Reincarnation 〜TOKYO輪廻〜

心符

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17. 邪神

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会議終了後、刑事課では詳細を知る者が集まり、対策会議を始めていた。

「まずは集団殺人鬼ね」

「骨細工同時多発テロ対策…は長いか?」
真顔の富士本に、咲も一瞬戸惑う。

「やり直し。骨細工同時多発テロ対策ね。ズバリ、次の襲撃は何処が考えられる?」

「次は恐らく一箇所にまとまって来ると思います。その方が、制御し易いでしょうから」

「昴、リモートとは違うんだぜ、同時に違う指令を実行することも可能かも知れねぇ」

「東京の制御可能な監視カメラは、全てアイが見張ってます。その動きで、集合地点を割り出すしか方法はないと思うわ」

「ラブさん、そんなこともアイは可能なの?」

「警察には内緒…ですね」
昴が呟いてから、咲を伺う。

「全く!なんのことかしら昴?私は何も聞いてないわよ」

紗夜とラブが微笑む。

「どこか?なんて今考えても仕方ございませんわ。それより大きな問題は、どう対処するかでございます」

「ヴェロニカさんの言う通りだわ。彼らは操られているだけの一般人。それに、未成年が大半です」

「そうだな昴、捜索願いもたくさん出されているから、傷つけたり、よもや撃ち殺すことはできん。困ったもんだ…あ?…んん?何だ⁉️」

富士本が見る方向へ視線を移す。

「神❗️」

頭から血を垂らし、ひび割れたサングラスで、フラフラの飛鳥神が立っていた。

「どうして緑なんです?」
…昴、今はそこじゃない💦

膝をついて崩れかける神に、ラブが駆け寄る。

「医療班を早く!」咲が叫ぶ。

「TERRAへ行ったらここだって言われてな。ラブ、お前の注告をちゃんと聞いてなかった俺のミスだ」

「やはり、狙われたのね…と言うことは」

「いてて、あいつらの狙いはこれだ」

ポケットから小さな木箱を取り出して、ラブに渡す。

「あの店主はもう死んでた。ラブが来るはずだから、渡す様に若い奴に言付けてな」

「ラブさん、もしかしてそれが…」
紗夜と昴は、その小箱から放たれる異質で悪意に満ちたモノを感じていた。

「あの店主が、南米の奥地から持ち帰った神物…いえそんな簡単な者じゃない。強力な禍《わざわい》を齎《もた》らす悪を封印していたもの」

「こ、こんな小さなものが…」
咲が蓋をあけようと手を伸ばす。

「ダメ❗️この中には、恐らく小さな頭蓋骨が入ってます」

「赤子…ですか?それにしても小さい」
首を傾げる昴。

「南米の奥地には、昔から変わらない文化が生きております。俗に言う、首狩り族も実在し、悪霊に憑かれた者や、悪霊から村を護る生贄《いけにえ》として、首を切り落とすのでございます。定かではございませんが、頭骨を煮ては干し、また煮ては干しを繰り返して、掌サイズにまで小さくされるとか」

「これは、その村で崇《あが》め奉《たてまつ》られていたモノ。これのせいで、店主は両目を失いました」

一歩下がる咲。

「神、危険な目に合わせてごめんなさい」

「ラブ、俺はこの命を懸けて、お前を守ると鬼島に誓った。余計な心配すんな」

「ありがとう。もしかしたら、これでヤツを止められるかも知れない」

「ラブさん、まさか!」

「咲さん、富士本さん、皆んな、私は南米へ行って来ます。それまで、何とか持ち堪えて!」

「咲、俺の兵隊も貸すぜ。この際、警察もヤクザも関係ぇねぇ。守るものは同じだ!」

「分かったわ。ラブさん、気をつけて!」

「早く行け、ラブ!あとは任せろ❗️」

うなずいて、ラブが出て行く。



「で、どうする?」
医療班の手当を受けながら神が咲に問う。

「まずは…着替えてきたら?新しい戦隊ヒーローみたいよ。モモレンジャー、なんて御免だからね私は!」

モモレンジャーはない、と皆んな思った💧




~千代田区~

警視庁本部庁舎。
高松警視総監に呼ばれて、富士本が入る。

「忙しいところをすまないね」

「いえ、とんでもございません」

「先日の同時テロについて、骨細工の噂がマスコミにリークして、騒ぎになっているが、どう言うことかね?」

「総監、あれはこちらから故意に、流した情報でして、実は……」

富士本は、無理を覚悟しつつ、ラブと飛鳥のこと以外、真実を全て話した。

高松の反応は、意外であった。

「そういうことでしたか。あの溝口のカルト集団による犯行とは、恐ろしい」

「実はもう一つ大事な報告がありまして…」

富士本は、あの赤い封筒を渡した。

「これは⁉️例の湾岸署を襲撃した犯人か?」

「はい。おそらくは、そうかと。たった一人で全員を殺害した犯行手口から、かなりのプロと見て、容疑者を調査しています。各部に警戒指示をお願いします」

「分かった。まぁ、ここは湾岸署とは桁違いの人員であるし、そう安易とやられはせんよ」

「ですが、念のために警備と監視を強化してください」

「そうするよ。あと富士本君、公安が飛鳥組との関係を調査している様だ。私は理解しているが、彼らは容赦ないからね。十分気をつけてくれたまえ」

「分かりました。では、失礼します」

確かに、ここの人数は湾岸署とは比ではない。
しかし、警察官とはいえ、実経験のある者は少ないエリート集団である。

楽観的な高松に不安を覚えた富士本であった。

「悪いな紗夜、待たせて」

「いえ、待ってる間に、可能な範囲で『捜査』してみました。悪徳警官はいましたが、襲撃犯の様な意識は見当たりませんでした」

紗夜を連れて来た目的はそれであった。

「そうか、まぁ勤務中は、襲撃のことなど考えてる暇はないかも知れんな」

「確かに、意外と忙しいんですね」

「無駄にエリートを集める程、日本の警察は甘くはないんだよ」

富士本の携帯が鳴る。

右手の不自由な紗夜は助手席で、富士本が運転手である。

「出ます」携帯を受け取る。

「はい、紗夜です。」
スピーカーに切り替える。

「新宿警察署から襲撃の連絡がありました!」

「ヤツか?」

「まだ不明ですが、恐らく」

「咲、君は残って指揮を頼む、私は紗夜と今から向かう」

「分かりました。気をつけて、紗夜、部長をよろしくね」

「ここからなら直ぐだ、間に合えばいいが」

紗夜がパトライトを付け、富士本がアクセルを全開にした。

 


~新宿警察署~

真昼の新宿。
それは大きな爆音で始まった。

5階から上には手榴弾が投げ込まれ、逃げる間もなく爆破された💣💥

犯人は4階の窓を破って侵入し、双剣で瞬く間に切り捨てて行く。

3階も事態の把握に困惑しているうちに襲撃され、反撃する隙を与えず、容赦なく壊滅。

銃を構えて待つ2階には、それを察して催涙ガスが投げられ、慌てて乱射した銃弾が味方に当たることはあっても、ゴーグルを付けた犯人に当たることは無かった。

1階の警察官は、全員外に出て、入り口を塞ぎ、犯人を閉じ込める作戦を取った。

パトカーも集まり、沢山の銃口が狙う。

その時、2階から複数の手榴弾が投げられた。
「ドドーン💣💥」
待ち構える警察官やパトカーが吹き飛ぶ。

悲鳴と誘爆するパトカー💥
現場は悲鳴と炎で混乱を極めていた。

この間、僅か7分。
日本最大の警察署が、陥落した。

「なんということだ…」
現場に着いた富士本が呆然と立ち尽くす。

「負傷者を助けます」
心の声に集中し、負傷者を見つけて救助する。

爆発で横転した車の中から、痛みを感じた。
咄嗟に走り出す紗夜を富士本が止めた。

「ドドーンっ💥🔥」

爆風に飛ばされる2人。

「クッ! ふ、富士本さん大丈夫ですか?」

「クソッ!なんとか…大丈夫だ」

燃え上がる車を見つめる2人。

「そんな…ひどい…」

救急車と消防車が集まる。
次々と負傷者が運び出される。

「富士本さん…私何も、何も出来なかった…」

泣き崩れる紗夜を抱き締める富士本。
その目は、怒りに燃え上がっていた。



少し離れた路地を疾走するバイク。
「ガンッ❗️💥」

突然飛び出した車が、バイクを跳ね飛ばした。
横転し火花を上げながら滑るバイク。

ドライバーの姿はない。

ゆっくり路地から出てくる赤いベンツ。
「伏せろ❗️」

運転手が助手席へ倒れ込んだ瞬間。
屋根を突き抜けた剣がギリギリ届かず。
屋根に着地する足音。

「バン、バン、バン💥」
引き抜いた銃をその足音へ向けて放つ。

僅かに早く跳ぶ音。
それが、ベンツの前に立ち上がった。

ドアを開けて、降り立つ飛鳥神。
片手には日本刀が握られている。

「派手にやってくれるじゃねぇか」
抜いた鞘を後部座席に放り、ドアを閉めた。

「下がれ」
ベンツがゆっくり後退する。

一瞬そいつが消える。
(上か)

「ガキンッ!」
上からの双剣を日本刀が受け止める。

ほぼ同時に左から襲う蹴りを、刀を持つ左腕の肘を上げて受ける。
「ガッ!」

「フン! ここは…」

受けた刀で敵を押し飛ばす。

「俺の街だ❗️」
着地を狙って、回した刀を横に薙《な》ぐ。

押し戻された力を利用し、バク転で着地した敵の数ミリ先で刃が空を斬る。

(来る)
着地と同時に低い姿勢で敵が来た。
胸を抱き締める姿勢から両腕を開き、双剣が神を襲う。

気配を感じた瞬間に左足を踏み出し、右へ薙いだ刀を、右下から敵の正面へ振り上げる。
「ガキンッ❗️💥」

そのまま前に出る神。
決して引き下がらないのが彼である。

神の神速とも言える刀の威力に、再び押し飛ばされる敵。

前に一蹴り跳びながら、両手で握った渾身の刀剣が、左下段から敵を襲う。

「ハァ❗️」
「バキンッ❗️💥」

双剣で十字に受け、前側の剣が折れて飛ぶ。
「クッ…」

想定外のパワーとスピードに、後方へ跳ぶ。
追いかけようとした神が、踏み留まり、後方へ跳んで地面に伏せる。
「ドーン💣💥」

敵が残した手榴弾が爆発した。
「クソヤロウ❗️」

爆炎の向こうで、バイクの音が遠ざかる。

「神さん!」
車を置いて銃を片手にドライバーが来た。

「チッ、逃げやがった。帰ぇるぞ」

(なんて目ぇしてやがんだアイツ)

車に乗り込んだ神。
屋根の穴から空を見上げる。

「穴あけやがって、全く」

「3つは、神さんっすよ開けたの」

「うるせぇ💦」
(オープンカーにでもするか…凹)





~南米エクアドル~

ラブの専用ジェット機は、まだ地球では知られていないコスモエネルギーを使用している。

空気を必要としないエネルギーの為、航空機の最高高度12000mより高い領域を飛行できる。
それにより、通常12時間の飛行時間が、5時間で可能なのである。


世界的な大河であるアマゾン川には数多くの支流があり、多くの民族が暮らしている。
未だに前人未到の地もあり、現代文化に俗さない先住民もいると考えられている。

ラブが目をつけたのは、シュアル族。
アマゾン川の上流部地域に住んでおり、戦いの勝利の証として、相手の首を手に入れていたことから「首狩り族」とも呼ばれていた。
現在も「ツァンツァ」と呼ばれる「干し首」の風習を持つ民族である。

アマゾン川に垂直降下し、水面に着水する。
ペルーにいたティークが先に着き、用意したボートで村を目指す。

「ティーク、何か進展は?」

「2つの町共に、生き物は犬一匹さえも残らず消えた。考えられるのは…」

「やはり、アイツか…」

「ナスカの遺跡と共に、あのトリノ砲で消し飛んだはずなんだが、奴の生態構造は謎のままだからな」

「レム…全宇宙で最悪のエネルギー生命体」

宿敵HEAVENとの最終決戦で、ラブ自らの手で消し去ったはずの悪魔。
愛する芽依《メイ》の命と共に。

「ラブ、着いたぞ。シュアル族の領地だ」

今は過去の感傷に浸っている暇はない。
周囲に警戒しつつ、ゆっくりボートを進めた。

心を研ぎ澄ますラブ。
スパイアイで透視するティーク。

「静かね。こんな奥地には来たことないわ」

「鳥の声もないな」

「既に見られるってことね」

「ヒュン」風を切る音。

「ガシッ」
ティークが矢を掴み止める。
切先はラブの顔から数センチ横。

「当てる気はないわね」

「さて、どうなることか」

茂みの影から幾つもの小さな筏《いかだ》が現れ、瞬く間に両脇と後ろを囲んだ。

周りから弓矢が🏹狙っている。

「撃つ気はなし…か」

正面に船着場らしきものが見えた。
大勢の原住民が集まっている。

「矢を」

差し出したラブの手に矢を渡す。
座ったまま、片手で振りかざす。

「ヒュッ」「ダン」

高速で投げられた矢が、100m程先の椅子の大きな背もたれに突き刺さる。

座っている老人は、瞬きすらしていない。
老人が手をあげると、構えていた弓が下がる。

「目には目をか」

お互い殺せるが、殺す気は無い。
荒っぽいが、この族のやり方なのであろう。

ボートが着く。
「ティークはここで」

降りると、女達が集まり衣服を全て脱がせた。
抵抗はしないラブ。

少しして、下半身の下着、ショートパンツ、靴は戻された。

族長らしき老人の前に立つ。

「Excuse me, Miss. Love.  My name is Raha, the chieftain.  Please understand that it is a village tradition.」

「失礼しましたラブさん。族長のラハです。村のしきたりなのでご理解ください」

「No problem.  You are good at English.  I'm glad you knew me.」

「問題ありません。英語がお上手ですね。私を知っていてくれて良かったわ」

ラブは、その経緯と目的を全て伝えたのであった。




~警視庁対策本部ビル~

湾岸署に続き、新宿署の襲撃事件は、日本中を震撼させた。

日本最大の警察署の壊滅である。
死者276人、負傷者241人。
総員650人の半数以上が被害を受けていた。

「あの新宿署が、たった7分か…」
富士本の脳裏では、警視庁が崩壊していた。

「監視カメラの映像と凶器から、湾岸署と同じ犯人に間違いはありません。犯人は屋上からワイヤーで下りながら、12階~5階まで強化手榴弾を投げ込み、4階に侵入。最後は2階から手榴弾を投げ、その混乱に乗じて、バイクで逃走しました」

アイからの通信が入る。

「監視カメラの映像から、犯人が特定できました。箔博凜《ハクフーリン》中国人の殺し屋です」

「じょ、女性なのか⁉️」

「女性っていっても、裏社会では世界的に有名な凄腕の暗殺者《アサシン》だぜ。一度ラブも狙われたが、雇い主が死に、それっきり」

「そんな殺し屋に、ナイフ使いのシリアルキラーの能力が加わったってことね」

「ところで皆様、そろそろ本題に目を向けるべきではございませんか?」

「誰が、なんの為に?ですね」

「良くできました、昴様。それが警察の調査の基本でございましょう?」

「そう言われれば、そうね。私たちは、シリアルキラーと京極に振り回されて、事件の違いを見落としてたわ」

「京極が作り上げてしまった、2人のシリアルキラーは、目的も理由もない無差別殺人鬼。でも後の2人はいったい誰が?」

「安斎博士、今回のシリアルキラー含めて、何か気付いたことはないでしょうか?」

お手上げ状態の富士本は、溝口の行動を見事に解析した彼女に、すがる想いで協力を頼んだのであった。

「心理学的に見れば、今回の新宿署襲撃は、力を誇示するためだけのもの…言葉は悪いですが、息抜きのように考えられます」

「息抜きですって!そんなもので、あんな酷い事をやったって言うの⁉️」

「こらこら咲、博士は冷静に分析してくれているんだから」

「すみません。皆さんの気持ちも考えず」

「でも確かに、今回はマスクもなく、ド派手にやってくれましたよね。正体も隠さず」
咲の顔色を伺いながら、昴が冷静に述べた。

「シリアルキラーの特徴ですね。前にヴェロニカさんが、教えてくれました。衝動を抑えきれないって」

「紗夜様、さすがでごさいます。つまり、今回のシリアルキラーを作り上げた主犯には、最初の湾岸署と、最後の警視庁にこそ、その真意があるということでございます」

そこへ、鑑識班の塚田が入って来た。

「どうしました?塚田さん」
紗夜がその心中を察して尋ねる。

「いえね、少し前に戻ったんですが、表で赤いベンツのヤクザみたいな人に引き留められて…」

皆んな神だと確信した。

「それで?」

「これを渡されたので、分析したところ、複数の血痕が検出され、そのうちのいくつかが、警視庁にDNA登録されていた、新宿署の警察官と一致したんです」

「そいつは、箔博凜《ハクフーリン》が使う武器だぜ」
リモートで見ていたT2が特定した。

「神は、ヤツと!…で、そのヤクザは無事だったの?怪我とか無かった?」

咲が問い詰める。

「ええ、怪我はありませんでしたけど、ベンツの屋根には、刃物と弾の穴が空いてました」

「神さんって、やっぱ強いんですね」
感心する昴。

「あと、咲さんに、アイツは洗脳なんてされていない。あれは殺し屋の目だ、との伝言です」

(えっ!)驚きの波動。

(ん?)(どうして?)
昴と紗夜はそれを聞き逃さなかった。

「あっ、すみません。学会があるので、今日はこれで失礼します」

「あっ、そうでしたか、忙しいところを申し訳ない。ありがとうございました」

「いえ、お役に立てなくてすみません」

そう言って、慌てて出て行く安斎。

(昴)
(はい、紗夜さん。初めて動揺してましたね)

「あれ?」

「塚田さん、何があれ?なの?」

「今のは、桐生さんですよね?」

「桐生?いいえ、安斎博士よ」

「あっ、そうか。彼女バツイチで、前の旦那の性で論文書いたから、戻してないんだ」

「バツイチ?桐生?なんで知ってんの?」

「大学で同期なんですよ。もっとも、彼女は別格でしたけどね。じゃあ、僕はこれで」

(桐生…)

「どうかしました、部長?しかしバツイチとはね~。旦那さんの気持ちも分かるわ」

アイからの連絡が入る。

「通販リストの対象者を、各地の監視カメラで確認しました。それらの移動と位置から、集結場所は、東京ドームと推定されます」

「東京ドーム⁉️」

「近い予定は何?」
焦る咲。

「明日の世界平和チャリティーフェスティバルです。このイベントには、毎年天皇陛下も御出席の予定です」

「まさか、そんな」

「奴らはもう最短で犯行を行うはず、おそらく間違いないわね。部長、中止の連絡を!」

「推測レベルで中止は無理でございましょう」

「とにかく、やってみるが、警備体制と対処方法の計画を頼む、咲!」

「はい」

誰もが、中止は無理と覚悟していた。
ラブの推測が上手く行くことを祈った。




~東京豊島区~

「何か最近サツも大変っすね兄貴」

「まぁ、宿署が無くなって俺たちには好都合だけどな」

「マル暴の安井さんも死んだらしいから、次のお友達を作らないと。面倒くせぇ~…ん?」

中学生くらいの女の子が2人入って来た。

「お嬢ちゃん達、何か用かい?」

膝に手を突いて、前に屈んだ。
「ヒュパ!」
カッターナイフが喉を切り裂いた。
直ぐに横に跳び、吹き出す血をかわす。

「あがっぐっゔぇ」

「どうした?なっ」
「ヒュパ!」

ソファーで振り向いた男も、同じくやられる。
20人ほどの若い男女が入って来て、1階と2階に分かれて、奥の部屋へ入る。

中国系暴力団、鍋島組の事務所兼倉庫である。

10分程で、大きなバッグを抱えて出て来た。
停めてあった3台のワゴン車に乗り込み、そのまま走り去る。

他の組員が帰って来たのは、1時間後であった。
怒り騒いでも、警察沙汰には出来ず、報道もされない。

同じ事件が、中野区にある関西系暴力団、坂崎組事務所兼倉庫でも発生していた。

世の中や警察は、この事実をまだ知らない。



~警視庁本部庁舎~

富士本と咲は、殺人鬼集団の標的を知らせに、高松警視総監を訪ねていた。

「そんな予測で、中止出来るわけないだろう。まして、皇室にどうやって報告すれば良いのだ?」

「しかし、このままもし、実行されたら大変な事態になります」

「所詮は中高生が中心の若者の集団だろう。周辺の警備を万全にしておけば、何とかなるのではないかね?」

「確かに…確かに未成年が多いですが、正体はあのシリアルキラーそのもの。それがいかに危険な存在か、総監は分かっていません❗️」

「とにかく、輪廻だの転生などの世迷い事を、納得させられるわけはないだろう。私でさえまだ信じられんのに」

「しかし❗️」

尚も引き下がらない紗夜を、富士本が止める。

「分かりました。保証はできませんが、出来るだけのことはやってみます」

これ以上は無駄と諦めた。
警察が公表できる内容ではない事も事実。
ましてや皇室になど、言えるものではない。

「参ったな。どうだ紗夜?」

「異様なくらい、事態を受け入れている様に感じました。警察庁管轄の新宿署が崩壊しているにも関わらず、なぜ落ち着いていられるのでしょうか?」

「寛大な人柄は昔からみたいだが、一端の女刑事が生意気に意見しても、顔色一つ変えないとは、さすがとしか言いようがないな」

(寛大…)
紗夜は、それとは違う『余裕』を感じていた。



~新宿~

その頃、新宿では問題が勃発していた。

坂崎組と鍋島組の組長が、一帯を束ねる飛鳥組の事務所に集っていた。

「神さん、うちの事務所が襲われ、商品が盗まれちまった。そこの鍋島の仕業に違ぇねぇ❗️」

「ふざけた事抜かしてんじゃねぇ❗️テメェらがうちの商品盗んだんだろうが❗️」

(なんなんだ、こりゃあ?)

「つまり、ほぼ同時刻に、対立するお前らが、全く同じ手口で、殺して盗み合いをしたってぇのか?少しはあたま使え。おかしいだろうが」

神の怖さは重々承知である。
落ち着いた口調に、若干テンションが下がる。

「で?やったのはどんなヤツだ?」

「………」「………」

(マジかこいつら?)

「事務所に監視カメラぐれぇねぇのか?」

「サツじゃあるまいし、そんなもん…」

「目撃者は…って、聞くだけ無駄か」

例え見てても、この暴力団に関わる人などあるわけがなかった。

「分かった。損害の半分はもってやるから、バカみたいに争うんじゃねぇぞ」

「いやいや💦神さんに迷惑はかけらんねぇ」
「ありがてぇが、それはちょっと💦」

「ぁあ?俺の金は受け取れねぇってか?」

背中を向けたままの声にビビる💧

神はと言うと…
スマホの電卓でザックリな見積り中であった。
(ベンツは…仕方ねぇ諦めるか)

「気にすんな、親が傘下の面倒見るのは当たり前ぇの事だ」

「神…さん」

(うぅ…ベンツ…)




~南米エクアドル~

シュアル族の手厚い歓迎を受けたラブ。
代わりに、最近違法にジャングルを破壊している開拓業者に、制限と見返りを取り付ける事を約束した。

「そろそろ…上も着ていいかな?」

僅かの間にシュアル族の言語もマスターした。
上着を身につけて、ティークを呼ぶ。

2人とも、ベニノキという植物の赤い種子を潰して作った染料で、顔にペインティングされた。

「この神物は、更に奥地にいる部族のものらしいのよ。行くしかないわ」

真っ暗な夜のジャングル。
シュアル族でさえ、夜は入らないと言う。

「紗夜からの連絡を受信した。おそらく襲撃は東京ドームらしい」

「世界平和チャリティーフェスティバル❗️日本時間の13:00だから、あと5時間しかないわ。急がないと」

族長に、事の緊急性を伝えると、1人の戦士が、案内すると名乗り出た。

「ティークは、ジェット機から状況を私に伝えて。ここの磁場は特殊で、この通信機のパワーでは、直接アイにも繋がらないから」

皆んなに礼を言い、2人はジャングルの奥地へと入って行った。



~東京都文京区~

東京ドーム、開幕1時間前。
県外からも警察官が応援に駆けつけ、物々しい厳戒態勢が敷かれていた。

「紗夜、ラブはどう?」

「ジャングルの奥地へ入ってまだ目的地にたどり着けてない様です」

そこへ、3台の警察バスが到着した。

「あれは?」
咲の注意力は感度MAX.である。

「あの制服は本庁管轄の自衛隊ですね」
昴が告げる。

「総監のはからいか…まだ研修生ばかりと聞いていたけど」

「丁度いい。客席の監視をお願いしましょう。お客さんの不安を煽《あお》らない様に」
昴が走って行く。

「全員電気銃チェック!拳銃携帯は禁止だからね。間違っても殺しちゃダメよ!」

咲の声が全部隊に響く。
開催時刻が刻々と近づいてくる。

「アイ、異常はない?」

アイとT2は、TERRAの監視衛星と都内の監視カメラを駆使して、見張っていた。

「今のところ怪しい動きはねぇぜ」

「咲様、陛下が参られます」

厳重警備の車列が近づいて来る。

と、その時。
「咲、南から1台猛スピードの車両が来るぜ」

タブレットに、赤い車が映る。
拡大すると、屋根に穴が空いていた。

「神❗️」

「あの車列の前に出て停めろ❗️」

陛下の車列が、ドームの敷地に入りかける。

「ギャギャギャギャギャー…バン!💥」
先頭車両に、横滑りして来た赤いベンツがぶつかり、車列が急ブレーキをかけて停まった。

警備車両から降りた警備隊が、銃を向けてベンツを囲む。

「待って、彼は味方よ!」

咲が走って来る。
ゆっくり、神が降りた。

「神、どうしたの⁉️」

「何で電話繋がんねぇんだ!」

ドーム敷地内は、専用通信機を除き、外部はもちろん、内部でも電波を遮断していた。

「奴らは、銃火器で武装してやがる❗️」

咲のホルスターを見る神。

「お前ら、そんなもんじゃ勝てねぇぜ!今朝うちの傘下の事務所が2箇所襲われて、銃器が全て盗まれた。目撃者によると、少女達が入った後、大勢の若者が来て、バッグを持って逃げたってことだ」

「そ…そんな…まさか…」
頭の中が真っ白になり、呆然とする咲。

「バシっ!」
神の平手が頬を打つ。

「咲、しっかりしろ❗️」

「はっ…緊急事態、奴らは銃器で武装!繰り返す、奴らは銃器で武装❗️気をつけて❗️」

「なにっ⁉️」
全部隊に衝撃が走る。

「咲、冗談だろ⁉️」

「淳、紗夜、昴、敵は銃器で武装してるわ❗️」

「陛下は元に戻らせてください」
専属の警備隊に伝える。

そこに高松警視総監から確認の通信が入る。

「どうかね、もう始まる頃だが?」

(まさか!)(そんな!)
紗夜と昴の心が、その声に不安を感じた。

「総監、紗夜です。警視庁自衛隊を…派遣されましたか?」

「まさか、彼らはまだ研修生ばかりだし、警視庁の警備が任務だ」

(やられた!)

「昴!」

「既に客席に配置済みです⁉️」


ドーム内に、オープニングを告げる音楽が響き渡った…




~南米エクアドル~

案内人には暗視ゴーグルを付けさせ、夜のジャングルを走る2人。

ラブの目は、暗闇でも『視える』。

その足が止まった。

(囲まれた。10人…いやもっと)

「痛っ!」
首に吹き矢が刺さり、倒れる2人。

担がれ、暫く進むと開けた場所に出た。
と同時に乱暴に地面へ投げ下ろされる。

後ろ手に縛られ、地面に立てられた丸太に、座った姿勢で縛りつけられた。

誰かが近づいて来る。
うつむいたラブの顔を、不思議そうに下から見上げている。

ラブの目が開き、相手の目を見た。

驚いて跳び下がる。
ラブには、地球上の薬品や毒は無力であった。

いくつもの矢尻がラブを狙っている。

(安心して。私は敵じゃない)

頭の中に響く声に戸惑い騒めく。

(私はラブ。あなた達に会いに来ました)

声の主が、ラブだと気付いた。

ラブが目を閉じて念じる。

手首と足首に光の輪が現れ、縄が燃え落ちた。
額の光が輝きを増し、王家の紋章となる。

取り囲む者達の態度が一変した。
ひざまづき、両手を伸ばして地に伏せる。

(私はトーイ・イルザ・ラブレシア、遠い星から、生まれたこの星へ戻りし、銀河の王位を継ぐ者)

族長らしき老人が近寄って来る。

頭を下げ、両の掌を差し出す。

その掌へ、あの小箱を乗せるラブ。

小箱がキラキラ燃えて、小さな頭骨が現れた。

広場の水辺にある四角い石。
その石面には、ラブと同じ紋章があった。

ゆっくりと、そよぐ風の様に進む。

その紋章の中央へ、頭骨を置いた。
紋章が光を放ち始める。

光が輝きを増し、一気に天空へと立ち昇った。

光の線の周りに風が渦を巻き始め、勢いが増した途端、石に吸い込まれる様に一瞬で消えた。

ラブの体からも光が消える。

(終わった…あれも遥か昔に、私の祖先が封じ込めた悪しきモノ…か)

そして…意識が消えた。




~東京ドーム~

客席周辺にいた大勢の若者達が、一斉に上着のファスナーを開き、銃器を取り出した。

「ウォオオオーッ❗️」

「ガガガガガガガガガガガガガガガ❗️❗️」

全員が、それぞれの銃を空に向けて撃つ。

最初は驚きつつも、演出の一つと思った観客。
しかし…
その銃口が向けられた途端。
一変して恐怖の叫びに変わる。

「クソっ❗️」「そんな❗️」「ラブっ❗️」
(もう…だめか!)


引き金を引きかけた、正にその瞬間。

「シュン……バシンッ💥」

天空からの光の矢が、彼らを貫いた。

崩れ、倒れる体。

あり得ない光景に、悲鳴も呼吸さえも止まる。

「た…たすか…った?」

「心臓に悪いぜ…全く」

(…ラブさん。ありがとう)

「全員、確保❗️」
咲の指示が耳に響き渡る。


「ワン、ツー、スリー、Go❗️」
トップバッターのバンドが、演奏を始めた。


「やったな…咲」

「神」

抱きついた咲の唇が、神と…重なった。



~南米エクアドル~

ラブは戦士の肩の上で気が付いた。
丁度、村に戻ってきたところであり、祝福の踊りが賑やかに始まる。

「ラブ、東京は無事だ」

ラブの頬を涙が流れる。
そして、泣きながら、優しく笑った。




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