大和―YAMATO― 第二部

良治堂 馬琴

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第194章『似た者同士』

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第194章『似た者同士』

「敦賀!止まれ!止まれって!!」
「何だ、どうした!?」
「あれ!真吾が!!」
 順調に掃討を続けていたタカコの分隊、その彼女達が乗るトラックが分隊長であるタカコの号令で突然動きを止めた。新戦法を充分に検証出来る程の活骸の群れが見当たらずに走行中、多少の時間停止していても問題は無いかと運転手である敦賀がトラックを停止させれば荷台に立つタカコが後方を指し示す。
「真吾!?何やってんだあの馬鹿!」
「司令!?」
 彼女が示す先にいたのは、指揮車両の助手席に乗り現場を走行しつつ状況を確かめて指揮を執っている筈の総司令である高根の姿、それが何故か周囲に警護の姿も無く一人で大和を手にし活骸を斬り伏せているのを見て、荷台の全員は顔を見合わせて散弾銃を床に置き、代わりに夫々に貸与されている太刀を手にして荷台を飛び降りた。
「おい!タカコ!」
「憲一に連絡して状況確かめろ!」
 小此木に連絡を取れ、それだけ言ってタカコもまた村正を手にし駆けて行く。敦賀はその彼等の背中を見ながら舌打ちをし、無線機の送受話器を乱暴に掴み取った。

 十体から先は斬った数を数えるのは止めた、もっと鈍っているかも知れないと思っていたが案外そうではなかったらしい、まだ後二十はいけるかと手拭いを取り出して刃の脂を拭い、輝きを取り戻したそれを見て高根は力強く笑った。
 以前、もう二年以上前にタカコを戦闘に参加させるかどうかで敦賀と言い争いをした時の事を思い出す、
『てめぇが腰にぶら下げてるその大和は総司令様のお飾りか?』
 彼はそう言っていた。そう、敦賀の言う通りだ、これは、大和はお飾り等ではない、海兵の持つ全ての刀は活骸を、敵を斬り伏せる為に存在しているのだ、強さの象徴の装飾品等ではない。
 と、手拭いをポケットへと戻せば前方の路地からまた数体が現る。もっと、もっと斬り伏せて前に進むのだと口元を歪めて笑いながら眦を決し一歩前へと踏み出せば、突然高根の両脇を幾筋もの風が追い越して行く。
「司令!ご無事ですか!」
「お前等!何やってんだ!?」
「それはこっちの台詞ですよ司令!とにかく下がって下さい、自分等が片付けます!」
 現れたのは敦賀とタカコ以外のタカコの分隊の面々、泉と島津が高根の両脇に付き、他は前方に現れた活骸へと斬り掛かって行く。もう少しの間楽しみたかったがどうやらもう終わりの様だ、部下が出張って来た状況でこれ以上我は通せない、そう思い大和を下ろした直後、背後に突然現れた鋭い気配に、高根は反射的に踵を返し大和を振り上げていた。
 響き渡る鋭い金属音、目の前には交差する刃、その向こうに在るのは、怒りに燃えたタカコの双眸。
「タカコ!お前何やってんだ!」
「うるせぇ!海兵隊の頭がこんな所で仕事放り出して一兵卒みてぇにウキウキ活骸斬ってんの見てキレねぇワケが無ぇだろうが!てめぇ司令官の自覚有るのかクソッタレが!!」
「はあぁ!?てめぇが言うかそれをよ!」
 タカコの村正の刃を受け止めた高根、その彼がタカコの言葉に憤慨し怒鳴り返す。その間も二本の太刀は鍔迫り合いを続け、両脇にいた泉と島津、そして活骸を斬り伏せて戻って来た他の面々も唖然とした様子でそれを眺めていた。
 立場を弁えろ、替えの利く身上ではないだろう、お前が言うな、そっちこそ、延々と続く罵り合い、何がどうなっているのか、何故二人がこんな罵り合いをしているのか、皆目見当が付かない上に二人の間には鋭い刃、下手に止めに入っても誰かが怪我をすると若干遠巻きに眺める中、二人の男がその諍いの中心へと近付き、大きく腕を振り上げ高根とタカコの後頭部へと夫々掌を叩き込む。響き渡る小気味の良い音、頭を押さえて蹲る二人の背後に在ったのは、カタギリと、そして、いつの間にか追いついて来た敦賀の姿。
「……へぇ……?罠仕掛けてでも俺等の制止振り切って単騎でカチ込み掛ける馬鹿上官が何を偉そうな事言ってるんです……?」
「おい、真吾よ……てめぇ……活骸斬りたいからって憲一に全権押し付けて来やがったってなぁ……?」
 適当でいい加減で掴み所の無い、そんな上官を抱えて気苦労の絶えない敦賀とカタギリ。どうにも反りが合わなくて寄れば触れば啀み合っていたというのに、この時ばかりは心には同じ憤りを抱き夫々の上官へと殺気と怒りを湛えてにじり寄って行く。
「や、あの、ほら、ね?ケイン?カタギリ中尉?」
「や、やだなぁ、敦賀、恐いよ?そんな恐い顔してたらタカコが怯えちまうぞ?」
 若干引き攣った顔をしつつも真剣には捉えていない様子のタカコと高根、その振る舞いが更に敦賀とカタギリの怒りを増幅させ、す、と、音も無く夫々の太刀を構えたのを認識した瞬間、指揮官二人は己の太刀を手に脱兎の如く走り出した。
「待てやこの馬鹿上官!今度こそブン殴る!寧ろブチ殺す!どんだけ部下に手間掛けさせるつもりだ!」
「真吾!てめぇもいい加減立場を理解しやがれ!完全に沈めねぇと理解出来ねぇのかこの糞が!」
「やだ!無理!現場が一番性に合ってるんだもん!」
「たまには良いだろうがよ!」
「ふざけんな!」
「ブチ殺す!」
 ぎゃあぎゃあと叫びながら新たに前方に現れた活骸の群れへと突っ込んで行くタカコと高根、その方角から汚れた血飛沫が上がり、そこに敦賀とカタギリも突っ込んで行く様子を眺めつつ、流れについて行けずに唖然としていた面々が誰とも無く口を開く。
「……あれ?ギリ、タカコの事上官とか言ってなかったか?」
「言ってましたね。タカコの方もギリの事ケインとか、中尉とか言ってたような……ギリもワシントン人って事ですかね?」
「うそーん、他国の士官かよ。俺あいつの事パシリにした事有るんだけど」
「あれ?そうすっと、ギリが中尉、軍人って事は……タカコもそうって事ですかね?」
「まぁ、それは不思議じゃねぇけど」
「それにしてもよ……前から思ってたんだけど、司令とタカコって……」
「……はい、そっくりですよね……あの、何と言うか、指揮官として或る意味物凄く駄目なところが……前からもしかしてとは思ってたんですけど、今回の司令の動きで確信しました……」
 波乱続きの海兵隊にいればカタギリの出自等最早取るに足らない事なのか軽く流し、
「……取り敢えず、仕事に戻ります?活骸の掃討に来たんですし、それやっちゃいません?」
 と、誰かが発した言葉に頷き合い太刀を構え直し、残された八人も活骸の群れへと向かい走り出して行った。
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