北の魔女

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第百四十九話 二人忍者

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「みんなーー」
「手を止めろー」
「訓練はもういい」
「休憩だーー」

王城の中庭で訓練をしている兵士を望む、廊下の手すりに登ってメイが声を張り上げた。
兵士達は少し元気が出た。
休憩と聞いて元気が出たわけではない。
廊下の手すりに登ったメイは、兵士達からはスカートの中が丸見えになっていたからだ。

「困ったもんだ」
「男はこんな子供の」
「下着でも見たがるのだからな」

(それがわかっているのに、見せているメイさんも、困ったものです)
サエは呆れていた。

「全員、整列しろ」

メイが号令をかける。
だが兵士はもたもたして整列が進まない。

(あらら、めいさん舐められている)
サエはメイがどうするのか興味しんしんだった。

「めいちゃーーん」
「おおこんな所にいた」

ゴランが大きな手に一本だけ花を持ってやって来た。
わざわざ兵士達の方に回ってひざまずき、メイに花を差し出した。
こうするとメイのスカートの中がよく見える。
メイは右手でその花を握りつぶし、地面に叩きつけた。

「ひ、酷い」

サエは思わず口に出した。

「そうだ、サエもここに登れ」

「い、嫌ですよ」
「私、メイちゃんみたいに」
「可愛い下着付けていませんから」
「大体そんな可愛いの」
「どこに売っているのですか」

「これか」
「これはアド商会の宝飾店だ」
「一枚金貨一枚だ」

「た、高いですねー」

「まなちゃんに頼めば無料だ」

「今度頼んでみます」

「娘、話しは済んだか」

ゴランの機嫌が悪くなっていた。

「ゴラン、サエはお前より強いぞ」

「ほう、手合わせ願いたいものだが」

ゴランが鋭い目つきでサエをにらんだ。
サエはゴランに怯えていた。

「良い機会だ」
「サエ、ゴランに胸を貸して貰え」

「えっ、えーーー」

「おい、お前ら場所を空けろ」

ゴランが兵士達の中に入った。
場所を空ける兵士達の動きは機敏だった。
ゴランは兵士達に恐れられているようだ。

ゴランは訓練用の棍を手に取ると、サエを手招きする。
そして、ぴんぴんと真っ直ぐ伸びた髭ずらに、ニタリと嫌な笑いを浮かべている。

サエはゴランの見た目に怯えていたが、いざ戦うとなると、自分の実力を知りたくなった。
胸にはまなから貰った、魔法の杖を忍ばせている。
この杖には、魔法強化だけでなく、身体能力の強化も防御力強化も付与されているのだ。
ゴルド国の将軍ゴランに勝てれば少しは自信が持てると考えた。
誘いにのるサエの顔はゴランと同じような、気味の悪い笑顔になっていた。



「はじめーー」

ゴランは、先程のメイとの戦いのように棍を振りかぶった。
それをサエの頭の上に猛烈な勢いで打ち下ろした。
サエは恐さの余り体が硬直してしまい、ゴランの攻撃をそのまま受けてしまった。

バキッ

ゴランはメイの時と違いまともに頭の上に振り下ろしていた。
だが、音を出したのはゴランのもっている棍の方だった。
棍が真っ二つに折れていた。
そして体勢が崩れたゴランがサエの顔を見た。
サエの顔には頭から血が一筋流れていた。

「ひっ」

ゴランは、サエの表情を見たとき思わず小さく悲鳴をあげた。
サエの顔が怒りに燃え、殺気があふれ出していた。
(こんな攻撃普通の人なら死んでいるじゃない)
サエは心の底から湧き上がる怒りを抑えきれないでいた。
そしてその怒りのまま、体勢を崩し前のめりになっているゴランの腹を蹴りあげた。

「ゴフッ」

ゴランの体はそのまま潰れるように地面に崩れ落ちた。
まわりの兵士達が、呆然として二人を見つめた。
ゴランが目だけを動かしサエを見上げた。
サエはそれに気が付くと。

「本当は私、魔法使いなの」

ガラガラ、パシ
サエが言い終わると、巨大な雷が地面を焼いた。
杖が音声入力なので、何も言わずに魔法を出したのだ。

「おおおおおー」

まわりを囲む兵士達から、地を這うような驚きの声が上がった。
もちろんゴランも同じように驚きの声を出していた。

「私、これの何十倍もの魔法が使えますのよ」
「でも、妹のメイはもっと強い魔法が使えますのよ」

ゴランも囲んでいる兵士達も言葉を失いシンと鎮まりかえった。

「メイちゃーーん」
「頭いったーい」

「サエおねーちゃん」
「石頭だから大丈夫!!」

怯える兵士達の緊張をほぐそうとしたのだが、全く受けなかった。
茶番をしている二人の足下でゴランがもぞもぞやっている。
注意して見てみると、さっきメイが投げ捨てた花の茎を一生懸命に真っ直ぐになおして、花びらもしわを伸ばしている。
一通り治して納得がいったのか、サエに差し出した。

「何これ、いらないわよ」

メイと同じように右手で握りつぶすと、地面に叩き付けた。
叩き付けられた花の花びらが外れて飛び散った。
その花を見てゴランがさみしそうな顔をする。
それを見ていた兵士達の肩が揺れている。
声を押し殺し笑っているのだ。
それを見てゴランが切れた。

「誰が笑ったーー、殺すぞ!!」

「おいゴラン私の兵に手を出したら」
「私がお前を殺すぞ!!」

メイがゴランに凄んだ。

「メ、メイちゃん」
「また可愛くなくなっています」

「あっ」
「おねーちゃんがそう言ってまーす」

メイが可愛い笑顔になった。
我慢出来なくなったのか兵士達が笑い出した。
兵士達は、ゴルドの兵になってから初めての笑顔だった。



一日の終り、王城に一室を用意され、二人きりになった、メイがサエに話しかけた。

「敵兵のことはなにも知らない方が戦いやすいな」
「一日でも一緒に過ごすと、情がうつって敵として戦いにくい」

サエの顔を見ながら話した。

「嫌ですよ私は、ゴルド軍として」
「まなちゃん率いる三国連合と戦うなんて」

「それだけは避けないと」
「やばいな」
「いくらケーシーが」
「強くてもキキちゃんに勝てるわけないし」

メイが言うとサエがコクコクうなずいた。

「そーですよ」
「だいたい私は、まなちゃんの護衛ですからね」
「それに、まなちゃんの料理が食べられないのも嫌」

サエがブンブン頭を振った。
メイが天井を見つめ、まなの料理を思い浮かべているようだった。

「それが一番困るな」
「でも、わたし達が戻らなければ」
「まなちゃんが探してくれるとは」
「思うけど」
「ケーシーはやばいぐらい強い」
「誰か死者が出るのも困る」

「そうですね」
「何とか、連絡を取らないと」

メイもサエも黙ってうつむいた。
サエが顔を上げるとメイが忍者の姿になっていた。

「えっ」

サエが驚いて声を出すと、メイが笑って話し出した。

「折角、城の中にいるんだ」
「色々見ておかないと」
「もったいない」

「でも、それで」
「またケーシーさんに」
「見つかったら」
「どうするのですか」

「では、二人で行こうか」

「えーー」

「実はサエの分も貰ってあるのだ」

サエまで忍者服を着た。

「うむ、サエも美人だから似合うのう」

「ほ、本当ですか」

サエも初めて着る服に少し楽しくなっていた。

「じゃあ、行くぞ」

「はい」

二人が廊下に出ると、いきなりケーシーがこちらに向かって歩いていた。

「……!!」

二人は、焦っていた。

「なんだ、メイとサエか」
「そういう服がはやりなのか」
「少し相談したいことがある」
「一緒に来てくれ」

「……」

メイとサエがお互いの顔を見つめ合った。

「ふむ、何か都合でも悪かったのか」

「いいえ、大丈夫です」

サエとメイの声がそろった。



二人が案内されたのは、一つの会議室だった。

一人の老将とゴランが先に集まっていた。
老将は、場違いな二人の少女をにらみ付けていた。
サエは、この視線に少し恐怖を感じていた。

「まあ、かけてくれたまえ」

ケーシーは笑いながら席につくように促したが、目は笑っていなかった。
中央にケイシーが座り左側にメイ、横にサエが座り、右側にゴランと老将軍の順に座っていた。
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