魔王

覧都

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第百二十一話 勇者を圧倒

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ギールさんは酷い拷問を受けて、全身あざだらけです。
立つのもやっとの状態でフラフラしています。

「やれーー!!!」

勇者の一言で、ギールさんの拘束具が引っ張られ、両腕が水平に開きました。
兵士がゆっくり大刀を振り上げます。

「や、やめろーー! なんでこんなことをするんだー!!」

その言葉を聞くと勇者は、嬉しそうな顔をしてあごをクイッと動かしました。
兵士の大刀が右腕の付け根に振り下ろされました。

ガキン

大刀が腕の皮膚に触る寸前、イルナ様が目にも止らぬ速さで移動して、指輪で大刀を受けました。
大刀が指輪に当たった瞬間少し押し上げた為、兵士の握力を超えたようです。
大刀はすごい勢いで飛んで行きます。

飛んで行った大刀は、勇者の顔の横をかすめ、玉座に突き刺さりました。
さすがイルナ様です。
こんなことが狙って出来るなんてすごすぎます。

あっ!

大刀の刺さった先を見て、イルナ様が驚いた顔を一瞬見せました。
すごいのは勇者も同じです。
顔の横に大刀がとんできても眉一つ動かしません。
完全に見切っているようです。

あっ!

今大刀に気が付いたみたいです。
目を見開いて口を大きく開いて大刀を見ています。
どうせなら、当たればよかったのに。

「き、きさまーー!!」

勇者が間抜けな顔から、激怒の表情に変わりました。
イルナ様はすぐさまひざまずき、額を床につけました。
床は大量の血で汚れているので、イルナ様の美しい服が見る見る血で染まっていきます。

「これは、やりすぎです。ここまでやってしまえば、士気は上がるどころか逆効果で下がってしまいます。どうか死刑だけは許していただけませんか」

額を床につけたまま、イルナ様が懇願します。

「ばかめーー!! 誰がゆるすかーー!!!」

勇者が大きな声で恫喝します。
イルナ様は顔を上げると、すごく冷たい目をしています。
おでこに丸く血が付いています。
ゆっくり息を吸い込み、少し間を取りました。

「あなたには、話していません。陛下にお願いしているのです」

ぎゃーー、イルナ様が怒っています。
陛下は、目が泳いでどうしようかと迷っているようです。

「な、なんだとーー!!」

勇者が何か言っていますが、イルナ様は完全に無視をして、陛下の目をじっと見つめています。

「陛下の許しがあれば、ここにいるギール隊長も、何万もの兵士の命も救われます。どうかご決断下さい」

イルナ様の目が優しくなり、温かに見つめます。
おどおどしていた陛下の目に、力が宿りました。

「うむ、余もやり過ぎだと思っていた。全兵士達の死刑は撤回する。そして、命は預けておくので、次回の魔王軍との戦いで汚名を返上せよ」

「ははーー!!」

イルナ様は大げさに返事をした。
これで、兵士達の死刑はなくなった。

「ぐぬぬぬぬ!!」

勇者が下唇を噛みしめ、目を充血させてうなっています。
イルナ様は勇者を完全に敵にまわしてしまったようです。
陛下はイルナ様を見つめて、力強い味方を得たように感じているのか、潤んだ目でじっと見つめています。

「では、目的は果たしました。エマさん、ライファさん帰りましょう」

すました顔をして、イルナ様はスタスタ歩き出しました。
私は、エマ姉の後ろに付いて歩き出しましたが、背中に恐ろしい殺意の視線を感じています。
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