北の魔女

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第百六話 晩ご飯の準備

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今の私は薄い青色、ちょー薄い青なので、ほとんど白のジャージ。
横に赤いラインを入れて、赤いラインの両サイドに青いラインをあしらいました。

そして大きなエプロンをして、頭を大きな三角巾で覆いました。
自慢のツインテも見えません。
最初、大きな丸い髪飾りがギュッと頭に押しつけられて痛かったので、ゴム紐だけにしてあります。
もちろん、足は白いゴム長靴を履いています。

パイさん、先生、サエちゃんはメイド服に三角巾をつけてもらい、キキちゃんはいつも通りです。
三角巾は、この三人だけなので、遠目からでも識別出来ます。

さらに、私が目立たないようにする為、パイさんは胸を強調する様に大きく開けてあります。
サエちゃんは、ちょーミニスカートにしてあります。
もう、ほとんど見えそうになっています。

「あのーまなちゃん、この服は少し短すぎませんか?」

「大丈夫です、そのパンツは見られてもいいパンツですから」

フリフリの一杯ついた純白のパンツは、可愛いので見られても大丈夫です。
サエちゃんが、歩く度にチラチラして良い感じです。

こうして国王専用のお風呂に入り体を綺麗にして、新品の服を着たわたし達は、調理場へ直接移動するのでは無く、お城の中を歩いて調理場へ向かいました。
すこし、夕食には時間があったので城内の様子を見ておこうと思ったのです。

城内には人が一杯います。
親子連れの夫婦が多く、身なりは皆、よそ行きの贅沢な感じです。
お祭り騒ぎです。

「うわー、人が一杯! 武術大会は、お祭りみたいなものだからかな?」

つい独り言をつぶやいてしまいました。

「な、何を言っているのですか!」

パイさんがビックリして声をあげました。

「エッ!」
「違うのですか」

「違います!」
「皆、まな様の晩ご飯を食べに来ているのですよ」
「それは、もう楽しみにして来ています」
「おいしい物は、家族で食べたいとの嘆願がありましたから」
「今回は、抽選に当たった方達は、四人で来ることが出来るのですよ」
「家族でわくわくして集まっています」

パイさんが嬉しそうに私を見つめます。

まな様という言葉に反応して、回りがざわめき出しました。
でも、今のわたしは、変な服(セーラー服)ではなくて、白い本気調理服をきているので、だれも気が付きません。

でも、この服が変で、悪目立ちしています。
しかし、こんなこともあろうかと、パイさんと、サエちゃんが目立つようにしてあります。
視線は、全部そっちへ行くでしょう。

「あのー、あなたはまな様ですか?」

うわー、声を掛けられてしまった。
パイさんのセクシーな胸も、サエちゃんのセクシーな太ももも、役に立ちませんでした。

「ち、ちがいまーーーす!!」

わたしは、調理場へ走りだしました。



調理場へ着くと、わたしは腕まくりです。
このために長袖にしてあります。
日本から着てきたセーラー服は半袖でしたから、腕まくりもいまいち決まりませんでした。

「さて、本日のメニューは、お寿司です」
「その前に、パイさん今日は何人御来城でしょう」

「はい、二千人ちょっとです」

「えーーっ、そんなにー」

「はい、これでも大分減らしているのですよ」
「よろしくお願いします」

パイさんの素敵な笑顔です。

「まずは、試作品を作りますので、味見をお願いします」

後ろには、遅れて来たオデさんも蝶ネクタイのタキシードで立っています。
手にピンクの杖を出して、少しだけ振ります。
振ると金色の星形の光が出るようにしました。
そして寿司桶に入ったお寿司が出ます。
今も憧れて止まない魔法少女みたいです。

「くすくす、皆さん味見をお願いします」

あまりにも上手に出来て嬉しくなって笑ってしまいました。
でも、皆の視線は寿司桶の中に集中しています。

「このお醤油につけて食べて見て下さい」
「そのとき、この穴子だけはなにも付けないで食べて下さい」
「どうぞ」

パイさん、先生、サエちゃん、オデさんは寿司桶の中を見つめ、まずは目でお寿司を楽しんでいるようでした。

寿司桶の中身は、大トロ、中トロ、赤身、鯛、エンガワ、カンパチ、サーモン、アジ、穴子、アワビ、ボタンエビ、いくら。
わたしの好きなものだけです。
ウニ等は、あまり好きでは無いのでおいしい物が分かりません。
なので、作るのを諦めました。

しっかり目で楽しんだ四人は自分の前のお寿司を食べ始めました。
キキちゃんは珍しそうに見つめています。
キキちゃんは人肉しか食べられないので見学です。

「……」

うわーー、自信作だけどこの世界の人は、やっぱり生ものは駄目かなー。
別メニューを考えないといけないのかー。
明日の予定を繰り上げして、今日の料理にしようかー。

「おっ、おいしーーい」

「お口にあいましたか」
「よ、よかったーー」

わたしがほっと胸をなでおろしていると

「まな様まさか心配しておられたのですか」

「す、するよー」
「はじめて出すものだからー」
「あんまり、静かだから他の料理を考えていました」

「す、すみません、あまりにもおいし過ぎて感動していました」

パイさんが代表して答えてくれています。
他の三人が大きく何度もうなずいています。

「まなちゃんの料理は、やっぱり次元が違います」
「おでもこんなおいしい物ははじめでだ」

「ありがとうございます」

四人の絶賛を聞いてわたしはうっすら涙ぐんでしまいました。
ふっと視線を横にずらすと、白い美しいお子様が二人よだれを垂らして立っています。
クロちゃんの本体と、クーちゃんです。
わたしは無言で二つ追加して、二人の前に置きました。
ニコニコしながら食べ始めました。
とてもかわいいです。

「あのー、味に違和感とか、こうして欲しいとか、注文はありませんか」

全員首を振っています。

「このままがいいです」
「わたし達の意見などは無用だと思います」
「おでも何も文句はねー」

「ありがとう。でも、それなら試食してもらった意味が無かったわ」

全員の手が止まりあせりだしました。

「そそ、そ、そんなことは、ありません、おいしいということが確認できます」

パイさんが必死で答えます。
皆、うなずいています。
キキちゃんまで必死でうなずいています。
それを見て、わたしはおかしくなって笑ってしまいました。

「くすくす、冗談です、これからもお願いします」

少し遠巻きに囲んでいる、他のメイドさん達も食べたそうに見つめています。

「みなさんとは、晩餐会が終了後に、前回の様に一緒に食べますから」
「それまで我慢してくださいね」

わーー、と、後ろで歓声が上がった。
今回はお客さんの数が四倍以上の人数なので、メイドさんの数も多い。
はじめて来たメイドさんもいるようで、なんのことかわからない様子。
前回も参加した先輩のメイドさんがこの後、全員でこの料理が食べられる事を教えられると、遅れてもう一度歓声があがった。

「じゃあ、もう一品、これは茶碗蒸しです」
「味見をお願いします」

六人が味見をしているうちに、わたしは杖を振り、飲み物を木の箱に入った状態で置けるだけだしました。

「では、みなさん、お客様の晩ご飯の準備に入りましょうか」

「はい!!」

メイドさん達がせわしなく働き出した。

「おいしーー!!」

他のメイドさん達が必死で働く中、いまごろになっておいしーが出ました。

「じゃあ、次はこの茶碗蒸しを全員の机に、一人一つずつ用意して下さい」

杖を振り、机の上にずらりと茶碗蒸しが並びます。
あっという間に、メイドさん達が運び出します。

「す、すごい」
「この数をもう運びおわりですか」

わたしが歓心していると。

「今日は、一千人以上メイドさんがいますからね」
「しかも、抽選に外れた、貴族のお嬢さんまで紛れ込んでいるのですよ」

後ろから、どこかで聞いたような声がします。
ノル女王陛下です。
皆が平伏しています。

「ノルちゃん、折角来て頂きましたが、仕事の邪魔です」

わたしが少し不機嫌になりノルちゃんの方を見ます。

「なーー」

ノルちゃんは少し悲しそうな表情をしてうつむきました。

「皆気にせず仕事をしてくれ、まなちゃんに叱られるからな」

「で、なんですか」

「うむ、まなちゃんに会わせたい人がね」

ノルちゃんの視線の先に青いドレスの美女がいた。

「この方が誰だかわかるかなー」

ノルちゃんが悪戯っぽく笑っています。
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