大和―YAMATO― 第二部

良治堂 馬琴

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第196章『砲撃』

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第196章『砲撃』

 海兵隊が参戦してから十五時間、黒川の発令により投入された博多と春日両駐屯地からの増援、更には高根の代行である小此木の発令により出動した海兵隊の第二陣と、指揮車へと戻った高根の発令により出動した第三陣の投入を経て、漸く鳥栖市街地に大量発生した活骸の掃討戦の終わりが見えて来た。
 散弾銃を使用した新戦法の実地での確認を経て、タカコの分隊を解隊し指導役として他の分隊のトラックへと再配置し、太刀の使用から新戦法へと切り替えて続行された掃討は目覚ましいという言葉も陳腐に聞こえてしまう程の凄まじい成果を上げている。
 同士討ちを含め陸軍には多数の戦死者を出し、海兵隊も当然無傷とはいかず二十名程の戦死者を出す形となったが、それでも太刀のみに頼っていた時よりも格段に改善した損耗率、今日死なせてしまった部下達の死も無駄ではないと思いたい。陸軍と同じ場所に設営した海兵隊の前線指揮所へと入った高根は夜の鳥栖市街地を黙したまま見下ろしつつ、そんな事を考えていた。
 所々に上がる火の手、博多の時は夕餉の支度時に差し掛かっていた所為で火災が拡大する結果となったが、今回の鳥栖は季節、初冬の朝方である事が災いした。部屋を暖める為に焚かれた火が誰の手で消される事も無く蹴り倒され家屋へと燃え移り、未だ消火される事も鎮火する事も無く鳥栖の市街地の輪郭を不気味に浮かび上がらせている。
 今回投入した散弾は一万発、その殆どを消費したと各小隊から報告を受けている。一万人、鳥栖の人口の殆どを活骸に変異させられたのかと無意識に歯を軋らせれば、背後から黒川に声を掛けられた。
「高根司令、どうだ、掃討の按配は」
「黒川総監……ええ、ほぼ完了した様です、ここ三十分程は遭遇の報告を受けていません」
「そうか……陸軍が不甲斐無いばかりに海兵隊の手を煩わせる事になった、すまんな」
「いえ、陸軍への新戦法の伝達は完了していませんでしたし、こういう時は陸も海兵も関係無いでしょう。対馬区へと出られないなら我々も本土の防衛に出動して当然です」
「そうだな……素晴らしい戦果を上げたな、海兵隊は。良い兵士を持ったな、羨ましいよ」
「……そうですね」
 そこかしこに陸軍や海兵隊の人間の目が有る、いつもの様な砕けた振る舞いも出来ず他人行儀にそんな言葉を交わし、二人並んで眼下の市街地を言葉も無く見詰めていた。喜ぶには多くの犠牲を出し過ぎた、鳥栖市民一万人には抗体の投与は未だ行われておらず、その彼等をむざむざ活骸へと変異させそれを同胞であり彼等を守護すべき存在の自分達が殺す事になるとはと小さく舌を打つ。それでもここで立ち止まり己の力不足を嘆く事も許されないのは二人共同じ、遂に本土で活骸の出現が確認された以上、相手の態勢はそれなりに整ったと見るべきだろう。恐らくはこれからこんな事態が頻発する事になる、次は何処か予想も付かず、頭が痛くなる事ばかりだとどちらともなく呟いた。
 その同時刻、タカコはゆっくりと走るトラックの荷台から近くで燃え盛る火をぼんやりと見上げていた。消火するにも水が無いし街の明かりが全く無いから消せば暗闇、持ち主には申し訳無いが放置しておくしか出来ないなと思いつつ、空になった弾倉へと散弾をゆっくりと詰めていく。解隊になった事により運転手の任を解かれた敦賀は彼女と行動を共にし別の分隊の荷台へと移り、今も隣で黙ったまま同じ様に弾を込めていた。
 地面へと降り立ち太刀を手にし活骸を斬り伏せていた僅かな間は一兵士として目の前の状況を楽しむ事も出来たが、こうして本来の役目へと戻れば入って来る情報は多くその殆どが気分を沈ませるものばかり。あの逸っていた時間を気まずく思ってしまう程に重苦しい空気の中、言葉を交わす事も無いまま並んで弾を込め、それを終えると再び荷台の外へと視線を遣った。
「……敦賀、一つ聞いて良いか?」
「何だ、どうかしたか」
 そんな中口を開いたのはタカコ、市街地の外れを仕留め損ねた活骸を探し走行している自分達からそう遠くない斜面に見える幾つかの光と人の気配、それに気付いて隣にいた敦賀へと声を掛け、彼がそれに対して短く言葉を返す。
「あの山の中腹の光……何だと思う?」
「ああ、ありゃ陸軍とうちの前線指揮所だ。真吾や龍興も今はあそこにいて全体を――」
「直ぐにあそこから移動させろ!今直ぐにだ!」
 若干の焦りを伴った強張った声音のタカコの言葉、一体何がと敦賀がタカコを見れば、彼女はそんな敦賀には構わずに銃を荷台の床に置きトラックの車体の屋根へと駆け上がり周囲を見渡す。
「おい!何をやって――」
「私達の相手が今はもう活骸だけじゃないってのを忘れたのか!活骸を仕掛けてる人間がその背後にいるんだぞ、あんな見晴らしの良いところに司令官が揃ってるなんて格好の的だ!あそこから鳥栖市街地を見渡せるなら、鳥栖市街地からもあそこは良く見えるって事を忘れるな!早く移動させるんだ!敵勢が『我々』と同程度の水準の存在なら、迫撃砲も――」
 まさかあんな見晴らしの良い場所に指揮所を設置するとは、活骸との戦いしか知らない大和人の感覚をすっかり忘れていた。自分達ワシントン人と同じ様に目立たぬ場所に設置すると思い込んでいた、これは完全に自分の失態だとタカコが歯を軋らせた時、後方から聞き慣れた発射音が響いて来て、それに弾かれる様にして振り返れば、見慣れた光と軌跡が指揮所へと向かって一直線に伸びて行くのが視界へと飛び込んで来た。
「真吾に無線を!伏せてやり過ごした後は全速で退避しろと伝えろ!」
「司令へ伝達!指揮所が何者かに狙われています、至急退避されたし!繰り返す、至急退避されたし!先ずは伏せてやり過ごして下さい!砲撃を確認しました!」
 無線の送受話器へと声を張り上げる運転手、タカコはそれを聞きながら腰の拳銃を抜き車体を蹴って地面へと飛び降りる。今から指揮所へと向かっても到底間に合わない、今の連絡で伏せる位はしてくれるだろう、それに懸けるしか出来る事は無い。そちらに向かうよりも確実なのは砲撃を加えた人間を確保する事だ。間に合ってくれ、タカコは胸中でそう繰り返しつつ発射された方向へと向かって全速力で走り出した。
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