魔王

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第二話 神殿へ

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声のする方を見ると、綺麗な女が立っていた。

「ひ、姫……」

俺に殴りかかろうとしていた、トカゲ人間が動きを止めた。
そして、俺は五十人程のトカゲ人間に囲まれている。

「あのさあ、俺はこの先の神殿に行きたいだけだ。危害を加える気はないのだが」

姫と呼ばれるぐらいだから偉いのだろうと思い、その姫に向って話しをした。

「この先には、我らの国が有る。迂回するなら、邪魔はしない」

「けっ。国の方をどけろ、俺は真っ直ぐ行かせてもらう」

あっ、これが俺の嫌われる理由なのかー。
なんとなく、わかった。

「リズ! この者に、ドラゴンの恐ろしさを教えて上げなさい」

「はっ」

返事をすると、これまた綺麗な赤髪の女が俺の前に近づいた。

「また、女かよ」

「ふふふ、ドラゴンは、体格も力も男より女の方が大きい。私は龍族の中でも三番目の強さだ」

「まあ、そんなことはどうでもいいよ」

俺が、不真面目につぶやいた。それを聞くとリズは少し怒った顔になった。

「行くぞ!!」

リズが俺に向って走り出し拳を出した。
恐ろしい勢いで前に出される拳は、空気との摩擦で熱を出し、服の袖に火がついている。

「こんな、拳があたれば普通の人間なら頭が吹き飛ぶぞ」

俺は、人差し指をリズの拳の前にだした。
リズの拳が俺の人差し指にあたると、リズの体が数メートル後ろに飛んでいく。

「くっ」

リズは体勢を整えて着地する。

「リズ、ドラゴンブレスだ」

後ろから姫さんが声をかける。
リズは大きく息を吸った。

「ファイアーブレス」

リズの口から、巨大な炎が出た。
俺は手の平を、リズのファイアーブレスに向けた。

「バニッシュ!!」

炎は一瞬で、俺の手の平に吸い込まれるように消え去った。
驚くリズのふところに飛び込むと、平手打ちの体勢に入った。
大きく振りかぶり、振り下ろした。

「ヒッ」

リズは目をつむると体を硬直させた。
強い風があたりの木々の葉を揺らした。
俺は、リズの頬の1ミリ手前で手を止めていた。
そして、手のひらで、変態おやじのように、リズの頬を数回なで回してやった。

リズは、赤い顔になると、カクンと膝から崩れ落ちた。

「私は、龍族の王女タイチャ。あなたの名前を教えて下さい」

「俺は、アスラだ」

「アスラ様、神殿まではリズに送らせます。この度の非礼は、それで許してはいただけないでしょうか」

「許すも何も、神殿に行ければ何も文句はねえ」

「ふふふ、リズ、ドラゴンの姿になりなさい」

「えー嫌だよ。服も鎧もだめになるもの」

「やりなさい。そしてアスラ様を背に乗せて、神殿まで飛んで行きなさい」

「にゃ、なんだって。せ、せにゃかに乗せて……」

リズの様子がおかしい。
しどろもどろになっている。
リズは、立派な赤いドラゴンになった。

「アスラ様、せにゃ、背中にお乗り下さい」

俺はリズの姿を下から見上げると、背中に飛び乗った。

「しっかり、お捕まり下さい」

俺はリズの首筋にギュッとしがみついた。

「ひゃっ」

リズの様子がおかしい。
変な声を出すとくねくねしている。
まわりを囲むトカゲ頭達もずっと我慢していたのだろう。
声こそ出さないが、肩をふるわして笑いだしてしまった。
リズは、笑っているトカゲ頭達を、にらみ付けると飛び立った。



「アスラ様、下に見えるのがドラゴンの国です」

眼下には、石造りの街が広がっている。

「トカゲ頭と、人間の頭の奴がいるけど……」

「それは、レベルの違いです。ドラゴンはレベル三十で人型になることが出来ます。レベル六十を超えると初めて顔も人になるのです」

「顔は、自由に造り出せるのか」

「いいえ、固有で変更は出来ません」

「そうか、じゃあ。リズが美人なのは自然なのか」

「なーー、美人……」

「リズ、リズ、墜落しているぞー」

「はっ、う、嬉しすぎて、一瞬気を失ってしまいました」

「……」

な、なんなんだー。このドラゴン。

「あ、だん、アスラ様、見て下さい」

ドラゴンの街を過ぎて、深い森を過ぎると、真っ青な湖が見えてきた。
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