魔王

覧都

文字の大きさ
上 下
28 / 208

第二十八話 名乗り

しおりを挟む
魔人の国の港町ドレーク。この町は人間の港町ソロンと同じような町のつくりだ。
だが、さびれている。
人の姿がほとんど無い、中央広場には屋台も無く、暗い雰囲気に恐怖すら感じる。
領主邸はどこかと探すまでも無く、領主邸の位置まで同じようだ。

かって知ったる我が町のように、領主邸へ向って歩く。
エドさんは、使用人に荷物を任せると一緒に付いてきている。
一番わくわくして楽しそうだ。

いちかばちかで、領主邸の門を守る衛兵に話しかけて見た。

「あのー、魔王ですが領主様に面会できませんか」

「!!」

凄い顔をして驚いている。
衛兵の視線はクザンに釘付けになった。
こうして見てみると、クザンの方が魔王に見える。

四人いた衛兵の一人が、中に駆け込んだ。
こういうことには時間がかかる。
のんびり待つことにした。

「意外とやってみるもんですね。追い返されませんでした」

俺は、雑談モードで皆に話しかけた。

「取り合って貰えなかったら、どうするつもりだったのですか」

バンさんが緊張した顔で聞いて来た。

「簡単ですよ。不敬罪でお仕置きです。僕は大魔王なのですから」

「……」

なんだか、皆の顔がそれぞれ違う表情で押し黙った。



「こちらへどうぞ」

十五分ほどで中庭へ通された。
武装した兵士が二十人程と、身長は二メートル、体重は二百キロを超えていそうな大男が、大斧を右手に持ち立っている。
恐らくあいつがオウブ将軍か。

「ようこそ、大魔王様、私は領主ロアド、代々魔王国の宰相を務めた家系のものです」

「わが、あるじに対して不敬である」

クザンが怒っている。
ロアドは少し高い位置から、俺たちを見下ろして声をかけている。
言葉では大魔王と言っているが、鼻で笑っているのだろう。

「何が不敬だ、魔王の名をかたる大罪人め、叩き殺してやる」

「あっ!!」

俺が戦おうと思っていたのに、フォリスさんがオウブの前に立っている。素早い。

「フォリスさん、ちゃんと手加減して殺さないであげてください」

「ふざけるなー!!」

俺の一言がオウブの闘争本能に火を付けてしまったようだ。
オウブは自慢の大斧を目一杯振りかぶると、自然体のフォリスさんに振り下ろした。

コーーーーーーン

こもった金属音が鳴り響いた。
フォリスさんが親指と人差し指で大斧の刃をつまんで止めている。

中庭がシンと静まり帰った。

フォリスさんは、自然体のまま目を閉じている。
静かに時間が過ぎた、何も動きが無いと思っていた。
だが大斧を持っているオウブの体が少しずつ宙に浮き始めた。
力比べをしていたようだ。

「くそーーおおお」

オウブは足をバタバタ、ばたつかせる。
フォリスさんの体は微動だにしなかった。
自然体のまま目を閉じている。

「ちっ」

オウブは舌打ちをすると斧から手を離した。着地すると、フォリスさんに体当たりをするため地面を蹴った。
オウブ自身は渾身の体当たりなのだろうが、フォリスさんには止って見えるほどの遅さなのだろう。
ギリギリで避けた。
その速度が速すぎる為、オウブはフォリスさんを見失った様だ。
前傾姿勢のオウブの首筋に、オウブ自慢の大斧の刃が触った。
オウブは静止した。静止したオウブの頬をツーと汗が流れる。

フォリスさんは大斧をくるんと回すと、地面に突き刺した。
そして、俺の前に来ると、ひざまずき頭を下げる。

かっ、かっこえーー。

地面に突き刺さった、大斧を抜こうとしてオウブは悪戦苦闘している。
深く刺さった斧が抜けないようだ。

かっ、かっこわるーー。

「いつまで大魔王様に、ひざまずかぬつもりだーーーー」

フォリスさんが叫んだ。
全員が武器を捨て俺の前にひざまずいた。
フォリスさんが、片目をつむって舌を少しだけ出している。

か、かわいいなーおい。

「クザン、門と防御壁が邪魔です。叩き壊してください」

俺は、いつもにもまして丁寧な言葉で命じた。
クザンが、門を壊し、壁を壊していく。
悪いことをする気がないのだから、過剰な防御は不要だと思っている。

バンさんとエドさんが口をパクパクして驚いている。

「いつまで、大王様をこんな所に立たせておくつもりですか。部屋へ案内しなさい」

フォリスさんがロアドに命じた。
しおりを挟む

処理中です...