魔王

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第十二話 領主の最期

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イルナは、女神様の胸で心地よさそうにじっとしている。
しばらくすると、目から涙がツーッと流れた。
イルナの心から自然にあふれ出た涙を見た女神様は、なんとも言えない優しい表情になった。

「おい、アスラ殿大丈夫か」

一瞬、尊すぎて気絶して倒れそうになった。
そんな俺の体を、爺さんが受け止めてくれた。

「う、美しい……」

「そうか、そこまで美しいかのう」

「えっ」

俺は爺さんの顔を見た。
普通にしている。

「ふふふ、女性に対してはそれぞれ好みがあるからのう」

爺さんは笑っている。
俺にとっては至高の美しさだが他の人にとってはそうでも無いのか。
そういえば、あの御領主様も惜しげも無く連れて行くことを了解していた。
――そんなことはどうでもいい、俺にとっては至高の美女なのだから。

「あっ、いけねえ。勝手に甘えちまった。なあ、かあちゃん甘えていいか」

な、何を今更、イルナめーー。

「うふ、いいわ」

女神様はイルナをギュッと抱きしめた。
イルナが俺には見せたことが無い表情で女神様に甘えている。

「なあ、イルナその位にしたらどうだ、その人が困っているじゃねえか。服だって着替え無いといけないだろ」

「あの、アスラ様、私はフォリスといいます」

「そうですか。イルナ、フォリスさんが着替えるから離れなさい」

フォリスさんは御領主様のガウンを羽織っているだけで、イルナが抱きついているおかげで、パンツは丸出しになり、胸も半分位出てしまっている。
俺は収納魔法でしまってある元パーティーの神官が着ていた、白い清楚な服を出して渡した。

フォリスさんは、それを持って船室に入り着替えている。
イルナは超ご機嫌で俺の横に来た。
だが、俺は言わなくてはならない。

「イルナ、あのなフォリスさんは、かあちゃんになってくれるために来た訳じゃ無いんだ」

「えっ!!」

俺はこんなに驚いた人間の顔を見たことが無い。

「ごめんな」

「いやだー、父ちゃんの馬鹿―、なんで追い出すんだよー―!!」

イルナは大声で叫んだ。
イルナが叫んでいると着替えが終ったフォリスさんが出て来た。
白い服を着たフォリスさんは気が狂うかと思うほど美しかった。

「あの、私は追い出されるのですか」

フォリスさんが寂しそうな顔をしている。
それをみたイルナが声を上げる。

「父ちゃん、かあちゃんを追い出さないでくれよー」

「あ、いや、ここにいたいという人に出て行けとは言わないよ」

「うふふ、よかった」

イルナがフォリスさんに抱きついて甘えている。
いえむしろ良かったのは、俺の方です。
俺は、こんなに喜んでいる自分を知らない。

「よかったのう」

爺さんが、俺の顔を見てニヤニヤしている。



このあと俺たちは食事をして、全員で甲板に横になった。

「なんだか、おいらすごい幸せだ。殴られねーし、かあちゃんもじいちゃんもできた」

イルナはフォリスさんに抱きついて泣いているようだ。
……ちょっとまて、父ちゃんを忘れとるぞこいつ。
しかも並び方がおかしい。
フォリスさん、イルナ、爺さん、そして俺の順で寝ている。
なんで俺がフォリスさんから一番遠いんだよー。

皆が眠って二時間が過ぎた。

「うっ……」

フォリスさんが船酔いになったようだ。
俺たちはフォリスさんを気遣って陸にあがった。

「あれは何ですか」

フォリスさんは街の中央、城の場所を指さした。
街がうっすら赤く浮き上がっていた。

「あれは、城が燃えているのさ。あの城は門が壊れて、守備兵が行動不能になっていたから、領主を憎んでいた人達が侵入して復讐を果たしたのだろうね」

「アスラ様はこうなる事がわかっていたのですか」

「ふふふ、フォリスさんのような人が大勢いることがわかっていたからね。俺なら城をあんなに厳重に守らなくてもいいようにするからね」

「……」

「だからって、フォリスさん、死んじゃだめだぜ」

「……」

フォリスさんは返事をせずにずっと城を見ている。
俺にはフォリスさんが何を考えているのかわからなかった。
でも、出来れば、死ぬ事を諦めて、俺の近くで生きてくれることを望んでいた。
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