北の魔女

覧都

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第七十話 マイの危機

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薄暗く広い部屋に、丁度、人が一人横になれる位の机がある。
その回りには百人以上の男が集まっていた。

机の上には両手、両足を縛り上げられ、大の字になったマイの姿があった。
どれだけの力で縛り上げたのか、縛られた、手首と足首には血がにじんでいた。

縛り上げられたマイが、気が付くまで暇つぶしにと、ドレスの裾がへそまでたくし上げられていた。
男達が代わる代わるマイの近くに来ては舐めるようにその姿を眺めていく。
どの男達の顔にも薄気味の悪い笑いがあり、マイを哀れむような男は一人もいないようである。



「いっ、つ」

マイの気が付いた。
頭がめちゃくちゃ痛い。

「えっ、あなた何やっているの」

マイの顔が真っ赤になる。
マイの股間に男の顔があり、匂いを嗅いでいた。
男がにたりと笑う。

なに、これは、どういう状況。
冷たい汗が噴き出した。
体は少しよじる位は動くが、手足が全く動かない。

背の低い四角い顔をした男が近づいてきた。

「よう、気が付いたか」
「えらいことをやってくれたなー」
「おめーは生きて帰れねーぜ」

「い、いま、私を解放するなら」
「助けてあげますよ」

マイは気丈に振る舞ったが、目には涙が溜まっていた。

「ぎゃーーははっ」

男の後ろから、大勢の笑い声が聞こえる。

「おい、手を開け」

四角い顔の男が命令する。
マイの手は硬く握られていた。
マイは何を言われたのか、意味が分からなかったが、その言葉に逆らった。

「お断りします、あなた達のいいなりにはなりません」

「そうか、おめーは、つえーなー」

ドンッ

「ぎゃあーー、う、う、う」

固く握りしめていた左手に、幅四センチ程のナイフが突き立てられた。
中指が吹き飛び太ももにあたってすぐ脇に転がった。
突き立てられたナイフは手のひらを貫通し深く机に刺さっている。
薬指も半分ほど切れていた。
手首がきつく縛られていたため血はそれほど出ていない。

マイの心の支えがへし折れた。

マイはとげが刺さった位でも医師が来て治癒魔法をかけて貰えるような、そんな甘やかされた暮らしをしていた。
それがナイフを刺されたのである。

「右手を開け」

男は険しい顔になり命令した。

マイは震える右手を開くと幼児のように泣き出した。

「うわーーん、うわーーん」

マイは何も考えることが出来なかった。
あるのはもう恐怖だけである。

「うわーーん、うわーーん」

大声で泣くマイを制することもなく、男は無表情で短刀を取り出した。
胸に短刀を当てると、刃を上に向け、服の中に入れると、ゆっくり服を切り裂いてゆく。

「うわああーーん、うわああーーん」

マイの声が一層大きくなる。
そして、少しだけ体をよじり動かした。

「この短刀はよう、よく切れるんだ、動くとケガするぜ」

男は、静かに声をかけた。
口調とは裏腹に淡々とマイの服を切り裂いていく。
スカートまで切り裂くと、左手の袖口に刃先を入れた。
短刀は男の言うとおり、よく切れるようで何の抵抗もなく切れていく。
左手が終わると、右手の袖口に刃先を入れた。

「うわーーん、うわーーん」

マイは自然に声が出た、普段ならこんな情けない自分が嫌になるはずなのに、今はなにもかもから解放され、恐怖だけに支配され泣いていた。

男が短刀をしまうと、マイの服は一枚の布となっていた。
それを、勢いよく引き抜くと、マイの体は下着だけになった。

男はしまった短刀を再び手に持ち、ぱんつに手をかけ、横だけを切り裂いた。

次にぶらじゃーの紐に手をかけた。
プツン、プツンと両肩の紐を切った。

「まあ、ガキの裸には興味はねえが、ここにいる奴らは違うからよう」

男が切った紐を持ち、上に持ち上げ、動きを止めた。
少し、じらしている。

まわりの男達は目を見開き、ゴクリと唾を飲んだ。



バーーン、勢いよくドアが開いた。

「おおおっう」

部屋の男達は驚き全員少し飛び上がった。
ぶらじゃーの紐を持っていた男も、飛び上がり紐を落とした。


扉の中央には白い少女姿のクロを、お姫様抱っこしているケンの姿があった。
両手が塞がっているケンが足で扉を蹴り開けたのだ。

「よお、ここであってるんじゃねえのか?」

「マイ様―!」
「合ってます、合ってます」

「白ちび、行け」

ケンはクロを床に下ろすと、助けを呼ぶよう指示した。

「さっさと行け、白ちび」

「私の名前は白ちびじゃない、クロだー」
「ばか、ケーン」

クロは全力で結界の外を目指した。
だが魔力が残り少ないクロはあまり速く移動出来なかった。

クロが走り去るのを見届けると、ケンは男達の中に進んでいく。

「よお、かわいそうに泣いているじゃねえか」

「おめえ、状況分かってんのか」

四角い顔の男がケンに近づく。
ケンの表情が全く変わっていないのに驚いた。

「てめー、恐くねえのか」

「それが、知りてーんだ行くぞ」

ケンは四角い顔の男を殴り飛ばした。





クロは走りながら考えていた。
残り少ない魔力だが、どれだけ減らしても、移動魔法を一回分は残さないといけない。

そして、呼ぶのを誰にするか。
あい様? でもあい様の場合説明に時間がかかって、ケンが死んじゃう。

結界の外に出たクロは結局ハイを移動させた。
この時、クロは魔力切れを起こした、正確にはゼロになると存在自体がなくなってしまうので、存在出来る最低まで魔力がなくなった。
全部の分体が消え、この事であいにもクロの魔力切れが知られることになる。

「クロ大丈夫か」
「回復」

ハイが、クロに大半の魔力を分け与えた。

「ハイ様、助けて下さい」

ぽろぽろ涙を流すクロを見て、状況はよく分からないが緊急事態であることを把握した。

「案内して!」

「はい、ハイ様」

二人はマイの所へ急いだ。
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