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第110章『離脱と残留』
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第110章『離脱と残留』
早朝に発生した海兵隊基地内での活骸発生、かなり初期の段階でその事態に気付いた正門の警衛により正門は完全封鎖され、それ以降も三ヶ所の通用門、そして対馬区へと通じる第一防壁門もそこで警衛の任に当たっていた隊員達により順次封鎖され、活骸が基地外へと流出する事態だけは避けられた。
「何なんだよこれ……どうなってんだ!」
封鎖の後に即座に制圧に転じた警衛の隊員達は奮戦も虚しく全員が活骸に食い殺され、それを第一防壁門以外からの外側から見ていた人間は、突然眼前に突き付けられ、そして繰り広げられた惨劇に瞬時に恐慌状態に陥った。
幸いにして民間の住宅街からは距離が有った為に民間人の目に触れる事は殆ど無かったが、数百mの至近距離で自らも駐屯地を構える陸軍兵士達の間に走った衝撃は凄まじいものが有り、発覚から十分も経たない程の短時間で事態は駐屯地司令である佐竹へと伝わる事となった。
やがて方々の建物から屋外へと出て来て制圧を試みる海兵隊員達、救援よりも先に柵の外で様子を窺う陸軍へと
「活骸が発生した!可能な限り周辺の封鎖と避難を!門は封鎖した様だが何処から漏れるかも分からん!任せたぞ陸軍!!」
そう声を放って求め、各々が太刀を手に制圧の為の応戦へと転じて行く。
いつもは啀み合っていても同じ国の軍人同士、危機に手は貸すべきと夫々が動き出す。或る者は求められた様に車両を出し大通りを封鎖し、或る者は官舎や店舗を周り非戦闘員を避難させ、また或る者は博多駐屯地へと戻り海兵隊基地の状態を伝え対応すべきと上申もした。
その場に残った者達が見たものは、人在らざる者に太刀一振りと己が肉体だけで挑み掛かり、斬り伏せ、そして力尽き食われて行く海兵隊員達の姿。柵の直ぐ近くで繰り広げられる地獄絵図に思わず顔を背ければ耳に届くのは多くの断末魔の叫び声。
海兵隊が実際に活骸と戦うところを見た陸軍兵はそう多くない、それも対馬区ではない、昨年の本土侵攻の時が最初で最後、だった、たった今迄は。
今日は確か海兵隊が対馬区へと出撃する予定だった筈、昨年の彼等の戦い振りも大したものだとは思ったが今日は主力部隊がいる分あの時以上に凄まじい。そして、活骸はそれ以上に強かった。
やがて柵の遥か向こう側から数台のトラックがこちらへと走って来て、生き残っている海兵を荷台に載せてまた基地内の何処かへと去って行く。漸く統制の取れた動きが中で生まれ始めたらしい、中の事は自分達にはこれ以上何も出来ないだろう、現状はとにかく中の地獄と外を隔てるこの柵を死守する事だと、誰かが口にした言葉にその場の全員で頷き合った。
それから一時間程は動きも無く、トラックを追って行ったのか活骸の姿も見当たらない、目の前のあちこちに横たわるのは、今朝迄は確かに生きて動いていた、人間だった無数の肉片。その凄惨さを前にどうする事も出来ずに立ち尽くす彼等の前に再びトラックが姿を現したのはそれから少ししてから、凄まじい速度で走って来たそれは柵にぴたりと横付けすると荷台から柵へと梯子を立て掛け、そこに乗っていた海兵隊を一斉に外へと離脱させ始めた。
「無事だった者を離脱させる!動ける者は各種作業に使ってくれ、負傷者は手当てを!」
横付けにしたトラックの一台の運転席の窓から顔を出したのは、海兵隊最先任上級曹長の敦賀、その彼の顔は直後に聞こえた
「司令!来ます!」
という、高根へと向けられたであろう言葉に反応し、直ぐに車内へと引っ込んで行った。
「……なぁ、あれ、何だ?」
混乱の中誰かがトラックの荷台を指して口を開く、それに気付いた者がその指の向けられた方向へと視線を向けてみれば、そこに在ったのは梯子を登る海兵達の向こうにちらちらと覗く、あおりに沿って一直線に並んだ背中。一台に三人ずつ、計五台並んだトラックの荷台に総勢十五人がこちらへと背を向けて何かを向こう側へと向けて構えており、そして、小柄な体格の海兵が一人、小銃の様な物を手に中央のトラックの上へと駆け上がって来た。
「弾込め確認!出来たら狙いを定めろ、先程言った通りに狙うは胸元正中線、良いな!」
女か、女が生き残っていたとはとその背中を見詰め続ければ、女も荷台に並んだ海兵達と同じ様にして構え、そして――、
「――てーっ!!」
女のその言葉を合図に、十六丁の銃口が一斉に火を噴いた。その銃口が向けられた先には押し寄せる活骸の群れ。馬鹿な、銃なんか活骸には効かないと一番分かっているのは海兵隊の筈なのに、発射と同時に活骸の群れの最前線は弾け飛び、頭部や上半身を撒き散らしながら何体もが倒れ込んで行く。
「なん、だ、今の……」
「銃弾にそんな威力は――」
「おい、違う、あれ、俺等が貸与されてる小銃じゃない、形が全然違うぞ、見てみろ」
突然眼前で披露された銃の破壊力、離脱する人間はこちら側へと越え切ったのか視界が開け、陸軍兵は思わず今の威力の詳細を見ようと柵へと向かって駆け寄った。トラックの荷台の向こうに転がる活骸の死体、弾着したであろう辺りは大きく弾け飛び、中には胸の辺りで胴体と頭部がずたずたに断裂されているものすら有る。今迄に見た事の無い銃創、一体これは何なのかと活骸の死体を見た後に荷台にいる海兵達を見上げれば、離脱を完了させ活骸が迫る状況の中、トラックは来た時と同じ様に凄まじい速度でその場からの離脱を開始する。
「まだ数回運んで来る!ここで待機と受け入れを宜しく頼むぞ!」
海兵隊最先任の敦賀の怒声が響く中、トラックの上に立っていた女が車体を蹴り、荷台へと降り立ち、着地した直後柵の外の自分達へと一瞬視線を向けたのを複数の陸軍兵が気付いて彼女へと視線を向けた。
鋭く冷たく、そして獰猛な眼差し。
「……何だよ……あの目……女、ってか、人間なのか……?」
誰かの零した小さな呟き、それに対する答え等、誰も持ち合わせてはいなかった。
早朝に発生した海兵隊基地内での活骸発生、かなり初期の段階でその事態に気付いた正門の警衛により正門は完全封鎖され、それ以降も三ヶ所の通用門、そして対馬区へと通じる第一防壁門もそこで警衛の任に当たっていた隊員達により順次封鎖され、活骸が基地外へと流出する事態だけは避けられた。
「何なんだよこれ……どうなってんだ!」
封鎖の後に即座に制圧に転じた警衛の隊員達は奮戦も虚しく全員が活骸に食い殺され、それを第一防壁門以外からの外側から見ていた人間は、突然眼前に突き付けられ、そして繰り広げられた惨劇に瞬時に恐慌状態に陥った。
幸いにして民間の住宅街からは距離が有った為に民間人の目に触れる事は殆ど無かったが、数百mの至近距離で自らも駐屯地を構える陸軍兵士達の間に走った衝撃は凄まじいものが有り、発覚から十分も経たない程の短時間で事態は駐屯地司令である佐竹へと伝わる事となった。
やがて方々の建物から屋外へと出て来て制圧を試みる海兵隊員達、救援よりも先に柵の外で様子を窺う陸軍へと
「活骸が発生した!可能な限り周辺の封鎖と避難を!門は封鎖した様だが何処から漏れるかも分からん!任せたぞ陸軍!!」
そう声を放って求め、各々が太刀を手に制圧の為の応戦へと転じて行く。
いつもは啀み合っていても同じ国の軍人同士、危機に手は貸すべきと夫々が動き出す。或る者は求められた様に車両を出し大通りを封鎖し、或る者は官舎や店舗を周り非戦闘員を避難させ、また或る者は博多駐屯地へと戻り海兵隊基地の状態を伝え対応すべきと上申もした。
その場に残った者達が見たものは、人在らざる者に太刀一振りと己が肉体だけで挑み掛かり、斬り伏せ、そして力尽き食われて行く海兵隊員達の姿。柵の直ぐ近くで繰り広げられる地獄絵図に思わず顔を背ければ耳に届くのは多くの断末魔の叫び声。
海兵隊が実際に活骸と戦うところを見た陸軍兵はそう多くない、それも対馬区ではない、昨年の本土侵攻の時が最初で最後、だった、たった今迄は。
今日は確か海兵隊が対馬区へと出撃する予定だった筈、昨年の彼等の戦い振りも大したものだとは思ったが今日は主力部隊がいる分あの時以上に凄まじい。そして、活骸はそれ以上に強かった。
やがて柵の遥か向こう側から数台のトラックがこちらへと走って来て、生き残っている海兵を荷台に載せてまた基地内の何処かへと去って行く。漸く統制の取れた動きが中で生まれ始めたらしい、中の事は自分達にはこれ以上何も出来ないだろう、現状はとにかく中の地獄と外を隔てるこの柵を死守する事だと、誰かが口にした言葉にその場の全員で頷き合った。
それから一時間程は動きも無く、トラックを追って行ったのか活骸の姿も見当たらない、目の前のあちこちに横たわるのは、今朝迄は確かに生きて動いていた、人間だった無数の肉片。その凄惨さを前にどうする事も出来ずに立ち尽くす彼等の前に再びトラックが姿を現したのはそれから少ししてから、凄まじい速度で走って来たそれは柵にぴたりと横付けすると荷台から柵へと梯子を立て掛け、そこに乗っていた海兵隊を一斉に外へと離脱させ始めた。
「無事だった者を離脱させる!動ける者は各種作業に使ってくれ、負傷者は手当てを!」
横付けにしたトラックの一台の運転席の窓から顔を出したのは、海兵隊最先任上級曹長の敦賀、その彼の顔は直後に聞こえた
「司令!来ます!」
という、高根へと向けられたであろう言葉に反応し、直ぐに車内へと引っ込んで行った。
「……なぁ、あれ、何だ?」
混乱の中誰かがトラックの荷台を指して口を開く、それに気付いた者がその指の向けられた方向へと視線を向けてみれば、そこに在ったのは梯子を登る海兵達の向こうにちらちらと覗く、あおりに沿って一直線に並んだ背中。一台に三人ずつ、計五台並んだトラックの荷台に総勢十五人がこちらへと背を向けて何かを向こう側へと向けて構えており、そして、小柄な体格の海兵が一人、小銃の様な物を手に中央のトラックの上へと駆け上がって来た。
「弾込め確認!出来たら狙いを定めろ、先程言った通りに狙うは胸元正中線、良いな!」
女か、女が生き残っていたとはとその背中を見詰め続ければ、女も荷台に並んだ海兵達と同じ様にして構え、そして――、
「――てーっ!!」
女のその言葉を合図に、十六丁の銃口が一斉に火を噴いた。その銃口が向けられた先には押し寄せる活骸の群れ。馬鹿な、銃なんか活骸には効かないと一番分かっているのは海兵隊の筈なのに、発射と同時に活骸の群れの最前線は弾け飛び、頭部や上半身を撒き散らしながら何体もが倒れ込んで行く。
「なん、だ、今の……」
「銃弾にそんな威力は――」
「おい、違う、あれ、俺等が貸与されてる小銃じゃない、形が全然違うぞ、見てみろ」
突然眼前で披露された銃の破壊力、離脱する人間はこちら側へと越え切ったのか視界が開け、陸軍兵は思わず今の威力の詳細を見ようと柵へと向かって駆け寄った。トラックの荷台の向こうに転がる活骸の死体、弾着したであろう辺りは大きく弾け飛び、中には胸の辺りで胴体と頭部がずたずたに断裂されているものすら有る。今迄に見た事の無い銃創、一体これは何なのかと活骸の死体を見た後に荷台にいる海兵達を見上げれば、離脱を完了させ活骸が迫る状況の中、トラックは来た時と同じ様に凄まじい速度でその場からの離脱を開始する。
「まだ数回運んで来る!ここで待機と受け入れを宜しく頼むぞ!」
海兵隊最先任の敦賀の怒声が響く中、トラックの上に立っていた女が車体を蹴り、荷台へと降り立ち、着地した直後柵の外の自分達へと一瞬視線を向けたのを複数の陸軍兵が気付いて彼女へと視線を向けた。
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