魔王

覧都

文字の大きさ
20 / 208

第二十話 換骨奪胎

しおりを挟む
「さあ、そろそろ、ボスを倒しましょうか」

そういって、俺は百五十階層へ向って歩き出した。
何だかいつもは、強気なフォリスさんが影を潜めて、おしとやかになっています。
イルナもやはり雰囲気が暗くて物静かになっている。
さっきの出来事を完全に引きずっています。大丈夫でしょうか。

百五十階層に降りて、まずは雑魚モンスターの処理。
無言ですが、二人とも体は動いています。
雑魚と言っても、言うまでも無く強いモンスターです。
それが森にいるゴブリンのようにサクサク倒せている。

これだけ成長してくれれば、俺が勇者に退治されても立派に生きていけると思う。でも、俺としてはもう少し一緒にいたい。どうせ分かれなければならないのだが、いざそうなると名残惜しい。

――換骨奪胎をして、もう一度レベル上げを一緒にするというのはどうだろう。なんだか名案の気がする。
ボス戦に勝てたら聞いて見ようかな。

いよいよボスが出て来た。
全身が真っ黒で光沢があり、まるで金属のような皮膚の、巨大な人型のモンスターだ。
俺が少し体を動かしたら。

「アスラ様、二人に任せてください」
「父ちゃん、かあちゃんと二人で戦いたい」

二人の声がそろった。
俺は、大人しく見守ることにした。





「わたしの名は、ランロン、生と死の精霊じゃ」

「ぷっ」

今までずっと一緒にいたくせに何を言っているのかと、思わず吹き出してしまった。

「あなたが、ランロンちゃん、やっと見ることが出来る様になった。とっても可愛い」

「本当ですね、妖精みたいに美しくて可愛い」

イルナとフォリスさんがうっとりとした表情でランロンを見ている。

「わしは、妖精ではない、精霊じゃ」

ランロンは妖精と言われるのは嫌なようだ。
だが、真っ赤な顔をして、もじもじしているから、可愛いといわれて喜んでいるようだ。

「ここは換骨奪胎の神殿じゃ。換骨奪胎を望むのじゃな。」

「はい」

二人の返事が重なった。

「うむ、二人とも祭壇に手を当てるのじゃ」

「はい」

「ふむ、二人の換骨奪胎の先の職業は、大賢者と大聖女じゃ、どちらを望む」

「おいらは大聖女」

「わ、私は大賢者」

「ふむ、同じ職も選んで良いのじゃが、それで良いのか」

「おいらは、かえなくてもいいよ」

「私の様な不浄な女は、聖女様にはふさわしくありません。賢者でお願いします」

「うむ、よかろう」

ランロンがうなずくと、フォリスさんと、イルナの体が金色に輝いた。
そして、フォリスさんは十二歳の少女の姿になった。
あの巨大な胸のふくらみが、なんにも無くなってしまった。
イルナは、美しい少女の姿になっている。

「えっ、イルナ、お前女になっちまったぞ」

「な、何を言っているのですか。イルナちゃんは女ですよ」

子供姿のフォリスさんに怒られた。
姿が子供になると、声まで変わってしまうようだ。

――うおーーーっ。俺のフォリスさんが別人になってしまったー!!

「これで、二人は生まれ変わった」

「えっ、生まれ変わった?」

フォリスさんが目を見開いて驚いている。
俺はこんなに驚いた顔をした人を知らない。

「そうじゃ、まあ、生まれたばかりの子供にはならぬが、確かに生まれ変わっておる」

ランロンが言い終わると。
フォリスさんの体が崩れ落ち泣き出してしまった。

「うわーーーーっ、うわあああーーん」

すごい号泣だ、どうしたのだろうか。

「よかったーー、ううっ、よかったーー」

「フォリスさん、どうしたのですか」

俺が近づいたら、フォリスさんが抱きついて来た。
フォリスさんから、俺の体に触れてくるのは初めてで俺は驚いた。

「私は、けがされた女です」

「えっ」

そうか、フォリスさんが体に触られるのを嫌がっていたのは、俺を嫌っていたわけじゃなかった。
あの領主のことで自分をけがされたと思っていたんだ。

「生まれ変わったのでしたら、アスラ様に触れる事が許されます。うれしい」

「フォリスさん、俺はフォリスさんがけがされた女なんて思ったことは無かったよ。もしそれを言うなら、俺の方こそ二人の近くにふさわしくない人間だ」

「えっ」

フォリスさんと、イルナが俺を見つめる。

「俺は、勇者だったとき、人を恨んで生きていた。心がけがれていたのさ。体なんかは、けがれねえ。一番けがれちゃいけねえのが心なのさ。俺はその心をけがしてしまった人間なのさ」

「ちがうよ父ちゃん。父ちゃんは俺を助けてくれた。優しい、良い、父ちゃんだ」

「そ、そうです。アスラ様は私も救って下さいました。けがれた心も、その後の行いで正せると思います」

「ありがとうな!!」

俺は、慰めていたつもりが慰められていた。泣きそうになっている。
この二人と、ずっと一緒に暮らしていきたいと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...