずと紗夜が話を戻し、モニターに映す。

『Далее - столичное управление полиции.』

「次は…警視庁」
20ヶ国語以上を話せるラブが呟く。

「神、あんたロシア語分かったの?」

(こいつ…ちゃんとした言葉だったのか💦)

「分からねぇから来たんだ!」
ロシア人は人間じゃないと思った。

「だが、ヤバいモノってのは分かる」
修羅の世界で生きる、天性の勘である。

「ダリィェ、スタリッシネォプラブリッシニェパリィツシィ。シンプルですわね。つまり…飛鳥様が、警察と繋がってらっしゃることも、良く知っていると言うことでございます」

ヴェロニカの両親はロシア人であった。

「湾岸署を襲ったヤツだな」
T2も一緒に来ていた。

「アイ、アレを」

メインモニターに、湾岸署の一部始終を映した監視カメラ映像が流れる。



次々と、瞬く間に切り捨てられていく警官。
銃を抜く時間さえない。

「俺も現場で奴の諸行、その切り口を見た」

「酷い…誰一人容赦なく、迷いも…無い」
紗夜には、斬られ、死んでいく者達の無念と、その悲しみが、伝わって来る気がした。

「咲警部殿に依頼されて、分析したんだが…」

「全く…無駄がない…」
昴には、殺人鬼の動線がイメージできた。

「その通り。かなり腕の立つ暗殺者でも、こう簡単には出来ねぇ」

「建物内の構造や、人員を…知っていた」

「そう言うことだ、ラブ」

「警察内部に、協力者がいるってことね」
唇を噛み締める咲。

「甘いわね~まだまだ。次は警視庁でございます。きっと内通者は、警視庁内にいますわ」

誰も否定できない推測。
苦々しい沈黙が絶望感すら連れて来る。

「あのぅ…」

予期せぬ訪問者が、沈黙を解き放つ。

「安斎博士! 先日はご協力をありがとうございました。無事解決…とは言えませんが、おかげで、4件の事件は終結できました」

富士本が愛想良く、礼を言う。

「いえ、もっと早く結果が出せてたらと思うと、犠牲になられた方々に申し訳なくて」

「京極教授や滝川博士も亡くなり、心中御察し致します」

紗夜が軽く頭を下げる。

「もう私の役目は終わりましたので、最後にご挨拶にと思って参りました」

咲と富士本が目を合わす。

「安斎さん。もしよろしければ、もう少し力を貸していただけませんか?実はまだ終わってはいないのです」

「そうなんですか?あの4人は全員死亡したと聞きましたが…」

「もう一人いるのよ。それと、溝口の計画はまだ終わってないのよね」

「分かりました。お役に立てるかは分かりませんが、ぜひ協力させていただきます」

「では、また明日の対策会議でお待ちしております。紗夜、資料を」

「あ、はい」
慌てて準備する紗夜。

「安斎さん、これが溝口に関する資料と、湾岸署を襲撃した犯人の関連資料になります」

「では、持ち帰って、分析をしてみますので、今日はこれで」

「よろしく頼みます」

軽く会釈して、出て行った。

(さすが精神医学の権威ですね)
(そうね、全く心に乱れがない)
(ほんとね。大したものだわ)

昴、紗夜、ラブの『会話』である。

「紗夜、淳、昴、警視庁に勤務する全員のリストをお願い。分かる範囲で個人情報も」

「私は、奴の正体を調べてみます。アレは間違いなく、プロの殺し屋」

解散しようとした時、刑事課の電話が鳴った…



~千葉県浦安市~

国内最大のリゾート施設、東京ディズニー。
開演当初から人気の衰えない、スペース・マウンテンに並ぶ人の列。

彼もたまの家族サービスをと、妻と二人の子供を連れて並んでいた。

「懐かしいね、あなた」

「もう20年くらい前かな?」

二人の初デートで、最初に乗ったのがこれであり、苦手な拓磨は彼女の手前、強がった末に大絶叫して声が枯れたのであった。

「今日はやめてよね(笑)」

二人の子供は小学生ながら背が高く、楽々身長をクリアした。

目の前に、コースターが止まった。
先頭に子供たち、次に二人と座る。

「少々お待ちくださ~い♪」

係員が、メンテナンス用の通路に人の気配を感じたのである。

(いない。まぁ…いっか!)

「は~い!お待たせしました。スリリングな宇宙の旅へ行ってらっしゃ~い♪」

笑顔ながらも、バーを握る手に力が入る拓磨。
それを笑う妻。

暗闇に星が光り✨、勢いよくスタートした。
中盤撚りながら降下する先に、一瞬何かが光った気がした。

そこを境に叫び声が消えた。
最前列の子供は、怖さにうつむいていて、それに気づく余裕はない。

プラットホームへコースターが帰って来る。

「皆様、おつか……えっ?」

降車の為にコースターが止まる。

「キャぁあぁー⁉️」

係員が叫び、そちらを見た次の客達も絶叫する。
入り口の係員にまでそれは届いた。

(今日の客は、盛り上がってるなぁ)
と思った矢先。
非常事態を告げるランプが点滅した。

丁度その頃。
人気のスプラッシュマウンテンでも、非常事態ランプが光り、赤く染まった水が、その異常を物語っていた。



TERRAには、二人乗りのラブ専用機と、非常用の7人乗りのヘリがあり、千葉県警から通報を受け、空から現地へ向かった。

夢のリゾート施設は、今や悪夢のパニック状態に陥《おちい》り、警備員やスタッフが懸命に客を外へと誘導していた。

その流れの中を、白い彫り物を首に掛けた、少女が4人出て行った。
微笑みを浮かべながら…


「昴さん、そっちはどう?

「先頭車両の2人の子供以外は、全員首や頭部がありません。今係員と県警が、内部を調べているところです」

「ひでぇなあ、リゾート施設で殺人かよ」

「かわいそうにあの子たち」
悲しみと恐怖に、震え泣く子供を見つめる昴。

「…いったい誰が」
紗夜が呟く。

「この切り口は、ワイヤーだな」
わざと大声で喋るT2。

「それって、皮むき器にあるやつ?」
その心遣いを感じる紗夜。

「同じようなもんだが、この長さは簡単に手に入るもんじゃない。おそらくピアノ線だろう」

「そう言えば、ラブさんは?」

そこへ暗い中からラブが現れた。

「中へ?」

「私は、アクションスターって呼ばれてるからね、大丈夫。それより、見つけたわ」

差し出した掌には、白い小さな欠片があった。

「何か動物の脚…まさか!」

その時、紗夜の携帯が鳴った。



~山梨県富士吉田市~

咲の連絡で、ラブと紗夜がヘリで到着した。
富士急ハイランド。

最高時速180km。
世界No.1の加速度を持つド・ドドンパ。

整備業者の点検が終わり、始動再開した直後。
最高速の地点に仕掛けられたワイヤーにより、
満席が全滅した。

「咲さん、凶器はやはりピアノ線です。県警の捜査で、途中の山中で、整備会社の社員も遺体で見つかりました」

「クソッ❗️こんな時に」
怒りを露わにする咲。

「咲さん、ラブです。アイに入り口の監視カメラ映像を送って確認した結果、2人共あの通販リストにいました」

「なんてことなの!淳の方も、手口は同じよ」


~神奈川県横浜市~

横浜八景島シーパラダイス。
海上の大ループが人気のサーフコースター リヴァイアサン。

24人の乗客の内、座高が高い数名の頭部と、手をあげていた10人の両腕が切断された。

「ラブ、ついに始まったな」
T2にいつものラフな雰囲気はない。

「犯行をただ止めていたのではなくて、作戦を練り、集まっていたってことですね」

「昴よぅ、だとしても、全国の離れた場所にいて、どうやったらこんな同時多発テロ並みの仕業ができるってんだ?」

淳一の言う通りであった。
境遇も場所も違う骨細工購入者に、今回の犯行は不可能と考えるのが普通である。

「方法は分からない。でもこれが溝口の計画であるのは間違いないわ」

「こんな時に、悪い情報なんだけどねぇ…」

咲の後ろで、富士本が項垂《うなだ》れている。

「通販サイトリストの者は、全員行方不明ね」
ラブが先にその事実を告げる。

「そうなのよ。それも…溝口が死んだ時から」

偶然と呼ぶには、余りにも無理がある事実。
ラブが溝口を殺してはいけないと言った理由。

「皆んな、本部へ帰りましょう。奴らはそこにはもういない。次は…東京❗️」

ラブの言葉に、全員が歯を噛み締めた。

「ヤツは輪廻の境界を超えた。死んではいない。魂を込めたあの骨細工を通して、複数に転生したのよ!」

「ラブさん、それじゃあ…」
絶望感が昴を押し潰す。

「全員がヤツってことよ❗️」

究極の輪廻転生。
京極が生み出した最悪の存在。
標的の見えない戦いに備える術《すべ》はない。

今また東京は、二つの凶暴な脅威に狙われたのである。


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